7.学園生活
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「今のも全然力を入れなくても出来る。こう持って、そう。で、素人はこっちに扇子を入れようとするけど、一番いいのはここだ。そう。で、引き寄せる。あでで、もっと力を抜いてくれ、折れそうだ」
「これでか!?」
「これも、本来動かない方に曲げるやり方なんだ。だから本当に弱い力で良いんだよ」
そして、あの飾り紐。
「この紐は攻撃が目的じゃ無くて目くらましに使うんだ。こう、今から襲ってくる敵が目の前にいるだろ?その時に一瞬でも目を覆えたら最高の隙きを作れる」
そう言って扇子を持ち、まだ距離があるオルギウスに向かって扇子を振ると、一瞬驚いたように動きを止めた。
「分かったか?」
「ああ、これは、間違いなく隙きが生まれるな」
「何だったら本当に当ててもいい。このコメカミ辺りを狙って、うん、ちゃんと当たった。今ので敵の気はこっちに反れた。つまり、こっち以外がら空きなんだよ」
「なるほど、これは性別関係なく覚えるべきだな」
「豊に頼んで作ってもらうか?」
「いいんじゃないか?異国文化の民芸品は献上品の王道だ」
「髪飾りは、必要だろうか」
「この国ってどのくらい危ないんだ?」
「俺たちには落ち着いているように見えているが、先王は逝去されたのは早かったのだろう?」
「ファビオラ殿も暗殺を数え切れないほど経験したというしな」
「ならそっちも作ってもらうか」
「そなた等の国では髪飾りで戦うのか」
「暗器の一つとしてあるんだよ」
これだと、また収納バッグから小さな輪と針のついたシンプルな物を取り出して見せる。
「懐かしいな、家康様も持っておられた」
「あ、未使用だから安心してくれ」
そう言ってナルのリボンを取ると髪をまとめて見せる。
「凄い!髪が結えた!」
「すごいだろ。で、襲われたら、こう持つ」
「・・・武器になったわね」
「握ったら先端が短くなるだろ?だから狙うなら眼か喉にしときな。まぁ、掴まれて振りほどきたい時は手とか足を刺しても良いと思うぞ。だが、こういう武器は最後まで見せないのがセオリーだな」
「そなたは武器を使わないと言うが、詳しいな?」
「そりゃそうさ、わしが素手なだけで相手はそうじゃないからな。相手の戦い方を知り尽くして根性勝ちしるだけだ」
「根性なのか」
「命がけの勝負なんて最後は全部根性論だろ」
笑いながらナルの手を開かせて暗器を離させる。
「お前はそう言う静かに相手を観察して待つっていう事が出来るから狩人に向いてるよ。ただわしとはタイプが違う。だからこういう身につけて隠せる武器を知っときな」
「どうして隠すの?」
「罠があるって分かってて近づいてくる奴は、その罠に対して打ち破る自信があるからだ。そういう時はさらにその先も考えなきゃいけない。けど、罠も何もないと思って無防備に歩いてる奴の方が楽に狩れるだろ」
「うん、そんな気がする」
「罠をしかけても何もないと思わせられるのが狩りの基本だな」
「はい!」
眼を輝かせながら返事をするナルに、イーラが頬を膨らませて自分はどんな戦い方が向いているのかとしがみついてきた。
「イーラは戦士タイプだからなぁ、あんまり強さとかは隠さない方が良いだろ」
「戦士と狩人って違うの?」
「だいぶ違うなぁ」
イーラを離し、ナルと並べてしゃがむとしっかり目線を合わせる。
「狩人は静かに獲物が来るのを待つけど、戦士はそういう事をしない。出来るだけ自分の強さってものを隠さない方が良い」
「どうして?」
「そうする事で争いが減るからだ」
動物は縄張りという物を持つ。
その縄張りを守る為ならば命を懸けて戦うが、自分から戦いを挑む者はほとんどいない。
