7.学園生活
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次の日から七日間、錬金術師科二年と教師陣半数、術師団は人生初と言っても過言ではない程大声を上げながら森を走り周っていた。
走り始める前に持たされたポーションは味に感動する暇もなく早々に使い切ってしまった。
「問題です」
「だずげでー!!」
「この草は何でしょうか」
「ばー!!」
「トリバブト草!!」
「正解。はい、ポーション」
小さなグミ状のポーションを口へ入れれば、すぐに無くなる。
「へ、た、たすかった?」
「頑張って走ってね」
「え、あああー!!」
また叫んで走り始めたレイモンドと、現津に抱えられながら問題を出していく茂。問題に答えながらシャボンで攻撃を防ぎ逃げるメイナ。錬金術師科だけ、訓練の難易度が高かった。
「頑張ってるね」
「ばっ!なにっ」
ガウェインがローランドを担ぎながらアディを守っていたので声をかけた。
「問題です」
「はぁ!?」
「この器具の名前は何でしょうか」
「な!」
「三角フラスコ100ml!」
「正解。はい、ポーション」
ローランドにマナポーションを飲ませると、魔力切れから復活して眼を覚ました。自分がガウェインに担がれている事に驚いていたが、お構いなしに話しかける。
「ちゃんと大声を出しながら走ってね。反撃は身体強化を使えるようになってからの練習だから」
そう言って別の場所へと行ってしまう。
一年組が問題に答えられるようになっていたので、二年組と教師陣、術師団たちもどうにか走り続けられていた。
訓練には他のみのり屋達もいるどころかモンステラの家族だという火の民達も参加している。
「ノワ、森を操って休んでいる者がいないように攻めてください」
「プイプイ」
容赦なく殴って来る進達と魔法で絡めてを仕掛けてくるガーフィールたち。
「ホーキンスは行かないの?」
「身体強化が使える者が増えてからな。転弧も行っているし十分だろう」
「それもそっか」
ホーキンスとキリルは満たちと共にテントに残って食事と風呂の準備を手伝っていた。
こうして二時間みっちり全力で叫びながら走った参加者は皆草原の上で倒れていた。
「"お疲れさまでした"」
噎せたり泣いたりしている者たちに水を配りながらアニマルセラピーをしていくひなた達。そんな空間に、一年組の元気な声が聞こえてきた。
「ホーンラビットがいるってよ!!」
「群れ!?」
「群れだな、あっちに真っすぐ行けばすぐに見つけられるぞ」
「角と肝はポーション用に乾燥させて保存しておこう!」
「皮は?」
「何かに使えそうだし取っておきましょ!」
唖然としている教師陣を尻目に、進が指さした方向へ消えていくとホーンラビットを何匹も仕留めて戻ってきた。
「錬金術師科は集まってー!解体と処理の仕方を覚えてねー」
「沢山捕まえてきたね。お肉はもらってもいい?明日のお昼はこれでハンバーグにしようかな」
「ハンバーグ!」
「あたしキノコの餡掛けがいい!」
「僕はデミグラス煮込み!」
「中にチーズ入ってるのって出来るか?!」
「材料はあるから全部作れるよ」
骨で出汁を取ってスープも作りたいから出来たら肉と別々にしてくれという満に、みんなが張り切って解体をしていく。
初めて解体を見るアディたちの為に現津が説明をしながら一匹を捌いて見せれば、どんどんと顔色が悪くなっていく。
「明日からは自分でやってもらいます」
「・・・頑張る」
心が折れそうになりながら小さく返事をしていた。
そんな錬金術師科の後ろでは、教師たちがあんなに攻撃をしてくるなんて私念だろという声も上がったが、錬金術師の一年組が本当にこのやり方で自分たちは身体強化が出来るようになったのだと言い、どうにか落ち着いてもらった。
「私念を持つほど関りもなかっただろ」
「ま、毎日寝るなと注意していた!」
「安心しろ。注意されて当然のことをしていた自覚はある」
あった上で寝ていたと言われ、騎士科一年Gクラス担任が崩れ落ちた。
「進は本当に昼寝が必要なんです」
「悪気がある訳ではないので、」
利刃と蜻蛉切がフォローをし、火の民たちも説明をするがあまり意味は無いようだ。
「みんなー、食事の前にお風呂に入ってらっしゃーい」
「お風呂の使い方を教えてあげてね」
一年組に声をかけてから、全員をテントの中へ案内してその広さに皆呆然と立ち尽くしていた。
「これは!まさかアイテムバッグの応用ですか!?」
