7.学園生活
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「前のスープに使った薬草があったよ!」
「こっちは”座りキノコ”もあったぜ!」
「良い物見つけたね。これでスープも作ろうか」
「あ、食事の用意するならこれを使ってみて!」
リックが大きな荷物から少し厚い板を出してくる。
「出来上がるの早いね?」
「まだ試作品。ビンは重いし割れたら終わりだから鉄板になっちゃうけど、これより軽くしないと。シゲルみたいなのが造れたらいいんだけど」
「あの薄さの鉄を作るのも一苦労だからな。おまけに下と横が熱く成り過ぎねぇようにすんなら、混ぜ物使うか二重構造が妥当だろ」
「ガークにそう言われてさ、コスパが良い方がどっちかも検討しなきゃ」
いっそ陣を表に刻むのもいいかもしれないが、錬金術を知らない者が下手に陣を傷つければ火傷じゃすまないと肩をすくませながら望に魔導具を渡す。
リックの造ったコンロで昼食を作り、みんなで皿やスプーンを出して準備を始めた。
今日の昼食はクレープと干し肉のキノコのスープだ。
初日という事もあり新鮮なレタスと玉ねぎのスライスも入れ、さっき倒した魔物の肉と共にクレープ生地で包み、手掴みで食べる。
「御代わりもありますからね」
クレープを焼いている望が言えば、他学科も含め全員が手を挙げた。
「まさかダンジョンの中で温かいスープが飲めるとはっ」
「このクレープというものも!」
「血の臭みがない肉までっ」
一番感動しているのは教師たちだったかもしれない。
ダンジョンの中は薪が手に入らない場所というのも珍しくない。現に、ここは洞窟の様なフィールドなので燃料にできそうなものがないのだ。
「うーん、持続時間はクリアしてるのか。もったいないなぁ」
「遠征用じゃなくて家庭用にしたら?」
「それいい!朝から薪の用意しなくてもいいじゃん!」
「その手があったか!」
「それならある程度は重くても良いし、台所を石や煉瓦で造れんなら鉄だけでも十分だぞ」
「なら五徳も大きくしてよ。大きなお鍋が乗せられないと困るわ」
「一口より二口にしてくれ、うち家族が多いんだ」
「うちなら5~6口だな。宿屋とか忙しい時フルで全部使うぞ」
「やる事がいきなり増えたな」
待って待ってとバインダーを出してみんなの意見をメモに取るリックと、どう配線を繋げれば一番効率がいいかと濃い話をし始めた錬金術師科。
それを呆然と見ている他学科の先輩たち。
「研究職はどうしてもああなるので、気にしないでください」
「あ、ああ。魔法士もスクロール職人はああいう人が多いよ」
「そうなんですね。そういうお話しを聞けるのはとても新鮮です」
為になると茂と望が話しながら御代わりを出していった。
全員がおかわりをしてスープもキレイになくなったため、食事も終わり、食休みもしっかりと取ってまた一階層を進む。
「なんかさ」
「うん」
「普通」
「肩透かしって感じ」
「みんなはブートキャンプやっちゃったからねぇ」
さすがにあんな事を毎回やっていては命がいくつあっても足りないと笑えば、ガーフィールが眉を垂らしながら望に近づいた。
「今回は来られて良かったですよ」
「すみません。心配をかけてしまうと思って」
前回は軽くしか話さずに行ってしまったので、今回は絶対に来たかったのだろう。どことなくイチャついている二人を視界の端に入れながら、しっかりと採取を続ける錬金術師たち。
一階層で一泊する為、茂が一つの大きなテントを出してみんなに入るよう入り口を開ければ、訓練時とは違う中の空間に驚愕して叫んでいた。
「錬金術はすごいんですよ」
そう笑って風呂に入って来るよう奥を指差す。
「みんな、使い方を教えてあげてね。あ、先生たちはこの部屋を使って下さい。ナタリー先生は女の子たちと同じ部屋でも良いですか?」
「ええ、私もその方が安心だわ」
じゃあ女子部屋はここで、男子部屋はここでと部屋に荷物を置いてくれと言い、夕食前に風呂に入ってすっきりして来てくれと男、女と書かれた暖簾を指さした。
「今日は沢山歩いたので汗もかきましたし、埃がすごいついている気がします」
「ねー、髪もゴワゴワ」
そう言いながらメイナたちと共に戸惑っている女性陣を風呂へ押し込んでいく。
「私たちも入りましょうか。明日もありますし」
現津にガーフィールも頷き、アラン達を手伝って立ち尽くしている者たちを男風呂に全員を押し込んだ。
それから一時間程して全員がピカピカになって風呂から出てきた。
「最高・・・、でしたね」
貴族家の令嬢たちが夢見心地の中、服までキレイになっていると騎士科の教師たちが脱いだ鎧を見ながら驚いている。
「あのスライムは本当にすごいな」
「あれもホムンクルスなのですか?」
「ホムンクルスではないですが、ホムンクルスでも出来ますよ」
そういう力がある子ならと返し、今日の食事当番に声をかけて夕食を作り始めた。
「美味っ、なんだこれっ」
「嫌いな物はありませんか?」
「ダンジョンの中だとキノコが採れる率高いよね?まぁ、場所によるけど」
「食べられるキノコとか見分けられないとほとんど野菜系が手に入らないって事か」
「体調、崩しやすくなる」
「乾燥野菜ってあまり見た事ないよね?」
