8.鬼灯の冷徹
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「相撲大会ですか?もちろんまたやりますよ。来年に向けて子供たちも練習してくれていますし。え、大人の大会ですか?」
それは考えていなかったと返せば、「そんなぁ!」と何人もが声を上げる。その反応を見て、そんなに楽しんでくれていたのかと笑い、なら大人の部も作ろうかと考え出す。
「それもいいかなぁ、子供だけのスポーツって訳じゃないし。これで大人と子供が一緒に遊べるようになるかもしれないし」
いつやるかもみんなで話し合ってからお伝えしますねと言うと、お結びを買いに来ていた鬼だけでなく亡者達も嬉しそうに騒いで相撲の練習をし始めた。
「あ、これが相撲のルールです。子供たちの方が詳しいと思うので、分からない事があったら聞いてみて下さいね」
こうして大人だけが参加する相撲大会が開かれたのだが、優勝したのは麻殻だった。
「せんせーすげー!!」
「おっしゃー!!」
「せんせー!!」
子供たちの賞賛を一身に浴びながら優勝賞品と交換の竹札を受け取る。
「おめでとうございます!」
「優勝賞品はお米三俵、牛一頭、お塩一袋(10キロ)です!」
「マジで!?」
「めちゃくちゃ豪華じゃねぇか!!」
「くっそー!!」
「来年だ!来年は俺が勝つぞ!!」
「お米とお肉は好きな料理があればこちらで調理してお出しする事もできますので、食べたい物があったらお声がけください」
「ありがとうございます!」
「先生!牛ならすき焼きがお勧めです!」
「時雨煮も!」
「キンパ最高!」
「お前ら料理に詳しいな」
それくらい勉強も覚えてくれと鬼灯たちに呆れながらもらった竹札を満に渡し、耳打ちで何かを話し出す。
すると笑顔で頷きを返した。
「かしこまりました。ありがとうございます」
これからも鬼灯くんたちをよろしくお願いしますとキレイに頭を下げて竹札を受け取った。
次の日、みのり屋の店は休み。なので一人黄泉の国へ向かい、教え処へ行く鬼灯だったのだが今日は弁当を渡されなかった。
「ふふ、お昼になってからのお楽しみよ」
優が笑ってコメカミにキスをして見送って来る。
「お楽しみですか?」
「ええ、とっても素敵な驚きが待ってるわ」
行ってらっしゃいと金剛にも笑って見送られ、黄泉の国へ下りて烏頭と蓬の二人と合流して教え処へと歩き出した。
「腹減ったー」
「鬼灯、今日の弁当ってなに?」
「今日は持たされませんでした」
「えー!?なんで!?」
「まじかー、弁当を楽しみに頑張ったのに・・・」
「お前らな」
授業が終わった途端だらけている子供たちにため息を吐いていると、賑やかな声が近づいてきた。
「こんにちは。授業は終わっていますか?」
「はい、今終わった所です」
屋台を引いたみのり屋に驚いている子供たちだったが、麻殻は驚く事もなく挨拶を交わしている。
「さぁみんな、ご飯の前に手を洗ってキレイにしましょうね」
「ご飯!!」
「もしかしてみのり屋のお結びが食べられるの!?」
「昨日麻殻さんが竹札をくれたからね」
「やったー!」
「先生大好きー!」
「ありがとう先生!」
「先生!なんで彼女いないんですか!」
「うるさいよ!俺が知りてぇよそんなの!」
「麻殻さんは彼氏っていうよりも旦那さんになって欲しいタイプだからねぇ」
「もしもお付き合いする人が出来たら結婚まで早いんじゃないかしら」
笑いながら子供たちとそんな話をして、連れてきたスライムで手をキレイにしていく。
そうしていると嵒太郎の背中で温めていた鍋から物凄く良い匂いがしてきて、子供たちのテンションも腹の音も大きくなっていった。
「今日はお結びじゃないけど、美味しい物を作って来たよ」
「これなに!?」
「俺らもまだ食った事ねぇ奴だ!」
「これは牛丼だよ」
「ぎゅうどん」
「ゴクッ」
「まずは普通盛で用意するね」
「麻殻さんは大盛りにしても大丈夫ですか?」
「はい!お願いします!」
「見て!お米が真っ白よ!」
「いつものお結びとちげぇ!」
「相撲大会優勝者の賞品ですもの」
「みんな、もう一回ちゃんと先生にお礼言おうね」
「先生ありがとう!!」
今までにない真剣な表情で礼を言い、木の器に盛られた白米に野菜と共に煮込まれた牛肉と甘辛い汁がたっぷりとかけられていくのを涎を垂らしながら見つめる。
「御代わりもあるからね」
「いただきます!」
全員が叫びながら匙で牛丼を口へ運び、一口目で動かなくなった。
「あ、あれ、これはみんなの口には合わなかった?すき焼きが大丈夫だったから問題ないと思ったんだけど」
「問題ない。いつも通り物凄く美味かった」
「でも、」
固まって動かなくなったみんなを見て心配そうに見上げてくる満だが、すぐに子供たちも麻殻も流し込むように匙で牛丼を口に運び始めた。
「御代わり!!」
「俺も!」
「おかわりください!!」
「気に入ってくれたみたいね」
「よかった・・・」
「美味しすぎて固まっちゃったんだね」
やっぱりみんな育ち盛りだしお肉とか食べたいよねぇと笑いながら御代わりの牛丼を盛って行く。
「くそっ、腹がいっぱいだっ」
「もっと食いてぇのにっ」
「そんなに気に入ってくれたんだ」
また作るから、その時も沢山食べてねと笑って器を片付けてから、麻殻に今日の夕飯にでも食べてくれと弁当を渡す。
「改めまして、優勝おめでとうございます。そして子供たちにも料理を振舞う機会をいただきましてありがとうございました」
よければ来年も参加してくださいと満に見上げられ、「はい」と返事をした声は思いのほか小さくなってしまった。
「満に手ぇ出したらぶっ殺すぞ」
「!」
「そんな心配は必要ないよ」
前へ出てきた梅智賀を止め、麻殻へもう一度頭を下げて歩き出す。
子供の様に小さな体に見合う、小さな手で梅智賀の背中を押していた。
二人が並べば大人と子供のような体格差になるのだが、麻殻の目には満の方が途方もなく大きく見えた。
「麻殻さんは目が良いですね」
「目?」
「ふふ」
茂は笑うだけでそれ以上は言わず、皆と一緒に屋台の片付けを始めてしまう。
「こちら、残りの賞品と交換できる竹札となります」
「そうだ、今日はお店も休みだし、このまま海に行ってみようか」
「海!?」
「いつも来てくれる海亀さんがいるでしょ?どんな所なのか気になってたんだよねぇ」
「わー!俺も行きたい!」
「私も行きたーい!」
「みんなも行く?夕方までには戻って来るから、本当に見に行くだけになっちゃうと思うけど」
親御さんたちに心配させちゃ大変だからねと言うと、大きく返事をしながらみのり屋の面々についていく子供たち。
心配だから一応と、麻殻も子供たちと共にみのり屋と海を見に行った。
こんなにも海はキレイだっただろうかと、久々に見た海に驚いたのをよく覚えている。
10/10ページ