7.学園生活
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まずは魔法士団員を見る流れになったので、団員の説明も兼ねてヘレンと共に席を一つずつ周っていく。
本人たちも周囲の者も、どんな変化が起こっているか分からない者が数名いた。
「お二方、申し訳ありませんがもう一度魔力を流していただけますか?」
新しい水を用意し、近くに座っていた二人に茂がほんの少し魔力を注いで前に出す。言われた通りに魔力を流し、その一つに口をつけて頷いた。
「あなたの魔力は他人の魔力を上書きできるようですね」
「上書き?」
「ナル様のように水質が変化している訳でもないのに私の魔力が消えています。魔力を足すと言う事は出来ますが、それを消して、というのは珍しいですね」
もう一人も同じだと言って笑った。
「珍しい魔力特性に二人も会えるとは思いませんでした」
そういって攻撃、防御、スクロールなどのどれが好きかと聞けば、一人は防御、一人はスクロールだという。
「防御はこの特性を使うと周囲にも分かりやすいかもしれませんね。ご自身の魔法障壁に相手の魔法が当たる瞬間、そこから自身の魔力を流す事が出来れば衝撃さえ無く消すことができるでしょう」
「本当ですか?!」
「はい、ただタイミングを掴めるようになるまで大変だと思いますが、そこは慣れていくしかないと思います。防御が得意だと思うという事は無意識下で出来ていたのかもしれませんね」
「わ、分かりませんが、自分が思っているよりも守りを固められた事が、何度かあります」
「多分、自分の意思でその力を使った時は今までの何十倍も効果が出て驚くことになりますよ」
茂の言葉に、驚きと希望が混ざった眼をして水見式を見つめる。
「あなたはスクロールが得意とおっしゃっていましたが、きっと正確な術式を描くのでしょうね」
「はい、常に高品質のスクロールを安定して書いてくれている一人です」
「こっ、光栄です!」
ヘレンの言葉に背筋を伸ばして返事をするので、笑ってから眉を垂らす。
「魔法インクはご自身でお作りになりますか?」
「いいえ!士団の支給品を使っております!」
「やはりそうですか」
「な、なにかっ、いけなかったでしょうか!?」
「いけなくはありませんが、きっとあなたもご自身の力を十分に発揮できていないだろう事は分かります」
「、まさかっ、インクですか!?」
「はい、インクには製作者の魔力が入っていますから、多分そこで効果を削っていると思います」
魔法インクは自分で作るか、魔力を込める前に買うかした方が良いという。
「もしも術師団に製作を依頼するのなら作っている時に同席して自身の魔力で作ってもらうと一度にそれなりの量ができますよ」
それとと、ヘレンを見上げて首を傾げた。
「これは個人的な興味というか、今まで感じていた疑問なのですが、スクロールに使われる羊皮紙は魔法士ギルドで取り扱われていますよね?以前別の国でその羊皮紙を見たことがあるのですが、その時は魔力の取り除き処理をしていなかったんです」
「?どういう事でしょうか?魔力の取り除き?」
「錬金術師が造る魔導武器や魔導具の場合は、使い手が本人なら自分に合う素材を組み合わせて造りますが、そうでない時はまず自分の魔力と反発してしまわないように素材の魔力の取り除きを行います」
羊皮紙も元は生き物なので、魔法は使えなくても魔力が消えるものではないという。
「物の持つ魔力と魔力特性は別物ですから」
そう言われ、ヘレンも他の団員たちも、クミーレル達でさえ「あ!」と眼を見開いている。
「そんなっ、当たり前のことをっ、思いつきもしませんでした」
「私は錬金術師という視点でしか物を考えられませんから、魔法は専門ではありません。生意気と感じる事も多いかと思いますが、そういった時も話し合いで擦り合わせられたらと思います」
素人の浅知恵がヒントになる事もあるから寛容に受け止めてくれるとありがたいと笑い、騎士団の水見式を見に行った。
こうして全員の水見式を見終わった。
