7.学園生活
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「では、二次会を始めまーす!」
錬金術師科の塔にある空き教室にちょっと豪華な料理が並べられ、ひなた達が音楽を奏でる。
みんないつもの作務衣に着替え、動きやすい格好に戻っていた。
「こういうパーティーの方が好きだな」
「僕も」
リックとポーがそう言ってジュースで乾杯をする。
「美味っ!」
「ススム、あっちの会場でもずっと食べてなかった?」
「わしは大食いなんだよ」
「知ってるけど。つうか、誘ってきた女子たちみんな断ってたよな」
踊ることもせず、かと言ってこちらに気を使っていない訳でもなく。肩に乗った天心と共にずっと食べ続けるという器用なことをしていた進。
各学年の騎士科Gクラスとはそれなりに話をしていたようだったが。
圧紘はせっせと榊に何か食べさせようとしているし、どこでも変わらなさすぎるだろお前らと呆れたように笑う。
「この曲!あたしも歌えるようになりたい!」
至が歌っているのを聞き、メイナ含む数名が教わりに行った。
「みんな本当にダンスが上手になったねぇ!」
「イタルは何か、別格だったよな」
「コクン」
貴族たちから相当誘われていたが、本人は幸せそうに笑って利刃の腕に抱きついたままだった。
「全部利刃さんが断ってくれるんだよ!は〜!かっこいい!好き!断る時とかっ、本当っ、
「かっこいい好き辺りで止めといてやれよ」
盛り上がっている面々と、2次会にやって来て頭を抱えているアディ 。もちろん教師陣もだ。
「まさか国王陛下がそこまでおっしゃってくるとはっ」
「恐ろしいっ」
今まで一度たりとも注目を受けた事がない錬金術なので、どうも重く受け取ってしまうようだ。
「何も怖がることはないと思いますよ?」
「何でそんなに平然としていられるんだよ」
「今現在でも、みんなはどこに出しても恥ずかしくない錬金術師だからですよ」
むしろ後半年という猶予まであるのだからさらに技術が高まったところを見てもらえるだけではないかと笑う。
「たった一年、半年でみんなこんなに変わったんです。自分でここまでにしておこうって止めない限り、何をしても高みへ登っていくだけですよ」
そう言って、もしもやる気があるのならホムンクルスとゴーレムの作り方を教えようかと首を傾げた。
「みんなもうちのホムンクルスたちと関わってみて、この子達がどういうものか分かってきただろうし。 一生大切にできるなら造ってみるのもいいかもね」
作り方を知ったからと言って、本当に作るかどうかも自分で決めていいのだという。
「たった半年でできるのか」
「できなかったら来年に回せばいいんだよ。そうしたら一年あるんだから、もっとよくできるだろうし。今のアディ君だってもう半年前とは別人になったんだから。また一年たったとして、もっと変わってるよ、きっと」
「ならあたしやってみたいわ!」
「私もホムンクルス作りたい」
カタリナだけでなく、内気なアンまでもが目を輝かせて見つめてくる。
「俺は造るならゴーレムだな」
「俺はホムンクルスにしてぇけど、まだ考えが纏らねぇんだよなぁ。 来年になるかも」
「僕はゴーレムがいい。水晶で造ってあげたい」
「俺もゴーレムだな。どうやって造るかこれから考えねぇとだが」
一年二年が混ざって話しだし、ワットがガウェインの肩に手を置くと「やってみようぜ」と笑いかけた。
「先生はホムンクラスが向いてるってずっと言われてたし、どんな子にするか決めてたりしますか?」
「・・・まだ考え中だ」
「俺は、ホムンクルスに挑戦する」
ガウェインが隣にいるワットを見上げ、アディたちに顔を向けた。
「・・・」
ジュースの入ったグラスを、考え込むように見つめるアディ。 ローランドはようやく自分のゴーレムを造ることができると嬉しそうだ。
「三人とも来年の2次会には婚約者さん連れてきてあげなよ」
「いやいやっ、見ただろエラの態度!?」
連れてきたら何を言い出すかと焦るアディに笑ってしまった。
「あれは自分が知らないものにアディくんが夢中になってるから拗ねてるだけだよ。私に対しても女としてとかじゃなくて、その中心にいるからヤキモチ妬いてるだけじゃない?」
可愛いことだと笑う。
「これからも錬金術を続けたいなら、パートナーの理解はあった方がいいよ?」
アディたちだけでなく、大人たちにも顔を向けて研究者というのはただでさえ熱中すると時間を忘れるものなのだからと、楽しそうに目を細める。
「私はいつでも茂さんのお側にいます」
