7.学園生活
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次の日、三階層へ降りると直ぐに魔物の群れが飛び出してきた。
「ここからは連携が試されるようですね」
1、2階層と同じように騎士科が前衛、魔法士科が後衛の陣形で進む中、現津がガーフィールへ声をかけた。
「ここへは経験を積みに来ているとの事でしたから、あまり手を出さないで上げて下さい」
「かしこまりました」
教師たちの指示が飛ぶ陰でそのやり取りを聞いていたのは、中衛である錬金術師科と護衛の騎士だけだった。
「前衛が崩れないようにポーションで援護!」
「後衛が魔力切れになっていないかも気にしてあげて!」
「何気にやる事多いよねっ」
「だからこその錬金術でしょ!」
怪我をした前衛を担いで下がり、中心より少し後ろにいる望へ任せて他の生徒と交代させる。
「っ、いたっ、ひ!」
肩を抑えて藻掻く魔法士科の三年生を連れて戻ってきたノアが腕に魔力を注いで痛覚を麻痺させる。
「ノゾム」
「はい、私が代わります」
望にまかせて抜けた穴埋めへ行くノアと、前衛が崩れてきたのでガークがハンマーを持って走り出す。
二発、三発と爆発を交えながら殴っていると、ハンマーが壊れた。
「やっぱ良い素材で造らねぇともたねぇな!!」
「僕のも、もっと上質な素材で造らなきゃダメみたい」
魔物の眉間に一発入れたが、先にグローブが破けてしまいほぼ素手で殴っているポー。
「うーん、初級ならいいけどっ、中級ダンジョンじゃ通用しないわっ」
攻撃力が弱いと、メイナがシャボンで攪乱をしながら蹴りを入れ、ジンが首を傾げた。
「なんだ?冒険者になりたくなったか?」
そんな話をしながら、変異種だろう大きな魔物を倒し、この戦闘は終わりとなった。
「お疲れ様!この魔物が今回の一番大物になったね!」
集めた素材は全て均等に分ける事になっているので、採取した物は茂たちが収納バッグへとしまっていく。分けた先でどうするかは各学科で決めるようだ。
三階層をさらに進み、開けた場所に辿り着いたのでここでもう一泊して今回の遠征は終わりだなと振り返る。
「今回はここまでの予定だから、もうテント出しちゃうね」
「先生!海ですよ海!」
「アンみたいなのが出来るかやってみて下さいよ!」
「ワット!砂浜だぞ!」
「ガウェインも試してみたらどうだ?」
「僕も氷がどれくらいできるかやってみる!」
「みんなー!いつでも戦えるようにはしておいてねー」
「おー!」
テントの入り口からも見える海に向かって走っていく錬金術師科に、大丈夫なのかと他の生徒たちもついて行く。
そして、そこでもまた驚くべき事が起こった。
アランが子供たちにせっつかれておもむろに鞄から出したのはフルート。その横笛を構えて吹き始めると、海面からでも分かる程に海藻が青々と色を変えて成長し、何十匹もの魚が飛び跳ねて存在をアピールしてきた。
「すごい!こんな風になるんだ!!」
「うわー!キレー!」
「今日の夕飯魚にしようぜ!」
「何かいっきに複雑な気分になったわ」
いや、俺も食うけどとジンたちが魚を捕っているのを見ながらフルートをしまう。
「い、今のは!?なんという魔法ですか!?」
「いえ、今のは魔法ではありません」
「は!?」
「私の魔力が海の生き物と相性が良いようなのでその実験でした」
「自分も水属性なのですが、こうはなりませんね」
ガウェインが陣を刻んだ刀身を見せて水の剣を形作って見せた。
「それめっちゃ重くなるよな。身体強化をかけないと使えねぇってのはどうなんだ?」
「まだまだ改良が必要だな」
「見てみて!水があれば少しの力で大きな氷が作れたよ!」
「おー!このサイズはすげぇな」
巨大な氷の塊を見せてくるローランドに、魔法士科の皆が目を見開いた。氷など、水属性の魔法でも高位に入る。そんな魔法まで使えるのかと大騒ぎしていれば、ワットとアディが手を使わずに砂でどこまで精密な像を作れるかと競い合う。
「ぐ~~~っ、鉄以外はっ、自在とはいかんな!」
「王族の魔力量どうなってんだよっ」
砂は俺の領分だぞと負けじと大きなサソリを作っていくワット。
「わー、キレイな貝殻」
