7.学園生活
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次の日、お茶会が始まるまでにポーションを造ろうと頑張っていたお陰で、とりあえず一回目の訓練に必要な分は揃える事が出来た。
「お疲れ様」
「なぁ、もしかして、来年から新入生が入るたびにこれやんじゃねぇのか?」
二年生のリンクの呟きに、全員が頭を抱えて机に突っ伏す。
「ポーションもそうだけど、こういう技術系は数を熟してなんぼだしねぇ」
二年生と術師団だけでなく、アディ達までもが中級までのポーションを造れるようになったのだから間違いないと笑う。
「シゲルちゃんって意外と脳筋なとこある?」
「錬金術師なんて長くやってればみんな知的な脳筋になるよ」
初級は100%の確率で造れるようになったローランドに笑い、陛下たちが到着するまでゆっくり休んでてねと教室を出て行った。
「知的な脳筋・・・」
「騎士科は?」
「・・・ただの脳筋?」
「品性のある脳筋と言え」
「魔法士科は、・・・なんだろうな」
疲れ切ったみんながくだらない会話をしていると、豊が全員に新しい作務衣を持ってきた。
「靴も渡しておくね。これから訓練が始まったら変えたくなる事もあるだろうし」
「やっぱり柔らかい。すごい靴だよね」
「すぐドロドロになるけどな」
「でも破れたり切れたりしないよね」
「皆、訓練をした後に新しい靴をもらったのか?」
一年生たちの靴がキレイな事にアディが首を傾げると、一年生たちが全員視線を背けた。
「訓練が始まったら分かるよ」
「うん、楽しみにしてて」
「その反応は不安が湧いてくるだろ」
みのり屋は本当に規格外だからと、アランまでもが遠い眼をしながら笑う。
そんな話をして、着替えてから全員で王族を迎えに行った。
「急にお誘いしてしまい、申し訳ありませんでした。広いお心で受け入れてくださったこと、お礼申し上げます」
茂が礼を取りながら挨拶をすれば、ナルとイーラがすぐに飛びついてきたのでアディが慌てて注意する。
「二人とも!杖を突いている相手に飛びつくな!」
「あ、ごめんね」
「ごめんなさい」
「またお二人にお会いできるのを私も楽しみにしておりました」
謝る二人に茂が笑いかけ、王太后を見上げた。
「連れて来ていただけたのですね」
「ええ、外出に連れてくるなんていつ振りかしら」
後ろに控えている侍女を振り返りながら笑う先には、一体の人形がいた。
「おぅ、これはなかなか、育ってるね~」
「先生は後ろへ、キリルも下がっていろ」
「モンステラ、榊さんの近くにいてな」
圧紘とホーキンス、転弧が一歩前へ出て榊たちを庇う様に立つので、何かあったのかとミッシェルたちも警戒態勢に入る。
「思っていた以上に進んでいますね」
現津も、他のみのり屋の黒い制服を着ている者たちも妻たちを下がらせた。
「大丈夫だよ、誰も王太后陛下を傷つけたりしないからね」
茂が人形に笑いかけると、にこやかな声がこちらに向かってかけられた。
「みのり屋の皆さん」
「枢機卿!?」
「皆様もいらしていたのですね」
昨日の水見式が素晴らしすぎて神官たちのやる気もとてもみなぎっており、他にもどんな事を教えているのか気になったので来てしまったとローガン、ハリー、足下にベンジャミンを連れて笑顔で近づいてくる。
「起こしいただいてありがとうございます」
実は、今日は茂が王太后を始めとした王族をお茶会に誘ったのだと今の状況を説明する。
「よろしければ枢機卿もいかがかしら」
「よろしいのですか?」
「こちらとしても問題はありません。ただお茶会の会場へご案内する前に、少々大事なお話をする時間をいただきたいと思います」
「なにかございましたか?」
「全てが悪い事ばかりでは無いのですが、こればかりは私が決められることではありませんので」
そう言って全員を作業のしやすい空き教室へと案内した。そこで皆に座ってもらい、茂はファビオラと向かい合う。
