7.学園生活
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王太后を別室へ案内し、茂も汗をかいたのでちょっと着替えてくると席を立つ。その間、空き教室では今見たものへ対する感動と驚き、衝撃が渦巻いていた。
そして、茂が戻って来てから王太后の様子を見に行き、全員でお茶会の準備がされている一室へと入る。
部屋に入った途端、イーラとナルだけでなく、女性陣を中心としたほとんどが目を輝かせてひなた達を見つめていた。
「メイドっぽいのがつむぎで、執事っぽいのがひなたです」
「かわっ、かわいっ」
ヘレンが乙女の顔をしている。
「この子たちにも触れないの!?」
「この子たちには触れていただいても構いませんよ。私たちだけでなく、お客様のおもてなしをするために生れて来てくれた子たちですから」
「触って良いのですか!?」
「やったー!!」
「すごい!ふかふかしてる!!」
マリーたちもモフモフと眼を輝かせて手や頭を触っていた。
「会話もできますよ。念話ですが」
「本当ですか!?」
目を見開いてから、恐る恐る話しかける。
『お忙しい中ようこそいらっしゃいました。本日は精一杯おもてなしさせていただきます』
「はわっ」
「皆さんもどうぞ、満ちゃんが作ってくれたお菓子です」
「お口に合うといいんですが」
「ミツルちゃんは制服が白って事は、非戦闘員なんだよね?」
「はい、なので家の中の事を引き受けています」
お茶とお菓子をひなた達が配膳し、全員に行き渡った所でお菓子の説明を始めた。
「本日は旬の果物を使ったケーキとタルトをご用意いたしました。こちらのお菓子は全て植物由来ですので、枢機卿様方もお召し上がりになれると思います」
「ありがとうございます。急に来てしまいましたのに」
「いいえ。卵や小麦、ミルクはアレルギーになる事もありますし、我が家にもお肉を口にしない者もいますからいつもストックしているんです」
だから気にしないでくれと笑い返した。
他のみんなも席について落ち着いているので、ビオラがどんな事が出来るか聞いてみてもいいかと声をかけた。
「陛下は風属性で、相当魔力量が多かったですが、」
話していると隣に座っていたイーラがビオラに触れて驚きの声を上げる。
「あったかい!」
「心臓である魔石にそうなるように陣を入れたんですよ」
「ビオラは触っていいの?!」
「主人の家族は触れられるんだったか」
「イーラ、今大切な話をしているのよ」
「ナルも、触るなら後で触らせていただきなさい」
母である第二王妃たちに注意され、素直に座りなおした二人に笑う。
「ふふ、王太后陛下。もしかしてこの国へ嫁ぐと決まったのは、魔力量が多かったからでしょうか」
「そうなの。年の近い子たちの中で私が一番魔力量が多くて、嫁ぐことが決まってから妃教育と一緒にコントロールの訓練も始まったわ」
なのにこちらへ来て、オルギウスが生まれてから暴走する事が増えた。母になったからだろうと周囲に言われていたが、ビオラがやっていたとは思わなかったと笑いながら頭を撫でる。
「失礼ですが、その時の”暴走”はどのくらいの規模でしたか?」
「侵入者、敵だけが被害にあっていたな」
オルギウスも顎を触りながら昔を思い出すように言う。
「では、きっと陛下がしてきたコントロールの訓練、経験とも言えますね。それがビオラちゃんの力になっているのかもしれません」
「経験?」
「ビオラちゃん、これを浮かせられる?」
茂がフォークを見せれば、一度頷いて宙に浮かせてみせた。
「これは魔法ではなく魔力操作のみで行っている様ですね。私達はサイコキネシスと呼んでいますが、使い始めの頃はみんな力加減が出来ず潰してしまったりします。なので危険視される前にコントロールの練習をするんですが、ビオラちゃんはそれがもう済んでいると考えて良さそうです」
