7.学園生活
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「どうやって!土!!」
「うーん、私が先に説明してもつまらないしね」
「本人に聞くのが良いと思いますよ」
「勉強会の時はガーフィールの好きなショコラ・ショーをお出ししますね」
ガーフィールの好物なのだと笑っている望に、車の中はやはり騒がしい。護衛騎士までもが一緒に騒いでいた。
「あれだろ!風魔法が得意とか!」
「ガーフィールさんって、土っていうか、石を使った魔法しか使えないよね?」
「はい、無理ですね」
「あー!!」
「アキツは!?飛べるの!?」
「飛べますが、私には桃之丞がいますから。あまり自身では飛びませんね」
「グァー!!」
「アディくんが壊れた」
「コクン」
「しかたねぇよ。今まで使ってこなかった属性だぜ?熟練度が重要っつっても一番向いてる属性にこんだけ希望があったらなぁ」
「じゃあ俺も飛べるって事か!?」
「土属性で出来るなら他だって出来るわよ!」
「確かに!!」
驚きはするも何かに納得している一年組と興奮が治まらない二年組。ダンジョンでの反省会は学園に戻ってからだなと笑い、どうやったら飛べるのかと議論しているのを聞いていた。
一刻後、学園が見えてきたので手を叩き、議論はまた後だと声をかける。
「これから解体して、きちんと”素材”にしないといけないからね」
手は抜けないよと言って錬金術師科塔の前で止まる。ダンジョンから戻って来てすぐではあるが、みんな元気が有り余っていたのでそこはとても助かる。
護衛騎士も手伝ってくれると言うので、お言葉に甘えて手を貸してもらうことにした。
そして、授業終了の鐘が鳴ると声をかけられた。
「おや、もうそこまで進んでいましたか」
手伝いに来たガーフィールに、みんな駆け寄りたいのを我慢する。
「何もありませんでしたか?」
「ええ、きちんと授業も終わらせて来ましたよ」
何も問題ないと、望が持っていた大きな牙を代わりに運び出す。
「こっちからすると、問題しか無かったけどな」
「どういう仕掛けなんだろうね?」
「今更だけど、頭もいいんだよね。きっと」
「だろうな」
「”能ある鷹は爪を隠す”という諺もあります」
「爪どころじゃないだろ」
「鷹である事まで隠すってすごくない?」
そんな話をしながら解体をしていれば、周囲を大勢の生徒たちが囲みだした。アディたちがいるので直接絡んで来る者はいなかったが、やっかみの様な声は聞こえてくる。
「先輩たちが倒したんだろ」
「あいつらだろ。みのり屋がやったんだ」
そういった言葉がボソボソといくつも聞こえ、ガウェインの表情がどんどん険しくなっていく。
「気にしたら負けだろ」
「分かっている。ただ、数ヵ月前は俺もあちら側だったと思うと、やりきれなくなる」
「真面目過ぎだろ」
ジンとワットに肩を叩かれ、肉と骨を外している茂の前にトレーを出した。
「数ヵ月前と今いる場所が違うなら、それが自分の出した答えだよ」
そう笑いかけられ、小さく頷いて肉を望の下へと持って行く。そこで重さを計り、どれだけ採れたのかと記録しているのだ。
解体を進めていると、学園長がやって来て「これはまた」と笑いながら見上げる。
「随分と大物を倒してきたのだね」
「はい、先輩たちのお陰です。他学科と合同で戦ったので、私たちも中衛として貴重な体験をする事が出来ました」
やはり中衛でこそ錬金術師は生きますねと、他の生徒たちにも聞こえるように言う。
「先生たちも良い経験が出来たとおっしゃって下さいましたし、またこのような機会があったら、もっと連携についても知る事が出来ると思います」
「そうかい、互いにいい経験が出来たのなら何よりだ」
すぐにという訳にもいかないが、また機会があったら双方に声をかけようと言われ、よろしくお願いしますと頭を下げた。
そして、アディたちにも声をかけに行く。
学園長が行ってしまったのを確認して、ローランドがトレーを出しながら首を傾げる。
「シゲルちゃんってやっぱり貴族?」
「まさか、ただの平民だよ」