「ねぇな。まず野菜は根菜以外保存に向かないっつー思い込みがあった」
「植物系ならアンよね」
「どんな野菜でも乾燥できるって訳じゃないだろうし、これも実験したいなぁ」
「野菜が保存できるようになったら孤児でもやれる仕事増えるかもな」
「そうだな。風、火、水、土。光と闇は分かんねぇが、とりあえずこの四属性ならやる事あると思うぞ」
まるで国を豊かにするための貴族のような会話をしながらキノコがたっぷり入ったパスタを食べていく。
「明日の朝は炊き込みご飯でもいい?」
「やった!」
「ポーは炊き込みご飯好きだな」
「キノコとの相性いいよね。私も好き」
食後の片づけを終え、教師たちが明日の作戦を考えている間も錬金術師科は全員バインダーを開きながら話を続けていた。
「火力のある武器が良いが、その威力に耐えられるとなるとやっぱハンマーか」
「ここらじゃ希少な金属って採れねぇしな」
「でもハンマーだと素材をダメにしちまいそうだよな」
「そうなんだよ。だからあんま使いたくねぇんだがなぁ」
こればかりは両立が難しいなと爆発の特徴を持つガークが自分の専用武器について悩んでいると、二年生のレイモンドとイーサンがバインダーを覗いてくる。
「使い分けんのはどうだ?荷物は増えちまうけど便利じゃね?」
「火って殺傷能力高ぇけど素材の事考えると使い道迷うな」
「こういうのはどーだ?斧とハンマーの合体武器!」
リンクがノートに絵を描いて見せに来て、みんなで笑いだした。
「お前絵上手くならねぇな!」
「ガーク小っさ!」
「絵は置いとけ!でも悪い案ではないだろ?こっちのハンマーで焼く、潰すのどっちも出来るし、斧の方で切る時にさ、こっちでこう噴射してスピード出すんだよ!」
「めっちゃいいじゃねぇか!」
「絵で伝わんねー!」
「ほっとけ!」
「この武器を造んならここだな。ここをどうにか出来ればいいんじゃね?」
「発火する場所の割合を間違えたらこっちが振り回されて終わりだぞ」
「悪くねぇな」
盛り上がっている男子たちの話が聞こえた騎士科たちが自分たちも聞きたいとそわつき出す。
魔導武器はいつの時代も男の子たちのロマンだ。
騎士科の教師二人もそわついているのにこっそり笑い、見張りの交代メンバーに声をかけて今日はもう寝る事にした。
次の日、二階層へ降りてまた進んでいく。ここでも順調に進んだのだが途中で怪我をした者が出た為ノアが手当てをすると、手際の良さに驚いていた。
「僕、医者になるから」
こういうことが出来るようになって嬉しいと笑いながら鞄からポーションを出して差し出す。
ポーションの不味さが改善されたのを知っている為、躊躇する事なく口をつけた。
「回復役がいるのに、ポーションを飲むなんて」
「前なら考えられないよな」
「茂さんのレシピで造ったポーションの素晴らしさを広めるため、訓練中無理にでも飲ませて良かったです。いい足掛かりになりました」
「アキツってああいう所あるよな」
「相手、貴族ばっかりだったのにね・・・」
他の錬金術師科メンバーは心臓に悪かったと訓練中の事を思い出す。
ポーションを飲んだ先輩たちの傷口を見て、怪我がキレイに治ったのを確認してもう大丈夫と生活魔法で水を出してキレイに洗い直して手ぬぐいで拭いた。
「もう大丈夫だけど、一度下がってください」
もう一組と交代をするように言ってから中衛へと戻る。
「そちらにどのような思惑や偏見があるにしろ、今のポーションは錬金術師科の者は全員造ることが出来ます。そしてそれがいずれ当たり前になる事実は変わりません」
その恩恵に預かれるかは知らないがと言ってから、優し気な表情のまま眼だけは感情のない冷めた視線を向けてきた。
騎士科の四年生が口を抑えながら少し考えるような表情を見せる。
「ちなみに、あなた方が今まで使っていた中級ポーションが今では初級ポーション相当です」
「中級!?」
「訓練の為に上級を用意していたんじゃないのか!?」
「そもそも今までの初級がおかしかったのですよ」
現津の説明を聞き、先輩たちが驚いている傍らで教師たちも同じ顔をしていた。
「変化をしないと言うのは、とても楽な事です」
今までと同じでいれば良いのだから。何も難しい事は無い。しかし、変化を受け入れたなら今までにない事をしなければならなくなる。
「私は変化するのが楽しく感じるようになりましたよ」
ガーフィールが微笑み、中衛をしながら採取をしている錬金術師たちを見つめていた。
夕方になり、テントを出して晩御飯を食べた後、騎士科と魔法士科の3、4年生達がテーブルを囲む。
「今までの遠征と、まったく違うな」
「ああ、学園どころか家にいる頃よりも良い暮らしをしてる気がする」
「戻ったらもうあのお風呂に入れないなんてっ」
「トイレもよ」
「帰りたくない」
「あのポーション、ポーションなんだが、こう、美味いとさえ思わないか?」
「なんか分かる。こう、暑い日に飲みたくなる感じ」
「それだ!」
あの爽やかさがなんか癖になる。嫌いな奴は嫌いなんだろうけどという騎士科の男子達と、今までのポーションとは全く違うからとにかく人に勧めたくなるという女子達。
『錬金術師をないがしろにする国ほど発展しませんよ』
茂とイチャつきながら現津が言った言葉が、全員に今までと違う考えを芽吹かせた。