7.学園生活
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次の日の訓練では、強化系の者以外も身体強化のコツを掴む者が出て来て、さらに皆のテンションが上がっていく。そんな中、昨日から身体強化が使えていたスカーレットがどこか安心したような表情で胸を撫でおろしていた。
「お疲れ様です。スカーレット様」
「、ええ」
声をかければ戸惑いながら、控え目に返事をして曖昧な笑顔を見せる。
「何かご不便はありませんか?もしくは訓練でのお悩みとか。訓練でなくてもお力になれる事があるかもしれませんよ」
できるだけ優しく笑って言うと、一瞬縋ろうかどうしようかと葛藤をしたような表情をした後、「いいえ、何も」と笑って首を横に振る。
「来年度からは同じ教室で学ぶ仲間ですから、いつでもお声をかけてくださいね」
何も今すぐに信用を得ようとは思っていない。心を開く準備が出来てからでも十分間に合うと見あげれば、どことなく空気も柔らかくなってさっきよりも自然な笑顔を見せてくれた。
こうして王族の訓練も終わり、団員たちの交代が行われた。団員だけでなく、王宮勤めをしている者たちも参加しており、そこにはメイド、侍女、コックたちまでが多くいた。
先に訓練を受けた団員の中に、遠征時は炊事を担当するものがいたようで、みのり屋で食べた食事について聞かされたらしい。
絶対に身体強化は必要ないだろうと文句が出ても良いだろうに、団員以外の者たちも訓練にとても意欲的だ。
貴族社会の中で、周囲は出来るのに自分だけ出来ないという事がどれだけデメリットになるかを知っているだけに、必死なのだろう。
泣き叫び、出すものを出し切ってしまっている者もいたので洗浄魔法をかけ、たっぷりのスポーツドリンクを飲んでから風呂に入ってもらう。ここでほとんどの者は疲れ切った心を癒せているのだが、腹が減って苛ついている者もいるのでしっかりと食事もとってもらった。
そして、食休みと共に至の歌で回復を計り、午後には一時間の授業を受けて帰っていく。次の日からコックたちの目の色が変わったのは言うまでもない。
訓練後の授業が終われば直ぐに帰れるのに、コックたちから満に料理について質問が殺到したので、希望者だけ残ってもらう事にしたら全員が残るなど、色々な事があった。
「その、次回から教会側の訓練に入りますが、厨房の中を見学なさいますか?」
今日もスザンヌ達が日替わりで満に質問をしに来ていたので声をかけると、オルギウスとミッシェル、ヘレンの許可の下質問に来ていた炊事担当の団員も上に掛け合ってきますと大急ぎで帰っていった。スザンヌ達も、どういった順番で学園の食事と人員を確保するかで話し合いが行われた。
そして、ポーション造りで二日間の休みを挟み、学園でフェアグリンを含めた神官たちを迎えた。学園長も挨拶の為に一緒に来て、ついでにスザンヌ達も同じ馬車に乗って共に森へ行く。
最近の学園長はとてもツヤツヤしていて、なんだか楽しそうである。
森につき、身体強化を身につける為に魔法は使わず、大声を出して全力で走って逃げる事だけに集中して欲しいと説明する。
「昼食は初めての物もあるかと思いますが、体にいい物ばかりですのでご安心ください」
満がそう言って全員を見送った。
イアグルス教はベジタリアン(菜食主義)の中でも、ラクト・ベジタリアンという種類に入り、乳製品は口にしても良い事になっている。
もちろん蜂蜜もいい。
なので、神官たちにとって贅沢とは蜂蜜をそのまま舐めたり、飲み物に入れて飲むことだ。もちろん砂糖も同じくらい贅沢品だが、蜂蜜の方が採れる量が少ないので高価なのだ。
悲鳴の上がる森を背に、コックたちと学園長をテントの奥、厨房へと案内した。
コックと学園長達に料理を説明していれば、あっという間に時間はたち、訓練から戻ってきた神官たちを出向かえる。元々身体強化が使えていたフェアグリンはそこまで汚れていなかったが、他の者たちは皆ボロボロのドロドロになっていたので、タオルを渡しながら風呂を勧めた。
「テントの中が!もはや巨大な建造物ですね!!」
「これからは宿屋も開いてみたいと思っています」
ただすぐに移動してしまうので、1・2日くらいしか泊まれないと思うがと笑いながら、風呂上りの皆に水を差し出し、昼食を用意すると満とひなた達が奥へと消えていく。
そして、カートを押して戻ってきた。
「お待たせしました。訓練でお疲れでしょうから、しっかりと召し上がってくださいね」
