7.学園生活
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次の日、クアンドロができれば早めに採取に行きたいそうだと、教師同士で話し合った結果を教えてくれた。
「つまり、早いとこ現実を見せたいらしい」
「向こうの教師の中でも以前行った四人の先生以外は疑ってるところもある。それをどうにかしたいんだろう」
「学園全員が既に身体強化が使えるんだから、疑いようもねぇだろうが」
まだ他学科の一年生は訓練を受けていないのであまり無理は言えないがと言われたとマートンが苦笑する。
一年生もダンジョンに行けるのかと喜んでいて、それまでに初級ポーションを完璧に一人で作れるようになろうと目標ができた。
「なぁ、シゲル。こういう時もテオを連れて行った方かがいいんだよな?」
「はい、まだできて間もない魂なので、できるだけ近くにいてあげてください」
アランがこのひと月ずっと持ち歩いている桶の中には海水に浮く毛玉が一つ。
「ちょっと可愛いですよね」
「触りたいけど、ダメなんだよね。やっぱり」
まだ生まれていないとはいえ、主人以外に触られるのは嫌だろうと一年以外がみんな毛玉を見つめている。
「先生、ずっと気になってたんですけど、それ何ですか?」
「ホムンクルスの卵だ」
いつも現津の足元にいる桃之丞と望の近くにいる牡丹を見て魔物じゃなかったの?!と驚いていた。茂がホムンクルス達の説明をしている間に、腰につけていたタオルですくい上げた毛玉を拭くと撫で始めるアラン。
「先生、ものすごくお母さんぽいです」
「さすが"海"なだけあんな」
「そこはせめてお父さんだろう」
「でもやってることはほぼ妊婦ですよ」
「仕方がないじゃないですか。できるだけ可愛がって話しかけろって言われてるんですから」
「卵ってことはつまり胎児ですからね。自然とそうなりますよ」
アランに撫でられてテオも喜んでいると言われ、「いや、わかんねえ」と全員が首を傾げた。
「僕もシャーリーに毎日話しかけてるけど、魂ができたってどうやって分かるの?」
ホムンクルスは卵になってくれるから分かりやすいんだけどと言うローランドに、アランが多分すぐに分かるとテオを撫でながら言う。
「なんか、"あ、いる"って分かる」
「造った人にしか分からない感覚ですよね。あれ」
茂とアランにしか分からないその感覚に、いいなぁと口々に羨ましがっていた。それから半月、一年生はポーション造り、二、三年生は自身の研究、教師たちは今までほとんど交流していなかった他学科との連携のため忙しくしていた。
「、」
「どうなさいました?」
「いえ、すみません。ちょっと中断してもいいですか」
「は、はい?では、休憩にいたしましょうか」
二年の教師というか、学園の教師の中で一番若いアランがダンジョンへ行くにあたって、という大切な会議の中断を申し出て持ってきた桶を見つめ始める。
そして、タオルで水気を拭きながら毛玉を撫で、耳を押し当てた。
「うぉっ、ちょ、シゲル!すみません!すぐに戻ります!!」
叫びながら毛玉を大切そうに抱え、身体強化で窓から錬金術師科の塔まで走っていく姿は他の教師たちには奇行に見えた。
「やっぱり先生すごい向いてますね。もうこんなに育つなんて」
「動いたんですか?!」
「パッと見変わってねぇんだけどな」
「あーっ、自分の造ったものしか触れないというのはっ」
マートンたちも、ものすごく詳しく見たいのをめちゃくちゃ我慢しながらテオの成長を一緒に喜んだ。
そして、実力はあるけれど変人とアランの認識が広まり始め、一年生を中心としたダンジョン採取の日程が決まったある日、アランの大声が響き渡った。
魔力操作という名目で大声を出す訓練をしている錬金術師科は、そのイメージに反してなかなかの体育系だ。アランは錬金術師科の塔にいたというのに、他学科の塔まで聞こえたほどなのだから間違いない。
「シゲルー!シゲルー!!」
叫びながらやってきたアランの腕には、みんなの参考になればと置いておいた図鑑に載っているラッコがいた。
「生まれたんですね!おめでとうございます」
「まあ、可愛らしいホムンクルスですね」
ちゃんと肉体と魂が固定され、とても安定していますよと言われアランと共にみんなで叫ぶ。
「すげー!マジで生まれてきたー!!」
アランを胴上げし、ひとしきりみんなで喜んでから改めてテオを見てみる。
「可愛いですね」
「テオ、俺らのこと分かるか?」
「キュッ」
「鳴いた!」
「鳴き声まで可愛い!!」
「アラン先生、座って膝にテオくんを乗せてもらっていいですか?」
茂に言われた通りにすれば、まるで分かっているとでも言うように両手を上げる姿に何人もが口を押さえて「がわいいっ」と声を漏らす。
特に女性に人気が高い。
「テオくん、アラン先生にどんな特技があるか見せてくれる?」
「キュキュ」
アランを見上げ、片手で自身の脇を触ってみせた。
「なんだ?脇に何かあるのか?」
「先生、触ってみてもらっていいですか?」