「戦士って言うのは強さを隠さないが、まず戦う場を作ろうとしない。でも強さを持ち続けようとする。そう言う奴らの事を戦士と言うんだ」
「よく知っているな」
「狩りをしてれば毎日見るからな」
「ススム、ススムはGクラスだったんでしょ?」
「そうだよ」
「悔しくなかったの?」
イーラの問に、笑いながら頭を撫でた。
「悔しいと思うのは戦士の考え方だな。狩人は静かに待つって言っただろ?むしろGクラスに入った事がわしからすればいい出来だ」
「どうして?」
「誰もわしの力を見抜けなかっただろ」
狩人にとってこれほどの誉れはないと笑う。
「強いと分かっている奴の前に無防備に出てくる奴はまずいない。わしらの戦い方は、いかに自然体のまま罠を張り巡らせられるかだからな」
「罠を張ってたの?」
「張ってたよ。だから誰にもバレずに学園を抜け出して森に行ってたし、寝てたし、怒られてた」
「怒られてたの?」
「学園は人のルールで生きないといけない場所だからな」
山には山の、森には森の、人の町では人のルールがある。
「人の中で山のルールを持ち出せば、わしは一発で犯罪者になる。そして、山の中で人のルールを貫こうとすればすぐに死ぬ。だから学園でわしの力を十分に発揮しようと思えばGクラスになるし、毎日のように担任に怒られて同じ学科生には嫌われる」
「嫌われてたの!?」
「嫌われていたというか、理解しがたいので遠巻きにされていたな」
「まぁ、とりあえず周りに人はいなくなるな」
笑っているが、それは良いのだろうか。
「人も動物だ。でもな、だからこそ人はどんなに頑張っても獣にはなれない。それでも自然に溶け込もうとすれば、不思議なもんでどちらにもなれなくなる」
「え、どっちもダメなの?」
ナルも驚いたように進を見上げた。
「どちらか一方になるのはな。だからどちらも選んで暮らす。その結果わしは学科で浮いたが、追い出される事なく衣食住揃ってる。わしにとって、人の中で生きるならこれくらいが一番すごしやすい」
「今も?」
みのり屋としてその実力が知れ渡ってしまった今、進はもはや避けられる存在ではなくなった。
オルギウス達も何と返すのか気になったようで進へ視線を向ける。
「ははは、晒上げならどうするか考えたかもしれないけどな。今回のはそうじゃない。何も問題はないよ」
「本当?」
「本当だよ。教師ってのが良かったな」
そう言って幼い二人の頭を撫でた。
「人のルールしか知らん奴に自然の中でも生きていける別のルールと今までと違う戦い方を教える。わしからすればこっちの方が本職だからな。何も問題はない。というより昼寝を許された分生徒の時より過ごしやすい」
笑っている進に、幼い二人以外の者たちも安堵したように肩の力を抜いた。
その反応を見て、優しそうに微笑む。
「他人がどう思ってるのか考えるのは上に立つ奴は絶対にした方が良い」
「どうして?」
「ん?そうだなぁ、人の性格は九つあるって話を聞いた事があるか?」
みのり屋を始めた最初の九人はこの性格に合わせて席を置いているという。
「お前、分析家だったのか」
「でも、言われてみると・・・」
頭脳派な所があると進を見て口を押えているギルとアディ。そんな二人に笑ってアディに問いかけた。
「アディ、お前錬金術楽しいだろ」
「当たり前だ。こんなに素晴らしい技術はない」
「うん、で、錬金術を好きだと言う気持ちを抑えて別のことが出来るか?」
「・・・抑える必要があるのか?」
「いいや、ないな。達成者の特徴が一番強く出てるお前はその感情を抑えない方が上手くいくだろうな。でもそれはお前個人の話だ」
何かの上、誰かの上に立つとなるとそうはいかなくなる。
「みのり屋の代表をやってる茂も達成者だ。わしらみたいな生活をしてるなら茂が上に立っていい。むしろ茂が良い。旅をしてるわしらからすれば好奇心が旺盛な茂の気の向いた方にいけば楽しいからな。しかしだ、これがどこかの街や国に定住してたとしたらどうだ」
