7.学園生活
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体術という物を知ったフェアグリンが教会でその教えを受けたいというので、神官たちも参加するようになり獣人たちの呑み込みの早さに舌を巻く騎士団。
「トンボキリ達の国には、武僧がいたと言っていたな。僧とはどのように折り合いをつけていたのだ?」
国と教会、どちらか一方が力を持つ事は中々難しいだろうと言われ、フェアグリンも他国を知りたいとやって来る。
「そうですねぇ、例えとして適格か分かりませんが、父と母のようなものだと思っています」
「父と母。国王と王妃ではなくか?」
「はい、だいたいの家庭では外へ稼ぎに行く親と、家の中を守る親に分かれると思うのですが、外で稼ぐのを父とするなら、中を守るのは母です。この逆でも問題はありませんが、その問題は今はおいておくとして、そういう役割分担の例えだと思っていください」
「はい」
「バランスが取れていてどちらとも良好な関係の時は誰もこの関係に不満を持っていません。外へ稼ぎに行く、国の場合で言うのなら財政や政治、外交ですね。そして教会は日々の心の平穏、日常、営みを支えている。これがいうなれば家庭内、国の内側という事になります」
「なる程。つまりどちらか一方が失われても強くなりすぎてもバランスが崩れ、子、民たちにしわ寄せが行く。どこの国も同じだな」
「はい。ですが国によって父母に対して求めるもの、イメージが異なりますので、そこは大きな違いになると思います」
「皆さんの国ではどのような物を求められていたのでしょうか」
「一言でいうなら、柔軟性でしょうか」
「柔軟性・・・」
「時として父より強い母を求められますし、場合によっては母の様に自分に寄り添う父でいて欲しいと思っていた様ですよ」
「・・・どのような時にそうなるのだ?」
「そうですねぇ、私には国の中枢までは分かりかねますが、災害などがあった時は一番被害が大きかった地域に両陛下が直接赴いて、平民たちに同じ場所まで下りて労わりとねぎらいの言葉をかけて下さっていたこともあるそうです。外交の都合で食料、その時は小麦だったようですが、主食はお米ですが小麦を使った料理も沢山ありましたので、その時は民の声をお坊さんが王族の方々に伝えて下さっていました」
「それが母であり、父であり、か」
「はい。そして戦争などになり、国の兵、軍で戦っていても侵略されている現場は大変な事になっていますから、武僧の方々が立ち上がって下さっていたそうですよ」
「ああ、なるほど。そこで武僧ですか」
「ちなみに優ちゃんと婚約をしている金剛さんがその武僧にあたる方です」
「そうだったのですか!?」
訓練の時もずっと瞑想(昼寝)をしているだけだったが戦えたのかと周囲にいた全員が驚いていた。
「人間種以外の種族はあまり国や種族という単位で生活をしたりしません。特に妖精種はその傾向が強い様に思います。そして精霊種は結婚をするくらい愛する相手と出会わなければ子供を作ることもしません。人間種と違い寿命がありませんから、次世代を生んで育てるのもパートナーに出会える事も焦る必要がないのも理由の一つだと私個人は思っています」
「寿命がない、確かに。そう思うのも無理はないか・・・?」
「もちろん他にも理由はあると思いますけどね。ただ精霊種、妖精種に共通していると感じるのは、皆さん子供を大切にしているという事ですね」
国は無いが、人からすれば町と言える規模で精霊種が暮せばその地域の子供は全員で育てるのが当たり前だという認識で暮らしている。
「種族的な特性というか、環境もあるのでしょうが、子供が犯罪に巻き込まれたり捨てられたりするのが信じられないみたいですね。妖精種の方々はまだそこら辺人間種の感覚を理解できるようですが、それでも普通は子供が成人するまで取り敢えず気にかけておくのは当たり前みたいです」
