7.学園生活
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こうして全神官も身体強化が出来るようになり、学園の生徒たちの番となった。生徒たちの訓練は王宮から団員、教会から神官が数名ずつ来てくれたため、一度に訓練できる人数を増やす事が出来た。そうしてようやく全員の訓練が終わった。
という事はつまり、錬金術師科もポーション造りから開放されたと言う事だ。
「やったー!」
「解放されるぞー!!」
「なんで反撃すんなって言ってんのにやるんだよ!!」
「マナポーションだってタダじゃないんだぞ!!」
「今は俺も同じ感想だ」
アディ達もみんなのように机に突っ伏して疲れ切っている姿を隠していない。
魔法士科や貴族出身者たちは特に入学前から教育を施されている為すぐに魔法を使ってしまうのだ。おかげで走る前に魔力切れを起こし、それでは訓練にならないという事でマナポーションを飲ませるのだが、
「味が良いって分かったとたんガブガブ飲みやがって!」
従来のえずく方を用意してやろうかと憤っているみんな。
「今日はゆっくり休んでね。来年は新入生の分だけだからもっと楽になるよ」
「やっど自分の研究がでぎるっ」
解放感からか全員で叫んでいた。
「全員が特級ポーションを造れるようになったし、次の授業に進もうか」
「本当!?」
「やったー!!」
「俺剣と杖一緒にするんだ!」
「あたしは腕輪!もうデザインも考えてるの!」
自分専用の魔導武器だと嬉しそうにはしゃいでいる生徒たちと、同じテンションで騒いでいる教師と術師団員たちに笑ってしまった。
訓練も終わり、各科の授業をそれぞれ得意とするみのり屋たちが受け持つことが決まり教師陣との挨拶も終わったという事で錬金術師科は初級ダンジョンへ行くための準備に取り掛かる。
「アディ達も来て良いのか?」
「こんなチャンスを逃せるわけがないだろ」
「それは俺たちも分かってるんだけどよ」
アディ達は一年生と同じ年齢だが、学年は二年生。人数も少ない為錬金術師科は全員一緒に授業をしているのも関係して年齢に関わらず皆で話す。
ダンジョンの話をしていると、外泊届を出しに行っていたアラン達が険しい表情で戻ってきた。
「まさかっ、許可が下りなかったんですか?」
カタリナが聞くと、いいやとマートンが首を横に振る。
「学園長も今度は何をするんだって、快く許可をくれた」
「ただ、この外泊に騎士科と魔法士科の3、4年生が十人ずつ、参加したいと申し出がありました」
「え」
「敵情視察ってやつ!?」
「まぁ、そうなるわね」
「教師も二人ずつついてくるそうだ」
錬金術師科は全員で参加。オマケに元々錬金術師科だったみのり屋も参加なのだから怪我をしても来た時と同じ姿で帰る自信がある。
しかし、視察だけで終わらなかったらと大人四人の表情が険しくなった。
その反応を見て、錬金術師がどういう扱いをされてきたのか改めて思い知ったのか、アディたち三人も暗い顔をしてしまう。
「そんな心配いりませんよ」
そんなみんなに、茂が笑いかけた。
「他学科の子たちも前進しようと模索しているんです。今まで同じ所に溜まっていた空気が、あの学園祭で風穴を開けられたんですよ」
少しの間は荒れるのは当然。そして最早ここにいる全員が風穴を開けられるだけの力があるのだと、たったひと月過ぎで全員が変わったではないかと術師団たちも見る。
「ちょっと強い風が吹いたくらいで飛ばされるような儚さは、もう誰も持っていませんよ」
けれど素材の扱い方を知らない人は気づかずに傷をつけてしまう事もあるので、採取したものは自分たちが責任をもって預かると言えば教室の空気が軽くなった。
「そうですね。ええ、数カ月前の事さえ、もうかすむ様な想いです」
マートンも笑い、みんなにも賑やかさが戻る。
「あ、でも移動はどうするんでしょう。うちの皆は残って授業ですし、一緒に行くにも桃のスピードに着いてこられないですよね?」
「あー、そうだな。なら現地集合の現地解散でいいだろう」
そもそも返事を保留にしてきたからそこら辺まで考えていなかったと笑い、錬金術師科は予定通り出発する事が決まった。