「・・・常にリーダーが不在、という事か」
「不在にするには理由があるのに周囲に不満を持たれる。これは互いによくない。だから国王、領主、肩書はどうであれみんな自分の行動を理解して周囲に伝達する役を担ってくれる者を側におく」
「そうだな」
「わしらは茂をみのり屋の代表にした。全員で話し合ってな。その後現津と結婚して、茂の不在時は現津が代表代理になるのをみんなが認めた。理由は茂が戻って来た時に一番茂にとっていい状態でみのり屋を維持、譲渡が出来るのが現津だと思ったからだ」
「まるで一つの国のようだな」
「家庭なんて一つの国だよ」
笑いながらオルギウスに返し、ギルも含めた若い王族達に向き直る。
「ギルもアディも、イーラもナルも、どの性格の特徴を持っていようと国王にはなれるだろう。だが治安が良く安定した治世の時に戦争なんかを勝ち進められる武将みたいな王が玉座について、周りも本人も幸せになれると思うか?」
「・・・難しいかもね」
「本人の力が一番発揮できる場は無く、周囲からは本来得意としていない物を求められる。近い立場の奴はその責任の重さと理不尽さを理解できるかもしれないが、立場が遠く離れれば離れるだけ分からなくなる。そして本人たちも、自分たちの生活の舵を任せていると言う認識だけで不平不満、不幸を他人、つまり上の奴に丸投げする。なんでか分かるか?」
「・・・分からない」
「楽だからだ」
「楽・・・」
「自分ではどうすることも出来ない、実体のない何かの所為にする程手っ取り早く楽になれて、時間も金も掛からない。最低コストで済む一番楽な道だ。この道を選んだ奴が悪いと思うか?」
「・・・一言で責めて、切り捨てるのは簡単だろうね」
「そうだな。わしからすれば誰も悪くないと言えるが、あー、しいて言うならその実体のないものから眼を背けた事か。いや、背けるのが悪いんじゃない。タイミングってもんがある。それを直視できるタイミングが必ず来る。その時に直感であっても分かっていながら眼を背けるのは、死に直結する事だと思ってる。って方が正しいか」
「・・・なるほど」
「ギル、お前は”支配者”の特徴が良い意味で強く出てる。だから参考にするなら和にしておきな」
「召喚術士の、和ちゃんが支配者なんだ。どんな子なの?」
「すごい奴だよ。神様たちがあいつと一緒に冒険してるのはあいつの手の中で折れたいって思ったからだ」
「折れる?付喪神様って、物が体なんでしょ?大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないな。付喪神にとってそれは死ぬって意味だ」
神もいずれ死ぬ。付喪神となり、その死に場所を選べるのならこの手の中が良い。
「そう思わせられるのが支配者だ。力でねじ伏せていう事を聞かせる事なら誰でも出来るだろうが、あそこまで自分に惚れさせて他人の人生を巻き込んで、巻き込まれた方も楽しそうに生きさせるのはさすがだよ」
「すごい子だね」
「そうだな、ギルは支配者ってのを抜きにしても王太子だし、和みたいなのを目指すといい。あいつもだいぶ無茶苦茶やってるが、なんだかんだ愛されてみんなついて行くからな。この国は落ちついてるし、どっかと戦争になったとしても簡単に負ける事もないだろう?この状況と、少しだが見てきたお前の性格は合ってると思うよ。やる事やってりゃある程度の無茶も怒られるくらいで済むだろ」
「怒られはするんじゃない」
「はは、ちゃんと怒ってくれる奴を側に置いときな」
自分は和を止めも怒りもしないからいつも巻き添いで怒られていると笑うので、それはちょっと想像できるよとギルも笑い返した。
この日以来、ギルとオルギウスが進に話しかける事が増えたように思う。