7.学園生活
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次の日、今日も訓練へやって来た神官たちが森のあちこちで悲鳴を上げている。
そして三人、二日目にして身体強化が使えるようになった。
「やっぱり獣人の人たちは体内で魔力を使うのが上手ですねぇ」
まさか二日目で出来るようになってしまうなんてと言う茂に、雄たけびを上げながら喜んでいる神官たち。
「お疲れ様です」
テントのある草原へ戻り、風呂に入ってもらう。神官たちの、特に獣人の神官たちの動きが凄まじく良くなったことにフェアグリンも嬉しそうにしていた。
そして、さっぱりした姿で用意された席につけば、満が食事を運んできた。
「こちらはナスと大豆ミートの揚げびたしでございます」
「あげびたし?」
「沢山の油の中に入れて加熱することで、旨味を中に閉じ込める事が出来るんです。さらに後からお出汁をかけて、しっかりと味がなじんでいます。熱いのでお気を付けください」
「お、美味しい!」
「油も植物性の香りがいい物を使っていますから、食材本来の味や香りを邪魔していないと思います」
「こんなっ、ナスがこんなに美味しいなんて!」
「こちらはジャガイモを使ったサラダです。新鮮なピーマンでこのようにすくって召し上がってください」
「ジャガイモだけでなく、既に沢山の野菜が入っていますね?それに、とても味が濃いっ、それだけにピーマンと共に食べると物凄くさっぱりします!」
「ピーマンの苦味が苦手だった子も、これを作ると食べてくれたんです」
「子?」
「色々な場所を回ってきましたから。一緒に食事をする事も多かったんです」
「そうでしたか。しかし、苦手な子供にそのまま食べさせるとは、大胆ですね?」
「隠して食べさせるのは、なんだかだましているようで気が引けて」
玉ねぎと大豆ミート、白菜の入った餡掛けがかかった丼ものも御代わりが多発している。
「どうでしょうか、大豆ミートに対する抵抗というか、嫌悪感のようなものはありませんか?」
「まったく!昨日しっかりと説明していただきましたから!」
満面の笑顔でそう言われ、安心したように満も笑い返す。
「良かったです。今日は教会に残ってくださっている神官様たちの分も合わせてお土産をご用意いたしましたので、お帰りの際にお渡ししますね」
そこでも大豆ミートを使っているので、知らない人たちにも説明をしておいてくれと言って御代わりを出すとカートごと厨房へ戻っていく。
「満ちゃんのお料理ってとっても美味しいですよね」
「毎日食べていますが、飽きたことなどありません」
「毎日新しい味に驚いてばかりだ」
「本当だよね。僕野菜がこんなに美味しいなんて知らなかったよ」
「この大豆ミート、ヘタな肉より美味くないか?」
「乾燥したら日持ちもするし、干し肉が苦手な人には嬉しいかもね」
「これ絶対ぇ造れるようになろ」
「今から少しずつ大豆を買いだめしておくべきか・・・」
「レシピが公開されたら、高騰するかもしれませんね」
「なるほど、それは困りますね。せっかく安価で手に入るから価値があるのに。オルギウスさんたちに相談して今から大豆の生産をちょっとだけ上げてもらったりできないかな」
「これを食べさせたら了承するだろ。しないという理由がどこにもない」
「おまけに低カロリーだからお腹いっぱい食べても太りにくいんでしょ?」
「王妃様たちだって喜ぶんじゃないかしら」
「女性の美容にかける熱意は凄まじいぞ」
「・・・先に報告書でお伝えしておきましょう」
クミーレルが静かに言うと、全員が頷いて目の前の大豆ミートを見つめた。
「はい榊さん、熱くない?」
「うん、おいひぃ~」
「はぁっ、可愛い!」
「ひなた、丼のお代りもらっていい?」
騒いでいる圧紘は無視して、転弧がひなたから御代わりの丼をもらってモリモリ食べていた。
そんな賑やかな食卓に、昨日は呆気に取られていた神官たちが今日は初めからとても楽しく参加する事が出来ていた。
「しかし、なんでこんなに美味いんだ?調理か?」
「それもあるけど、この大豆ミートをお肉みたいに固める時にあえて隙間を作ったからだと思うよ」
「隙間?」
「中に大きな気泡が出来るようにしてるの」
乾燥されている大豆ミートを小皿に乗せて出せば、皆が指で摘まんで観察し始める。
「本当だ、」