「もしも今日分かった魔力の事で使い方のイメージが湧かない方がいらっしゃいましたら訓練の時にお声がけください。私は純粋な戦闘員ではありませんが、発想力には少なからず自信があります。後はうちのみんなにも聞いてみてください」
黒い制服を着ているのが戦闘員、白い制服が非戦闘員だと言い、みのり屋での常識のような説明もする。
そして、魔力と魔法の違いについての授業が終わり、イーラとナルが自分たちも錬金術師科に編入したいと揉め出した。
「私たちも今はポーション造りで教室に詰めていますからね」
きっと二人を退屈させてしまうと苦笑し、王宮へ戻っていく王族たちを見送った。
次の日、茂たちが迎え入れたのは教会の神官たち。午前と午後に分かれて一日授業をすることになっている。
「お越しいただきありがとうございます。お待ちしておりました」
「今日はよろしくお願いいたします」
枢機卿と挨拶をして教室へ入った。
ここで気づいたのは、神官は人間三割、他種族七割という割合になっている事だ。それも神官見習いとして子供が一人おり、ちょこんとフェアグリン枢機卿の隣に座っている。
至が「可愛いねぇ!」と挨拶をしている時からずっと頭を撫でていた。
「え、えっと」
「こちらは私の養子であるベンジャミンです」
教会にいる半数以上が人種にかかわらずフェアグリンが聖国から連れてきた者たちなのだという。
「そうだったんですか。イアグルス教の総本山ですものね」
山羊の獣人は大人になると角が生えてくるのでこの丸っとした頭は今しか触れないと、茂も撫でさせてもらった。
「ベンジャミンはまだ10歳ですから、もう数年もすれば角も生えてくるでしょう」
本人が望めば学園に入学させようかと話し合っているのだと教えてくれる。
「そうなんですね。入るならどの学科を考えてるの?」
「その、・・・まだ」
「そっか、獣人は身体能力も高いから騎士科か、それとも魔力を生かして魔法士科も良いよね。細かい作業とか嫌いじゃなければ錬金術師科もありだよ」
「でも、獣人は、人間より、魔力が低いって、言われています」
「それは人によるね?人間よりも魔力が高い人もいるよ?」
その言葉に、話を聞いていた神官たちがざわついた。
「この国は、人種差別がありませんよね?」
人間の創った国なので王侯貴族は人間が多い。とはいえその屋敷や領地にはいくらでも獣人族を始めとした多種多様な種族が暮らしている。
首を傾げる茂に、そこではないのだとフェアグリンがいう。
「この国、いえ、大陸では獣人を中心とした種族はほとんどが魔法を得意としないのが常識でしたので」
「あー、なるほど。”魔法”として体外に放出するのが苦手な方が多いのは確かですからね」
じゃぁ水見式をしながらその説明もしようかと桶とグラス、一枚の葉を全員に配った。
「枢機卿様は光属性の放出系ですね。もしかしなくても回復以外の魔法もお得意ですか?」
「そうですね、攻防共に人並み以上だとは思っています」
「枢機卿様の種族は元々”魔力”を魔法として形作るのが得意な種族ですものね」
尖っている耳と、まるで作り物のように整っている顔の造形。間違いなくエルフの特徴だ。
「私と進ちゃんは体外へ魔力を出して魔法という形にすることができません」
「ええ!?」
「これを言うと皆さん良い反応をしてくださるので面白いですね」
そう笑って種族で測れない事も沢山あるし、魔力量と魔力操作の熟練度がイコールではないと説明していく。
「ベンジャミンくんは、放出系の闇属性だね。この魔力量なら練習次第で魔法士科に入学しても問題ないと思うよ」
「、」
そんな事を言われたのは初めてだったようで、言葉は出てこなかったが表情は嬉しそうであった。
頭を撫でてから隣に座るローガン司祭のグラスを見る。
「ローガン司祭様は土属性の操作系ですね。魔力量もなかなかなようです。これから訓練で身体強化を体得すると思いますが、その時に魔力をさらに得意な方に伸ばす方法を見つけていきましょう」
フェアグリンのお供としていつも後ろにいる司祭と助祭。人間である彼らも聖国出身らしい。
「ハリー助祭様は火属性の強化性ですね。魔法を使う事と実際に体を動かすのはどちらがお好きでしょうか」