「・・・え、え、?」
ズブズブとアランの腕一本がどんどん入っていく。
「アイテムボックス持ちみたいですね」
「ラッコは元々、ここに皮でポケットを作って食べ物を入れる生き物ですしね」
「ホムンクルスは魔力の出力が高いですし、もしかしたら時間停止などの効果もあるかもしれませんよ」
「キュッ」
「できるみたいですね」
「もしやコントロールできたりしますか?」
「キュキュッ」
「できるそうですよ」
「テオすげー!!」
「デオー!!」
アランが抱きしめれば幸せそうに目を閉じて、短い腕で抱きしめ返していた。こうして無事にアランのホムンクルスが生まれたので昼食はお祝いとして教室で食べた。
しかし、会議に出るため塔から出れば、本社が大騒ぎとなる。
「そ、その魔物は?!」
「いえ、魔物ではなくホムンクルスです」
「キュッ」
「はぁっ」
失礼かもしれないが、意外にも騎士科の教師の方が可愛いもの好きが多かった。
「このダンジョンは三階層になると魔物の種類も変わり群れで襲って来ますので、一年生の体力等の様子を見ながら下りるかを決めた方が良いと思います」
テオが生まれるまでアランが大騒ぎしていたせいで止まっていた会議を進めるも、教師たちはテオを見ていて集中していない。
「すみません。テオはこまめに食事をしなければならないので」
茂がくれたクラーケンの切り身をポケットから出して食べ始めたテオを見て、許してくれと言うもそれを咎める者などいなかった。
「いえっ、そうではなくっ」
「今どこから出したんだ?」
「アイテムボックスを持っているので、そこから」
「ハグハグ」
宙に浮きながらあおむけで食べているテオを見ているのは、同じ学園の教師とはいえ貴族。
「あ、気が付きませんでした。行儀が悪かったですか?テオ、こっちに来て座って食え」
アランが隣を示すと食べかけのクラーケンを一度しまい、机に木皿を出し今食べたいだけのクラーケンを出して食べ始める。
「ご覧のようにテオはアイテムボックスを持っていますので、採取した素材か、倒した魔物もそのまま持ち帰ることが出来ます」
今までは茂達に任せていたが、これからはテオが持ってくれるので教師側も管理が出来るようになると話を進めた。
しかし、聞いていない者が多い。
「アイテムボックス持ちとは、稀有な能力を持っていますね。どのくらい入るのでしょう」
「テオ、どのくらいポケットに入る?」
「キューキュッ」
両手を上げていっぱいと示す姿に、騎士科、魔法士科の教師三分の二が萌え死んだ。
「テオはまだ生まれたばかりでして、私もその能力を全部は把握していないんです」
しかし、ホムンクルスは人よりも魔力量が多いうえ、出力も高い。
茂たちの話では上限もありはするだろうが、果てしないだろうとも言っていた。なのでとりあえず、今回くらいでは問題ないだろうと言う隣でテオも頷いている。
食後の毛づくろいを始めたテオを見ながら会議は進み、そして終わった。
「あ、アラン先生!テオを触らせていただいてもいいですか!?」
「すみません、ホムンクルスは主人かその家族にしか触らせたがらないんです」
「キュッ」
「食事は!クラーケンが好物なのですか!?」
「好物は、どうなんでしょう。本には貝やエビと書いてありましたが、どれも足が早い物ばかりで」
今回のダンジョンで選んでもらうつもりでいると答える。
「ポケットは時間停止も自分で決められるようなので、そういう所も一つずつ確認していきたいですね」
テオの頭を撫でれば、眼を閉じて嬉しそうに笑ったような顔をしたので笑い返す。
それではと塔へと歩き出すが、ペタペタと尾ひれで歩いていたテオに声をかける。
「はは、もう浮いていいぞテオ」
そう言われ、泳ぐようにアランの周りを漂い出したので、また笑いかけた。
半数以上の教師の心を射止めたテオだったが、夕食時に食堂へ現れれば他学科の生徒たちまでもが「キャー!!」と黄色い声を上げる。
「桃之丞の時もこんな感じでしたね」
「声が低いから驚いてたけどね」
「モコも人気だよね」
「勝手に触ろうとする者が多く、三国の所に逃げてくるようになってしまったがな」
「曙もだな」
「ホムンクルスって認知度低いから、どうしてもねぇ」
食堂を使う時の定位置となりだしたテラス席でホムンクルスたちと食事をするいつものメンバー。夜や天気の悪い日は現津か梅智賀、満が魔法でカバーしてくれるのでとても過ごしやすい。
「はぁ、早くザックも生まれて欲しい」
アランがテオを構っている姿を見て、まだ魂を造っている最中のアディが呟く。
「僕もシャーリーと出かけたい」
「くっ、まだ影も形もないっ」
持ち運びできるサイズの水槽を探していたガウェインに、満が丸い金魚鉢のようなものを出してあげたので昨日までのアランのように常に桶を持ち歩いている。
が、その中にはまだなにもいない。
「やっぱり先生が相性良すぎただけかぁ」
「それはあるね。ひと月ふた月でできるなんて相当早いよ」
そんな話をしながら、錬金術師科に集まる視線にも笑っていた。