7.学園生活
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
入場する前からものすごい注目を集めていた。
現津のエスコートで歩く茂の後ろについて行き、それっぽく見えるように固まって動く。このパーティーにペアが必要ということはないが、貴族が9割以上を占めているこの学園ではペアを作っている率の方が高いのだ。
いざ会場へ入れば先ほどの視線など生ぬるく感じるほどの人の目が突き刺さってきた。
先に会場入りして挨拶回りをしていた術師団、教師陣からは助かったと言いたげな視線が送られてきて笑ってしまう。
そして、胸を張って歩き出す。
「みんな、この戦いも必要なものはいつもと同じだよ」
小さな声で、けれど全員に聞こえるようにはっきりと言う。
「余裕、優雅さ、度胸。みんなはこの全部を持ってるから何も心配いらないよ」
そう言ってアランたちの下へ真っ直ぐと向かっていった。
「 遅くなってしまい申し訳ありませんでした」
一礼して見せれば、茂に習ってみんなも腰を折る。その美しい礼に周囲のザワ付きが増した。
「これはこれは、見違えましたね」
魔法士科の教師(遠征組)の言葉ににっこりと笑って礼を言う。
「しかし奇抜なデザインのドレスだな」
「はい、今年が初めてのパーティーですから。私たちも気合が入りました」
「そうか。いや、そうだったな。今日はゆっくり楽しむといい」
騎士科の教師(遠征組)の言葉にもにっこりと笑って礼を言う。
挨拶を終えて一度会場の隅へと移動した。
「緊張したっ」
「もう汗が止まらないわ」
「ダンジョンの中の方がいい・・・」
「この怖さは種類が違うよね」
コソコソと話しながら、運ばれてきたドリンクで喉を潤していればアディたちが入ってきたので視線をそちらへ向ける。向こうもこちらを見たが一瞬で視線を戻してしまった。
そして周囲の喧騒も増す。
それもそうだろう。
アディたちも錬金術師科と同じデザインのドレスだったのだから。
戻ってきた視線に笑い返すと、今度はひそひそと話しながら周囲の視線が逸れていく。
「何だ?」
「アディ君たちとお揃いだからちょっかいかけて王族に睨まれたくないんだよ」
「素材にあんだけインクかけといて、今更だろ」
「なんだ、知らないのか?」
その実行犯と手引きした貴族が自主退学になったぞとホーキンスがグラスを手に話しかけてきた。
「え?待って、それ初耳」
「マジで?!」
「まぁ、王子様も関わってる物に唾吐いて、お咎めなしは無理じゃないかな?」
キリルもやって来て笑っている。
「権力怖っ」
「いやいや、よく黒幕まで自主退学になりましたね?」
「学園長がうやむやにするつもりはないと宣言したんだ」
「遠征に行った教師四人もそれぞれ後押しして、犯人が特定された所で恥をかかされたと本人が退学していった」
「どんな思考回路してんだよ」
「プライドばかり高い貴族の典型じゃん」
転弧が笑い、手に持っていたグラスに口をつける。
「ヤダよねぇ、私利私欲で肥えてる奴って」
「ああいう真っ黒なのは好きじゃないな」
黒幕を見つけたのはもしかして二人かと、話している圧紘と転弧を見てノアが望に耳打ちする。
「どうなんでしょう」
望も眉を垂らして分からないと笑い返された。
「茂ちゃん達って、やっぱりどこかの国の王族だったりしない?」
「まさか。ただの平民だよ」
返事をしながらローランドに礼をして、形式に則った挨拶をする。ローランドも形式に則って礼を止めるように言って隣に立った。
「婚約者さんはどうしたの?」
「休むって言って控室に行っちゃった。このドレスを見てもノーリアクションだったよ」
「貴族って目立ってなんぼなんじゃないの?」
「控えめな方なんだね?」
「みんなみたいにチャンスを掴みに行くタイプじゃないんだよ」
話していると婚約者に逃げられたらしいアディとガウェインもやって来て、ついに錬金術師科の生徒全員が揃った。
「ダンス大丈夫?」
「さすがにファーストダンスの時は来るだろ」
「ならいいけど。追いかけてきてくれるのを待ってるんじゃない?」
そうかもしれないがとアディがため息を吐く。
「追いかけて話しかければ眉間にしわを寄せてにらんでくるんだぞ。追いかける気力が湧いてくるか」
「こじれてんね〜」
その話を聞いて、他のみんなが首を傾げた。
「そんなに言うほど酷い?錬金術って」
「味のいいポーションとか作れるようになったのに」
「コクン」
「魔導武器も、魔導具もすごいのにね?」
「その内分かってくれるよ」
「そうそう。具体的に言うと来年の学園祭あたりで」
その言葉に2人が顔を見合わせる。
「なるほど、この力を見てまだ認めないというなら婚姻も考え直した方がいいな」