「この透明なのなんだろう。水晶?」
「違うみたい。何だろうね?」
キレイな物が好きなポーと、出汁が取れるし食べても美味しいのを知って打ち上げられた海藻を拾っているノア。
「これなんて言う果物かしら。っていうか食べられるのかしら」
「持ってって聞いてみるか。ん?おお!なんだこの虫!かっけー!!」
見た事もない果物を採取しているカタリナと、巨大なカブトムシを捕まえてテンションが上がっているリンク。
イーサンとレイモンドも水属性なので色々と試していたが、やはりアランのようにはいかないので相性の差はデカいなと海の生物を観察してはバインダーに絵と共にメモを残して行く。
「こいつ貝を背負いながら歩いてんだな」
「この鳴き声なんだ?猫みてぇな・・・、鳥?!」
「ねぇねぇアンって海藻でも同じことが出来る?」
「そういや、これも”草”だよな」
「ローランド!この氷使っていいか!?」
「え、良いけど何するの?」
「シゲルが土産に魚を持って帰ろうってよ!」
「学園でも魚が食べられるの!?」
「ジン!この上の部分切り取ってみてくれ!」
「やってみる!」
氷も巨大なのでありったけの魔力を練ってウィンドカッターを放てば、切れた部分がゆっくりと海へ落ち、その余波で大きな波が出来て海辺にいた全員がずぶぬれになった。
「うわー!しょっぺー!」
「キャー!!」
「どうしたの!?」
「うわっ、なんだこれっ」
「俺の像がー!!」
「一瞬で・・・」
ワットとアディが作っていた像も流されて行き、駆けつけたリックとカタリナが濡れているみんなを見て笑いだす。
「ぐはー!魔力足りねぇー!」
「だいぶ増えたけどね」
「もう濡れちゃったし、このまま入ろうか」
「うん、そうしよ」
「リンクー!下の部分の氷も切って!」
学園に魚を土産にしたいと言えば、大喜びでウィンドカッターを放ち、同じことが繰り返された。
「私までべっしょり。濡れてても火って出せるのかしら」
「中をくり抜くのは俺らでやるか」
「先生ー!さっきみたいにまた魚集めて下さい!」
「なんかすげー複雑」
「ダンジョンの中ですから。生態系には影響もないでしょう」
「先生ー!クアンドロ先生!先生もこっちで一緒に氷溶かして下さい!」
「大仕事になりそうですね」
「私はサイドを整えて行きますね」
ナタリーが津波が起こらないよう少しずつ風で外側を削っていれば、クアンドロたち三人が溶かした氷の中にみんなで捕まえた魚やエビ、貝などを入れていく。
「これなんだ?」
「それは蟹ですね。食べられますよ」
「美味しいよ」
「ならこれも捕まえてくか!」
「・・・虫じゃないの?」
「虫、どうでしょう。虫だと思った事がありませんでした」
貴族のご令嬢が蟹とエビを見て引いていたが、望が首を傾げた。
「望ちゃんも虫が苦手だけど、これは別に嫌いじゃないよね?」
「はい、食材としか見ていませんでした」
「・・・そうなのね」
「マートン先生!雪降らせて下さい!」
「僕もやる?」
「全部凍っちゃうじゃん」
氷の器にたっぷりの海産物を入れ、マートンが雪で蓋をするとそのまま茂の収納バッグにしまわれる。
「やっぱ必要だよな。アイテムバッグ」
「早く造れるようになりたい」
「これがあれば食うに困る事はまずねぇよな」
「容量によって難しさが変わるけど、少ないものでもベッド一つ分は入るしね。これも数を熟していけばどんどん上手になるよ」
むしろ少ない量ならすぐできるのに、それでも高く売れるから絶対造った方が良いよと茂が勧めてくる。
「私たちみたいな行商人には必須アイテムだからねぇ」
「冒険者にも必要だよな」
「一般家庭でも需要あるぞ。大家族なんて一回の買い物の量すげぇからな」
「畑も、収穫と保存、どっちも使う」
「小さいとポケットに入れられるから、スリにあいにくいかも」
「街ででけぇ荷物持ってると狙われるからな」
「これがありゃ鉱山でもギルドでも、武器の素材持って身軽に帰れるぜ」
「っていうか僕たち全員に必要なものだよね」
錬金術師の弱点と声を揃えて笑いだし、今日はみんなで夕飯を作ろうとお土産とは別でとってあった魚介類をたっぷり持ってテントへ戻った。