「王太后陛下、ゴーレムというものをご存じでしょうか」
「いいえ、初めて聞いたわ」
「では、ホムンクルスとタルパ、ゴーレムとの違いも一緒にご説明させていただきますね」
ホムンクルス、ゴーレムは錬金術師が無から造り出す生命の事だと、桃之丞を抱き上げて見せた。
「ホムンクルスとゴーレムとは違い、タルパは知識さえあれば大体の方が創り出せます。どうしても相性はあるので生まれてくるまでに個人差はあるでしょうが。ですが、タルパ以外の種族は錬金術師でなければ造れません」
「え、この子は、動物ではないの?」
マリーの疑問に「違います」と優しく笑って桃之丞の頭を撫でる。
「この子は私が造ったホムンクルスです。うちのみんなが連れている子たちもそうですね。桃之丞以外は私が卵を造るまで手伝っただけで、どんな子にするかは、育てるのも全てみんなが自分で決めました」
「卵」
「魂が宿るための核です」
「魂」
「魂を、造る」
フェアグリンだけでなく、他の三人も眼を見開いていた。
「王太后陛下は、錬金術の才能がおありのようです」
「私に?」
「陛下、その子を抱いていただけますか?」
侍女の持つ人形を膝に乗せれば、空気が軽くなったのが分かった。
その事で毛を逆立てていた花丸と銀杏が威嚇を止めて毛づくろいを始める。
ミッシェルとヘレンも、少し体の力を抜いたように思えた。
「とても可愛らしい子ですね。面影が、どこか陛下を思わせます」
「あら、そう言ってもらえるのは嬉しいわ。実はこの子、5歳の頃に私に似せて造られたのよ」
自分はこの頃よりも髪の艶が減り、皺が増えて瞳の色もくすんでしまったが。そう言って優しく微笑みながら人形を見つめている。
「この国に嫁ぐのが決まったのは、おいくつの頃ですか?」
「そうねぇ、お父様に呼ばれた時、この子と遊んでいた記憶があるから、多分早くても5歳の誕生日後、6歳前のはずだわ」
「では、その頃から妃教育が始まったのでしょうか」
そう笑って人形と見つめ合う。
「元気な、おてんばな幼少期だったのですね。まるでイーラ様を見ているようなはつらつさを感じます」
「おばあ様が!?」
「あらあら、そんな昔の事忘れてしまったわ」
笑っている王太后と、驚いているその孫たち。それぞれの反応を見て微笑んでから、茂は優しげでありながら真剣な表情で王太后を見つめる。
「陛下、突然ですが、今覚悟を持って決断していただかなくてはならない事がございます」
「何かしら」
「この子は、そろそろ卵の中にいるのが限界のようです」
「卵?」
「この国に嫁いで来られてから、命の危険に何度合われたでしょうか」
ここには学園の生徒もいるとヘレンが止めようとするも、ミッシェルが手で静止し、真剣な茂の眼に王太后もしっかりと考えて答える。
「そうね、数えるのを止めてしまうくらいには、そんな事もあったわね」
「その中で、苦しむ姿、もしくは襲われる姿をこの子にお見せになった事はございますか?」
「ええ、一度ではなかったはずよ」
「では、そのいずれかの後、同じような事が起こった時に何か不思議な事が起こるようになりませんでしたか?」
「不思議な事?」
「そうですね・・・、例えば、声さえ出せなかったのに助けが来たり、誰もいないのに勝手に物が動いたり」
その言葉に、どんどん眼を見開いていく。そしてそれは、フェアグリンもだった。
「あれはっ、私の魔力が、暴走を・・・っ」
「自分を大切に愛してくれて、名前をくれた陛下を守るために生まれて来てくれたようですよ」
「なんて事・・・」
「まさかっ」
手で口を覆い、涙を溢す王太后にその息子であるオルギウスが肩を抱いた。フェアグリンの呟きも聞こえてしまう程、教室内は静まり返っている。
「して、覚悟とは?」
「この子は今、卵の殻の中で成長しすぎているんです。殻を破るためには錬金術の知識が必要ですから、このままではこの子は、殻の外へ出る事が出来ず苦しむことになります」