「穴が沢山」
「ここにお出汁とかソースとかの旨味が入るから、本物のお肉みたいに肉汁が無くても口に入れた時の味があふれ出る感じが再現できたんだよ」
「それもただの肉汁ではなく、満が作った出汁や旨味が凝縮されたソースが溢れてくるんです。高級な肉を食べた時と同等か、人によってはそれ以上の深い味わいを楽しめるでしょう」
「本物の肉を上回る疑似肉・・・」
「そこは料理人の腕に頼っちゃうところだよ。ただ焼いて食べた時はなんかモソモソしてそこまで美味しいって思わなかったし。スープに入れた方が美味しいんじゃないかな」
「満の料理より美味い物はない」
「ありがとう」
梅智賀に礼を言いながら笑い、嵒太郎の背中で温められている鍋をかき混ぜる。
「今日も沢山作りましたので、お口に合いましたら御代わりをしていただけると助かります」
「昨日のトーフとはまったく違い!どちらも甲乙つけがたいです!」
「こんなに深い味わいの料理を食べたことがりません!」
神官たちが感動と感想を伝えながら御代わりに来るので、一人一人に礼を言って盛り付けていく。
「あの、あのっ、ナスのあげびたしがっ、すごく美味しかったです!」
ベンジャミンが一生懸命伝えてくる姿に笑い、頭を撫でて皿にたっぷり盛ってやった。
「昨日もライスをお出ししてしまいましたが、お口に合いますか?パンもありますが、」
「このライスもパンも、どちらもとても美味しいです!こんなに柔らかい白パンなんて、王宮でもまず食べられませんよ!」
「そう言えば、みんな美味しいって御代わりしてくれてたね」
王族たちが全員ビックリするくらい食事の時間を楽しみにしてくれていた。
「このライスもです。昔修行時代に食べた物とはまったく違います。あの時は挽いて粥にしたものでしたが、」
「もしかしたら糠をとらずに挽いたものだったのかもしれませんね」
糠にも栄養はあるが、どうしても独特の匂いがするのだと満が眉を垂らして説明をしてくれた。
「今日のお土産はライスを使った料理です。昨日のは”肉まん”という大豆ミートを使った料理でしたが、教会にいらっしゃる神官さん達は抵抗は無かったでしょうか?今日は稲荷寿司という料理です。よければお持ち帰りください」
「昨日いただいた”肉まん”もとても美味しかったです!夕飯に食べた時の皆の驚いた顔が忘れられません!お見せしたかったですよ!」
この稲荷寿司とはどんな料理なのですか?と聞かれ、一つずつ皿に乗った物を鞄から出して見せた。
「このお揚げは、一昨日召し上がっていただいたお豆腐を揚げた物になります」
「こんなに膨らむのですか!?」
「断面はこんな感じです。大豆ミートと同じで、この気泡に味が染みて美味しくなるんですよねぇ」
「揚げたてならこのまま食べても美味いよな」
「俺は断然餅巾着派」
「私たちは狐うどんに入っている物が好きですね」
火の民は狐うどんにハマりましたよねとコンシンネ達とも笑い合う。
「キツネですか?」
「お揚げをこうやって斜めに切るって三角にすると、狐の耳みたいになるんです」
「・・・なるほど?」
ただの三角に見える油揚げに首を傾げるフェアグリン達とアディ達に笑い、きちんと味付けをして煮込んだ物を出して目の前で酢飯を詰めた。
「これが稲荷寿司です。狐の耳に見立てて三角にした場合と、お米を保管しておく時に使う米俵の形を模した場合の2パターンをうちではよく作りますね」
「狐耳の方に甘辛く煮込んだキノコとかを入れて、俵型の方にワサビの葉とかを刻んで入れる事が多いよね」
「こっち(三角)だと子供たちも喜んでくれるんですよ」
そう言っている満は、みのり屋の中で一番小柄で年下のベンジャミンより少し背が高いくらいだ。
「みんなにはおやつの時間に一つずつ出すね」
「やったー!」
「こちらも全て植物由来のものだけで作られていますのでご安心下さい」
「今日の授業内容でもありますが、私達の考える神様とはお一人ではないんです」
これはイアグルス教の神を軽んじているのでも否定するのでも無く、"神"そのものに対しての考え方が異なるのだと眉を垂らして苦笑する。
「コンシンネさん達にとっての神様もお一人ですが、私達と仲良くして下さっているので分かり合うのが難しかったとしても無理ではないと思っています」
「そうなのですね。どのようなお話が聞けるのかとても楽しみです」
