7.学園生活
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
打ち上げをしようと教室へ入ると、そこはすでにパーティーのセッティングが終わっていた。
「優勝おめでとー!」
「みんなすごかったわよ!」
初めて見る者もいたが、一緒に過ごしているいつものメンバーもいるので警戒はしない。
「よくここまで入ってこれたね?」
「圧紘くんが案内してくれたぁ~」
「エンターテイナーとしても、今日の優勝はお祝いしたくなっちゃったからね~」
「誰?」
「入学の時に分かれたうちのみんな」
「ああ!言ってたね!!」
全員にグラスを配り、ジュースで乾杯をする。
「やったぜー!俺たちが優勝だー!!」
「もう落ちこぼれなんて言わせないわよー!」
叫んでいるジンとメイナがジュースをビールのように煽っているので、満が御代わりを注いでいく。
「こんな料理、初めて見た」
「お祝いですもの!こういう時は特別にしなくちゃね!」
子供たちに混ざってアランも一緒に騒いでいると、教室の扉が勢いよく開き転がるように三人の大人が入ってきた。
二年の担任であるマートンと、今は生徒がおらず閑職扱いされている元三年担任のナタリー、四年担任のクアンドロがその場で土下座をする。
土下座ってどの世界にもあるのだろうかと思ってみていると、三人が叫ぶ。
「打ち上げ中にも関わらず申し訳ありません!」
「どうか!!私たちにもその深淵を覗く機会をいただきたく!!」
「・・・もしかして、私に言ってますか?」
「他に誰がいるんだ」
アランにもみんなにもそう言われ、三人に向き直る。
とりあえず話は聞くから頭を上げてくれと椅子を進めていれば、また扉が開いて学園長が入ってきた。
三人の教師が一人の生徒に床に這いつくばりながら頭を下げている光景に一瞬固まったが、頭を下げている相手が茂であると気づくと納得したような顔をした。
「、先生方もいらっしゃいましたか。打ち上げ中申し訳ないのだが、少し時間をもらえるかな」
「私ですか?」
「ああ、そうだよ」
「急ぎなんですね。では、アラン先生、マートン先生たちのお話を聞いてあげてください。私も戻ってきたらまた参加しますから」
みんなにもよろしくねと言い、現津のエスコートで学園長についていく。
「もしかして、王太子殿下、もしくは国王陛下にお会いするのでしょうか。着替えなくて大丈夫ですか?」
「君は察しがいいな。陛下たちもそのままで良いとおっしゃっていたよ」
「そうですか、ローブだけでも着て来て良かったです」
そんな話をして、この半年間自分たちを見守ってくれていた事に礼を言う。
「私にできる事は、あまりにも少ない」
「いいえ、私たちにとって学園長先生の御助力がどれだけ安心感を与えてくれていたかは計り知れません」
アランが、立場がある中でも立ちまわってくれていると教えてくれたと言うと、眼を潤ませていた。
案内された学園長室には王族が二人いた。国王のオルギウスと、王太子のギルバート。
意外にも第二王子はいなかった。
そして王族の後ろに立っている三人の大人たち。その全員から様々な感情のこもった視線が送られる。
「ここは非公式の場だ、どうか気を楽にしてくれ」
「ありがとうございます」
席を勧められたので座り、従者が出してくれたお茶に口をつける。
「打ち上げを抜けてきたのだろう、あまり時間はとらせん」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「そなたから見て、この国はどうだ。学園の感想でもよい」
「私たちのような、自国民でもない平民の子供さえも広く受け入れてくださる懐の深さを感じます。学園からだけでなく、国からも。といっても、私が見てきたこの国などほんの一部ですから、生意気を言っている自覚もありますので、」
「構わん。余もそれを分かった上でそなたに聞いているのだ」
茂の言葉を止めて微笑み、真っすぐに見つめる。
「行商人として多くの国を周って来たと聞いている」
「はい、その通りでございます」
「他にも、平民を受け入れている学園はあったであろう。なぜ我が国を選んだ」
「陛下は、他の国が運営している学園についてどれほどご存じでしょうか」
「実際に通ったのはこの学園のみだが、それなりに交流のある国の事ならば噂くらいは耳に入って来る」