「やっぱり分かる人には分かりますよね。錬金術師は荷物が多くなるという弱点がありますから。あ、錬金術師科の卒業条件をアイテムバッグの製作ってすればいいのか」
そうすれば卒業後も困る事は無いだろうと独り言のように言う茂に、術師団と教師たちが叫んだ。
「アイテムバッグなどっ!失われた技術ですよ!?」
「今はダンジョンからドロップした物が高値で取引されているだけです!!」
「失われてませんよ。というか自分で造った方が安上がりと言うか、練習次第で容量も決められていいと思いますよ?」
「へ、陛下へ!陛下へ報告を!!」
「学園に戻ってからでも遅くありませんよ」
実際に造り始めるのはまだ先の話だと笑って、一年組を振り返る。
「みんな、髪切ろうか」
「やった!自分でやろうかと思ってた所なの!」
「邪魔になって来てたから助かるぜ」
一度テントから出て、椅子を出していると慣れたように並び始める。
「いつもシゲルが切っているのか?」
「研究職ってどうしてもノートを見る時間が増えちゃうからねぇ。アディくん達は、切らなくても大丈夫かな?っていうか専属の理容師さんとかいたら失礼になっちゃうか」
「私も手伝います」
「アキツは怖ぇからヤダ」
「仕上がりは良いと思いますよ」
「過程が大事って実感したわ」
「私のをお願いしようかな」
「お任せください」
「シゲルのを切る時は安心して見てられんのにな・・・」
「先輩たちも切りませんか?さっぱりしますよ」
全員の髪を切り、改めて風呂へと入ってもらう。
男湯はみんなに任せ、茂たちも森へ行っていたという事で女性陣と一緒に入って来るねと声をかけてから女湯へと入る。
今回の訓練には教師のナタリーと二年生のカタリナの他にも術師団の女性と他学科の教師が数名いたので、体にタオルを巻いてから風呂の使い方を説明していく。
「お湯に浸かる前に体の汚れを一度落していただいて、ここにある石鹸は体を洗う用、こちらのボトルに入っているのは髪を洗うシャンプーと、その後に保湿として使うリンスになります」
「嘘!髪がツヤツヤになっていくわ!!」
「こんなすごい物を使って良いんですか?!」
「このシャンプーってすごいよね」
「あたしも作れないかな」
「メイナちゃんはこういうのを作るのに向いてると思うよ。それこそ植物とか動物とかの効能とかポーションとかと混ぜたら直ぐ作れるんじゃないかな?」
体と頭も洗い、たっぷりの温かいお湯に浸かると体から力が抜けていく。おしゃべりに花を咲かせてから出れば、こちらもツヤツヤになった男性陣が待っていた。
「お待たせしました」
つむぎ達に水をもらい、席に座ればすぐに食事が用意されていく。
食前の祈りを唱えてから食事に手を付け、こんなに美味しい物を食べたことがないと全員ががっつきだす。
といっても、教師と術師団たちのほとんどが貴族出身なのでとても上品に食べているが、御代わりが続出した。
食事が終われば食休みをしている間に至の歌を聴く。
「やっぱ、イタルのこれ気持ちいいよなー」
「今度からは毎回来てくれんだろ?最高だよな」
自分たちの時は数日に一回くらいだったからと小声で呟く一年組。
午後からは一時間だけ茂が授業をし、錬金術師科以外は大きな馬車に乗って学園へと戻っていく。その馬車を引いているのは三国や曙たちだ。
「よしよし、行くぞ三国」
「ブルㇽ」
「本当にデケェな、ミコク」
「あんなに小さかったのに・・・」
「モモノスケもデカくなるよな・・・」
「茂さんが手を加えたからこそですね。普通はサイズの変化などありえません」
「さすがにそうだよな」
いくらホムンクルスが伝説級の代物でもそうだよなと、安心しているアラン。
しかし、よく考えてみるとその伝説級の代物でも無理な事が目の前で起こっている。
「モコは、そんなに大きくならないね?」
「乗ったりとかじゃなくて、毛をくれる方がメインだから」
「メメメ」
「ホムンクルスって力持ちだから、サイズに関係なく人を数人乗せるくらい問題ないしね」
「日輪も背中に乗せたりしてくれるよ!」
「ギャッ!」
他学科の教師陣は学園へ戻ったが、錬金術師科はそのまま二時間ほどテントで勉強、薬草集め、ポーション造りとなった。
すると、昼寝から起きて森の散策へ行っていた進が戻って来て手の空いてる奴は手伝ってくれと声をかけてきた。
「梅が生ってた」
そう言って青梅を見せてくる。
「青いスモモ!?」
「それは毒がありますよ!!」
「ちゃんと処理すれば食べられますよ」
「食べられるんですか!?」