このダンジョンは初級と言われているだけあり、一層がどこも一日でまわれるだけ狭く、時間の流れが地上と同じように表現されている。
中には初級から時間軸が狂っている所もあるようだが、そういったダンジョンはどこも十階層未満なので、戻って来てもあまり負担になる事がない。
「このダンジョンは良いね。魔法じゃなくて属性とか特徴で戦えるし、フロアごとに色んな地形になってるから戦い方も考えられるし」
「フロアによって採取できるものも違ったよね」
「洞窟、草原、海でしょ?ここは八階までって言ってたし、全部見て回ったとして、ここから食べ物が手に入らなくても保存食でどうにかなりそうよね」
「次来るときは新しい武器も試してみてぇな」
今回採れた素材で何を造るかと話しながら食事を作り、出来上がった料理をどんどん並べていく。
「あ、皆さんって魚や貝の生食はしないんでしたっけ」
「生食?!そんな事をしたら腹を壊すぞ!」
「うちでは普通に食べていますよ」
「生で食べても大丈夫な物を選んでいるので安心してください。もちろん無理に食べなくても大丈夫ですよ」
「・・・美味しそうには、見えるんだよな」
「最初はビックリするよね」
みんなにも馴染みやすいカルパッチョにしてマリネと共にだし、他にも煮たり焼いたりした海鮮料理を並べていく。
「このスープは何ですか?」
「ブイヤベースという、魚介のエキスがたっぷり入ったスープですよ」
他の魚料理に使った魚のアラも沢山入れたからその旨味もしっかり出ていてとても美味しいと説明してから手を合わせる。他のみんなも手早く食前の祈りを終わらせ料理を口へ運ぶ。
「うま!カルパッチョだっけ!?すげー美味い!」
「躊躇ねぇな」
一番最初に生魚に手を付けたのはジンで、その次はアランだ。
「うまっ、これナル油と、マリネ(酢漬け)だっけか。後でレシピ教えてくれ」
「いいですよ。ただ魚は傷みやすいですから、食べる時は気をつけてくださいね」
「そこが一番の問題だな」
「鑑定の魔導具も造れるようになった方がいいですね」
「それはっ、国やギルドだけが持っているっ」
「構造としてはそこまで難しい物ではないですよ。ただ、材料が珍しい物ですから、量が造れるのは相当先でしょうね」
「どこのダンジョンか森で採れるか探してみましょう」
「ありがとう」
現津に礼を言って茂もカルパッチョを食べ、新鮮な魚介はやっぱり美味しいと茹でた蟹を食べだす。
「き、君は持っているのか?!」
「はい、この義眼がそうですよ」
「そうだったのか!?」
他の者たちと一緒にアディたちも驚いていたが、他の錬金術師科の皆はやはりそうだったかと嬉しそうに騒ぎ出す。
「やっぱそうだよな!?」
「なんかそんな気はしてたんだよ!」
「半分とはいえ体内に入れる事でメリットはありましたか!?」
「一つ目は両手が開く事ですねぇ。これで作業がしやすくなりましたし、自在にオンオフが出来るので楽です。後、やってみて分かったんですけど体の中に入れると眼で見るのとは違って頭に直接浮かんでくるようになったので、見て考えるとは違って”ラグ”がなくなりました」
「良い事尽くしだね?!」
「そうなんだけどねぇ、これがものすごく疲れるの」
「そうなの?」
「何も考えてないのに頭に色んな情報が流れて来ちゃって、慣れるまで脳みそかき回される感じがしてまともに生活できなかったよ」
「よく今でもその義眼使ってるな」
「そこはオフにして休んでますからね。でも本当に、進ちゃんの事尊敬したよね」
「ススム?あいつも鑑定できんの?」
「ううん、鑑定じゃなくて、魔力を使って脳で直接見てるって言ってたでしょ?」
「言ってたね。だから疲れやすいって」
「進は魔法が使えませんが風属性です。なので周囲の空気の流れを読み、立体物を把握しているのですよ」
「・・・は?」
「これは魔力の練度だけではなく、狩人としての経験も大きいと思いますよ」
「そうですな。進さんは街にいてもそうですが、森などにいれば山を越えた向こうの状況も把握することが出来ますし」
「は?!」
「ただ私みたいにオフが出来ないから、一日の半分は寝て頭を休ませなきゃ行けないし、沢山食べてエネルギーも補充し続けないといけないの」