「いつも集中してる時はほっといてくれてありがとう」
とても助かっていると言えば、こめかみにキスをされた。
「理想的な関係だよね、2人は」
ローランドの言葉に他のみんなもため息を吐きながら頷く。特に独身の大人たちはダメージが大きかった。
結婚するのが当たり前、しなければ性格、生活力、経済力に問題があるとみなされてしまう世間なので相当苦労や嫌な思いもしてきたのだろう。
「結婚だけが幸せじゃないですけどね」
「ススムは独り身だよな?そういや」
「そうだな。まだ結婚するかも決まってないな。興味もあんま無いし」
「進ちゃんはモテますからね。複数人から奪い合われてますよ」
「そんなに?!」
「どんな人が好みなの?」
「好みはないな。するなら、わしに勝った奴と結婚するさ」
ローストチキンを手づかみで食べながらそう言った。
「ススムに勝つ・・・、勝てる人いる?」
「ロマンスは?」
「結婚は恋じゃなくてもできるだろ」
「その年で達観しすぎだろ」
「顔と佇まいだったら学園で一番と言ってもいいほどなのにっ」
ナタリーが両手で顔を覆った。
「顔って、半分隠れてるだろ?」
「進のは隠せてないわよ」
「マスターはとても美しいですよ」
優とモネの言葉に、半数以上が同意を示していた。
その後、ホムンクルスとゴーレム、タルパについて盛り上がり始めた頃、学園長もやってきて2次会に参加して行った。
次の日、学園を卒業していく騎士科、魔法士科の4年生20人にみんなで作ったポーションや魔導具を贈って祝いを伝える。
そしてひと月という長いようで短い休みに入っても、みんなはみのり屋のテントでいつものように自分の研究をしていた。
休み中ということで外泊届も不要。
とても動きやすい環境になり、いつもの森にこもりだした。
本来なら家へ戻らなければならないはずのアディたち3人までもがついてきたので、大丈夫かと教師たちが心配するような状況となっている。
「父上が賛成してくださいましたので」
「うちの両親にも、陛下が手紙を書いてくださったそうです」
「来年の学園祭にうちの両親も来ると知らせがありました」
ガウェイン、ローランドともに上級貴族である。
ちなみにこの国の公爵家は2家しかない。公爵家と同じだけの権力を持つ辺境伯家が4家あるので、パワーバランスとしてもとても整っていた。
「侯爵家勢揃いかよ」
「そうは言うけど、僕三男だよ?」
「俺は四男だ。家を継ぐことはまずない。市井に下れと言われても出来るレベルだぞ」
そうかもしれないが、そうではないと教師たちは顔を覆った。
全員が揃っているということで、休み中ではあるけれどホムンクルス、ゴーレム、タルパについて再度授業させてもらった。これから本当に造るかどうかをゆっくり考えるといいと言って、茂も自分の研究に入っていく。
「これ何?魔導具?」
「うん、馬車の代わりになればと思って」
「あの車すごかったよな。中が見た目より広くて」
「この陣が魔力の吸収、放出、そしてこの回路が空気調整ですか?」
いや、それにしてもと全員がバインダーを開いてガリガリとメモを取っていく。
「ここの陣は本来別のものなんですけど、これはオリジナルですね」
「これって文字?」
「そうだよ。 こういう錬成陣は書ける文字数が限られてるからね。 一文字で意味のあるものを使うとすごく省略されていいよ」
「シゲルは空が飛べるようになる魔導具は造っていないのか?」
「造ってるよ」
「造ってるのか!」
「ど、どんなのがある?!」
集まってきたみんなにも見えるように、いくつものスポーツ道具を出していく。
「空を飛べるようにするって、実際は結構簡単なんだよね。でもそもそも空を飛ぶって向き不向きがあるから、まずそこから確かめた方がいいかも」
「あいつ空飛びたすぎだろ」
「ロマンがあることだからね〜」
梅智賀と圧紘がそんな話をしていると、進がアディと自分の体をベルトで固定し始めた。
「空を飛ぶって言ったら、まずはこれだよな」
「ちょっと待て!何でお前とベルトで固定しているんだ!?」
「これはハングライダーって言って、空を飛ぶっていうよりも滑空するっていうものだ」
そう説明したハンググライダーというものを背負うと、またベルトで固定し始め現津に合図を出す。
「現津、発射して」
「いいですよ」
止める間もなく、魔法で二人ははるか上空へと吹っ飛ばされた。
「ああああー!!!」
「口閉じてないと舌噛むぞ」
急なことに叫んでいたアディに声をかけ、バサッと音を出しながらハンググライダーを開いた。
「はっ」