「これも一緒に浮かせられる?」と皿を示せば、皿ごとケーキを浮かせ、さらにカップ、カップからお茶だけを取りだしてプカリと浮かせてみせた。
「十分ですね。ありがとうビオラちゃん。ここまで正確に操作出来るのは、多分コントロールの練習をしている間も常に一緒にいて経験を共有していたからだと思います。そして、卵の状態、つまり魂のまま陛下の側にいた事で共鳴度が上がった。こんな所ですかね?」
見て分かるのはこの辺までだと言い、ビオラに笑いかける。
王太后もビオラを見て、小さな手を握った。
「そうだったの。あぁ・・・、本当に、長い間願っていた事が、既に叶っていただなんて」
妃教育の孤独も、他国へ嫁ぐ期待や不安も、ずっと一緒に感じてくれていたのねと言えば、ニコリと笑った。
「となると、母上もここに通わなくてはならなくなったな」
「あ、そうですね。錬金術師にならないといけないんですよね」
「そうなっちゃいますねぇ」
「お祖母様も寮生活をなさいますか?」
ギルの言葉にアディが目を見開いていたが、意外にも本人が乗り気だった。
「そうしようかしら。祖国じゃ学園なんてなかったし、オルギウスが通っていた頃もあまり来られなかったのよね」
「お祖母様だけずるい!」
「僕たちはなんでダメなの?!」
「二人は学生になれる年じゃない。そもそも家庭教師から逃げるくらい勉強は好きじゃないだろう」
「シゲルの授業はおもしろそうだから良い!!」
「プレッシャーが凄いですねぇ」
「まぁ、机に齧りついてんのと実地じゃモノが違ぇよな」
「比べられるもんでもないしな」
梅智賀と進がケーキの御代わりをしながら頷く。
「ああそうだ、驚きすぎて忘れる所であった。これが王宮勤めだった者の紹介状だ」
「ありがとうございます。こんなに沢山いらっしゃるんですね?」
オルギウスの合図で侍女が茂に一枚のリストを差し出すと、現津が受け取って開き、中を改めてから茂へ渡す。
そのやり取りに、誰も何も言わなかった。
「本気で言ってたのか」
「そりゃそうですよ。来年から新入生のマナーを見てくれる人たちは必要ですからね」
入学してくる子達が皆高水準の教育を受けているのでは無いのだからと笑う。
「躾とは、身を美しくすると書くんですよ」
「?」
「ああ、ある国が使っている文字の話です」
バインダーを出し、身体と美しいと書いてから躾とその下に書く。
「ただ知識や力を身につけたって人にはなれません」
理系だけ、文系だけがいる世界程何も生まれなくなると笑った。
「文学も芸術も、人生には必要ですよ」
知れば知っただけ生み出すものの深みと幅が広がると言えば、アディが確かにと大きく頷く。
「先程ビオラを造っている所も、たった数日ではあるが錬金術に触れてみたからこそ、数日前の私とは見方が変わったんだろうな」
「身体強化の訓練が終わりましたら、学園長先生に許可を得て校庭にテントを張らせてもらいましょうか」
「わぁ!もしかして舞台やるの?」
「この国でも受け入れられそうな題材もありますしね」
歌劇がお好きであれば招待状を出しても良いかと聞かれ、楽しみにしているとニコリと笑う。
収納バッグから招待状を二つ出し、一つをオルギウスへ渡すようにつむぎの持つトレーに乗せればすぐに侍女が受け取ってオルギウスへと差し出した。
「教会側へも送ろうと用意していたのですが、直接お渡しできて良かったです」
そう言ってもう一枚をひなたに渡してフェアグリンへと差し出した。
「演目は沢山あるのですが、中には宗教的なものもあって、イアグルス教ではないにしろ快く思わないものもあるかもしれませんから、どんな内容なのかは事前に公開させていただきますね」
王家や貴族にとっても面白くないものもあるだろうしと眉を垂らせば、例えば?とマリーが首を傾げる。
「そうですね、"タイタニック"というタイトルのお芝居は貴族令嬢と平民の恋愛ものです」
「受け入れられる人と分かれそうだね」