ただ種族によって成人する年齢が変わるので、気にかけておく時期が人によってバラつきがあるという。
「金剛さんなんかどこに行っても大体全員子供に見えるみたいですよ」
「初めてご挨拶をした際頭を撫でられました」
「枢機卿を子供扱いした事に驚いたが、そういう事であったか」
この中で一番の年上であるフェアグリン(239才)を子供扱いするのなら、人間なんて死ぬ間際でも赤ん坊だろとオルギウスも呟いてしまう。
「金剛様は、おいくつなのでしょうか?」
「四千歳は過ぎていますね。確か、後三〜四百年もすれば五千歳になられると思います」
「ご、そうか」
「子供を守るために戦う武僧です。かっこいいですよね」
優に押せ押せで結婚を迫られ、今は婚約者として仲良くやっているので良かったと笑う茂をなんとも言えない表情で見下ろした。
「そう言えば、和の夫は魔族であったな」
「確か血も騒いでいらっしゃるんでしたよね」
「はい、その通りです」
「もしもお会いできることがあれば、お話を伺ってみたいです」
「フーさんなら落ち着いてお話出来ると思いますよ」
「挨拶であっても和に握手などで触れなければ、の話ですが」
「握手でさえか!」
「フーさんはゾオンですからねぇ、匂いに敏感なんです」
現津の言葉を補足しながら苦笑する。
覚醒したゾオンは獣人よりもさらに感覚が鋭いので、和から自分以外の匂いがするのが許せないのだ。
だが女同士、子供はまだ良い。
自分が信用している男であったなら、目の前での接触もなんとか許せるらしい。
「和さんは、それを苦痛と思っておられないのですか?」
「思っていませんねぇ。というか、実際に他の男の人の匂いがついてしまったとしても、ちゃんと説明を聞いてくれるみたいですし。フーさんも激情型という訳でもありませんから」
「そうですか、安心しました」
「そのフーという魔族は、魔族の中でも静かな性格をしているのか?」
「いいえ、単に相手が和だからでしょう」
「?」
「和ちゃんは、本当にいい意味で支配者の特徴が強く出てるんですよ」
あれだけの神々と魔族の手綱を握りながら、向けられる感情を重いとも思わず受け入れる。
「会いに行った時、フーさん以外の魔族の方々にも相当可愛がられていましたし、楽しそうでしたよ」
驚いている二人に笑う。
「ある意味、神様の愛情に一番近い愛情深さを持っているのは魔族ではないでしょうか」
「愛情深い、魔族が、ですか」
「享楽家と言っていなかったか?」
「情が湧いていない時はその通りだと思いますよ。ですが一度懐に入れて大切に思ってしまえば、血が騒いだ相手でなくても心を砕いて下さるんです」
もちろんその優しさに胡座をかけば凄まじい代償は待っているだろうが、それは相手が魔族でなくてもやってはいけない事だ。
「優しさの形や愛情表現は人それぞれですから、どんな繋がり方が心地良いかは個人の感覚に委ねられますね」
「フーさんは、普段から冒険者として和さんとご一緒におられるんですか?」
「いいえ、普段は人間の国を守るお仕事をしています」
魔族同士で作った組織で人間族の国の近くに住んでいる。
「国の利益を一部いただいて、方針の助言や協力なんかもしていますよ」
「なんと。心臓を握られているような気分になるが、それは私が魔族を知らないからか?」
「どうでしょうか。妖精種も寿命は果てしないですから、国を守るのなら安泰だとも思いますけど」
「最初は互いに利用し合う形での協定だったようですから、信用など皆無どころか背後から刺されても良いように準備は怠らっていなかった様に思われます」
魔族たちもその認識でいたというし、それが多分真実だと言われ、どうやって良好な関係になれたんだとフェアグリンと共に驚いた顔をする。
「和を気に入ったからですよ」
現津が呆れたように苦笑して返した。
「実際に自分の目で見てみないと信じられないと思いますが、"欲深い"というイメージを持たれている魔族も妖精種ですから、あまり物質的な物に拘らないんです」