そう微笑み、和やかに食事を再開した。
食後、至の歌と踊りで回復をする。神官の男女比は半々といった所で、そのどちらもこの回復の楽曲、方法に興味を持ってくれた様で至も嬉しそうだ。
そして、授業に入る。
「まず、私達が言う"神様"という存在には間違いなくイアグルス教の神様も入っているという事をご理解いただけると助かります」
一神教の神官には信じられないかもしれないが、私達は全ての神様を信じていますと言う。
「神様はいつも側にいて私達を見守って下さっていると同時に、共に生活をしているというのが私達の考えです」
ただ、その神様がどんな名前で、"一人"として数えてその一人だけを強く信仰している訳では無いのだと眉を垂らす。
「昨日の話とも被ってしまうのですが、私個人は魂は神様から分け与えられた一滴だと考えています。そして、"生きている"と表現する相手には神様から与えられた魂が存在している。それが目に見えなくてもです」
時には精霊や妖精とも、妖、魔物、幽霊、生きている人であってもその存在を神と呼ぶこともある。
「私はそのどれもが事実だと思っています。誰もが敬い尊い存在で、畏怖の念は持っても恐怖して萎縮する存在ではない。それが私の意見です。とはいえ、相手が自分と同じ考えで生きているとは限りませんから、対策などは大切です」
とある国では神様に気に入られて悪戯をされ、不幸が起こってしまう事もあった。しかし、そういう時は位の高い神様や力の強い神様の加護をいただいている司祭様やお坊さんなどに払ってもらってもらうという。
「しかしどこでっ、・・・どのように?」
「それぞれの家にこんな感じで、イアグルス教でいう所の祭壇みたいなのがあるんです」
家を建てる時、アパートメントのような集合住宅、宿屋などにも必ずあるものなのだと、鞄から神棚を出して見せる。
「こんな感じで各家庭に神様がいましたし、一人の神様を強く信仰していたとしても、どの神様へも敬意を示します。他国の方からすると逆に無宗教であったりするように見えるようですが、どの神様を強く信仰しているという考え方よりも身近でいつもお世話になっている神様にはよく手を合わせていると言った方が正しいかもしれません」
もちろんその神によって得意分野が違うので安産祈願など、その時その時で祈る神が変わってしまうのもまた事実。
「ちなみに、この風習がある国の出身は蜻蛉切さんと利刃さん、転弧くん達ですね。私たちは神棚を作ったりしてはいませんでしたが、商売繁盛のご利益がある神様へ参拝した時にお守りを買いましたので今はこのテントの高い所に置いて見守っていてもらっています」
示されたのはテントの入口の隣にあるカウンターの後ろ。そこには棚が置いてあり、見せられた神棚よりも完全な人の家(ミニチュア)なものとお守りが棚の一番上に設置されていた。
「この小さい家を置いてから面白がって妖精たちが遊んでたりしますよ。神様も賑やかで暇もしないでしょうし。あの国の神職の方々に見せたら怒られそうですけど」
「怒ると言うか、呆れると言うか、その発想は無かったというか・・・」
「まぁ、ないがしろにはしていないし、いいんじゃないか?」
お勧めはしないがと溢す二人の言葉に、フェアグリン達がなんとなく本来とは違うのだろうと察する。
「うちは見えない存在と関わるのが普通と言う環境ですから出来る事かもしれませんね。神様の”普通”と私たちの”普通”は違いますから、守るべきルールを間違えると取り返しのつかない事になります」
「妖精たちの悪戯で命に関わる事故が起こってしまう、ようなものでしょうか?」
「そうですね。この国ではそれが妖精や精霊たちを神様とは呼びませんが、それと同じ事です」
「なんか妙に人っぽいんだよなぁ、茂がいうと」
「人と生活をしているからな、似てくる部分もあるだろ」
ポーションを造っているジンたちと笑っている転弧たち。
自己紹介をしてから、ジンを気に入り何かと近くにいる転弧たちに本人だけが首を傾げていた。
神様たちは皆が適切な距離を保ってお互いに気持ちよく過ごす方法を互いに模索するのが当たり前と言う考え方で生きている。
「この大陸には精霊種と呼ばれる原初の民が八百年前にいなくなってしまった為こういった話は信じがたいのかもしれませんが、精霊種がいる場所では当たりまえのようにこういった考え方をしたりしますよ」