「私"天使にラブソングを・・・"とかやりたいけど、どうだろう。アウトかな?」
「あれはセーフじゃないか?教会がまぁ、やんちゃしてるが市民の味方になってるし」
「"やんちゃ"をしているのですか?」
「神官さんたちと、マフィアボスの愛人をしていて、そういう生き方しか知らなかった女性との友情と成長の物語です」
「物凄く見てみたいです」
「ならセーフじゃないか?」
「どの演目になるにしろ、観劇が楽しみだな」
「私もです。人数に制限が無いとの事ですし、神官達の中に観劇希望者がいるか確認してみますね」
「そう言っていただけると気持ちが楽になります。至ちゃんの歌は迫力があるので演目の内容さえ許容していただければ必ず満足していただけると思いますよ」
「私も練習しておかなきゃね!」
「イタルちゃんは、歌が上手だったね。さっきも」
「うちの踊り子ですからね」
音楽関連は至の独壇場だと茂が笑う。
「授業中はよく鼻歌歌って毎日怒られてたよ」
「担任の胃に穴が空いていないことを祈る」
利刃が小さくため息を吐いた。
「いや〜」と笑っている至に、王族たちがなんとも言えない表情をする。
「でも至も魔法士科で授業するんでしょ?なら先生たちも分かってくれるんじゃない?」
「つーか、教会でも賛美歌とかは歌うんだろ?なら神官たちも体得したいんじゃないか?」
「練習が必要だけど、楽譜に起こしたのは魔法士ギルドにも公表するんでしょ?」
「うん!そのつもり。出来るようになったら助かる人多いと思うんだよねー!」
「難しいけどね」
「俺まだステップには乗せられねぇんだよ」
「僕も。声に乗せるのと全く違うよね?」
「アンは得意よね」
「でも魔力の消費が物凄いから、多分間違ってるんだと思う」
「ステップ?」
一年生同士の会話に皆が首を傾げ、アディたちも知らないと首を横に振る。
「お見せしましょうか?」
「口で説明しても分からないと思いますし、」
王族だけでなくフェアグリンたちもいるなら丁度良いんじゃないか?と言うことで、ひなた達に曲の演奏を頼む。
「どの曲にしよっかなー」
「魔法詠唱の時はみんな出来るのに、歌になったりステップになったりすると苦手になるのはなんでなのかな?」
無意識に出来るくらいなんだからコツを掴めばすぐだと言われ、そのコツを掴むのが難しいんだよとアランが呟いた。
「イタルの本気って、歌じゃ無くてダンスだもんね」
「歌も言葉も音もダンスも、全部同じだよ?」
「こんな言葉を使うと努力してないみたいに聞こえるからあんま言いたかねぇけど、そういう所が"天才"って思わされるよな」
「本当ですね」
「間違いなく天才ではありますが、馬鹿でもありますよ」
「いや〜、だってこれしかできないし」
照れたように笑っている至に、錬金術師科の皆がちょっと遠い目をした。
「この中に怪我とか持病とかある人っていますか?」
「何か重要なことか?」
「気力と体力ならどっちが良いかなと思って」
「・・・?」
「どっちものバージョンで良いんじゃない?事務仕事も肉体労働の人も混ざってるし」
とりあえず、絶不調な人はいなさそうだという事で、歌と踊りの2パターンで見せる事になった。
まずは歌と言うことで、ひなた達が演奏する中、楽譜を見せてその通りに歌って見せる。
至が歌いだせば、頭に直接イメージが流れ込んでくる。全員でそよ風の吹く大草原にいるような錯覚をしてしまった。
高い音で終われば、一瞬の沈黙の後誰もが拍手をして感動のまま歓声を上げていた。
その声に応えるようにお辞儀をして、みんなが落ち着いてからまた同じ曲が演奏される。
今度は現実で、無数の光が舞い踊る中大草原で横になっているかのような心地よい体験をしていく。至が腕を振り、ステップを踏む度にいくつもの光の粒に見える水の玉が皆の身体の中へと染み渡っていく。
光が身体へ入る度、細胞レベルで潤っていくかのような感覚がした。腹の奥底から気力が湧いてくるかの様だ。
とても心地良い。
