7.学園生活
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この日、訓練にやって来た者たちの中で強化系と分かった者たちが身体強化のコツを掴んだようだ。休憩に入る前から森のあちこちで喜びと驚きの雄たけびが上がっている。
「さすが、王宮で士団員やってるだけあるね。普段から鍛えてるからかな」
「今までも命の危険を感じた事が多かったのかもしれませんね」
現津に抱きかかえられながら見ていた茂とそんな会話をし、お昼が近づいてきたので森の奥へ入ってしまった者たちをテントの近くまで誘導するようにと連絡をしていると、森の一角で火柱が上がった。
「はしゃいでいますね」
「気にいってもたったようで何よりだよ」
後であの一角の木を薪きと炭にして新しい木を生やしておこうと苦笑しながらテントへと戻った。
「どうでしたか?使い心地は」
「最高の一言に尽きます」
テントへ戻ってきたミッシェルに聞いてみれば、腰に下げている剣を大切そうに撫でて笑い返してくる。
「森の中であまりはしゃがないでください。生態系に関わります」
全力で試したいのならダンジョンへ行けと言われ、それはそうだなと機嫌良さそうに現津とも話す。
ミッシェルはとても現津を気に入っているようだが、現津は茂に近づくのを物凄く嫌がっているようだ。それを隠そうともしないのが、尚更面白いらしい。
「アキツ相手に絡んでるよ」
「勇気あるなぁ」
「やっぱ騎士団長ともなると違ぇな」
錬金術師科の生徒たちには、よく分からない尊敬のされ方をしていた。
全員が戻って来て風呂に入り、昼食(ハンバーグ)を食べて至の歌で回復し、しっかりと休んでから授業をしてテントを出た。
次の日、訓練へやって来た皆を迎え入れてオルギウスを見上げる。
「このまま武器の説明に入ってよろしいですか?」
「構わん」
「では、先にナル様の銃から行きましょう。専用武器にしますので魔力を通していただけますか?」
銃という武器の説明は昨日した通りだが、この水鉄砲はイーラの鞭同様魔力吸収の疎外をするように設計しているという。
「ナル様の魔力特性が高まった時もこの銃が水になってしまわないように固定の付与をしてもらいました。なので思い切り魔力を込めても大丈夫ですよ。その魔力が中を水で満たしてくれるように陣を刻んでいますから」
ただそれだけでは魔力無しでも使える利点が減ってしまうので、この穴は残してあると水鉄砲の名残を見せる。
「イーラ様の鞭のように、まず水を満たせるようになることから始めてみましょう」
ナルに魔力を通してもらった後に茂が握れば、ガラス細工のような美しい銃の中が水で満ちていくのが分かった。そして、ノワゼットが用意してくれていた的の木に向かって撃つ。昨日見たおもちゃの銃ではなく、実戦用の銃のような威力で木の表皮を削った。
「この威力も水の量も、自在にコントロールできます。銃として発射する意外にも、”発射し続けて”ウォーターカッターのようにする事も可能です」
そう言って引き金を引いたままにすると凄まじい勢いで水が放射される。そのまま動かせば、太い枝が吹き飛びながら切断された。
「これが、この銃の出来る事ですね。私にご説明できるのはここまでですので、照準を絞る方法は進ちゃんに交代いたします」
後ろにいた進を呼ぶと、ゆっくりと歩いてナルの近くに立った。
「二丁構えて、あの木に向かってみてくれるか?」
「こう?」
「うん、それでいい。今二丁を同時に構えてるけど、どっちで照準を合わせてるか自分で分かるか?」
「どっちもじゃないの?」
「それは無理だな。人の目っていうのは一つの物にしか照準を合わせられないようにできてるんだ」
眼が顔の横についている生き物と、前についている生き物がいるのは分かるか?と聞かれ、牛や羊、ウサギを見たことがあると言うと、笑顔で頷く。
「そういう生き物は視力があまり良くない代わりに、真後ろ以外はほとんど見えてるんだよ」
「そうなの!?」
その言葉には士団員たちも驚いていた。こういった生物別の特徴と言う物も、まだあまり研究されていないのだろう。
「うん、そうやって視野を広げる事で身を守ってるんだ。で、眼が前についている生き物、人も込みな。こういう生き物は身を守るよりも自分の前にいる生き物を狩る事に向いてる」
だからこそ、照準は一つに絞れるようにできているという。
「だからナルは、あ、ナル様は二丁の拳銃を持ってるけど実際に攻撃できるのは一か所だけって事になる」