そう言って、学園長の前にも同じメニューの料理を置いていく。もちろんアディたち王侯貴族も同じ内容だ。
「?初めて見る物ですね」
「こちらは豆腐と言う、豆のしぼり汁を固めた物です」
「しぼり汁?」
「私たちも日常的に食べている豆腐と言う、加工品です」
未調理の四角い物、おぼろ豆腐の二つを収納バッグから出して見せ、その前に加工前の豆も出す。イアグルス教で禁止されている物は一切使っていないと証明して見せた。
「こちらの水は?」
「にがりという、海水からお塩を作る過程で採れるものです。このにがりのおかげで豆乳が固まり、豆腐になります」
さらにその上に乗っている白い物は大根おろし。黒い調味料は、これまた豆腐を作った物と同じ豆から作った醤油に昆布から出汁を取ってカボスを絞ったポン酢。
「お豆腐にはライスの方が合うと思いますが、パンもありますので、お好みで召し上がってください」
味噌汁もまた、豆から作った調味料だから安心してくれと、味噌の入った器と、その前に豆、米麴、塩を出してカートの上に並べていく。
その説明を受け、フェアグリンだけでなく他の神官たちもポカンと口を開けて呆けていた。
「豆一つから、こんなにも・・・」
「私たちはお肉ももちろん食べますが、魚もよく食べます。そして、それと同じくらい植物由来の食事が大好きなんですよ」
お肉も美味しいが、お肉以外は美味しくないと思っている者は誰もいないと茂が笑う。
「この国ではお米は馬や家畜の飼料にされているようですし、豆も質素な食料とされています。とはいえ、人が普通に食べても美味しいですよ」
こちらからすれば、むしろ家畜にいい物を食べさせているなと感じてしまうと言うと、他のメンバーも小さく笑いだす。
「余計なお世話かもしれませんが、皆様が厳しい戒律を守っているお姿は素晴らしいと思いますし尊敬も致します。ですが、このままではいつか体を壊してしまうのではないかと心配してしまうのです」
体調を崩し、日々のお勤めもままならなくなってしまっては、イアグルス教を心の支えにしている信徒たちが動揺してしまうと眉を垂らした。
「人間はもちろんですが、獣人の方々は特に、タンパク質が必要なんです。獣人は人間よりも体が丈夫で大きくなりやすいという事は、それだけ栄養が必要という事ですから」
タンパク質とは、毛や皮膚、筋肉を作るのに必要な栄養素だと望が補足してくれたので、その間にサラダとスープもテーブルに並べていく。
全ての食事が揃ったテーブルを前に、フェアグリンを始めとした皆が神への感謝を口にしてから一口食べる。
「・・・飼料、物は言いようだな」
アディの言葉に、感動していた学園長が笑いだした。
「こんなっ、こんなにも美味しい物がっ、教えから反していないだなんてっ」
豆腐ステーキを食べて涙を流す神官たちの姿に、フェアグリンも涙ぐんでいた。
「皆様が王侯貴族とは別の方法で民を守ってくださっているのは疑う余地もありません。だからこそ、どうぞご自愛ください」
明日の昼食も微力ながら尽力させていただきますと笑いかける満に、手を組んで感謝を示す神官が多発した。
それから食事が進み、デザートのわらび餅を出して植物の根から作られていると現物を出して説明すれば、何をどうすればあの植物の根からこんなに美味しい物が出来るんだと驚きながら御代わりをする。
お茶を飲みながら、この食事がいかに素晴らしかったかを熱く語るフェアグリンに、どこか申し訳なさそうに満が口を開いた。
「明日のメニューも、お豆から作った食材を使うつもりなのですが、その出来が良すぎまして」
「それは楽しみです!」
「いえ、あの、味はとてもいいと思っているんです。ただ見た目が、」
「原料が豆だと言っておったしな。色味が悪くなってしまったのかい?」
「いえ、」
「本物の肉に見える」
満が言葉を濁していたので、隣にいた梅智賀がハッキリと言い切った。
「・・・豆が、ですか?」
「はい、茂にお願いして一緒に作ったものです。なので味も触感もとてもよくできたんです。ですが、どう見ても本物のお肉、ミンチに見えてしまって、」
初見では絶対誤解を与えてしまうと思ったので先に報告をしておきたくてと、本当にミンチ肉が乾燥したような、茶色い物を収納バッグからトレーの上に出して見せる。
「・・・お肉ではないのですか?」
「はい、100%お豆から作りました」
「この大豆というお豆は、畑のお肉と言われるほどタンパク質が豊富な食べ物なんです」