ダンジョンの中での食料は茂たちが持って行くので、道中の移動に集中して欲しいと伝言も頼み、今度はアランだけが教室を出ていく。
こうして初の素材採取には他学科の先輩もついてくる事になったのだが、なぜ3、4年生なのかと首を傾げる。
「卒業をすれば騎士になる者、王宮や貴族に仕える者がほとんどだからでしょうね」
今のうちにできるだけ経験を積ませておきたいのだろうとクミーレルたちがいう。言葉にはしないがアディたちと近しくなっておきたいという思惑もありそうだ。なんとなく大人たちを見上げると無言で頷かれたので多分そちらの方が本命なのだろう。
「今後の採取は他学科の他学年も連いて来そうですね」
ナタリーの言葉にそうなってくれたらとても助かると顔をほころばせた。
「うちの皆も参加してくれたら、安心して上級ダンジョンにも行けますよ」
「あいつらの実力は、まぁ見た事はないが、相当なんだろうな」
「そうですね。本来なら誰か一人でも身体強化を使える者がいれば上級ダンジョンでも生きて出てこられると言われていますし」
「望ちゃん、ガーフィールさんには話してある?」
「ええ、ノワゼットを連れて行くように言われましたよ」
それで納得したのは驚きだという現津に、編入し直してまで一緒にいようとするお前が異常なんだとみんなで言いながら遠征の準備を始めた。
そして、当日まで生徒同士はこれといって他学科との関りもなく、二日早く出発するのをみんなで見送る。
「本当に後からの出発で良いのか?」
「はい、錬金術師の腕の見せどころです」
現地で会おうと手を振り、二日後に錬金術師科も出発となった。
「みんな、忘れ物はない?」
前に見た時よりもずっと立派な馬車になったリヤカーに驚きながら中へ入って行く。50人でも余裕で乗れるその馬車は、外観からではこんなにも大人数が乗っているとは思えない。
「すごい!」
「テントと同じ原理ですか!?」
「そうですよ。外からの衝撃にも強くしてますけど、走行中に歩く時は気をつけてくださいね」
「おう!大丈夫だ!」
「はぁ、錬金術師は荷物の多さが欠点って、本当だよね」
「いっぱい持ってきたね」
「試してみたいものが多くてさ」
リックとポーの会話を聞きながら、メイナがキョロキョロと馬車の周囲を見回す。
「ガーフィールはいないのね」
「今はどこも授業中だぞ」
「そうですけど、ちょっとくらいなら抜け出して来そうじゃないですか」
「ガーフィールさんは真面目な方ですから」
「真面目ではありますが、抜け目がない所もありますよ」
「先生たちもいるし」
「ガーフィールさんはEクラスを受け持つことになっていますし、いつかは一緒に課外授業をする事もあるかもしれませんね」
そう言って望が苦笑した。
「殿下、今回は我々が護衛をさせていただきます。数日ですがよろしくお願いいたします」
冒険者の格好をして偽装した騎士が四名。アディ達に挨拶をした事で生徒たちが少し驚いていたが、相手はこの国の王子なのだから当たり前だろう。
見送りに来てくれた学園長とスザンヌ(厨房長)に手を振って学園を後にする。
「速えー!!」
「いけいけー!」
二日かかるはずの道のりをたった一刻で進み、初めての街へとやって来た。
「へー、ここが初級ダンジョンのある街かー」
思ったより栄えているというリックに、そりゃなとアランが頷く。
「冒険者になるなら誰もが一度は世話になる場所だぞ」
「いつか冒険者を引退したとしても、住み心地もよさそうだしね」
「なるほど」
「皆さん、ここまで何事もありませんでしたか?」
「え?」
「は?」
後ろから声をかけてきたのはガーフィールだった。
「ええ!?」
「お前ここで何してんだ!?」
「もちろん初級ダンジョンへアタックする為ですよ」
そう笑って外泊許可書をアラン達に見せた。
「Eクラスは!?」
「魔法を教える事になってただろ!?」
「もちろんそちらのお仕事もつつがなく進んでおりますよ。私にはとても心強い協力者がおりますので」
その協力者が圧紘だと直ぐに分かったのはみのり屋だけだったが、ガーフィールは驚いている他の者たちにニコニコと笑ってから望の手を取って甲に口を寄せる。