耳の奥でコポコポと、聞いた記憶は無いはずなのに懐かしい音がした。
曲が終わり、至も動きを止めれば光る水の粒も消えていく。一礼をして、顔を上げればいつもの様に笑っていた。
「お疲れ様でした。妙にお腹が空いてるとかありませんか?」
「至ちゃんもお疲れ様。今日もすごく気持ちよかったよ」
「やっぱり踊ってもらった時と歌を聞いた時じゃ違いがあるよね」
席へ戻ってきた至に礼を言っていれば、ローガンとハリーが光属性だったのかと驚きながら聞いてきたので、首を横に振る。
「私は水属性ですよ」
「水!?水でっ、今のようなっ」
「確かに、回復魔法なら光属性が一番向いているかもしれませんね」
望が苦笑したように言う。
「ですが属性で有利かどうかがあるだけで、本人の素質とは関係がありませんよ?」
「みのり屋の医者である望さんは闇属性ですよ」
「闇、なんですか?」
「はい、そうですよ」
ベンジャミンが眼を見開いて望を見る。
「どの属性でも同じ魔法は使えるようになりますが、下位から中位までならその属性の特徴が如実に出ます。ですが高位になればなるだけ、属性よりも本人の技術と経験に依存してくるものですよ?」
「私のは反転術式という回復魔法ですが、逆に医療の知識と技術、経験が無ければ効果が薄れてしまうものですね」
「至ちゃんのは音や振動を使ってアプローチをしている物なので、効果範囲が自分で絞れない点や、魔力であって魔法ではないという点が回復魔法とは違いますね」
「人体の60~70%は水で出来ていますから、至の魔力が乗った振動をハッキリと受け取ることが出来るんです」
「その代わり、望みたいに直ぐに傷を治したりは出来ないんですけどね」
「マジで超高度な事してるよな」
「本人アレなのにな」
「至は”天才肌”ですからね」
「直感と感覚で最善に辿り着く嗅覚がすごいよねぇ~」
榊の言葉に、錬金術師科の一年組がまた遠い眼をしていた。
「魔法、ではない?」
「はい、違いますよ」
ヘレンもフェアグリン達も驚いている。
「至さんの生歌で演目見るの楽しみだなぁ」
「はい!」
そんな話をしてお茶会はお開きとなったのだが、フェアグリンが茂を真っすぐ見て口を開いた。
「みのり屋の皆さんは、神を信仰していますか?」
「していますよ。イアグルス教の神様とは違うと思いますが」
「それは、どのような神なのでしょうか」
「そうですねぇ、感覚をお伝えするのが難しいと思うのですが、多神教という考え方はご理解いただけますか?」
「はい、私個人としてはイアグルス教の神以外を否定する気はありません」
「でしたら、少しは感覚を共有できるかもしれません」
そう言って優し気に目を細めて微笑んだ。
「私たちが身近に感じている神様は、今いる神様や信仰している方々を否定する物でも、脅かす物でもありません。むしろ錬金術や医学を通して、深く深く知れば知る程、神様の存在を強く感じるものです」
この話も訓練中に授業をするので全員に聞いて欲しいと穏やかな声で言う。
「そこに信仰している人がいようが、そもそも人がいなくても、神様は常にいらっしゃいます。少なくとも私はそう思えるだけの景色を見ました」
「・・・貴女の授業が、今から待ち遠しいです」
「そのご期待を裏切らないように、尽力いたします」
笑いながらみんなで馬車のある広場まで見送りに行けば、ミッシェルが物凄く丁寧な礼をするので現津が「とっとと行け」を物凄く和らげて伝えた。
眼だけは笑っていなかった。
その姿にナルたちがちょっと怯えている。
「今日は本当にありがとう。心からお礼を言わせてちょうだい」
「とんでもございません。恐れ多くも王太后陛下をお茶会に誘った私にそのようなお言葉をかけていただけるなど、こちらがお礼を申し上げなければならぬ身でございます」
しっかりと礼の姿勢で頭を下げると、王太后が笑った。
「貴女と話していると、まるで同年代と話しているような、童心に返ったような、不思議な気持ちになるわ」