「苦しませたままだと、どうなる」
「考えられるのは”自我を失う”です」
今は王太后にも周囲にも無害な存在でいるが、それはいつまでも続かない。
「自我を失ったゴーレムに残るのは”守る”という強い意思のみです。生み出した親に向けられる感情、視線、その他全てを分け隔てなく害とみなして攻撃し始める可能性が限りなく高いかと」
「そんなっ、この子は今まで、どれだけ私を、いいえっ、オルギウスの事だって守って来てくれたのに!」
「私の持論で申し訳ありませんが、”愛”程強力で歪んだ呪いは無いと思っております」
「のろ、い・・・」
「陛下、覚悟を持って選択をしていただかねばなりません」
錬金術を学び、ゴーレムの主人になるのか。ゴーレムの卵をその手で終わらせるのか。
「おわ、らせる?」
「もう心配しなくても大丈夫と言って、眠らせてあげてください」
「・・・この子は」
そこで言葉を切り、膝に乗る人形を見つめる。
「私を、恨んでいるかしら」
「それはありえません。ゴーレムもホムンクルスも、主人にそういった感情は持ちませんから」
「持たない、のですか?」
「はい、主人の幸せだけを願って生まれてくるんです。そして、その生死は主人だけが握る事を許されます。何があろうと一生味方でいてくれる存在。共に助け合って生きるのか、もう一人で大丈夫だからと安心させて眠らせるのか。この子たちからすればどちらも幸せな事です」
主人には愛されていたという記憶と想いを残して行ってくれる。
どんなにエゴでまみれた言葉を使っても、そこには本当に絆があったと胸を張れるものをくれる存在だと微笑んだ。
茂から人形へ視線をずらし、手を伸ばす。いつもそうしているのか、淀みなく頭を撫でた。
「私はもう、こんなに年を取ってしまったけれど、今から新しい事を学ぶなんて、出来るかしら」
「ふふ、また私の意見で申し訳ありませんが、死ぬその瞬間に新しい才能が開花しても嬉しいですよ」
「・・・お前はその新しい才能で生き返るくらいしそうだな」
アディの言葉にみのり屋たちが笑いだしたので、王太后も眼を閉じて小さく笑う。
「陛下、オルギウス様の幼少期の事を思い出してみてください」
「オルギウスの?」
「ゴーレムもホムンクルスもタルパも、生まれたての子供です。もう一度子育てに取り組む気力があるかどうかの話ですよ」
子育ては体力がいるからと言われ、「そうだったわ」と笑いだす。
「ええ、そうね。元気に走り回って、なんにでも興味があって、今の私に追いつけるかしら」
人形の手を自分の手の平に乗せ、親指で優しく撫でる。
「決めました。私は錬金術を学び、この子の親になります。こんなに老いてからまた母になれるなんて、人生なにが起こるか分からないわね」
「これからの人生、年を取っている暇なんてなくなってしまうかもしれませんよ?」
「まぁ」
二人で笑い、茂は優し気に眼を細めた。
「陛下が錬金術をご自身の力になさるその日まで、私が支えになる事をお許しいただけますか?」
「こちらからもお願いするわ。私にはまだ、この子の殻を割ってあげることが出来ないもの」
話も終わり、人形を一つの机へ寝かせてもらい、他の生徒たちにも見学する許可を取る。
「本来ホムンクルス達は主人かその家族にしか触る事を許しませんので、今回は異例だと思ってください」
ここまで育っているからこそ出来る事でもあると説明をする。
「自我を失った状態で主人までいなくなった子は、誰の幸せも願えないか、この世全ての幸せを願うかのどっちかになるんじゃないかな」
「タルパだったら主人がいなくなっても生きてたりするもんね」
「こいつらの力でそれを実行されたら被害が国一つで足りるか分からんな」
「主人がいないんじゃ止めようもありませんからね」
「殺せるかも分かんないよね~」
「出来てせいぜい封印くらいかな」