アディは第2王子であり王太子ではない。なので国母とまでは言わないが、国益になることも分からないようではさすがにというアディに、貴族様の婚約は ストイックすぎると女子たちが呟く。
「つくづく平民で良かったって思うわ」
「うん」
「人間の結婚って愛がスタートじゃ無いよね〜」
「短命だからな。そうも言っていられないんだろう」
そんな話しをしていると、パーティー開始の合図が鳴った。
「じゃあまた後でね」
「くれぐれも問題に巻き込まれないように気をつけろよ」
そう言い残して会場の中心へと消えていく姿に、貴族も大変だなとジンが言う。
「平民の私たちは食べるものとかに困って這い上がるのが大変だけど、自分1人を守れればいいでしょう?でも貴族は生活に困らない分一度の失敗が家族とか領民にまで影響するからね」
背負っているものの違いだと苦笑する。
「どっちがいいかは本人が決めればいいことだよ」
「なら俺は平民でよかったぜ」
「俺も」
「僕も」
「なんだかんだで今に満足してるよ」
「それは私もかな。もしも貴族になりたかったらもっと腕を磨いて自分の力で爵位でももらえばいいしね。なりたいものが変わってもやりようはいくらでもあるよ」
「さすがシゲル」
「ふふ」
笑っていれば学園長の挨拶が始まると思いきや、まさかのオルギウスとフェアグリンがやってきて学園長とにこやかに話し、生徒たちにもありがたいお言葉をくださった。
「アディたちも驚いてんな」
「サプライズだったようですね」
小声で話し、ちらりと後ろを見るとみんなの顔面が青くなっているのが分かった。
まずは王族、公爵たち身分の高い貴族がファーストダンスを踊り、次の位の貴族たちが踊る。
そして、平民も混ざることが許される段階となった。
「みんな、戦いで必要なものは?」
声をかけられ、我に返ったみんなの目に力が戻っていく。
「大丈夫、みんなは全部持ってるよ」
笑いかけ、現津のエスコートでホールの中心へと向かう。色とりどりの、けれど自分たちと同じデザインのドレスを着たみのり屋達も歩いていく。その後を追うように、子供たちも足を動かす。
お辞儀をして手を繋ぐ。
頭の中で茂の声が聞こえるような気がして体はスムーズに動き始めた。
体の動きに思考が追いついてきた頃、視界の端でいつもの顔ぶれが見つめ合いながら踊っているのに気づき、笑ってしまった。おまけに人垣の向こうではこちらのことなど気にせず、ずっと食事をしている進までいる。
これではまるで教室にいる時と同じではないか。
そう思うのと、危険を察知したのは同時だった。
考える前に体が動く。それはペアを組んでいる相手も同じで、ここが戦場であることを思い出す。
足を引っ掛けられそうになったら、体にぶつかりそうになったら、バランスを崩したのならどうすればいいのかは知っている。
それができるだけの身体能力も練習もしてある。
男の子が女の子を持ち上げクルリと回れば、周囲から歓声が上がった。長い袂と豊かなレース。女の子のドレスだけでなく男の子のドレスまでもが回転で膨らみ、瞬時に華やかさを表しホールのあちこちで美しい花が咲き乱れる。
「一息入れるか?」
「ううん。やっと緊張がほぐれてきたからこのままの方がいい」
「疲れてきたら言えよ、ずっと持ち上げて回ってるから」
笑いながら女の子はまだ踊っていない男の子と交代し、またホールへと戻って行った。
茂たちは2曲連続で踊った後壁際へ避ける。他のみんなはパーティーを楽しみながら、錬金術師科のみんなをフォローしてくれているようだ。
全員がばらけたが、茂達はそのまま休んでいた。
するとすぐに遠征組の教師たちが話しかけてきて、今まで声をかけて来たこともない他学科の教師たちを紹介していく。
「見事なダンスだった」
「ありがとうございます。付け焼き刃ではありますが、そう言っていただけると励みになります」
「奇抜なデザインだと思ったが、まさかあのように華やかになるとは」
謙虚な姿勢で笑顔は絶やさず、遠征組の教師以外にも接し方は同じで通す。あくまでもこちらは臨時講師であり、あの事件の被害者で敵意はないと示し続ける。
すると人垣が分かれた。
アディに案内を頼んだであろうオルギウスとフェアグリンがやって来た。来るとは思っていたので特に驚くこともなくこの国で最上級の礼をして対面する。
その姿を見て満足するような表情をすると一つ頷き、オルギウスが頭を上げるように声をかけた。
「今日は学園へ通う生徒の父親としてきているのだ、堅苦しい挨拶は省いて構わん」
「寛大なお心遣いありがとうございます」
そう言って背筋を伸ばし、笑顔のまま見上げる。
「ギルバート達も来たがっていたが、急を要する仕事もあり今日は断念したようだ」
「来年から学園へ通うのです、スケジュールの変更は大変でしょう。お体を壊さないか心配しておりますとお伝えください」
