7.学園生活
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次の日、素材の等分はアランたち教師にまかせ、茂はティータイムに使っている空き教室でプロジェクターをセットしていた。
「コレなに?」
「プロジェクターって言ってね、娯楽用の魔導具」
珍しい物好きの皆がプロジェクターを見ながら話し合いを始める。少しすると教師四人が戻って来て、錬金術師科用の素材を持ってきたと報告をしてくれた。
「土の魔石も手に入りましたよ」
「本当ですか!」
「向こうも、昨日の事でもめているらしくてな」
「元々ガラクタ扱いされてるっていうのもあるかもしれませんが」
そう笑ってナタリーがワットたちに数はあるから後で見てみるといいと言う。
「こちらに有利な配分にしてくださいました」
「やっぱり悪い事ばかりなんてありませんよね」
よかったよかったと笑い、素材の確認は後でじっくりする事にして、今日はこれから歌劇を見ようとみんなに座ってもらった。
「まず、歌劇を見る時のルールね」
説明をしたら、こういうのは慣れていくしかないと茂も座る。現津が魔法で教室を暗くし、プロジェクターのスイッチを入れた。
壁に映し出されたのは、天空の城ラピュタ。
二時間後、ENDの文字が出ると全員が拍手をしてくれた。
「どうだった?今日は初めてって事で歌が少ない物だったけど」
みんな最後まで見ていられたし、次からは歌が多めでも大丈夫?と聞きながらプロジェクターのスイッチを切る。
教室も明るくなったので、望がお茶を入れてみんなに感想を聞いてみる。
「途中でムスカに杖を向けられた時、もうダメかと思ったわ!」
「すげー面白かった!」
「私、すごい感動しちゃった・・・」
「私もっ、私は、ゴーレムを幸せにするぞっ」
アディが泣きながらゴーレムと呟いている。どうやらゴーレムを造ると決めたらしい。祖母の影響もあり相当ゴーレムに興味があったようだが、まさか決め手になるとは思わなかった。
「こんなお話し初めて見ました。とても面白かったです」
「異国のお話ですからね」
「それこそ昔は錬金術師がいたけど、もういない国で造られたお話しだよ」
「なるほど、もう失われた物を繋ぎ合わせたという事か」
お茶請けのクッキーを運んできたつむぎに礼を言って皿を受け取り、メイナが呟く。
「あのゴーレムも感動したけど、あたしが造るならホムンクルスかなー」
「メイナさんなら優しいお母さんになりますよ」
「僕はモモノスケみたいな動物型がいいな。一緒に寝たりご飯食べたりできるのっていいよね」
「僕ならゴーレムかな。人型のもいいけど、楽器型っていうのも良いよね。それなら日常的にも戦いの中でも良い相棒になってくれそう」
ラピュタに出てきたロボットを思い出しながら、全員がホムンクルスかゴーレムを造るならどちらがいいかと話していた。誰もタルパと言わないあたり、錬金術師だなと茂たちも笑いながらお茶に口をつける。
午後からはダンスの練習という事で、本格的に忙しくなる前にガーフィールに土属性の魔法について教えてくれと声をかけたワットとアディ。
「魔法はつまるところ、想像力が豊かであればどこまでも応用が利くものですよ」
そう言って出されたショコラ・ショーを嬉しそうに飲みながら言う。
「うっま!なんだこれ」
「前に入れてくれたココアとも全然違うわ!」
アディとワット以外はショコラ・ショーに夢中だ。
「人は陸上で生活する生き物です。そう考えれば土属性はとても扱いやすい物かもしれませんよ?」
「・・・つまり?」
「私たちがこうして立っている場所全てが得意なフィールドになるという事です」
「そう考えたら、私も参考になるかも」
勉強会にアンを始めとした土属性たちが参加した。
「他の学科ではどういう授業をしてるの?」
「魔法士科は魔法の基礎からだな。魔力の練り方がなってねぇ奴ばっかだし」
「騎士科はとりあえず、自分に勝てる事が目標かな」
「自分?」
「そ、自分の弱点を知らないと伸ばしようがないじゃん?」
だからまずは俺の出番と圧紘が笑う。
「さすがに教師はクリアしたから転弧たちが相手してるよ」
「騎士科っていうか、騎士たちも来てるからコンシンネさんたちにも手伝ってもらってるけどね」
「お父様も楽しそうですよ」
「人手があるのは本当に助かる」
「あの人、ミッシェル様だっけ。騎士団長の人。あの人は完全に楽しんでるけどね」
「つまらなさそうにされるよりも断然いんだけどさ」と騎士科の訓練をしているメンバーが眉を垂らす。
「なんか、あれって子供たち的にどうなの?指揮上がってるの?」
「下がってはいないな」
「騎士団のレベルの高さは見せつけられてるんじゃないか?」
「四年生としかやってないから大丈夫だろ」
どうやら凄まじい実力差で学生達を圧倒しているらしい。子供たちからすれば憧れる姿だろうという事で落ち着いた。
