7.学園生活
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
個人戦は5人が出場し、トーナメント形式で昇りつめていくかたちになっている。
これにはノアとジンが出たがったので接近戦、遠距離戦のどちらもできるポーも出る事になった。
「う~!あたしも出たかった!」
「来年のお楽しみだね」
まだ最後の決め手に欠けるメイナは参加せず、アンは元々戦う事に消極的なので辞退。ガークも出たがっていたが、対人に使えるだけコントロールが出来るか不安が残っているという事で、こちらも来年までにはと燃えていた。
リックは戦うのは嫌ではないが、まだ準備が何もできていないという事で、団体戦に回った。戦いの中でも援護に徹する姿勢を崩さないので、その戦法が合っているのだろう。という事で、茂と望が個人戦へ参加することとなった。
現津には団体戦に出てみんなのフォローをしてもらう事になっていたので当然の選出だったのだが、5人でフィールドへ行くと本当に出るのかと茂だけ三度程確認されて笑ってしまう。
「いや、アキツがついて来たせいだろ」
「茂さんのエスコートは私の役目です」
「まぁまぁ」
ポーと望が空気を和らげ、他のクラスが戦っているのを見ながら自分たちの番になるのを待つ。
「ルールを聞いた時は驚きましたけど、本当に真剣で戦っているんですね」
「一応実戦を知るため?っていう理由があるみたいだよ」
「あそこに神官たちもいるぜ」
「回復役」
「そういや、シゲルとノゾムって武器持ってんのか?杖?」
「普通に武器も使うよ」
「私は医者としての知識と体術、魔法を合わせた感じと言ったらいいんでしょうか」
ダンジョンに潜った時も戦っている所は見なかったなと言えば、ノアが「ダンジョン」と呟く。
「今度はゆっくり見たいね」
「今日に合わせて猛スピードで進んじゃったもんねぇ」
今度行く時は素材集めで行こうかと言われ、三人の目が輝く。次は初級ダンジョンから良さげな場所を選ぼうと笑っていれば、ポーが呼ばれた。
「錬金術師科、ポー!」
「あ、はい!」
「頑張れポー!」
手を振りながら前へ出ると、小心者な性格がよく出たお辞儀をしたので、相手も油断したのか少し笑ったのが分かった。
「あんなにアピールしたんだけどなぁ」
「実力差も分からないのでしょう。まだ子供ですから」
「同じ年」
珍しくノアから突っ込みをいただいた。
剣を構える相手と、素手で構えたポー。合図が出され、騎士科の生徒が振りかぶってきたのでその腕を掴み、投げ飛ばす。
何度か同じことを繰り返し、相手が立てなくなったのでポーの勝ちとなった。
「一発入れてすぐ気絶させてやりゃいいのに」
「まだ、ちょっと怖くて」
「ポーさんも身体強化は上手ですが、使えない相手との手合わせはした事がありませんからね」
戦闘センスでいうのならジンとノアが高い。
「水晶を出しませんでしたね?」
「できる所までは、魔力無しでやってみようかなって」
ナイス向上心と騒いでいれば、待機組からも歓声が上がったので手を挙げて返事をする。観客席からは両親の声援も上がっていた。
次はジンで、相手の剣を折って勝ち、ノアは魔法を撃ち込まれる前に背後へ周って魔力を流し、動けなくする。
望は相手の関節を外し、勝利を宣言されるとガーフィールから「ブラボー!」と歓声が上がっていた。
「錬金術師科、シゲル!」
呼ばれたので立ち上がると、現津が一つの箱を出した。その箱の上部は丸くくり抜かれていて、手を入れて一枚の木札を引く。
「アラライラオ、うん、驚かせるにはピッタリだね」
そう笑って木札と杖を現津に渡し、一本足で前へと歩いて行った。
相手は魔法士科の女子生徒だ。
思いのほか敵意を向けられていて、どうしたのかと首を傾げたが始めの合図が出たので肩から下げていたがま口バッグから一枚の毛皮を出す。