「様つけなくても良いよ」
「うん、ありがとう。助かる」
子供に気を使われている進に何人かが呆れていた。
「一か所だけを狙うなら
「・・・弾が狼になったから?」
「そういうこと。頭良いな」
頭を撫でて笑い、けれどという。
「その力に頼り切れば銃のいい所を生かせないで終わる。銃のいい所、覚えてるか?」
「弾が、物凄く早くでるところ」
「うん、あってる」
このどちらの利点も生かすためにはどうすればいいか、答えは一つ。
「身体強化と水属性の特性を強化して、眼に頼らない事だ」
「なるほど」
ミッシェルと騎士団員は納得しているが、そんな事ができるのかと魔法士達が首を傾げていた。
「銃は剣よりも間合いが広い。ナルはその広い間合いを生かせるだけ眼もいい。でも、
だから茂は自分を呼んだといい、後ろからナルを抱きしめるように引き寄せて片手で眼を覆った。
「この世界で、水のない場所があると思うか?」
「え、わ、わかんない」
「わしは風だから、海なんかでは陸地程ハッキリは分からなくなる。でもナルは水だから、この世で目の届かない場所なんか無くなるよ」
そう言ってナルの魔力と自分の生命霊気を混ぜ合わせ、感覚を共有させた。生き物の呼吸、動き、音、風の流れ、その膨大な情報の先で、どこかとても静かで温かで、これが風かと初めて形のない物に触れられると思った所で手がどけられた。
「気分は悪くないか?」
聞かれ、進を見上げながらそのまま崩れるように尻もちをつくナルに、他の者が駆け寄ろうとするのをオルギウスが止めた。
「今のが風の感覚。わしには水の感覚は分からんから、どう違うかとかは自分で探してな」
とりあえず身体強化と一丁の銃で標的をしっかり撃てるようになることが目標かなとしゃがんで目線を合わせるように言う。
「、何いまの!すごい!あれ!なに!?すごい!!」
「風の感覚だよ。わし風属性だから」
「あれ!僕にもできるようになるの!?」
「ちゃんと訓練すればな」
「やったー!!」
勢いよく抱き着いてくるナルをよろける事なく受け止め、そのまま抱き上げて豊と至のいる所に連れて行く。
「今ので相当消耗しただろうから、至に気力を回復してもらいな。その後で豊にホルダーの調整をしてもらおう」
「何をしたんだ?」
「わしが普段見てるもんを見せた」
「見る?」
「すごかったよ!森の向こうも!街の向こうも!すごく遠い所まで見えた!!」
「あの視野があれば照準なんて関係ないだろ?」
「うん!!」
「ただ、これやるとすごい疲れるんだ。だから甘い物を食べな」
太もものポーチからチョコレートの塊を一つ出し、三分の一にして、一つを先に食べて見せてから残りをナルとイーラに食べさせる。それを見て、進の真似をするように齧りついた二人は眼を輝かせた。
「おいしい!!」
「イーラも気に入ったか?あ、様」
「イーラでいいわよ。今の私にもやってくれる?」
「うーん、出来るけど、イーラには邪魔になる感覚だろうし、やらないかな」
「どうして?」
もう一つのチョコを出して半分に割ると天心と分けて食べ始める。
「イーラは、自分で自分に合う方法で世界を見られてるみたいだからなー。わしの”見方”は逆にその持って生まれた感覚を鈍らせる事になると思うよ」
それはヘレンやミッシェルも同じだと言う。
「二人も相当頑張ったんだろうな。もう自分の”見方”を持ってるから、千本桜みたいな戦い方をするにしても、もうそれに必要な視野は持ってる。こういうのはどっちかっていうと前線に出るタイプには向かんかもな」
「ススムは?強いんでしょ?」
「みのり屋の黒服よ?」
「戦えば強いんだろうが、わしは”狩人”だからな」
狩人と戦士は戦う理由も戦い方も違うからと笑って最後の一欠けらを口に入れる。
「イーラは戦士に向いてるし、ナルは狩人に向いてる。まだなんの”見方”も持ってないからわしが見てる物を見せた。これから自分で”見方”を見つけていく中で邪魔になったら申し訳ないけどな」
まぁでもと、立ち上がってナルの頭を撫でる。
「昨日オルギウス様が、この国以外にもあるって言ってた理由くらいは分かっただろ」
「うん!」
大きく返事をしたナルに笑い、イーラの頭も撫でて茂たちのいる場所へと戻っていった。
「今日の夜は、いつもより数時間早く寝かせてやってくれ。今は疲れすぎてハイになってるけど、かなり消耗してるから」
ナルの母親である第三王妃に小声で話しかける。
「そんなに疲れているの?」
「疲れてるなー、わしは一日の半分くらいは寝ないとやってられない」