一ヶ月後には共に生活をするのだ、それを楽しみにしていると笑い返す。
「他の神官たちも貴女に挨拶をしたがっていましたが、今日は私だけにさせていただきました」
「来年からまたお世話になるでしょうから、皆様にもよろしくお伝えください」
「たった半年だが、アディも大きく変わったようだな。編入させただけの価値はあったようだ」
「アンドリュー殿下のさらなる活躍を手助けできるよう、これからも精進してまいります」
「それは楽しみですね。来年の学園祭では私も微力ながら、回復役として参加させていただきましょうか」
フェアグリの言葉にオルギウスも笑顔で頷いた。
「来年の学園祭でアディが何を見せてくれるのか楽しみだ」
「、ですが兄上が担っていた分の公務がっ」
「何を言っている、半年後の話だ。ギルバートもその為に今慌ただしく準備をしているのだ、数日くらいどうとでもなる」
どうにか思い直させようとしているアディだが、本人が来ると言い切ってしまっているので止めることができなかった。
「当日を楽しみにしております」
「ああ、私もだ」
「私も今からとても待ち遠しいですよ」
2人とも笑って学園長とともに教師陣に話しかけに行ってしまう。
「最悪だ」
「これ以上ないほどのチャンスでしょ?」
「どこがだ、あれは絶対に楽しんでるぞ」
「ならアディ君も楽しんだらいいと思うよ」
ため息を吐き、この国の2大トップの前で何かしてしまったら 錬金術の立場が悪くなると呟いていると、一人のご令嬢がこちらへやって来てアディに話しかける。
「アディ様、そちらの方を私にも紹介していただけますか」
「エラ」
見つめ合い、渋い顔で茂たちを振り返った。
「我が国の宰相の娘で、私の婚約者でもある。エラ、こちらがみのり屋の代表であるシゲルと、その夫のアキツだ」
「お久しぶりです。以前お会いした時は試合中ということもあり、ご挨拶ができず申し訳ありませんでした。改めてご挨拶の機会をいただき嬉しく思います」
「、覚えていらしたのね」
「はい。しっかりと私の目を見てくださった方ですから。よく覚えております」
アディにも、学園祭の個人戦で当たったということを説明すればよく覚えていたなと、こちらにも驚かれた。
「不躾だとは思うけれど、普段からそうしていたいらした方がいいのではなくて?」
言いながら足を見てきたので、義足のことを言っているのだろう。
「やはり一本足は見慣れませんか?」
「・・・悪目立ちしかねないと思っているわ」
「それも理解はしているのですが、動きやすいのは一本立ちしてる時なんです。パーティーのように走る必要がない場所ではこのように義足を使うのも良いのですが」
学園祭でリレーのアンカーとして走った場面を思い出したのだろう。言っていることに嘘はないようだと、頷いて茂を見る。
「あなたの魔力量はどのくらいなのかしら。相当な多さがあると思うのだけれど」
「はい、魔力は使えば使った分だけ多くなっていきますから。それなりには」
「そういえば、シゲルが魔力切れを起こしているところを見たことがないな」
「それだけ使う場面がないということでもありますけどね」
最近はアキツに任せているので楽をさせてもらっていると笑えば、エラの表情が険しくなった。
「そのようなことで、また学園祭で優勝をするなど本気でおっしゃっているの?」
「もちろんです。来年は私は生徒として参加はできませんが」
みんななら優勝するだろうと笑顔を向けた。
そんな返しをして気にした様子もない茂だが、アディはここ最近茂が魔力を使っていない理由を知っているため今の言い方はないだろうと止めに入る。
「シゲルは私たちの研究に付き合ってくれているんだ。それだけじゃない、学科生たちと今日のために準備に追われていた。見ていた限り、自分のことをする時間などなかっただろう」
「よく観察なさっているのですね、この方のこと」
「私も詳しくお聞きしたいです」
「現津さんが出てきたら余計にややこしくなっちゃうよ」
「なんでお前はシゲルが関わるとあらぬ方向に走り出すんだ」
エラに加勢した現津を2人で止めていれば、その様子に呆然とした表情をする。
「エラ様、心というものは移ろうものですから、心配なさるお気持ちは分かります。ですがそれを2人で永遠のものにしようと協力していくのが夫婦だと私は思っています」
自分たちもまさしく模索している最中だと言えば、少し頬が赤くなった。
「茂さん、最後にもう1曲踊りませんか」
「そうしようか、他のみんなも壁際で休み始めてるみたいだし」
2人も一緒に行かないかと誘えば、アディがエラに手を差し出す。
こうしてパーティーの最後にもう1曲踊り、オルギウスとフェアグリンに話しかけられたこと以外はこれといった事件も起きず終わりを迎えることができた。