「落ち着いたか?自分で持ってみ。支えとくから、自由に操作していいよ」
安定して飛んでいるのを見てようやく本当に空を飛んでいると気づいたのか、どんどん目を輝かせていく。
「怖くないか?体はそのまままっすぐな。気流を乱すから」
「と、飛んでるっ、本当に!飛んでるぞ!!」
「気持ちいいだろ」
さすがに鳥のようにとはいかないがと笑って、ゆっくり空の旅を楽しんでからみんなのいる草原へと戻ってくれば、大人たちがアディに駆け寄ってきた。
しっかりと着地したのでベルトを外すと崩れるように座り込む。
「ばかやろう!!」
「やりすぎですよ!」
「殿下!大丈夫ですか!!?」
「違う、違うんだ」
「大丈夫?ポーション飲む?」
進に掴みかかるガウェインたちを止めるが、心配そうに顔を覗き込んでくるローランドとも目が合わない。
ただ一点、空を見上げていた。
「俺は、次は、自分で飛びたい」
いつもの"私"ではなく、入学したての時のように俺と言いながら空を見続ける。
「練習したらすぐできるようになるよ」
そう言って進が笑う。
「大地から一番遠い空を目指すのか。いいな、絶対飽きない探求だ」
お前はきっと錬金術師に向いてるよと手を差し出して立たせ、腰が抜けているアディを背負ってテントに向かって歩き出した。
「氷って、飛べるかな」
「飛べるんじゃないか?魔法なしでも飛べるくらいだし」
「それもそうだね」
「水、水か・・・」
アディを守る騎士として飛べないといけないなと考え始めるガウェイン達。全員で戻ると、子供たちが駆け寄ってきてアディの無事を確認する。
しかし、本人は早速バインダーを開いてハンググライダーについて観察をし始めた。
その姿にみんなが苦笑する中、進が真面目な声を出す。
「みんなこういう道具使うつもりなら身体強化もうちょい頑張った方がいいな」
「なんで?」
「空の上で手を離すか、足が滑るか、そんなことになったら怪我じゃ済まないだろ」
「それはそうだな」
「身体強化でどうにかなるの?」
「体の中で魔力をコントロールできるようになったらどうにかなるよ」
そう言ってテントの側面を垂直に歩き出す。
「えええ?!どうなってんの?!!」
「足の裏に魔力を集めてんの。みんなもこれ練習した方がいい」
きっと何かの役に立つと、戻ってきてアディの前にしゃがんだ。
「どんな魔導具にすんのか分からんけど、どんなにすごい道具だろうと手から離れたらただの物だ。お前を心配して助けに来てくれない。それが道具だ。 アディはゴーレムを造るって言ってたし、大丈夫だとは思うけど。道具を手放さない努力はしときなよ」
飛ぶ力がない生き物はそれだけが命綱になると言われ、 一緒に飛んだ時のことを思い出してしっかりと頷いた。
頷いたアディに笑顔を向け、立ち上がるとハンモックを出して昼寝のスタイルに入っていく。
「いやいやいや!待て!」
「これからさっきのあれ練習する流れだろ?!」
「みんな魔法も身体強化も使えるんだし、大丈夫だろう」
「あんなすげぇ事すぐできるか!」
「でも眠いし」
「自由人か!」
イーサンたちに囲まれながら叫ばれるが、もう目を開けていられなくなったのかむにゃむにゃとあくびをして眠り始めてしまう。
「まじで寝やがったっ」
「マスターはそういう体質ですから」
タオルケットをバックから出して腹にかけていたら、天心が頷いてその上で寝始めた。
それから2時間ほどして進の昼寝が終わり、昼食をたっぷりとってから身体強化の練習を始める。
「やっぱ強化系たちはコツ掴むの上手いな」
「これっ、コツ、掴んだか?!」
「めっちゃむずい!」
「クッ、ガァ!」
みんなで木を歩いて登る中、一応足に魔力を集められるようになったが木に吸い付けたのはジン、ワット、ガウェインの三人。
しかし、集めた魔力が多すぎたのか弾かれて落ちていく。
「そこまでできたんならどのくらいの量が必要なのかは、体が勝手に覚えていくよ」
それから三日後、全員がとりあえず吸い付けるようになったので前に行った初級ダンジョンへ向かった。
そして苦労もせずに攻略することができたので、研究材料と資金をバッチリ手に入れることができた。
「土属性の魔石が捨てるように売られているというのは本当なんだな」
「こんくらいのサイズで水なら50倍近くすんぞ」
「うわ、火の魔石も結構高い」
「風もそこそこすんだよなぁ」
「やっぱ自分で取ってくるしかねぇな」
「みんなたくましくなったね」と笑いながら学園へ戻り、生徒たちは研究漬け、教師たちは入学試験などで忙しくなった。
そうして、新学期を迎えることとなる。