「いつか合同で訓練とかしてみたいけど、それが学園祭って感じなのかな?」
「あー、そういう事なんじゃない?」
昼寝をしている進を世話するモネを見ながら、ガーフィールの声をBGMに昼休憩をとった。
午後からは豊が作ってきてくれた簡易的なドレスと靴で練習を始める。
「はい、ワン・ツー、ワン・ツー」
茂の手拍子とひなたとつむぎが弾くバイオリンとピアノに合わせて空き教室で踊った。
「普段の動きに優雅さをプラスするだけで良いんだよ?」
「どういう説明?」
音楽が鳴ったとたんぎこちない動きになってしまうみんなに、茂が口を開く。ローランドの突っ込みは流された。
「ここにはみんなしかいないけど、当日は他の人たちがいっぱいなんだよ。それをちゃんと理解しなきゃ」
そう言って全員の顔を見た。
「桃に追いかけられてる森の中で、最初は転んで泣いてたけどいつの間にか私の問題にも答えられるようになったでしょ?あれが余裕で、優雅さだよ」
「・・・そうかな?」
ガウェインとアディを振り返りながら聞いてみるが、二人とも分からないという顔をしていた。
「森で戦い慣れてるみんなとはホームグラウンドが違うんだよ。それでも必要な物は同じ。余裕と優雅さ、度胸!」
「一つ増えてるぞ」
「貴族のホームグラウンドは魔物みたいに大きな生き物が襲ってくることはなくても、気が遠くなるようなネチネチした攻撃はずっと続くからね」
踊っている間も同じだと言い、いつも使っている杖を無い方の足に近づけた。
すると、杖が義足の形になり、二本の足で立ち上がる。
「ええ!?」
「やっぱりそれもアーティファクトだったのか!?」
「いい?踊ってる時にぶつかってこられたら身体強化でスピードアップ」
現津と踊りながら軽やかにステップを踏んで移動した。
「この時ぶつかってきた相手とも周りで踊ってる人たちともぶつかっちゃダメだよ。当たったら体力と気力を根こそぎ持って行かれるトラップだと思ってね」
「大体当たってるな」
「で、足を引っ掛けられそうになったらターン。多少変でも立ち止まらないでね。戦ってる最中に足を止めたらどうなるかは知ってるでしょ?」
「こうして聞いていると、本当に戦い、ですね」
マートンも感心したように聞いている。
「で、曲が終わったら優雅にお辞儀。ここで一息ついて、また気合を入れて歩き出す。で、女の子は踊る回数が多いからみんなも気を使ってあげてね」
「?」
「他のクラスの子と踊って、その子が足を踏んで来たり転んだりしてダンスが途中で終わったら、それはフォロー出来なかった男の子のせいになるんだよ」
「はぁ!?何でだよ!」
「卑怯だろ!」
「貴族の中ではね、男性はこうあるべき、女性はこうあるべきっていう考えとかが根強くあるの。だから舞踏会みたいな沢山人が集まる場所でそれを装えないっていうのは、それだけ小者って思われるって事なんだよ」
だから相手がどんな人か分からない中で、知らない人と踊るのはまだ早いと言う。
「誘われたらなんて言って断ればいいんだ?」
「そもそも女性から誘っては来ないがな」
「誘えと言う圧をかけられるだけだ」
「その圧をどうやって避けるかっていう話でしょ?」
「あの圧は、恐ろしいものですよっ」
「断っているのに、失敗すればこちらが悪い事になりますからっ」
術師団たちの実感のこもった言葉に、子供たちの空気も引き締まる。
「正直に言っていいよ。身体強化が出来るようになってまだ日が浅いから怪我をさせたくないって」
「上手いな」
「大抵のご令嬢は怖がって近づいてこなくなるわね」
「それでも、どうしてもっていう子がいたら、ちゃんとどういう意味で言ってるのか分かろうとしてあげてね」
場合によってはその子にも引けない理由があるかもしれないし、本当に好きな人と踊りたくて勇気を振り絞っているのかもしれない。
「引けない理由が脅されてるとかだったら、自分がどうしたいのかで決めていいよ。一回踊る事で助けてあげられるんだったらそれも良いと思う」
だからその時の為にと、もう一度現津の手を取る。
「何かあったら、こうやって持ち上げてクルッと一回転。周りに気をつけてね。着地の時も、相手の子が足をくじかないようにちゃんと聞こえるように話しかけてあげるんだよ」
「ねぇ、シゲルちゃん。うちにマナー講師として来てくれない?」
「そういうお仕事はお断りしています」
「依頼が来たことがあるのか」
「ご想像におまかせします」
現津が微笑みながら返し、本当の所は分からないまま終わってしまった。
そんな会話を混ぜながらダンスの練習が続き、ひと月もすれば形になり始めた。
「嘘だろ」
みんなの上達を一緒に体験していたアディたちが驚きを隠すことなく口を開けながら呆けている。
「みんなも”踊る”ってことに慣れてきたみたいだね」
「ちょっと楽しくなって来たわ」
「あたしも」
「まぁ、悪くねぇよな」