それによって変わるが、身体強化のコツを掴むのは早い方だろうと言って、他の神官たちの水見式を見て周る。そして、人間と多種族との魔力の使い方が違うという説明に入った。
「獣人、ドワーフ、エルフなどの種族は人間よりもそもそも肉体の強度と自然治癒力が高いんです」
人間が中傷になる怪我も、獣人なら軽傷くらいで済み、回復も早い。
「この肉体の強度は生まれ持ったものですが、自然治癒とその強度をさらに高めている理由は体外へ魔力を放出するのが苦手な点にあります」
「苦手なのに、ですか?」
「はい、うちで言えば進ちゃんがこれと同じことをしているんですが、体内で魔力を巡らせて強度を上げているんです」
もしもここで体外へ放出するのが得意だとコツを掴むのに少しかかるのだと言う。
「なるほど、一長一短ですね」
「はい、この大陸で魔力が低いと思われているのは放出が苦手だからだと思いますが、魔力が低いのではありません。体内で運用するのに使っているからです」
少しの沈黙の後、神官たち全員が立ち上がって雄たけびを上げた。
「神官ってもっと静かなイメージあったな~」
「みんな元気いいねぇ~」
「まぁ、聖国のスラム街は9割以上が人間族以外だったからな」
「大変だったのですね」
「容易く想像が出来てしまうな」
他国を周ってきた商人だからこそ実情を知っているみのり屋に、フェアグリンの表情も柔らかくなっていく。
その後昼食も一緒に食べてから教会へもどるのを見送る事になったのだが、スザンヌたちが運んできた料理を見つめて満が動かなくなった。
「すみません、皆さんは普段違う内容の食事をなさっているのですよね。今日は我々に合わせて用意してくださった様です」
「あ、いえ、内容のお話しではないんです。その、内容ではあるんですけど、改めて他文化を感じたので」
イアグルス教の教えとして、肉、魚、卵など、命を奪って自らの糧にすることは禁止しているので、皆基本的に菜食主義(ベジタリアン)となっている。ミルクは大丈夫らしい。
「訓練中の昼食は私に任せていただけますか?食べ慣れない料理がほとんどだとは思いますが、皆様の教えに背いたものはお出ししませんので」
「異国の食事が食べられるのはとても楽しみです」
そんな話をして、にこやかに学園を後にし、午後からの神官たちと交代した。
神官たちの授業が終わり、みんなで錬金術師科へと向かい、凄まじいスピードでポーションを造っているみんなに声をかける。
「今造ってる分が終わったら今日は終わりにしようね」
「もう夕方!?やべぇ!間に合うか!?」
「特級ポーション出来ました!」
「よし!二年は!中級どうだ!」
「すいません!私どうしても初級になっちゃいます!」
「アン!見てやってくれ!他にも手の空いてるやつは近くの奴らを見てやれ!」
「リックはそのまま特級作ってて!」
「裏切者!」
「一番ってレベルで相性良いんだからしかたねぇだろ」
「マナポーション飲んどけ」
戦場のような慌ただしい教室。
「ポーション造りは基本の一つだからね、それが出来るようになったら応用も早いよ」
笑いながらアディたちの作ったポーションを見て薬草を入れる前の処理の仕方をもう少し変えたらすぐに効果の高いポーションが造れるようになると、一本だけ薬草を切って見せれば隣にいたローランドとガウェインも覗いてきた。
「切っただけでこんなに汁が、何故だ?」
「薬草はよく見るとこう、横に繊維が沢山入ってるんだよ。そこを切るようにすると中に蓄えてた水分が出てくるの」
「そうなんだ、全然気づかなかった」
ローランドが興味深そうに薬草を見つめている。
「こういう事を知ると森に行った時、採取の仕方も分かって来るから面白いよね」
新しいメンバーに説明をしている内に他のみんなも手を付けた分は造り終える事が出来たので、全員で食堂へ移動してテラス席に座った。
新しいレシピで造ったポーションに相当感激したようで、眼を輝かせながら話している皆を笑顔で見つめる。
「神官さんたちっていつもオートミールとサラダだけなのかな」
「サラダがあるだけマシってか、豪華なんじゃないか?これから冬だし」
「蒸した芋とか食べてるっぽいよ」