「とっても体に良い食材になります」
「梅干しも作りたいけど、みんなにはシロップとかの方が飲みやすいかな?」
「梅シロップか。確かにあれは飲みやすいかもな」
梅を採っててくれるならその間に蜂蜜を取って来るぞと言う進に、甘味が貴重な世界で生きているみんなが「やる!」と手を上げた。
進の案内で向かった先には青い梅が沢山生っていたので、茂たちが出した大きな籠がいくつも山盛りになるまで採取し続ける。
「その国によって生る時期って違うんだね?これから秋になるのに」
「梅って初夏ってイメージだもんね」
「こうやって水で洗って、枝を削った先でヘタを取るの。試しにナイフで取ってみるね?」
「黒くなった!」
「このスモモは金属と相性が悪いから、下処理の時点でダメにしちゃうんだよね」
「金属を嫌う植物があるんだな」
「銀食器に食事を入れて、毒の感知をするのと同じ原理だね」
「・・・食べて大丈夫なのか?」
「このままではいけませんよ。少量でしたらお腹を壊すくらいなので試したいのなら解毒ポーションを用意しますね」
「試したい奴いるか?」
「・・・やってみる」
「お前猛者だな」
「村に、あった」
ノアが一つを口に入れ、眼を見開いてからすぐに吐き出した。
「しっ、渋いっ」
「好奇心旺盛だなー」
喉がイガイガすると水で口を濯いでいるノアに進が取って来た蜂蜜を少し食べさせる。
「沢山取れた?」
「デカい巣が何個かあったからな、中々な量だ」
場所で集めている花の蜜が違ったぞと、太ももにつけている鞄から蜂蜜がたっぷり入った大びんを出す。
「あんな短時間で!?」
「わしは移動速度がそれなりに早いからな」
笑って、ヘタを取った青梅の中から形の悪い物を選んで水気をふき取るとキレイなビンに入れていく。
「形が悪いのばっかりだけど、いいの?」
「シロップはな、これでいいんだ。梅干しにするなら形がよくて傷がない方がいいけど」
「梅酒も作ろうか!沢山あるし」
「お酒?」
「ちゃんと保存しておけば腐ったりしないから、卒業式の時にでもみんなで飲もうか」
この国で子供に酒を飲ませるなという法律はないが、推奨している訳でもない。なので成人である16歳辺りで飲み始める者が多い。
「ウメボシってそんなに塩入れるの?」
「保存食だからね、上手に保存しておけば1~200年以上経っても食べられるんだよ」
「そんなに保存きくの!?」
「・・・美味いのか?」
「食べてみる?」
満がテントから梅干しを持ってやって来たので、みんなで食べてみる。
「スッパ!」
「スッパーい!!」
「ゲホッ、これは、ゲフッ、食べても大丈夫なのか!?」
「大丈夫だよぉ、ご飯と一緒に食べたら美味しいよねぇ~」
「巨大米との相性もいいぞ」
「体に良いんですよ。食欲がなくなっている時などは特に」
「こっちの梅酢も良いんだよねぇ」
「サイダーにして飲んでみる?」
「梅シロップも出そうか!」
梅干しの衝撃が強かったので警戒しているみんなが口をつけて驚きながら互いの顔を見合わせる。
「美味い!!?」
「あんなにすっぱかったのに!!」
「このシロップ!すごく美味しい!!」
「このシュワシュワとするっ、これはいったい?!」
「炭酸水ですよ」
「暑い時は良いですよね」
「訓練が終わったら作ってみる?松の葉でも出来るけど、それだと時期によって作れなかったりするから化学の力で作ってみようね」
なんならラムネも作っておやつとして持ち歩いてもいいよねと言われ、やる気を燃やしてヘタ取りに勤しんだ。
「皆様の故郷では、このスモモを”ウメ”というのですか?」
「はい、そうですよ」
花も愛でるし実も食べられるし、縁起が良いものなのだという。
「梅智賀の”梅”ですよ」
「・・・このまま食べたら毒なんだよな」
「すごく渋かった」
「梅干しにしたら”夫婦円満”の意味があるんだぞ」
「長持ちするのと、腐ったりしないからな」
「あー、なるほど」
「しっかり水分を拭きとってね。そうしないとさすがに蜂蜜でもカビが生えちゃうから」
「蜂蜜でも?」
「蜂蜜は殺菌効果があるんだよ」
「もしも怪我をしてポーションや薬が無い時は蜂蜜や砂糖を塗っておくと悪化を防ぐ事ができますよ」
「そうなのか?!」
「お砂糖の場合は混ぜ物が入ってたら悪化させちゃうこともあるから、出来たら蜂蜜か、自分で精製したお砂糖の方が良いね」
意外にタメになる知識だとバインダーを開いてメモを取る。
「一瓶ずつ教室においておこうか。ちょっとずつ変化するのを見てるのも楽しいよ」