「光栄な、身に余るお言葉でございます」
「ふふ、私の事もファビオラと、名前で呼んでくれないかしら」
「身の程知らずな願いを口にする事をお許しいただけますでしょうか」
「ええ、聞かせてちょうだい」
「みのり屋の代表としてではなく、ただの茂としてファビオラ様とお呼びする事を許していただきたいのです」
「もちろんよ」
笑って抱きしめ合い、次は訓練で。半年後には寮で共に生活をしようと言って馬車へ乗り込んでいく。
馬車の中では、ナルがホムンクルス、イーラがゴーレムを作れるくらいの錬金術師になると言い、それをファビオラと、その膝に座ったビオラがそっくりな笑顔で聞いている。
「しかし、ゴーレムを子とするのなら、ビオラは私の兄妹になるのか」
「そうね、貴方のうんと年の離れたお姉さんかしら」
「コクン」
「私が弟なのか」
頷くビオラに笑い、城へ着けば後宮中がビオラに相当驚いていた。
しかし、オルギウスからもファビオラからも説明がなされたのでそこまで表立って大騒ぎをする者はいなかった。
ゴーレムというものがよく分からずとも、まるで人間のようなその姿が拒絶されなかった一因だろう。
特に、一緒に風呂にまで入ったのだから扱いはほぼ人だった。
「ふふ、本当に子育てをしているような気分だわ」
ゴーレムは主人とその家族にしか触らせないという事で、自ら髪を乾かしてやり、器用にまとめていく。
「男の子しか授からなかったから、ずっと女の子に憧れていたのよね」
まるで子供の頃のようにビオラと一緒にベッドへ入ったファビオラは、夢を見た。
現在から順に若返っていく、そんな夢だった。
侵入者に襲われた時、食事に入れられた毒に前王が若くして死んだその日でさえ、命の危険が何度となく襲いかかってきた。その全てを、運よく魔力暴走が起こって生き永らえた。
そして、魔力の暴走を起こす王妃に対する信用も、水面下で下がっていく。
権力にしがみついて息子を傀儡にし、国を牛耳るつもりなど毛頭なかった。
しかし、「無理だ」と囁かれる声に痛む胸もあった。その痛みを、さらけ出せる者など一人しかいなかった。小さな頭を撫でながら、涙を流したのも一度や二度ではない。
ついにはオルギウスがナルたちと同じか、もう少し幼い頃にまで遡った。
祖国で父が死んだと知らせが入り、墓参りの為に小さなオルギウスと共に国へ帰るその途中。国境で賊に襲われたのだ。
この時もビオラを連れていた。父がプレゼントしてくれた人形と共に墓前に立ちたかったから。
(そうだったのね。あなたは、私だけでなく、私の大切なものも守るために生れて来てくれたのね)
どんどん若返っていく夢は、ついに出会った日にまで辿り着く。
「ビオラ、今日が何の日か覚えているかい?」
優しい父がそう言って一つの大きな箱を差し出してきた。箱に収められていたのは、自分とそっくりな人形。
「ビオラ、この子が今日から君の家族だ。いつまでも味方でいてくれるよ」
愛しいビオラ。
そう言って優しくキスをしてくれた。
もしかして、5歳の誕生日が来る前から自分が他国へ嫁ぐことは決まっていたのだろうか。そんな事に初めて気が付いた。
「ビオラ、今日は何をしていたんだい?」
「ビオラに服を着せて、お昼寝をさせてあげたの!」
「そうかい。では、次は私の愛しいビオラが何をしていたのか教えておくれ」
眼が覚めると、見慣れた天幕があった。そのまま見つめていれば、ビオラが覗き込んできたので笑いながら頭を撫でる。
「ねぇ、ビオラ。私の味方でいてくれる?」
もちろんだと言う様にニコリと笑って頷くのを見て、涙が溢れてきた。
「年を取ると、涙もろくなってだめね」
昨日から泣いてばかりと、ビオラを抱きしめる。
「私、愛されていたのね。いつだって独りぼっちじゃなかった。もう、この年で気づくなんてっ」
呟きながら泣くビオラを、もう一人のビオラが優しく抱き返して頭を撫でていた。