圧紘が宙を見ながら口を開き、榊に笑顔を向けて食事を差し出した。
「診ただけですが、栄養失調の方はいない様でしたよ。もしかしたら回復魔法やポーションでカバーしているのかもしれませんね」
「あー、ありえるな」
「それは心配だね?」
「至が普段から果物しか食べないと知って態度が軟化していたな」
「私のは宗教的な物じゃ無いんだけどね」
「金剛なんて尊敬されてたわよね」
「訓練中の食事、初日は和食から初めて、大丈夫そうだったら大豆ミートとか出してみようかな」
「先に説明しておいたら大丈夫じゃないかな」
「食事に制限をかけるにしても、間違えれば命に関わる。こちらの話に耳を傾けない者たちでもないだろう」
金剛の言葉に、皆が頷いた。
「っていうか、フェアグリンさん、エルフって言ってたね」
「聖国との付き合いもあるし、しょうが無いよ」
「どういう事?」
「えっとね、この大陸以外の場所ではもっと沢山の種族がいるんだけど、その筆頭が精霊種っていう、寿命が無いのが特徴の種族なの。妖精種も寿命がないんだけどね」
「ああ、八百年前この大陸からいなくなったと言われているな」
「いなくなったのはなんで?」
「聖国が一人の魔族によって滅ぼされかけたからだ」
「え、そうなの?たった一人に?」
「その時の呪いが今でも聖国を蝕んでいる。我が国で人種差別はしないが、聖国では人間以外は魔族に連なるものとして激しい差別を受けている」
「呪いのせいで作物とか作るのも大変だから、人間であっても生活は大変みたいだけどね」
「この国のスラム街が天国だと思えるぞ」
「マジかよっ、聖国やばいな!」
「だからフェアグリンさんが王国に連れてきてるんだと思うよ」
「魔族怖」
「そんな事ないよぉ、みんないい人たちばっかりだよぉ〜」
「種族的な特徴があるんだよ。その一番触っちゃダメなとこを、当時の聖国が触るどころかぶち抜いちゃったんだろうね〜」
「触っちゃダメな所って?」
「魔族には"血が騒ぐ"っていう特徴があってね〜、人生かけてこの人だけ愛す!みたいな?そうなった魔族はすごいのよ〜、いろいろ」
「いろいろ」
「そんな魔族の、"血が騒いだ"相手に手ぇ出しちゃったんだろうね~、一国って規模を八百年間呪い続けてるとこを見ると、殺しちゃったかな?それも最悪な形で。呪いも弱まってる感じ無かったし」
「一国で済んでいるあたり、聖国を呪っている魔族は若かったんだろうな」
「一国じゃ済まなかった可能性があるのか?!」
「あるある〜。殺した相手が人間だった場合人間全員殺すくらい思うよ〜」
「被害が尋常じゃないな!!?」
「だからこの大陸から魔族どころか妖精種も精霊種も、中でも中立的な立ち位置の天の民でさえいなくなったんじゃない?」
「海の向こうじゃ、魔族の"血が騒いだ"相手に手を出すなんて誰も考えないもんね〜」
「そうだねぇ〜」
「他の種族はそういう"血が騒ぐ"とか無いけど、魔族と同じで愛情深いのと神聖性を尊ぶっていう特徴があるから、どういう状況だったにしろ魔族が本気で愛してる人を殺しちゃう人間にビックリして逃げたんじゃないかな?」
「もしかしたら自分の大切な人も殺されるかもって思うような状況だったのかもね。大陸からいなくなるって」
「そんな大移動する様なことなの?魔族の"血が騒ぐ"って」
「う〜ん、寿命が違うと分かりにくいかな〜?」
「さっき言った魔族とか、寿命がある様で無い種族って、本人の気持ちで若返ったり死んじゃったりするんだよ」
「気持ち次第で?!」
「魔族は生きるのに飽きたら、光の民は人生に満足したら、などと言われているな」
「天の民は考え事してたら死んでたとか言うよね」
「どういう事?!」
「天の民ってみんな頭が良いから」
「まぁ、誰かを生涯愛すってなる"血が騒ぐ"って現象?は、魔族にしか無いけど物凄く長い人生で一回あるかないかの大イベントなんだよ」
「種族が違って相手が先に死んだりしたら狂って死ぬか、生まれ変わりに会えるまで彷徨うかだもんね」
「やばっ!」
「それだけ命も人生も魂も全部相手に向けてんだよ」
「そんな相手を勝手な都合で殺されたら、そりゃぁ憎悪に塗れて一国呪っちゃうよ」
「ねぇ〜」