「植物性タンパク質と動物性たんぱく質は、こんな感じで形が違いますから、このままではくっついたりしません。それを固めたのがお豆腐の時に使ったにがりです」
そして、にがりを使わずにさらにどうしたらくっつくか研究した結果お肉のような触感にする事が出来たと言う。
「ただ、元が大豆ですから。どうしてもミンチのようになってしまって。こう、大きな塊にできれば今日のステーキのようによりお肉っぽく出来たんですけどね」
「これで十分だよ。ミンチの方が調理工程が減って嬉しい料理も多いし」
「そう?」
時間が出来たらまた研究したいという茂に、現津が楽しみですねと微笑んでいた。
「豆って肉になれるんだな」
「原理分かる?」
「分解までは分かるけど、何をどうしてああなったのか想像もつかない」
錬金術師たちが満に大豆ミートを少し分けてもらい、手に持って見ながら首を傾げている。
「不安でしたらイチから作ってお見せしますよ。その方が皆さんも安心して召し上げれるでしょうし」
「秘匿な物では!?」
「いいえ、来年か再来年には錬金術師科で作ってみて、様子を見てから錬金術師ギルドへレシピを公開するつもりです」
そうしないとみのり屋がいなくなった後も食べられないじゃないですかと言われ、また祈りだそうとしたので止めた。
「至ちゃんも魔法士ギルドに楽譜を公開しようとしたのですが、ヘレン様が難しいかもしれないとおっしゃっていました」
「あの素晴らしい回復魔法がですか!?」
「今の魔法士ギルドはスクロール、攻撃魔法が主流だから、いつかは受け入れられても今直ぐには難しいだろうって」
「なので、その受け入れる土台として教会の皆様が先駆者となっていただけたらと考えておりました」
「それはもちろん!願ってもないお話です!」
回復魔法が使える者は稀であり、稀であるからこそ教会が保護しなければ危険が及ぶ事態になっているのも実情なのだ。
「歌もですが、ダンスにも興味がある方がいたら一緒に踊れますね!」
自分だけ仕事が無くなる所だったから良かったと笑い、デザートも食べ終わったしお茶でも飲みながらゆっくり回復をしてもらおうと立ち上がる。
他の神官たちも、至の歌を聞くのは初めてなので、フェアグリンがそんなに喜んでいる理由が分かっていない。
しかし、直ぐにその素晴らしさを体験することとなった。
「皆さんにはダンスも見せますね、どっちも知っておいた方がいいでしょうし」
興味を持ってくれる神官が増えてくれたら嬉しいと、舞台に立つ至に視線が集まる。
そして、歌と踊り、どちらも体験した神官たちが膝をついて祈りだした。
「え、なんで?すいません、別にイアグルス教の神様に捧げたりしてませんでした!」
祈るのをやめてくれと止めに入る至を見ながら、志願者は問題がなさそうだと笑う。その視界の端で、フェアグリンがコメカミを押さえているのが見えたが、みのり屋の誰も指摘する者はいなかった。
しばらくして神官たちも落ち着いたので、午後の授業となった。
教卓として舞台の上で茂が立ち、一日目の授業を始める。
「改めまして、今日から七日間よろしくお願いいたします」
一礼をして、まずは錬金術師は傍から見ると何をしているのか理解しにくい部分が多く、国によっては錬金術を使っているだけで犯罪者扱いされる場合があると説明を始めた。
「それは、迫害でしょうか?」
「はい、それに近いと思います。これから数日かけてお話しをさせていただきますが、きちんと知識があれば恐れるものではないとお分かりいただけるタルパ等を連れている錬金術師を、悪魔使いとして恐怖の対象として見る方もいらっしゃるんです」
それだけではない。錬金術とは物質と物質を合わせて新しい物を創り出すことが多いため、物によっては国家転覆、災いを呼ぶものとして見つかり次第処刑する国があるのが事実なのだ。
「そこまでいかずとも、詐欺師として罰せられる場合もあります。そう言った国で薬師や医師が研究の末錬金術に辿り着いた場合、今までどれだけ献身的に患者を治療していたとしても、悪魔を呼び出すための生贄を探していたと濡れ衣を着せられることも多々あります」
この国でも錬金術師の扱いは良くなかったが、そこまで酷い扱いをする国があるのかと驚愕している神官たち。
この話は他の皆にとってもそうとう衝撃だったようで、教師たちの中にはちょっと優しくなった者までいた。
しかし、この話は大げさではないのだ。