「それは何ですの?」
「魔導具ですよ」
私は錬金術師科の生徒ですからと笑いかければ、面白くなさそうに顔をしかめて詠唱を始めた。
「では、参ります。”アラライラオ”」
茂の呼びかけに答え、毛皮が光るとふわりと浮いて茂をすっぽりと覆ってしまう。
そして、そこには一匹の黒い熊が現れた。
熊の毛皮を被っている茂ではなく、本物の熊が現れたのだ。
咆哮を上げながら熊が走り出せば、令嬢と観客から悲鳴が上がる。しかし、錬金術師科だけは目を輝かせて黄色い悲鳴を上げていた。
パニックになった令嬢が魔法を乱射してきたので、クルリと回転すると体の小さなイタチへと姿を変え、さらに近づいていく。狐、イノシシ、ウサギ、あらゆる毛皮を持つ生き物に変化しながら翻弄していると、魔力切れを起こしたのかその場にパタリと倒れて動かなくなった。
茂の勝利が宣言されても、審判でさえこちらに近づいてこない。
モゾりと、虎の背中が動いて動物の形は無くなり、ただの毛皮となる。
フィールドには、毛皮を肩から脱いでいる茂が立っていた。
「すげー!!シゲルすげー!!」
「どうやって造ってるのか教えてー!!」
「僕も造れるようになりたーい!!」
歓声を上げている応援席へ手を上げ、毛皮をしまってから現津が差し出した杖を受け取った。
「ありがとう」
エスコートされながら待機所へ戻れば、そこにいた三人にも大興奮で迎えられる。
「お前マジですげーな!」
「それっ、どうやって造るのっ」
「僕も知りたい!」
「今度授業の時に見せるね」
そんな話をしながら5人はどんどんトーナメントを勝ち進んでいき、ついに錬金術師科だけとなった所で望が棄権をした。
「錬金術の素晴らしさを見せつけるのが目的ですからね」
「あんだけ勝っといてなに言ってんだよ」
そう突っ込まれたが、もう棄権してしまったので仕方がない。
「こういう、”導く”というのが得意なのは茂か和、優なんですよ」
初めて聞く名に首を傾げていれば、茂が現津にここからクジはしなくても良いという。
「かしこまりました」
そう微笑んで三枚の木札を箱から抜き出す。
「やっぱり分かる?」
「はい、茂さんは本当に、偉大な方です」
「これからもそう言ってもらえるように頑張るよ」
杖を預けてから、ノアと共に前へ出た。
残りの試合数が少なくなったという事で、四つに分かれていた試合フィールドは一つにされ、さらに広くなっていた。
そんなフィールドの中央で茂は一つの巻物を出し、ノアと向かい合う。
合図と共に、持っていた短剣を投げつけてくるノアに、巻物を開いてそれを防いで見せる。
「”
名を呼ばれた巻物は光り、独りで巻き戻るとサイズが大きくなり茂の背中に背負われる形で収まった。
瞬きをした一瞬で茂の周囲に武器が現れ、いつの間にか投げられたクナイで服を地面に縫い付けられる。
眼を見開くが、すぐに上着を脱いで背後を捕ろうと死角に入るがそれを宙で回転して避けられた。茂の使った武器を使おうとしても持つことが出来ない。
それどころか触れる事さえ出来ない。
それなのに、こちらにはしっかりと攻撃が当たる。
自分が持っていた少ない武器と、体術のみで挑まなければいけなくなった。
身軽な二人の戦いは、空中戦にまで及んだがノアが茂の頭上に飛んだのが決め手となる。
「火遁、豪火球の術!」
「?!」
掌印を素早く結んだ茂の口から、まるで巨大な
真正面から炎に突っ込む形となったノアだったが、地面に着地した姿に観客が息を飲む。全身大火傷を負うか、焼け死んでいても不思議ではない攻撃だった。
そんな戦況だったというのに、ノアは無傷だ。
「本当に、魔力を練るスピードが上がったね」
「、ギリギリッ」
そう返して、力尽きたように膝をつく。