「それが出来ちゃうくらいポテンシャルが高いのがさすが魔族って感じするよね」
「うん」
「知ってか知らずか、聖国がそんな相手に手を出したのです。こんな大陸、恐ろしくて住んでいられないでしょう」
「・・・マジか」
「大マジ」
「で、では、聖国があの呪いから開放される事は、無いのですか?」
「んー、あるとすれば、殺されちゃった相手が転生してまた会いに行く、とか。聖国が聖国としてもう無人になるとか?無人になった所で悲しみは無くならないでしょうから、やっぱり会いに行くしかなさそうですね」
「八百年、経ってるね」
「魔族からすれば八百年などさして長いとは感じない」
「人間でいうと、どのくらいだろ。十年ちょっととか?」
「うわ・・・」
「代償がデカい・・・」
「末代まで呪うの典型例ですね」
「魔族の方々は皆さん情熱的ですからな」
「情熱的・・・」
「血が騒いだ魔族ほど信用度高いよ〜?好きな相手以外興味ないし。なんなら相手以外に触るのだって嫌がる人いるし」
「ねぇ〜」
「なんでそんなに詳しいんだ?」
「だって俺魔族だから」
「え、」
「は?」
「俺も魔族だ」
「僕光の民」
「俺も魔族」
「私は火の民です」
「私は天の民だな」
「うち(みのり屋)って異種族婚多いよね」
「一緒に行動はしてないが、もう一人魔族と結婚してる奴がいるぞ。後モネとカリブーも光の民と魔族だ」
「アキツとウメチカも?!」
「二人は違うよ〜。単に奥さんが大好きなだけで"血が騒ぐ"とは関係ないね〜」
「え、アツヒロさんって血が騒いでるんですか?」
「そうだよ。俺榊さん大好きだから」
ほらと、一度瞬きをして見せれば、瞳の色が変色していた。
「?!!?」
「これが血が騒いだ魔族特有の眼だよ。こうなってる魔族が、好きって言ってる相手にはちょっかいかけないようにね?っていうか、血が騒いでなくても魔族が気に入ったりしてる相手にちょっかいかけるって相当リスキーな事だよ」
そう笑ってまた普通の目に戻した。
「ど、どういう?!」
「みんな本当に魔族とかについて知らないんだね〜?」
心配になるレベルと呟き、この大陸にはいない種族について話し出す。その間も榊に食事を食べさせ、満足すれば自分が食べ始めるという、とても人間くさい姿を見せていた。
「魂が、二つ」
「覚醒?」
「覚醒すると二つあった魂が一つになるから、なんて言うのかな、パワーアップ?するんだよ」
「それも片方の魂は神が直接分け与えてくださった高エネルギーだからな。精霊や妖精などと言えば分かりやすいか?覚醒した魔族は他の種族とは一線を画く存在になる」
「そ、その覚醒条件とは?」
「生きてていい、愛されてるって自覚する事、かな?」
「?」
「自分ってなんで生まれてきたんだろうとか、理由は無いけどなんか淋しいとか、孤独感?とか感じた事無い?」
「・・・ある」
「誰でもあるよね〜。魔族もあるんだよ、そう言うの。で、長い年月それを抱えてるんだけど、無条件で愛されてる、生きてていいって実感した時に覚醒するの」
「無条件?」
「そ、悪い事しててもいい事してても、寝てようが起きてようが、生きてようが死んでようが、自分がどんな状況であったとしても生きてて良いって思えたり、愛されてるって自覚出来たら覚醒すんの。まぁ、ほっといても一万年生きてたら勝手に覚醒するんだけどね」
「一万年!?」
「大抵の魔族は、そうなる前に生きるのに飽きて死んでしまうがな」
「まぁ、なんて言うか、途方もない時間だしな」
「で、血が騒いだ魔族はそれとはまた違って、覚醒前と後でかなり違いがあるんだよ」
「覚醒前って、まだ魂が二つある状態って事ですよね?」
「そう、だから不安定っていうか、血が騒いでる状態?に振り回されたりしちゃうんだよね」
血が騒いだ相手に拒絶されたら狂ったり、愛しすぎて殺してしまったりと言う圧紘に、全員が怯えたような顔をする。
「そうなっちゃうのって、相手が魔族の言ってる”愛してる”を理解出来てない時だけどねぇ~」
「種族が違うとその辺難しいよね?」
「に、人間と違うの?」
「そりゃね~?”血が騒ぐ”って言ってるけど、要は魂の叫びだし」