口々に言い合うのを聞き、次はどんな曲が好きなのか探してみようかと、いくつかの曲をひなたたちに演奏してもらった。
みんなが自主的に練習を始めたのを見て、微笑んでいる茂に現津が嬉しそうにすり寄るとこめかみにキスをする。
「茂さんが愛おしくてたまりません」
「ふふ、ありがとう。私も現津さんが大好きだよ」
「一曲踊っていただけませんか?」
「はい、喜んで」
差し出された現津の手を取り、ワルツを踊る。楽しそうにステップを踏んで、教室をめいいっぱい使いクルクルと二人で回り、離れて掴んで抱き合ってを繰り返す。曲が終われば、互いを見つめ合って愛情と尊敬、敬意を込めて一礼した。
「最高のお手本だな」
ガウェインの言葉に、みんなが拍手をしながら頷く。
「次は僕と踊ってくれる?」
「すみません、茂さんは私のパートナーなので他をあたって下さい」
「えー、練習中も?」
「はい、この手を離すつもりはないので」
「ふふ、誘ってくださってありがとうございます。ですが他に気移りしていると勘違いされたくないので、お応えできず申し訳ありません」
「パーティーではこのように誘いを断るんだぞ」
「これまで練習にされちゃうなんて」
苦笑するローランドと共にみんなも笑い、ダンスの練習に戻った。
さらにふた月もすればもう何処の舞踏会へ行っても恥ずかしくないだけの腕前になったので、最後の仕上げだと豊が仕立てて来たドレスを着てもらう。
「変わったデザインだな」
「キレイ」
全員赤をベースにしているが、一口に赤と言っても使われている色は全く違った。なので似合わないという者は一人もいない。
「先生達はやっぱりこのデザインにしてよかったです」
動いてみてどこか苦しくなる所は無いかと、華やかな和風タキシードとフワフワと広がるスカート。女性用も振袖のように長い袂がついた和風ドレスだ。
こんなに素晴らしいドレスを着た事がないとキレイな物好きはうっとりとドレスを見つめていた。
王族であるアディたちまでもがすごいと呟く程である。
「料理を食べる時とか、しゃがむ時とか、袖を踏んだりしやすいから気をつけてね」
「今日はこのまま練習してみてくれる?動きにくい所があったら早めに直した方が良いだろうし」
今は他のみのり屋たちもいるので、相手を変えて踊ってみるのもいいとひなた達に音楽の合図をした。
練習後、ドレスを汚してしまっては大変だからと着替えていつもの作務衣姿で休憩をとる。
「三人って婚約者とかいないの?」
「相手のドレスがもう出来てるならお揃いのコサージュとか作ろうか?」
豊の言葉に、別にそこまでしなくていいと三人共が首を横に振った。
三人の説明をまとめると、錬金術師科に編入してからずっとご機嫌斜めで取り付く島もないのだと言う。
「それ大問題じゃない?」
「機嫌を直してもらう為に花もドレスも贈っている。それでも話しかけると機嫌を悪くする一方だ」
アディが組んだ両手に額をつけて大きくため息を吐いた。ガウェインはそこまで落ち込んではいないが、言っている事はまぁ、似たようなものだった。
「僕はそもそもそこまで興味を持ってもらってないんだよね」
学園に入学する以前から最低限の関わりしかないと言うと、「うわー・・・」とみんなが声を出す。
「貴族の結婚って、冷めてる」
「当日のエスコートとかどうすんの?」
「そこら辺はさすがにね」
「腐っても貴族だからな。メンツというものがある」
「貴族らしい~」
みんなでそんな話をしていた日から数日後、ついに舞踏会当日がやって来た。
教室はいくらでも開いているので、男女に分かれひなた達に身支度を手伝ってもらって行く。
ヘアメイクから何からすべてを整えられて、全員鏡を見ながら呆気に取られていた。
「こんな、もう変身じゃない」
「うん・・・」
「特別な日なんですもの!うんとおしゃれをしなくてはね!」
つむぎに混ざって率先して女子たちのドレスアップを手伝っている優が笑顔で化粧をしていく。
「普段はしっかりとして可愛らしく、いざという時に強さと美しさを出せるのがいい女よ」
「説得力がすごい・・・」
「アンちゃんはこっちの色の方が映えるかも」
「髪の色とも合いそうね!」
身支度を手伝っていた者もキレイに口紅を引き、鏡の前で確認をした。
「みんな準備できたね。じゃぁ行こうか」
部屋を出て塔の一階へ降りると、先に準備が出来たらしい男の子たちが集まっていてこちらを見上げて固まった。
しかし、みのり屋の男性陣が直ぐに動き出し、それぞれのパートナーへ手を差し出した。
「出来るなら誰にも見せたくない。可愛い」
「ありがとう、智賀くんもすごくかっこいいよ」
熱烈に満へ近づいている梅智賀に、他のメンバーは小さく声を出しながら見ていいのか悪いのか戸惑っている。
「いつものことじゃん、ほら行くぞ」
進にそう言われ、会場へと歩き出すがここで改めてみのり屋の大半が婚約者ではなく夫婦なのだと認識させられた。