「”ただ”のはさすがにもう通じないよ」
「ふふ、それでもやっぱり平民だよ」
ローランドの持っているトレーに肉を入れれば、肩をすくませて望の下へ行く。
「よくこんなにとって来たね!」
「みんなで力を合わせましたからね」
少し離れた所で計った肉をコックたちが大喜びで厨房へ運んでいく姿に笑った。
「あんたらも今日の夕飯は食堂に来なよ!ステーキ作って待ってるから!」
「やったー!」
「肉だ肉だー!」
解体を続け、残ったのは素材だけとなった。
「この魔石が欲しい」
「気持ちは分かるけど、話し合い次第ね」
土の魔石を見ているアディにカタリナが苦笑する。
「ん?つーかアディなら普通に買い漁れんじゃねぇか?」
「あー、まだ土属性がすげぇって誰も知らねぇんだし、激安なんだった」
「あ!なら俺も買っとくかな」
使い道もないし、いつも捨てるように売られているのを思い出した二年生。教師、術師団も「はっ」と口を手で押さえている。
「後は、この素材をどう分けるかは先輩たちが帰って来てからですね」
それまでは皮を干しておこうと、大きな皮を許可を取って錬金術師科の塔がある校舎側の隅にかけさせてもらった。
護衛として遠征に参加した騎士四人も夕食に誘い、何かあった時は声をかけてくれとにこやかに言って城へ帰って行くのを見送る。多分これから国の上層部へ報告があるのだろう。
訓練が終わってからというもの、満が厨房に立つことも増えたので今日のステーキも最高の出来だった。大満足で戻って行く姿に、良い報告をしてくれると良いねと錬金術師科の空気も軽やかだ。
しかし、遠征組が戻って来る日に事件は起きた。
三階層で倒した一番大きな魔物の皮に、インクが何色もかけられていたのだ。
「うわー、ずい分カラフルにされたね~」
さわぎを聞きつけて、人垣から出てきた圧紘たち。梅智賀とガーフィール、利刃、蜻蛉切もいて、周囲に集まっている生徒たちの視線が集中している先には錬金術師科のメンバーがいた。
「一体だれがこんな事をっ」
「ぶっ殺してやる!」
アディに続き、ジンも眼の色を変えていて今にも暴れ出してしまいそうだ。
メイナとカタリナは泣くのを我慢しながら涙を流すアンの肩を抱いている。
皮を見上げていると門から馬車が数台入って来て、遠征から帰って来た生徒たちもその惨状に慌てて駆け寄ってきた。
「これはっ」
「え、嘘だろ?」
これはもしかしなくても自分たちがダンジョンで倒した魔物の皮かと呆然と見上げていた。
「これはどういうことだ!」
状況は分からないながらも、自分たちの戦利品を台無しにされた事は理解した騎士科の教師が周囲を囲んでいる生徒たちを怒鳴る。
しかし、ザワザワするだけで何も進まない。
「皆様、長旅ご苦労様でした。お疲れの所申し訳ありませんが、ご報告がございます」
現津にエスコートされながら茂が前へ出て一礼し、昼休みが終わると言うこの時間に騒がしいので見に来てみればこのありさまだったと説明する。
「こちらの監督不行き届きです。大変申し訳ありませんでした」
茂が謝るとジンの怒りが爆発した。
相手が教師であることも貴族だという事も頭から抜け落ちているらしい。
掴みかかろうとして抑え込まれながら叫ぶ声を聞く。だからと言って、怒りをぶつけられた教師たちも今その事を咎める程器も小さくはなかった。
これがもしも、一緒にダンジョンへ行った教師でなかったら別だったのだろうが、今目の前にいる四人の教師たちは錬金術の有用性を知っている。
ワットとガウェインに抑えられて口を閉じたジンを見て、茂も頷く。
「この失態は間違いなく私たちに責任がありますが、問題を起こしたのは我々以外でございます。どうか、この事態を軽くは見ないでいただきたく思います」
「ああ、こちらもこれがどういう事なのか、十二分に理解している。宮廷錬金術師団だけでなく王宮の騎士が共に参加した今回の遠征について、今頃陛下にも報告が届いているだろう」
「ありがとうございます。それと、もしもまた遠征へ参加の機会がございましたら今回と同じメンバーのみでお願いいたします」
「、それはっ」