「!!」
みのり屋の会話を聞いて、教師たちを中心に術師団、勘のいい生徒たち、フェアグリンたち三人の神官達が互いの顔を見合わせて口を大きく開けた。
「色々ありますよ。世界は広いんですから」
「うわっ!マジか!!」
「え?何?」
「いや、うん・・・、うわー」
「わー」
何かに気づいてしまった者たちが声を漏らしながら口を閉じ、分からなかった者たちは首を傾げ続ける。
「今はこっちに集中してね。特にゴーレムを造ろうと思っている人はちゃんと見て参考にして?」
王太后に声をかけ、この子をどんなゴーレムにするかといくつかの質問と許可を取り始める。
「瞼とかお付けしますか?このままが良いと言うのでしたら、少しお化粧などを新しくさせていただくくらいにしますよ」
人に近い表情をするように変える事も出来ると言われ、そんな事まで出来るのかと驚く。
「じゃぁ、人に近くしてもらおうかしら」
「かしこまりました」
「髪も少し増やしましょうか。沢山櫛で梳いてあげたんですね」
「髪色はこれでいいかなぁ~?」
「そうだね。後は、あ、防水の付与をしたら一緒にお風呂にも入れますけど、どうなさいますか?」
「まぁ!」
それも是非お願いと言う後ろでは、茂が必要な物を揃えていく。
「陛下、即席で申し訳ありませんが、私の手持ちの魔石をゴーレムの心臓にさせていただいてもよろしいですか?」
「もちろんよ。かかった費用は後宮へ請求してちょうだい」
「魔石はこの子の誕生祝いとさせていただきます。費用は技術料を請求させていただきますね」
「いくらであっても、金銭で買える時点で凄まじい幸運だな」
アディの言葉にクミーレル達が頷いていた。
茂は魔石に陣を描き、王太后へ渡す。
「無理なさらない程度に、魔力を注いでいただけますか?」
魔石を渡し、更に人形を分解していく。手や指の関節を造っていき、人間のように動かすのも可能となった。
「、至ちゃんっ、ちょっと落ち着かせてあげてっ」
魂と肉体が近づけば近づくほど、茂に触られる事を拒否し始める力が強くなっていく。
なので至の歌で沈静化を計った。
満がその範囲を絞り、万が一暴発してしまった時の為に皆を守る結界を張る。
「もう少し待ってねっ、もう少し、大丈夫、もう少し」
まるで人形に話しかけているかのように細工を施していく。ゆっくりと一つずつ組み立てられていく様は、間違いなく魔法だった。
途中まで繋ぎ合わせ、汗だくのまま優しく笑って王太后を振り返り、人形の腹の中に魔石を入れてくれと示す。
言われた通り腹の中へ手を入れようとして、驚いて手を引いた。
「あっ、温かいっ」
「それはこの子の魂ですね。卵のままでここまで出来上がっていたんです。今日陛下に連れて来ていただいて本当に良かったです」
さぁと促され、息を止めるように魔石を腹の中へ入れれば、なんの支えもなく浮いていた。
豊の作業も終わっていたので、そのまま元の姿へと戻して服を着せ、髪を整える。
そうすれば、まるで人間の子供のような姿となった。
「奇跡だ」
「これは、神業としか・・・」
用意していたバインダーにメモを取る事も出来ず、息を飲んでいる錬金術師たち。
「さぁ、王太后陛下。この子の名前を呼んであげてください」
ただ眠っているように見える子供のような人形に、起こすように声をかけた。
「ビオラ」
その声で瞼が開き、手をついて起き上がる。そして王太后を見て笑うと、両手を広げて抱きついた。
「ビオラっ、ああ!!そんな!こんな事っ、ああ!!」
涙を流しながら叫んでビオラを抱きしめ、崩れるように座り込んだ王太后をオルギウスが支える。
誰もが、滑らかに動き、まるで生きている人の子のようなビオラに息を飲んでいた。
「誕生おめでとう。これからは王太后様をちゃんと守ってあげられるね」
汗を拭って笑いかけてくる茂の言葉に、振り返って笑顔を深めた。そして、王太后に擦りつくように抱き着き直した。