幽霊や妖怪、妖精と言ったまだ力の弱い存在も自然の力と人との関わりで力をつけて行き最終的に精霊、神格の高い存在へと成長していく事もある。
「こういう神様、というか人ではない存在については私よりも詳しい家族がいるんですが、今は別の所で冒険しているので合流したら紹介しますね」
そして後でフェアグリンに相談をしたいのだが、各種族の特徴などの授業もしてみたいのだがどうだろうかと話しかける。
「ただ、こういった授業をしてしまうと固定概念が出来てしまうんですよね。人間種と関わった事が無い精霊種の方に人間族は寿命が短いのが特徴で、だからこそ未熟な所が多いというとそれが事実でも偏見しか生みませんから」
「本当ですね」
「その未熟な部分があるからこそ想像力が高くて行動力もあります。そして属性が偏りにくいので一人で器用になんでもできてしまう人が多いです。ですがこういった部分は実際に関わらなくては分からない所です。またそういった種族的な特徴と個人の性格は別物ですし、種族的な特徴を話しても良い物か。難しい所です」
「なるほど」
「良ければオルギウス様とフェアグリン様に私が授業をした場合のお話しを聞いていただき、他の方々に説明をしても変に誤解が生じないか判断をしていただきたいと思います」
「それはこちらとしても願ってもいない申し出ですよ」
「そういっていただけて良かったです。あ、中にはもちろん悪い事をして人とも精霊同士でも関係を悪化させる方はいますから、そういう神様は退治されたり封印されたりして平和を維持しています」
「神と呼ばれる存在が、人に・・・」
「神様も何もいない場所にいるより、自分を大切にして毎日楽しそうに生きている人を見ている方が気分がいいんじゃないですかね?だから助けを求めた時に手を差し伸べてくださる方が多いんですよ、きっと」
そう笑って黒板に線を引く。
「先ほど妖という妖精や精霊のような存在のお話しをしましたが、付喪神様という、人に大切にされた事で神格化した物がこれにあたります。神様たちと仲がいい和ちゃん曰く、付喪神様はどこの国にもいる代わり、私たちが付喪神様と認識していないと生まれるまでの時間が異なるそうです。あと、本人たちは付喪神は神の中でも末席と言っているそうですが、神様の中で力が強くなる方法に長く生きれば生きただけというのがあるんです。特に人に大切にされて神格化した付喪神様はそれが如実で、長い間人と一緒に生活して大切にされれば力が強くなり、また守ってくれるという良い関係が築かれます」
そうやって千年以上生きた付喪神は想像ができない程の力を使えるようになるそうだ。
「神様たちの世界にはそっちのルールがあるようなので、完全に理解するのは難しい世界かもしれませんね」
「あの、」
「はい」
そっとローガンが手を挙げた。
「シゲルさんたちは、その神様たちが、見える、のでしょうか?」
「私は常にではありませんね。神様側から姿を見せてくださったら見えますが。和ちゃんは召喚術士ですので、神様を召喚して一緒に冒険をしていますよ。なので常に姿は見えているか感じ取れると思います」
「神様召喚できんの!?」
和が召喚術士である事は知っていたが、神を召喚できるとは知らなかったらしく錬金術師たちも驚いていた。
「付喪神は物が神格化したものだからな。そもそも人の手で作られたと言うのもあり、人と共にあるのが好きな者が多い」
「和殿はそういった存在に好かれやすいんだ」
「特に武器の付喪神は振るう相手が先に死んでしまう事が多いですから、偉人の武器としてただ飾られているよりも連れ出して自身を振るう相手といた方が楽しいのでしょう」
「・・・な、なるほど」
特に短刀と呼ばれる刀剣は女性に贈られることが多い。その理由は身を守ると言う意味と、心を守ると言う意味で贈られる。
「望まずに触れられて一生消えない傷がついて心が壊れてしまう方もいますから、そうなる前に使いなさいという、ある意味優しさで、ある意味では残酷な理由で贈られる事があります。もちろん男性にも贈りますよ。子供でも扱えるサイズですから幼い頃から大人になっても自身を守るためにも使え、結婚後は奥さんや子供たちを守る為にも使えますから」
だから短刀には家内安全というお守りの意味があるのだと言われ、神官たちは納得を示していた。