「それでは、私が見て感じた感想とは少々違うかもしれません」
他の国は一度学園に入れば、その国で働くことが確定してしまうのだと言う。
「私たちは行商人です。世界を旅して商売をする。それが楽しくてしかたがありません」
どこかに骨を埋めて定住する気は、まだないのだと微笑む。
「今日、スピーチで”井の中の蛙”という諺を知ったとお話ししたのですが、」
「ああ、あれは初めて聞く諺だった。上下に分かれて意味が変わるとは面白いものだな」
「私たちは、井の中にいる事を止めてしまったのです」
空を見つめて見つめて、空とは何かというその一端を掴み取った。
「それでも、掴めたのはほんの一端です。ですが、私たちを満足させるのに十分な成果でした。ですので、井の中を出て大空を、大海を、大陸を、自由に見て回ろうと思ったのです」
ちらりと、茂の持っている杖についている水晶が眼に入る。その水晶の中には白い真珠で一本の木が描かれていた。
「やはり、そうか」
小さく呟き、微笑みを向けてくる。国王のその顔に、同じ様に微笑みを返す。
「ご存じでしょうか。植えた覚えのない場所で、見知らぬ花が咲くのは鳥が種を運んで来るからなのだそうです」
「この国に蒔いた種が芽吹くには、どうすればいいと思う」
「踏み荒らすことなく、恵みの雨と陽が降り注げば勝手に大きくなります。成長しようとする力は、人が想像するよりもずっと凄まじいエネルギーを持っています。環境さえ整えば、ちょっとやそっとの嵐では折れない木にもなるでしょうし、枯れない大輪の花さえ咲かせて見せてくれるでしょう」
「・・・そうか」
満足そうに頷いて、少し明るい声で話題を変えた。
「行商というが、商品を売る以外には何をしている。演劇や歌謡はどこの国へ行っても人を呼ぶのに向いているであろう?」
「はい、私たちもそういった劇を商品として扱い、お客様を楽しませることもあります」
「そうか、では余の催す寸劇にも参加してくれると有難い」
「陛下も劇がお好きなのですね。ですが演じる側に立たれると言うのは、意外でございます」
「ははは、国王という立場にもなれば、そういった事も出来なくてはならんからな」
「多芸、という表現は不敬になるのでしょうか」
そう言って二人で笑い合う。
ギルバートは、とても12歳の子供には思えないと、隣りでそんなやり取りを聞きながら茂を見つめていた。
「ですが陛下、商人は口が上手いものです。商品の押し売りにはご注意ください」
意味ありげにそう笑い、一礼して現津と共に部屋を出た。
「ノアがついて来ようとしていましたが、進に止められていました」
「さすが」
後三日くらいは内緒にしておいて、驚かせようと笑ってキスをしてから二人で教室へと戻る。
中へ入れば望に手当されているノアと、それを面白そうに見ている圧紘たちがいた。
「王家の護衛には気づかれなかったのに」
口をとがらせているノアに、また森へ行って訓練だなとみんなで盛り上がっていた。
マートンたちの申し出で、学園祭が開けてからの授業は1、2年生の合同で行われることとなった。
しかし、二年生は五人と一年生よりも少ないので、このまま一年生の教室に来てもらう事になった。
教師も含めた全員が一つの授業をすることとなり、1、2年生も呼んで打ち上げ兼顔合わせパーティーへと変更された。
「学園長先生も認めてくださっているんですよね?」
「競技中ずっと説得してたらしい」
「・・・学園長先生って本当に心が広いですよね」
「そうだな」
実は一人で突っ走る性格らしいマートンの背中を見ながらアランとそんな会話をした。
それから三日間、学園祭が終わるまで観客席で二年生と交流を深めながら他学科の戦いを見ていた。というか、いつの間にかいつものメンバーの他に榊と優たちも一緒にいる。
昨日も、寮の開いている部屋で勝手に泊まっていた様だ。
「前にもサラッと聞きましたけど、なんで3、4年生っていないんですか?」
「あー、どこぞのお偉い貴族様に目つけられてな。最後は自主退学って事になった」
「虐めですか?どこの世界にも立場と権力を使う事が大好きな人っていますよね」
「お前は、本当に何歳なんだよ」
だが、その事件はこの貴族主義のような学園でも意外に大問題となり、関わったとされる教師と学園長の辞職という形で幕を下ろしたのだと言う。