「生意気な口を聞くようで申し訳ございませんが、今回のメンバー以外に背中を任せる勇気はとてもございません」
こちらは自殺志願者ではないのだと、ハッキリ言い切った茂に錬金術師科のみんなが顔を上げた。
「もちろん、それはここにいる方々も同じでしょう。これだけ分かりやすく私たちへ敵意を表したのですから、まさか憎まれないと思う程浅慮な方々ではないですよね?」
「それはそうです。この学園は国で一番の教育が受けられる場所なのですから」
「そうですよね」
ニコリとクミーレルに笑いかけ、ポカンとしているみんなにも振り返る。
「みんなもそう思うよね」
「あ、当たり前だ!」
「今帰って来た先輩たちは良い!」
「採取の時もっ、ちゃんと警戒しててくれたし!」
「コクコク!」
口々に今回一緒に行ったメンバーは信用できると言うので、茂がまた笑顔を深めた。
「生徒たちに沢山の経験をさせたいと言う先生方の温かい思いにお答えできないのは心苦しいのですが、どうかご理解いただけると信じております」
「いやっ」
「ちょっ」
「もちろん私たちみのり屋は全員に、平等に授業を行います。ですがそれは私たちみのり屋が陛下直々にいただいたご命令。しかしここにいる錬金術師科は違います。彼らはこれから学園を巣立っていく存在です」
自由に羽ばたくのだから、どの枝に停まるか、巣を作るかも全てが自由。
「錬金術師の首に首輪はつけられません」
誰にも奪われない知識と技術があるのだから、何処へ行っても生きていけると微笑む。
「金の卵を生むガチョウの腹を割けばそれまでです。もう金も肉も羽根も手に入りません」
良く通る声でそう言うと、明るい声で背を向けた。
「さぁ、この皮はどうしようかな」
「鏡で犯人見つけないの?」
「どうしてもって時にはそうしようかな」
話しかけてきた転弧に笑い返し、人ごみの中にいたスザンヌに気が付いて手を挙げた。
「スザンヌさん、先輩たちも帰ってきましたし前に言っていた魚をお渡ししていいですか?」
「あ、ああ、良いよ。大量って言ってたけどどんなもんか楽しみだね」
騒ぎを聞きつけて事務員からコック、清掃担当のメイドたちまで集まった校庭に、収納バッグから巨大な氷の器に入った新鮮な魚介を取り出す。集まった全員がその巨大でどこか美しい塊を呆然と見つめていた。
「みんな、ちょっと離れててね。汚れを落としちゃうから」
茂は収納バッグから一冊の本を取り出し、名を呼ぶ。
「グリモワール」
光り出した本は宙に浮き、とあるページを開いて止まった。
「ルサールカ、あの皮についた汚れを綺麗に落してくれる?」
茂の声に応え、本の中から恐ろしい程美しく、どこか邪悪にも見える性別不明の精霊、時には悪魔と呼ばれる存在が現れると笑顔を向けてからカラフルになってしまった皮へと飛んで行き、通り過ぎる。
すると、皮は一瞬で元の状態へと戻った。
「ありがとう、また何かあったらお願いね」
嬉しそうに笑顔を残して本の中へと戻っていった。
光りを失ったグリモワールは茂の手の中へと収まり、大切そうに収納バッグへしまう。
「さて」と顔を上げた。
「魚はお任せしても大丈夫そうですか?」
「あんたは、相変わらずすごい子だね。良いよ、こっちはあたしたちだけで出来るから」
スザンヌに笑ってから皮を見上げた。
「このままここに干しておいてまた悪戯されても嫌だし、もう乾かしちゃおうか」
指を鳴らすと、しっかりと皮の水分が抜ける。
「すげぇ!乾いた!」
「みんなもこれ覚えようね」
「すげー!」
「属性関係なく出来るようになるか!?」
「みんなならすぐに出来るようになるよ」
干していた皮を回収するみんなを見て教師たちを振り返る。
「皆さんはゆっくり休んで下さいね。素材は明日配分を決めましょう」
それではと、一礼する茂の後ろには学園で落ちこぼれと呼ばれている者たちが赤い作務衣を着て堂々と立っていた。
そして、その一団に話しかける。
「みんな、今日の事を許すかどうかは自分で決めていいんだからね」
「意外だな」
「何がですか?」
「お前なら、優しく許してやれって諭しそうなもんだろ」