「貴女がその力を最大限発揮できるようにサポートする役をどうぞ私に与えていただけますか?」
姿勢の良さとセリフと言動など、騎士科の生徒よりも騎士っぽい。という事で、一人増えた錬金術師科が初級ダンジョンの入口へ向かうと既に他学科の生徒たちが集まっていた。
「お待たせしてしまいました。旅の疲れは残っていませんか?」
クアンドロが声をかければ、二学科の教師たちも現状を報告し合う。
「騎士になれば遠征などもありますから、今回の事は良い経験になるでしょう」
「魔法士もです。この子たちはすでに卒業後が決まっていますから、巣立つ前に少しでも多く経験を積ませてあげられてよかったですよ」
生徒同士でも「どうぞよろしく」と頭を下げ合い、とりあえず表面上はにこやかに挨拶をしていた。
「ん?君は、」
魔法士科の教師がガーフィールを見て何故ここにいるのかという表情をする。
「強い女性は素晴らしいですよね。一人でダンジョンへ入っても何の助力も必要ないのですから。ですが、やはり愛しい人が心配になるのとは話が別です」
「みのり屋には愛妻家しかいませんので、ご理解ください」
「あ、うん・・・?」
さも当然のように現津も入って来て話を切り上げたが、教師たちは何を言われたのか分かっていない。
「”愛妻家”ってすごいな」
「俺愛妻家になれっかな」
二年組が小さな声で会話をする。
「アンドリュー殿下、錬金術師科に編入されていかがですか?」
「入学数ヵ月で飛び級までしてしまう頭脳。ギルバート殿下とも違う才をお持ちになられていると我々教師一同楽しみにしていたのですが」
「はい。・・・そうですね、毎日のように自身の世界がいかに小さかったのか、そして広がっていくのを実感しています」
魔法士科の教師に話しかけられ、遠い眼をするアディとローランド。ガウェインも騎士科の教師と先輩たちに話しかけられて同じような顔をしていた。
どうやらここにいるのは全員が貴族のようだ。学園は99,5%が貴族なので当たりまえと言えば当たり前だ。
しかし、どういった貴族なのかは錬金術師科にはまだ見えてこない。
「それでは早速行きましょうか。時間は有限ですから」
教師たちはあらかじめ聞いていたようで護衛の存在には驚いていなかった。そして、騎士科が前衛、魔法士科が後衛を務める事になる。この二組は学年で分かれて途中交代するようだが、錬金術師科はずっと中衛だ。
護衛の騎士はアディ達の希望の下、後衛の後衛といった感じの位置にいる。
「皆さん、ダンジョンでの採取の仕方は覚えていますか?」
「全員で固まって!」
「ゆっくり全員で移動!」
「気になる物があったら声かけあえよ」
「一人では動かないようにね」
四人の教師たちに囲まれ、周囲の新人冒険者たちに見られながらダンジョンへ入って行く。
今回は初のダンジョンアタックという事で警戒しながら中へ入ったのだが、想像以上にスムーズに進んでいく。
「あ、あった!」
「みんなー!こっちに薬草があったよー!」
「これは?初めて見る」
「このまま食べると幻覚を見て、吐き気と下痢、腹痛で五日間はもだえ苦しむ事になりますね」
「毒キノコか。ノア、お前の分野だな」
「干しても、同じかな?」
子供同士で話し合い始めたのを見ていれば、騎士科の教師が口を開いた。
「あのような毒キノコまで使うのか?」
その疑問に、近くにいた茂が返事をする。
「はい、そのままでは毒でも調合の仕方で薬になりますから」
戦場ではどんなに鍛え上げられた戦士でも命の危機を前にすれば心が折れてしまう事がある。
「足や腕を失って、痛みと共にゆっくりと体温を奪われていくその時、一瞬でも痛みが消えて温もりが戻ってきたら助かるかもしれないと気持ちを奮い立たせることが出来ますから」
その一瞬を作れるのが錬金術師で、その一瞬を生かして命を繋ぐことが出来るのが医者だと言えば、騎士科の教師二人は静かに口を閉じた。
「もう少し行くとセーフティーエリアがあるわ。そこで休憩にしましょう」
「はーい!」
ナタリーに元気よく返事をして歩き出す子供たちを、杖をついて歩く茂とその手を握って寄り添う現津がついて行く。
ここがダンジョンの中である事を忘れさせるような光景だった。