なので、今学園に残っている教師たちもあからさまな権力主義を抑えているとも教えてくれた。
「そういう事でしたら、先輩たちが来てくださったのは良かったですね」
「ねー、知らない所で虐められてても助けてあげられないし」
「錬金術師を大切にしないのは発展の妨げだな」
錬金術師科ではないみんなにそう言われ、二年生たちがどこか安心したような空気を出したので出来るだけ優しく笑顔を向ける。
「久しぶりに水見式をやってみようか」
「懐かしくさえ感じるね」
「みんなもあれから相当強くなったし、魔力も高くなっただろうからねぇ。前とは違う結果になると思うよ」
「水見式、とは?」
「当日のお楽しみですね」
観戦をしながら今後の話をして過ごしていた。
学園祭の最終日、四年生の試合が全て終わった後に全学年がフィールドへ整列していた。
壇上では学園長と国王、王太子、枢機卿。その護衛だろう者たちに神官、教師たちまでもが全員並んでいる。
今日だけでなく、学園祭が始まってから四日間分の有難いお言葉をいただき、錬金術師科にも特別に声をかけてもらった。
そして、表彰も全て終わったところで、国王陛下自ら茂の名を呼ぶ。
現津がエスコートしようとするのを断り、本当に一人で全生徒、観客が見ている中で向かい合った。
貴族の令嬢のように美しい礼をすると、頭を上げるように声をかけられる。
「選手の中でも、そなたの力は眼を見張る物があった。まるで何が起こっているのか理解できぬほどであったぞ」
「身に余るお言葉でございます」
「そなたが如何にしてその力を身に着けたかも気になる所ではあるが、今は聞かずにおこう」
無言で礼をすれば、頷いて笑顔で口を開く。
「その力をこの国の為に使う事は考えておらぬか」
国王の言葉に、会場中がざわつく。これは飛び級どころか大出世、もはや貴族の仲間入りをしたも同然だ。
「出自の不明な私にそのようなお声をかけて頂きましたこと、心より光栄に存じます。ですが、そのような幸福は身に余るものでございます」
そう言って国王を真っすぐ見上げた。
「私はどこの国にも属していないしがない行商人でございます。王宮で、陛下のお側でその力を振るうにふさわしいだけの愛国心をお持ちの方が、この国にはいらっしゃいます。そして、学園では次代の方々が力をつけております」
だから自分は必要ないと、もう一度礼をする。
「聞くに、そなたはこの学園を卒業したのち、また旅をすると言っておるそうだな」
「はい、その通りでございます」
「その旅はいつまで続く」
頭を上げて、笑顔を深めた。
「長く旅をしていますと、沢山の文化に触れるものでございます。私はとある国でお祭りに参加した折、神へ捧げられるためにと金糸や宝石で見事に着飾られた牛を見たのでございます」
「牛?」
国王も、今まで真剣に聞いていた神官たちも、首を傾げるように互いの顔を見合わせた。
「その牛は一年かけて祭りの為に育てられ、毎日手厚く世話をされていたそうです。そして、それとは対照的に、他の牛たちは汚れ、粗末な物を食べておりました」
けれど、そこには自由があった。
「どちらにしろ、いつかは皆神の御下へ帰っていきます。それならば、私は、このまま天寿をまっとうするその日まで、ただ泥にまみれて遊んでいたいのです」
その代償が粗末な食事で、明日には無くなる命であったとしても。
そう言って微笑んだ。
「私に愛国心という物はございません。ですが愛情は溢れる程持っているつもりでございます。よそ者である私たちを受け入れてくださったこの国、学園でかけがえのない絆を得ました。このご恩に少しでも報いることが出来るのでしたら、私の持つ知識、技術を捧げたく思います」
差し出せるものはそれだけだが、受け取っていただけますかと一礼するとオルギウスが笑いだす。
「その申し出を受け入れよう。そなたが学園を卒業するまでの間、我等が神に捧げられるに相応しい衣を用意せよ」
いつの間にか、茂の隣には現津が立っていた。黒い作務衣の上から黒い法被を着ていて、茂の肩に一枚の羽織をかける。
「王命、承りました」
ニコリと笑って一礼する後ろでは、この学園で落ちこぼれと呼ばれる生徒たちが一列に並ぶ。中には初めて見る者たちもいたが、その全員が同じ模様の入った羽織、コートを身に着けていた。
「みんな、明日からは”みのり屋”として学園生活を楽しんでね」