「こういった扱いをされるくらい、錬金術が危険になりえると言うのは本当の事ですが、その実験、研究は人の生活を支え、魔物から人々を守るのにとても有効になる事が多いです。これからする授業は錬金術師科の一年生が初歩として受ける授業でもありますので、皆様も力を抜いてお聞きください」
初手からアッパー喰らわせてそれいう?という空気になったが、それはそれとして授業は進む。
「まずは、錬金術師にとって”命”とは何かについてご説明をさせていただきます。錬金術師を続ける方は、愛情深いか、こだわりが強い頑固者になりやすいです」
また神官たちがざわざわすると、反対側でポーションを造っている皆が小さく笑ったのが聞こえた。
「錬金術師にとって、生命とは、命、魂、精神。この三つをそれぞれ持っている存在全てを命と呼びます」
そしてこの三つが揃っていない場合でも”生きている”という表現を使う。この説明は神官たちも飲み込みやすかったようだ。
茂は黒板に描かれている絵を示しながら話を進める。
「これは魂についての一説ですが、この世を去り、神の御許へ向かった魂は大きな川、もしくは湖のような魂の大本へ帰るのではないかと言われています」
この考えはイアグルス教でも似たような教えがあるので受け入れやすかったようだ。
「そして、またこの世へ生れてくるとき、この魂の源から一滴の魂としてやって来ると言われていますが、この時の一滴が戻る前とまったく同じではないのではないか、という考えもあります」
分かりやすいように教卓の上に用意していた水差しからグラスへ一度注ぎ、これが一人分の魂だともう一度水差しの中へ戻してまたグラスへ注ぐ。
「今この中に入っている水が、さっきとまったく同じだと言えない、という事です」
その言葉に、「あ、」と小さく声を漏らして口を手で押さえる。
「錬金術の根幹に、”全は一、一は全”という言葉があります。それは哲学、心理といった類の考えですが、物質だけでなく魂や目には見えないものも全て”全”とし、”一”をなんとするかは各自で決める事ですが、この世のあらゆるものを使って新しい物を造る錬金術師にとってこの概念は一番最初に教わるもので、最後まで答えられない問題です」
これを深く理解出来るかで造るものも変わってくると、さっきのグラスより小さなショットグラスにまた水を移した。
「私たちは”一”です。神の御許からやってきた一滴の魂をさらに少し分けて造ったのが、ホムンクルス、ゴーレム、タルパです」
桃之丞が手を挙げて答える。
「ホムンクルスとゴーレムの違いは、その肉体が生物か無機物かの違いしかありません。どちらにもいい点が多いですし、術師の力との相性という物もあります。そして、この二つは錬金術師にしか造れません」
だが、タルパ(人工精霊)は誰にでも造る事が可能だと言う。
「たとえ血の通っていない体であっても、魂と精神がある。精霊や妖精と同じです。それは間違いなく生命です」
錬金術師は、愛情深いかこだわりが強い頑固者になりやすい。授業の始まりにも言った言葉を、優しそうに微笑んでもう一度口にする。
「昔、魂と精神など必要ないと言った術師がホムンクルスを造りましたが、その命はただ生きるために食事をするだけの肉塊となってしまいました」
精神がないため、自分を作った術者に対して愛情などあるはずがなく、魂がないので生きていく中で精神を育む事も出来なかった。最後は術者を食べて死んでしまうという話があるといい、また黒板の図を示す。
「ホムンクルス、ゴーレムにとって術者は神であり、生みの親です。私の持論で申し訳ありませんが、愛と呪いは同じものだと思っています。ですが、この子たちにとって術師から向けられる愛が呪いになる事はありません」
それがどんな形の愛であったとしても、どこまでも純粋に受け入れて返そうとしてくれるのが彼らの特徴だと、教卓の上に桃之丞を抱き上げて乗せた。
「ホムンクルスは肉体が生物なので、こちらの方が例えとして分かりやすいでしょう」
人が男女で子を成した時、血を分けた子供、親族を血族とも言う様に人の親子は血で繋がっている。しかし、魂は神から分け与えられた物なので、いつかの自分であると同時に、他人である。
「ですが、この子たちが、今の私である魂から一滴を絞りだして造った子たちなので、今の自分自身であると同時にいつかの誰か、という事になります」
この世で、何があろうと自分を裏切らない、天国へ行くのも地獄へ行くのも、いつだって同じものを同じように見てくれる味方。
ペロッと茂の顎を舐める桃之丞に笑って頭を撫でて礼を言い、教卓から下ろした。