「短刀の付喪神様の中には人を守るように願いを込めて作られたのに、その守るべき人の子を自分が終わらせなければならなかったと悲しんでいらっしゃる方もいます」
「そんなっ、・・・そうなんですね」
この大陸でなくてもそう言った現実があるのかと、ローガンは言葉を飲み込んでいた。
「人に大切にされたら神格化するといいましたが、人によって大切にし方も変わりますから、人に対して複雑な感情をお持ちの方もいます。それでもやはり皆さん神様ですから、自身の過去や心情に折り合いをつけて悟っている方がほとんどですね」
神々の世界と人が住む世界。人が生きるこの世を地獄と考えている神も多く、だからこそこの地獄で人を見守り一緒に暮らしている。
神々の悟りの境地の話を聞き、組んだ手に額をつけている神官もいた。
「神様たちは苦しんだりしている私たちに寄り添って支えてくれています。ですが、人と結婚したりする時は色々変わります」
「結こ、するのですか?神と?」
「する人はいますよ。というか、国主様が神と人の子孫の方々が王族という国もありましたし」
神と人が結婚した場合、いくつかのパターンに分かれると言う。
「神様が人の振りをして人同士の夫婦みたいに過ごし、人が寿命で亡くなった時に魂を神域へ連れて行って永遠を一緒に生きるか、生きている内に肉体ごと神域に連れて行って一緒に暮らすか、人が亡くなった時に神様も魂になって一緒にあの世へ行くか」
他にもいくつかあるが、大抵このパターンが多いと言う。
「人の振りをして暮らしていたら盗賊が家へ押し入って来て、神の怒りに障れて殺されたり。不幸な最期になるのはお約束ですね」
「お約束・・・」
「シゲルの授業って分かりやすいけど、なんか重さを感じないんだよね」
「重々しく話してもしょうがねぇだろ」
メイナに梅智賀が返していた。
「神からすると地獄の一種である現世で生きているのが”人”です。その”人”と結婚をして一生を共に欲の中で苦しみ続けると誓った相手ですから、神のお相手に知らずとはいえ手を出したらどうなるかは火を見るよりも明らかです」
「・・・」
現津の言葉に皆口を閉じた。
「や、和さんという方は、神と、ご結婚を?」
「いいえ、和ちゃんは冒険先で知り合った魔族の方と結婚をしましたよ」
「・・・魔族の方々にも、結婚という概念があったんですね」
「あるに決まってるだろ」
「言っとくけど、魔族が一番ってくらい結婚に厳しいと思うよ?」
「そうなの?」
「前に”血が騒ぐ”ってのがあるって言ったでしょ?」
魔族が結婚を考える相手は血が騒いだ相手だけ。それは男も女も同じ。だからこそ魔族は享楽家というイメージが根付いてしまったのかもしれないが、その側面は事実であり一部でしかないと魔族本人に言われた。
「魔族って皆さん愛情深いですよ?和ちゃんと一緒に冒険してる神様たちとも仲良くやってますし、そもそも魔族の魂の半分って神様と同じ存在ですから」
そこに人と同じ未熟で欲を知っている魂が同居しているのだから、刹那主義、享楽家と見えてしまうのかもしれないと笑う。
「妖精種は精霊種と同じように寿命がないですからね。寿命が違うと時間の感覚が違ったりしますよ?」
今度また会おうと言ったのが数日後なのか数十年後なのかの違いくらい差があると言って苦笑する。
「種族によって成長速度が違うので、それも大きいかもしれませんね。精霊種は人間の五倍くらい時間をかけてゆっくり成長しますけど、魔族は五歳までは人間と同じ速度で成長しますがそこからは十倍くらいゆっくり成長します。享楽家と言われる所以なんですが、他の種族よりも子供として過ごす時間が長いとういうのもあるんじゃないかと思うんです。とはいえ魂の影響もあるのでそれだけが原因という訳ではないと思いますが」
人間が三世代交代するくらいで成人する魔族なのだから、ヤンチャな時期が印象強く残ってしまうのかもしれないがとまた苦笑する。
「後は、種族として強いがゆえに放任主義っていうのがあるかもしれませんね?他種族同士で子供が生れた場合寿命が長い方の種族の特徴が出やすいんです」
だから恋人同士でもしも子供が生まれたらその子供は高確率で魔族の特徴を引き継ぐ事になる。しかし、その場合子供が成人する前に人間種の方が死んでしまう。
「魔族は元々生命力も潜在能力も身体能力も高いです。なので子供とはいえ人間の大人よりも強かったりするので子供一人でも生きていけるんです」