「ただでさえ筋肉の維持に相当なエネルギーが必要な体をしていますし、その上常に頭がフル回転していますから、糖分、タンパク質などを中心に摂取してもらっていますよ」
その話を聞き、ガウェインが食事の手を止めて両手で顔を覆う。
「授業中の居眠りにそんな理由があるなんて分かる訳ないだろ」
「あれでも気をつけているみたいなんですが」
みんなが苦笑していると騎士科の生徒と教師たちがどういう事だと食いついてくる。どうやらGクラスの落ちこぼれは教師の中だけでなく、上級生の中でも有名だったらしい。
「あいつ、テストとかどうしてたんだ?」
「頭はいいので、それなに点数は取っていたと思いますよ」
「え、それで動いたらすごい強いんでしょ?なんでGクラスにいたの?」
「平民だからじゃね?」
「でもリジンとトンボキリはAとBにいたわよ」
「ならやっぱ授業態度か」
「んー、後は、勝手な予想だけど、試験の時武器の扱いの上手さとか見るんでしょ?」
「見られるな。基本は剣だが、弓や槍、たまに盾も見られるが、そんなに重要視されていない」
「あー、蜻蛉切さんがBクラスになった理由が分かった気がする」
「道理で」
「どういうことだ?」
「今度本人に聞いてみて」
「とりあえず、進はその武器を使った試験でまず受かりませんね」
「言い切れるのか」
「はい、断言できます」
「そういや、素手で戦うって言ってたっけ?」
「いやいや、素手で狩人ってないだろ」
「いや、あんだけ身体強化がすげーなら、できるか」
「は?」
「え?」
錬金術師科がここで、斧で首を切られても傷一つつかなかった姿を思い出す。その説明をすると、ありえない物を見るように眼を見開きながら凝視された。
「身一つで戦えますから、武器を使った事がないんですよ」
「進さんと組んで狩りをする日は面白いですよ」
あの身体能力で戦う姿は見ていて心が躍ると笑うガーフィールに、騎士科の者たちは信じられないと言った表情で固まっていた。
こうして話も盛り上がり、蟹やエビの美味しさ、生魚の味を知った皆がまた海のエリアがあるダンジョンに来ようと決意を新たに今回のダンジョン攻略は終わりを迎えた。
また二日かけて地上へ戻ったが、行きと何一つ変わらない。もしかしたらより綺麗になったかもしれない姿で街の入り口で解散となった。
「学園に戻ったら素材の状態でお渡しします」
「ああ、そうしてくれると助かる」
特に大きな事件も起きずにダンジョン採取は終わる事ができた。
馬車に乗り込む先輩たちに手を振って、錬金術師科も馬車に乗り始める。
そんな中で、アディがガーフィールに声をかけた。
「ガーフィール、今度私に土属性の魔法を教えてくれないか」
ダンジョンの中でも使っている所を見られなかったし、他の目もあったので今まで声をかけるのを我慢していたのだろう。
それに気づき、ニコリと笑って了承を示した。
「私にできる事は少ないでしょうが、それで良いのでしたら」
「ありがとう、よかったら学園に戻るまで話を聞かせてくれないか?」
「それはとても光栄なお誘いですが、私が乗っては手狭になってしまいます」
車の中は広いが、ガーフィールは一人でこの街へ来たのだから帰りも一人の方が良いのだろう。
「学園に戻ってから、お茶でも飲みながらにいたしましょう」
「そうか、楽しみにしている」
「はい」
「・・・ん?お前どうやってここまで来たんだ?」
ノワゼットは望の側にいる。この街にいる事を茂たち三人も知らなかったという事は、錬金術師科が学園を出るまで、最低でも朝食が終わるまではあちらにいた事になる。
アランの疑問に、他のみんなも「あ、」と声を出してガーフィールを見た。
「ふふ、茂さんもおっしゃっていたではありませんか。能力とは希少さではなく熟練度が重要だと」
そう笑って背中から石の翼を出して開いて見せる。
「望さん、貴女の力は信頼しておりますが何かありましたら私をお呼びください」
どこへでも駆けつけると手の甲にキスをして、ノワゼットの頭を撫でると飛び上がった。
「では、学園でお会いしましょう」
にこやかに手を振って石の翼で空を飛んで行く。
初級ダンジョンのある街の、門を出たそこで数十名の絶叫が児玉した。