「この子たちはきちんと個として生きています。肉体を与えられ、それをしっかりと精神で繋いでいますから、ゴーレムも一つの生命です。ですがやはり弱点もあります」
それは魂が術者から分け与えられたものだという点。
「術者が死んでしまえば、繋がっている魂を持つ彼らもまた、神の御許へと共に旅立ってしまいます。それどころか、術者にいらないと言われただけで魂は術者の下へ戻ってしまいますから、その時に命も失われてしまいます」
消してしまってからもう一度同じ子を造ろうとしても、もう二度と同じ子を造れないのは人と同じだと、ショットグラスからグラスへ水を戻し、グラスから水差しへさらに戻せば、もはやただの水でしかなくなってしまった。
それを見て、神官たちが祈るように手を合わせ始める。
「なので、錬金術師は生命を大切にします。そして、授業内でそもそもホムンクルス、ゴーレム、タルパを造るかどうかを時間をかけてじっくり考えてもらっています。造り方を教えるのはそれからですね。まずしなくてはならないのは、自分が何を幸せと感じるかを探し、そのためには何が必要なのかを見つける事です」
もちろんたった四年でその答えを出せるとは思っていない。けれど、一人で見つけられるかどうかは見えてくるはずだと笑う。
「これからどうしたら幸せになれるのか、それを見つけるパートナーになってくれるのがホムンクルス、ゴーレム、タルパです」
彼らはただ、術者とともにいるだけで幸せを感じ、その喜びを自分の持っている全てで表現してくれる。だからこそ、そこを理解してからでなければ術者が不幸になってしまうのだと繰り返す。
「この子たちが傷ついても術者は死なない。けれど術者の為なら簡単に命を差し出しますし、他者の命を奪います」
正義や悪、生きるためのルールなど、彼らには関係ない。術者が幸せそうに笑ってくれるならそれが全て。
「親がいつも笑っていたら、それだけで子供の世界は平和ですからね」
ここにはいつか子供だった者しかいないので、分かってもらえるだろうと微笑んで雑談を挟む。
「錬金術師の老夫婦の話なのですが、奥さんがヨウムというおしゃべりな鳥の姿をしたホムンクルスを連れていたんです」
ホムンクルスたちは人と同じだけの知能がある為、このヨウム型のホムンクルスがおしゃべりになるのも直ぐだった。夫婦はその子に話しかけ、毎日とても可愛がっていた。
「そして、いつものように寝る前の挨拶をしました」
”お休みアレックス”
”お休みホーリー、君を愛してるよ”
「普段なら”また明日”と続いていたのに、この日は言わなかったんだそうです。そして、術者である奥さん、ホーリーさんが目を覚ますこともありませんでした。この子たちは、術者以上に術者の事をよく見ています。尽くそうとしてくれます。だから止まり木ではなく枕に乗って、この日だけ一緒に寝てくれていたのでしょうね」
ホムンクルスやゴーレムにはこういった逸話がいくらでもあるのだと、授業を終えた。
授業後、明日もよろしくお願いしますと挨拶する茂に、フェアグリンが微笑みを向けた。
「我々も新しい発見や気づきがありました。錬金術の知識がない事を残念に思った程です」
「そう言っていただけて安心しました。聖書の内容を錬成工程と結びつけることもあるくらいですから、もしかしたら見解の違いなどはあるかもしれませんが、その時は神職からの意見をいただけるとさらなる発展をする切っ掛けになる事でしょう」
「貴女はとても博識で理性的な方ですね」
まるで”子供”とはとても思えないと微笑みながら見つめられ、よく言われますと笑い返す。
「ですが、そう言っていただけるのは夫や家族の助けがあるお陰なんです」
「?」
「研究者は一つの事に熱中しやすく、他の事を疎かにしやすいですから」
自分一人だったらこんなに人らしい生活はしていなかっただろうと言う茂に、現津はそんな事は無いと笑う。
「茂さんなら人前に出る時のマナーなどしっかりとこなして見せると思いますよ」
「そのマナーを見せる場面まで行けないっていうかね」
そもそも森から出てこないかもしれないと苦笑した。
「私は土属性ですから。森など土や植物に囲まれていると落ち着くんです」
それこそ農業は森羅万象を学ぶための最高の学問だと言う。
「体も心もしっかりと鍛えました。まだまだ未熟ではありますが」
その言葉に、改めて眼と足が一つずつしかないのだと思い出す。
笑いながら現津を見上げている茂を見て、また微笑み返してから馬車へと乗り込んだ。