「それは時と場合によりますよ」
井の中の蛙 大海を知らず
「井戸の中で下を向いてる相手に、空の深さを語ってもただ”青い”としか言わないでしょうしね」
こちらを見ているみんなに優しく眼を細めた。
「みんなは自由にしていいんだよ。井戸の中から飛び出して、雨や雪がどうやって降って来るのか追求してもいい。月や星が瞬く神秘は見つめ続けた人にしか分からないんだから。それはどの分野においてもだけど」
現津が微笑みながらこめかみにキスをした。
「茂さんの隣は、とても心地よくて楽しいです」
「ふふ、私は現津さんといるとすごく安心するよ」
そんな話をしながら、塔の中へと入って行った。
その姿を見届けてから残っていたアディが振り返り、こちらを見ている生徒たちへ口を開いた。
「今回の事、誠に残念だ。諸君らの道が狭まった事、理不尽などと言ってこれ以上我が国に泥を塗らぬことを切に願う」
それだけ言って歩き出したので、ガウェインとローランド、クミーレル達が一礼して背を向けた。
「かっこいいね、シゲルちゃん」
「転んでもただでは起きないとはこの事だな」
「本当だね」
「これであちらは内部分裂に忙しくなる。しばらくはこちらにかまける暇もないだろう」
「遠征に行ったメンバーからも、相当恨まれるだろうね」
あんなに画期的なダンジョン攻略など、今までなかったのだから。
ローランドの言葉にガウェインが頷きを返す。アディも返事をして、大きくため息を吐いた。
「こんなにも腹立たしい事を、今までずっと我慢していたのか」
「反発した結果が3、4年生の自主退学なら、二年生が何もできなくなるのもしかたがないよ」
「っ情けない」
「そう思えたなら大収穫だよ」
戸の開いていた教室に、今の会話が聞こえていたらしい。茂以外にもみんながこちらを見ていた。
「この国の王子様がそこに気づいたんなら、国の未来は明るいでしょ」
「私はっ、自分が思っていた以上にっ、出来る事が少なかった・・・」
「意外だな、偉いお貴族様なら言えば何でも言えば叶うんだと思ってたぜ」
「そう思っている貴族がいるのも確かかな」
「そんな事をしていればあっという間に没落してお取り潰しだ馬鹿」
「馬鹿とか言うな」
「あんなに人目がある中で怒鳴り散らすなんて、権力でねじ伏せられても文句は言えないんだぞ!」
「あんな事されて黙ってろってのかよ!」
「言い方と対処の仕方があると言っているんだ!足下を掬われるような事をするな!」
「仲良くなったねぇ、二人とも」
「仲良くない!」
じゃれ合う二人をワットとポーが苦笑しながらなだめる。
「でもどうしようかなぁ」
「何が?」
「年末の舞踏会。こっちに味方してくれた先輩たちまで笑われないように、思ったより気合入れなきゃね」
「うへぇ」
「そういえば、あったね」
「あたしドレスなんて持ってないわ」
「私も」
「あたしは去年出なかったわ」
「俺ら全員な」
「ならみんなお揃いで仕立ててもらおうか」
「いいですね。豊と榊に声をかけておきましょう」
「榊も?」
「榊ちゃんって絵がすごく上手なんだよ」
両手がないのに?と首を傾げる皆は置いておき、アディ達を振り返った。
「三人はどうする?もう作っちゃった?」
「いや、丁度今月末に仕立屋を呼ぶことになっていた」
「なら間に合うね」
そうと決まれば、やる事は沢山あるよと手を打った。
「まずは歌劇を見て雰囲気を掴むところからかな。ダンスの練習もして、マナーの講義はしててよかったね!」
「ダンスとか、やったことねぇよ」
「たった七日で身体強化できるようになっといて何言ってるの」
「音楽に合わせて楽しくクルクルするだけじゃん、あんなの」
「うお!いつの間にっ」
いつからか後ろにいた圧紘に驚いて振り返れば、笑顔で「簡単簡単」と流された。
「えー・・・」
「至さんに教えてもらったら?見てるだけでも相当勉強になると思うよ?」
「イタルちゃんってこういうダンスも出来るんだ」
「音楽、芸術に関するものでしたらなんでもできますよ」
「うん、絵を描く以外ならね」
圧紘は現津と少し話しをした後教室から出て行った。