「ススム殿は、本当にそれだけの休憩を取られています」
クミーレルと副錬金術師団団長のマウロが証言をしたので、疑いの余地はない。
「皆様がお帰りになった後お昼寝をしていますし、夜も夕食後すぐにお休みになっているそうです」
「授業中の居眠りはそれでか」
「なんでも知ってるな」
そんな話をし、一区切りついた所でギルが指輪を差し出してきた。
「この指輪で弓を作ってもらえる?」
「いい素材だね。これなら実戦にも使えるだけの細工ができるよ」
指輪を確認して頷いた茂が指輪を預かり、今日の授業後に魔導武器にして渡す事になった。
という事で、今日の訓練も茂の代わりに圧紘がコピーを作ることになったのだが、それなら自分たちも茂の作業を見たいと錬金術師達が言い出した。
「いや、良いけどさ」
「こんなチャンスは早々無いでしょうしね」
この日の訓練は大量の圧紘が魔法で追いかけて来る日となった。
訓練と授業が終わり、武器を見てみようと今朝預かった指輪を収納バッグから出す。
「この形がなじむようなら来年から自分で作れるように研究とかしてみようかな」
渡された指輪に魔力を通し、使い方の見本を見せてくれと茂の掌に戻す。
その指輪は人差し指にはめるとサイズが代わり、茂がはめるのにぴったりとなった。
「ギルくんはモッコウバラと相性がいいから、どこででもバラが咲かせられるようになるよ。それだけ魔力量もあるし、魔力増幅と循環を補助する陣を入れたし」
茂が手を向けた草原に、ニョキニョキとバラのツタが生えて来て美しい花を咲かせる。
「まぁ!」
これには王妃たちが嬉しそうな声を上げた。
「観賞用として日常使いしても平和でいいよね」
「平和じゃない時は?」
「こんな感じかな」
棘のついたツタが蠢いて昨日的にした木に絡みついて行く。
「痛そう」
「動いたら動いただけ痛いだろうね」
二人でそんな会話をし、草原に咲いていた花が枯れて棘がびっしりと敷き詰められた。
「侵入不可じゃない?これ」
「火には弱いだろうし、鉄壁にはなれないだろうけど、近づくには根性がいるだろうね」
怪我をしないように触りながらギルを見る。
「まぁでも、焼いて近づいて来てもこういう事もできるよ」
一本の巨大な棘が、木を根元から真っ二つに割いて見せた。
「・・・うん。僕も普段の言動に気をつけないと、あっという間に暴君とか言われそう」
「ギルくんなら優しい王様になれるよ」
「はは、頑張る」
「こんな感じで杖の代わりとしても使えるのと、弓としても使えるようにしてあるよ」
魔力を注げば、指輪を中心にツタが伸びて一つの弓となった。
「矢はバラね」
「これ、矢として成り立つ?」
「成り立つよ。自分の魔力で作ったバラに限られちゃうけど」
一本のバラを射って見せれば、しっかりと木に刺さったので見ていた者たちから感嘆の声が漏れた。
「で、ギルくんは離れていても自分の出したバラを操れるから、こうやって遠隔操作したりも出来ると思うよ」
木に刺さったバラが蔦を伸ばし、真っ二つにした木を縛るようにまた一本の木に戻していく。といっても、見た目が痛々しい。
「これ、襲われてやり返したら僕が悪い事にならない?」
「うーん、花とか咲かせとく?」
「ブッ」
よりえぐくなったと何人かの生徒たちが吹き出すので、アディが顔を背けて注意をしていた。しかし、とても震えている。
「ここまで来たら逆に笑ってくれた方が楽になるんだけど」
「これで高笑いとかしれたら魔王みたいになれるね」
「やめて、しないから、そう言うの」
「柔和なギルくんが使うから効果があると思うんだけどねぇ、普段温厚な人ほど怒らせちゃダメってよくいうし」
「・・・これもロマン?」
「個人的には良いと思ってるよ。まぁ、平和的な使い方で終わるのが一番だけど」
そう笑ってただの指輪にもどし、ギルへ手渡した。
「ギルくんが王位を継いだらお城の中をバラで埋め尽くしてみたら?」
「すごくきれいだろうけど、城のどこにいてもいつでもヤれるぞって無言で脅してるとか言いがかりつけて来て反感を買いそう」
「貴族社会怖っ」
「素直にキレイって言っとけよ」
生徒たちと楽しそうに話しているギルに、オルギウスとマリーがどことなく優しい表情になったのが分かった。それに気づいた者も、少なくはなかっただろう。
「ありがとう、あまり使う機会は来てほしくないけど、あ、すごいなじむ。うわー、今まで使ってた杖とは比べ物にならないくらい使いやすいよ」
弓の練習をまた本格的に始めようかなと呟きながら、親指にはめた指輪を見ていた。