「人間だけじゃないけど、浮気性の人っているでしょ?口では好きって言ってるけど、本心はそうじゃなかったり」
「そういう人に血が騒いじゃった魔族は悲惨だろうね~。自分の愛も軽く受け取られちゃうし、付き合えたとしてもまったく愛されてるって実感できないだろうし」
「・・・そう言われると、魔族の方がリスク高くね?」
「でしょ~?だからこそ、上手くいってたんなら幸せ最高潮なのよ。なのに納得できない理由で相手を殺されちゃったらもう、呪っちゃうよね~」
「ねぇ~」
「榊は、大丈夫なの?」
「うん、私も圧紘くんの事好きだし、いつも気にかけてくれてるから助かってるよぉ~」
「はぁっ、可愛いっ」
「血が騒いだ魔族でも、相思相愛だったら覚醒してなくても物凄く安定してるよ」
「俺もモンステラとの関係で不安になったことないな」
「・・・そうみたいだな」
モンステラに笑いかける転弧と榊に抱き着いて擦りついている圧紘を見て、なんか思っていたのと違うと言いながら食事を再開する。
「神官さんたちの、味の好みもあると思うけど和食が嫌いじゃなかったらお土産渡しても大丈夫かな」
「あー、大丈夫じゃないか?稲荷寿司とか炊き込みご飯のお結びとかだったら食えるだろ。味が無理とかだったら巨大米でも持たせるか」
「満の作ったもんが美味くねぇ訳ねぇだろ」
「味の好みは人それぞれだよ」
「巨大マイとはなんだ?」
「コレだ」
「・・・なんだこれは」
「米を品種改良してデカくしたもんだ。美味いぞ」
蒸してあるからこのまま食べられるぞと、一つを剥いて一口食べてみせ、アディに手渡す。
「・・・」
「私が先にいただきましょうか?」
クミーレルの言葉を無言で断り、一口小さく食べてみる。そして眼を見開いた後大きく齧り付いた。
「美味いだろ?」
「なんだこれは!パンとはまったく違うっ、なんというかっ、美味い!」
「皆さんも食べてみますか?」
満が収納バッグから皿に盛られた巨大米を出すとモネがトングで掴み、欲しいと手を上げた者の皿に乗せていく。
「美味しい!!」
「甘い!?え!美味しい!!」
「蒸しておけばこのまま持ち運びも出来るから便利で良いんだ」
「お弁当にもしやすいよね」
渡した分をもう食べきったアディを見て、進が口を開く。
「立場上しょうがないのは分かるが、毒見とはいえ食いかけをやるのは気分が良いもんじゃないな。錬金術師科に入ったし、ポーションも造れるようになったんだ。このまま何か料理を作れるようになったらいいんじゃないか?」
王族にそれはダメじゃないか?と何人かが首を傾げながらアディを見ると、本人がなんか乗り気っぽかったので口を開くことはなかった。
「スザンヌさん達にも声をかけてみようか。新しいレシピってそれだけでワクワクすると思うし」
「いいかもね!」
「あ、そうだ。明日王太后陛下をお茶に誘ったらオルギウスさんたちもみんなで来るって言ってたんだった。大事な話もあるし、テラスは止めて、上にある大きな教室を会場にしようかな」
「かしこまりました。つむぎ達に伝えておきます」
「王族が総出で来るのか!?」
「そうなんですよ。出来ればみんなも参加してね?特にこれからホムンクルスとかゴーレムとかを造りたいって考えてる場合は」
「ゴーレム?とはなんだ?」
「明日陛下たちにも説明するけど、先にざっくりとみんなにも説明しておこうかな?」
夕食中だというのに、バインダーを開いてガリガリとメモを取っているクミーレルたちを見て、苦笑はすれど止める者はいなかった。
「つまり、おばあ様がゴーレムを造った、という事か?」
「そうなるね。まだ本人にも言ってないけど」
ざわつくテラス内に苦笑する。
「無自覚にゴーレムを造った人が錬金術を知らなくて、気味が悪いって悪魔付きとか呪われたって勘違いして殺しちゃう場合もあるの。多分人がいればどこででも起こりえる事だよ」
「そんなっ・・・」
「・・・無知とは罪なんだな」
「明日陛下にもちゃんと説明するから、みんなも聞いててね。昨日見た感じ、急がなきゃいけない話だと思う」
命を生み出すのは簡単だが、そこからどうするかが一番重要な事だと食後のお茶を飲み、夕食を終えた。