全員が礼をするのは、赤い羽織を肩にかけた茂。その背中には、枝と根が絡み合っている一本の木が描かれていた。
「やる事は沢山あるね」
まずはみのり屋を正体不明じゃなくしようかと笑えば、会場中から驚愕の声が響きわたった。
教室で今後の計画を話していると、学園長とギルバートが書状を持ってやって来た。
「私たち、これから三年半は臨時講師って事になったよ」
「俺たちもなんだ」
「ちゃっかりしてんな~」
「”みのり屋”が全面的に協力してくれるって宣言したからね。あ、僕にも敬語とか使わなくていいよ。準備が必要だから今すぐって訳にはいかないんだけど、来年からこの科に編入してくるから。よろしくね」
みんなもギルって呼んでと言われ、生徒たちがざわつく。
「・・・いいの?」
「本人が良いって言ってるし、良いんじゃないか?」
一応みんなで確認をしてから、編入してきた時はよろしくと挨拶をしておいた。
「まぁ、肩書きが変わっただけで、今までとやる事はかわんねぇわな」
「なら今日から俺たちもここで過ごさせてもらおっか~」
「そうだね、何か手伝えることがあればしたいし」
「私たちもそうしましょうか。子供たちの教育は出来る事が多そうだわ」
「そうしましょっか」
「はい、魔法士科には興味があります」
「金剛も枢機卿とお話が出来たらいいわね」
「そうだな」
「学園の教師でもあるけど、王宮の特別講師でもあるんだね」
「どうするの?」
「やる事は同じだからね、順番はその時で変わっちゃうだろうけど、まずは水見式からかな」
「水見式?」
「向こうから学園にくるって書いてあるな」
「身体強化の訓練とかは王宮じゃできないし、ありがたいよねぇ」
「・・・あの訓練を陛下たちにもすんのか?」
「本人が希望すれば」
「身体強化って全員が出来るようになるんでしょ?なら僕たちもみんな身につけなきゃ。っていうか王族こそ出来なきゃちょっとかっこつかないじゃない」
「そ、そうかもしれませんが!本当に!辛い訓練なんですよ!?」
「熟練の騎士や一部の才ある者しか体得できないって言われてるんです。過酷なのは覚悟してますよ」
命の危険がないのなんて今しかないだろうからこの機会を逃すことはできないと言われ、アランが顔を覆う。
学園長もニコニコと笑って参加すると言ってきたので、一年生たちが大丈夫かよと止めにかかった。
「特別講師って、訓練中とか色々あると思うんだけど不敬とかにならないかな」
「そこはさすがにわきまえてるよ」
三年半という短い期間でどれだけ君たちから吸収できるか、こちらも必死なんだと言われ、それならばと茂も「これからよろしくね」と改めて笑いかけた。
「あ、宮廷錬金術師団がここの四年生として入学するよ」
「四年生?!」
「どうしても僕たちは半年遅れになっちゃうけど、仕方がないよね。編入する時は婚約者のスカーレットも一緒だからよろしくね」
「王族と宮廷勤めの四年生か、豪華だな」
「いつか、物理的に首が飛ぶんじゃないか心配だ・・・」
笑顔の絶えない二人を見ながら、アランが溢す。
「何はともあれ、まずは全員の水見式をしないと何も進められないね」
「シゲルたちが”みのり屋”って事にはもう納得しかないんだが、さすがに学園と王宮全員は大変だろ」
「私たちに出来る事ってある?」
「王宮って何人いんだ?」
「っていうか、どこまで?」
「とりあえず、王族全員と士団員、後は希望者って感じかな」
「士団員は仕事だから逃げられねぇとして、希望者は初日でもう来なくなりそうだな」
「うん」
「そんなにすごい訓練なんだね」
「七日間の我慢だよ」
「あ、みんなには水見式をやってる間ポーションを造ってもらおうかな」
「あー、必要だな」
「え、・・・待って、何本?」
サーッと血の気が引いていく錬金術師科と、ニッコリと笑う現津。
「宮廷錬金術師団も後から合流します。問題ありません」
「知ってるレシピじゃないだろうから、やり方とかも優しく教えてあげてね」
バインダーなんかも人数分用意しなきゃと言っている茂だったが、みんなはそれどころではない。学園祭で初めて優勝した学年だと言うのに、とても静かだった。
こうして、卒業したら合流しようねと言っていたメンバーが揃って錬金術師科の寮に住むことになった。
職員寮も空いていると勧められたが、もう部屋で荷解きもしてしまったのでと断った。