「・・・聖国に魔族の伝承が残っているのですが、重なる部分が多いです」
「そうなんですね。とはいえ聖国と敵対したと言われる魔族の方は血が騒いだお相手に何かされたのが原因でしょうし、そこがどうにかできればあの”呪い”も無事に解決すると思うので」
「本当ですか?!」
眼を見開いているのは多分聖国出身たちなのだろう。
「さっき茂さんも言ってたけどさ、魔族って子供の頃から一人で生きて行けるだけ強いんだよ」
ざわついていたテント内に、圧紘の声が響いた。
「そもそも”血が騒ぐ”って、その神様と同じ魂と人としての魂どっちもが反応してるんだろうし。これは俺が勝手にそう思ってるだけだけどさ。神様と結婚した相手に手を出したら地獄に落とされるくらいの不幸があるって言ってたでしょ?本物の神様じゃなくても魔族にはそれだけのことが出来るポテンシャルがあるんだよ」
子供の時間が長くても一人で生きていけるくらいねと眉を垂らして笑う。
「神様もそうだし俺たちもそうだけど、結婚を考える相手ってだけでもうありえないくらい特別な存在なの。文字通り代えの利かない存在ね。直接聖国を見て回ったから言える事だけど、あの国を呪ってる魔族はその”血が騒いだ”相手を最悪な形で奪われてる。その呪いを解ける相手は”血が騒いだ”相手しかいないよ」
その事件を起こした相手が誰であれ、まったく関係ない国民も多かっただろうから理不尽って言われても仕方がないけどねと肩をすくめた。
「その辺の理不尽さは神様とか妖精の悪戯とか、天災と同じかな。突然ドラゴンが来て国を焼き払ってどっか行っても誰を恨めばいいか分からないのと同じって言うか」
「聖国のは原因があるから違うだろ」
「まぁ、人間種は国というものを作るからな。しかし精霊種、妖精種は基本的に国を作らない。だから呪う範囲も変わるんだ」
「そ、そうなのですか?」
ホーキンスの言葉にフェアグリンも驚いて聞き返している。
「寿命がない俺たちにとって誰かを王として国を維持しながら侵略侵攻、策略を考えながら生きるメリットがない」
「メリット・・・」
「国を守る事よりも気に入った土地や家族、仲間を守った方がいいだろう」
「・・・」
「天の民は王族がいて国を作ってたりしますけどね。ですが人間種の作る国とは少し違うと思います」
「どのように違うのでしょうか」
「天の民の皆さんは基本的に神様とそうではない人たちの平穏を願って祈りを捧げていますので、国もありますし王族もいらっしゃいますが、感覚としては教会などが近いと思います」
「金剛を見ていたら分かると思うわよ」
基本的な生き方が僧侶に近いのだと優が言い、ホーキンスとキリルが大きく頷いていた。
「そっ、天の民の方、だったのですね」
「一応な」
「天の民は面白いぞ」
「面白いの?」
「すごいじゃなくて?」
笑っている進に望が注意をしたため何が面白いのかは分からないまま、茂が授業を続ける。
こうしてみのり屋が考える神についての考え方の授業も終わり、質問などがあれば伺いますと言って頭を下げた。
お土産として渡した稲荷寿司はフェアグリンのアイテムボックスへとしまわれた。
「アイテムボックスってあんな風に使えるんだ」
空間が歪んで手が入って行ったと初めてアイテムボックスを見た子供たちが眼を輝かせている。その姿に笑い、エルフは魔力が高い者が多くアイテムボックスを使える者もいるらしいのだと言う。
「この大陸には人間種の種族が沢山いますもんね」
「アア」
抱っこをねだって来た桃之丞を抱き上げると、どこか羨ましそうに桃之丞を見つめる。
「ホムンクルスとは、可愛らしいものですね」
「そうですね、この子たちがいてくれるお陰で支えられることも多いです。錬金術師以外が造るならタルパになるでしょうが、あの子達も可愛いですよ」
きちんと向き合って行けば時間がかかっても誰にでも造れるという茂の言葉に深く頷いた。
「至に回復の魔法を学ぶのであれば医療も一緒にお教えした方が良いでしょうか」
「その方が回復魔法も使いやすいのではありませんか?」
「待て!それなら王宮の医師団を呼ぶ!」
「訓練で疲れてるんじゃない?休ませてあげたら?」
「今から三年半は休んでなんかいられないと思うよ」
「熱意がすごい」
でも高齢な者が多いので無理はさせられないと、医師団も神官たちも訓練後に勉強会を開くことで落ち着いた。