「物質?」
「この場合は金品など、ですかね?」
もちろんあった方が心地よいと思える暮らしが手に入るのだから、欲しいとは思う。
けれど、本当に必要かと聞かれれば、即答でいらないと言える。
「聖国を例に上げて申し訳ありませんが、本気になれば国一つをどうとでも出来てしまう人達ですから、住む場所も着る物も、こだわる必要が無いんです」
ただ楽しく暮らしたい。
そんな純心が人生観の根底にあり、それを貫けるだけの身体的強さを生まれながらに持っている。
「"楽しい"と思えるものが目の前にやって来て、"それ"が自身を肯定的に見て好きだと言い、その様に扱ってくれるのならば、それ程満たされることもないでしょう」
おまけに同じかそれ以上の力で"遊べる"のだから、飽きることなど一生やってこない。
まるで無邪気な子供のように一生を生きていく。
「妖精種の方はその傾向が強いかもしれません」
文献でしか知り得なかった、この大陸では伝説と同じ扱いの種族の話を聞き、驚きと新鮮さに皆同じ表情をしていた。
イアグルス教の総本山がある聖国では、魔族は闇から生まれた悪魔。
この世の負のエネルギーの化身とさえ言われている。
「精霊種、妖精種間では、種族差別や、争いは、ありますか?」
「どうなんでしょう、私は聞いたことがありませんねぇ?個人や組織で敵対していたり、種族的な特徴でからかい合ったり喧嘩をしたりしている所は見た事がありますが」
それ以上の争いは見たことが無いと首を傾げた。
「寿命的な物なのか、気が長くて寛容な方ばかりですから」
滅多に本気で怒ったりしないと言う。
「気性が荒い方はよく怒鳴り合っていますが、そこは人間種と同じですし。あ、でもそこから喧嘩になったとしても後腐れなく終わっていましたよ。あまり引きずらないというか、立ち直りが早いというか」
「それこそ怨んだら一生怨みますが、そこまでされるだけの事をしたのだから相手が悪いという認識になります」
「聖国は、いえ、・・・忘れてください。失言でした」
いったい何をしたんだと言いそうになったフェアグリンに、オルギウスも頷きを返すだけで終わらせた。
「和さんは、魔族のどのような所が好きなのでしょうか」
「愛情深い所だと言っていましたよ。もしも"一緒に地獄に行って"とお願いしても、みんな来てくれそうと笑っていましたから」
本気でそう思えるだけの愛情を向けられていると、疑わずにそう信じられる。
「国はどうする?」
「その国があるので、和ちゃんがしたのも”もしも”の話です。ですが、多分というか絶対、その国や周辺から敵対されたりして居る必要が無くなったら連れて行っちゃうと思いますけどね」
「未開の地へ、ですか?」
「はい、一緒に冒険へ行くと思います」
「和がいるのは未知の場所です。人によっては、それこそ地獄の様な場所でしょう」
永遠を生きられる魔族にとって、これほど刺激的で幸せな人生も無いのだろう。
惜しみなく向けられる信頼と愛情、手を引いてくれる存在がいるというその事実。
それだけで何もかもが満たされていく。
「純心、とは、なるほど。その通りだな」
オルギウスの言葉にフェアグリンも一つ頷いて口を閉じたのだった。
こうして全辺境伯家の訓練も終わり、錬金術師科はポーション造りから開放された。
「やっと終わった・・・」
「お疲れ様」
「もうしばらくはポーション造りたくない・・・」
「こくん」
「おかげで一年生もファビオラ様達も全員中級まで造れるようになったし、やっぱりこう言うのは数をこなすに限るよ」
「・・・私達も特級が造れるようになったから、本当にそうなのよね、きっと」
「だな」
「この年でお茶の時間の必要性を再確認するなんてね」
「コクコク」
「いくら研究が好きだと言っても、やっぱり息抜きは必要ですよね」
ゲッソリしている一年生達は何も言いはしなかった。