ノアの体の表面を覆っているのは、魔力特性で生み出した水で覆われていた。ノアの魔力特性は毒。その特性と水である事を駆使して火傷の痛みを麻痺させポーションを飲んで難を免れたのだろう。
しかし、そこで魔力切れをおこし決着となった。
笑いながら起き上がれないノアに手を貸し、待機所へと戻っていく。
望にノアとマナポーションを渡し、ポーと一緒に中央へとやって来た。
合図があり、ポーの周囲にはいくつもの水晶が浮いて、両手にはメリケンのように大ぶりな水晶の塊がはめられている。
そして、茂は大きな鬼灯の形をした宝石を出した。
「”ククルカン”」
ポーは初めから出し惜しみなどせず、浮かせていた水晶と共に殴りかかってきたがククルカンが茂の手から離れ、開く。鬼灯の実があるべき場所には大きな球体の宝石が輝き、辺りをいくつもの宝石が埋め尽くす。
飛んでくる宝石を水晶で打ち落とし、茂にも攻撃を繰り出すも、一瞬でも茂だけに集中すれば水晶を躱した宝石が飛んでくる。
どちらかだけに集中することは許されない。
そんな鬼気迫る戦いの中で、茂に手が届くと気がせいたところで、横から飛んで来る宝石に気づくのが一瞬遅れた。
気が付いた時にはこめかみに直撃していて、気を失ってしまう。
勝利宣言を聞き、倒れたポーを運ぶのもククルカンで行い、望にポーを預けてから鞄にしまう。
すると、ワクワクしたようにジンが話しかけてきた。
「俺とは何で戦ってくれるんだ!?」
「ジンくんは純粋なパワーが良いかなって思ってた」
そういって一本の刀を出して見せる。
「これもやっぱただの剣じゃねぇんだよな!うはー!!早く行こうぜ!」
「うっ」
走っていくジンを追いかけると、望に治療されていたポーを現津が文字通り叩き起こした。
「見ていた方が良いですよ」
フィールドの中心に立つ二人を見て、自分が負けた事を気にする間もなく、起こしてくれた事に礼を言う。
起こし方が手荒だった事は、望とノアの心にそっとしまわれた。
始めと合図をした審判が早々にフィールドの角へと走っていく。観客たちも次は何が起こるのかと見逃さないように固唾をのむ中、茂は刀を鞘から引き抜く。
そこには錆びてボロボロの刃がついているだけだった。しかし、
「”
その呼びかけに合わせて刀は光り、巨大な斧のような鉈のような武器へと変化した。
「で、でけーっ!」
「簡単に折れたりしないよ?」
笑いながら巨大な斧を肩に担げば、ジンも歯を見せて笑う。
「全部避けて俺が勝つ!」
「そういう真っすぐな所がジンくんの良い所だよね」
そして、力と力のぶつかり合いが始まった。
「だっしゃー!!」
大声を出しながら全身に魔力を巡らせ、まるで小さな台風のように向かってくるジンは、自らが起こした風で少し浮いている。
その攻撃を広い刃で受け止め、距離を取ろうと弾くもすぐにまた向かってくるのを繰り返し、ついに距離が取れた所で茂が大きく振り被る。
その姿を見て体の前で両手をクロスさせ、森で訓練をしていた時のように叫んだ。
「お前ら逃げろー!!」
その声を聞き、弾かれたように審判が客席へ逃げていく。待機所にいた者たちは現津の後ろに隠れ、控え席では満が結界を張った。
ジンの体からは今まで感じたことがない程の魔力が吹き出し、一瞬柔らかな羽根、のような風で包まれたような錯覚を味わう。
その一秒後、振り下ろされた野晒がフィールドを割った。
爆風に巻き込まれて飛ばされたジンが背中を強打し、身体強化が解ける。
「どうだった?」
「ぜって、追い、抜く」
「さすが!」
笑って野晒を持ち上げればまたあの錆びてボロボロの刀にもどり、鞘に納められて収納バッグにしまうと、小さな瓢箪を出した。ジンの隣りに膝をつき、頭を支えながらゆっくりと飲ませていく。
「はぁ!ポーションまで特級品だもんなー!どうなってんだよ」
「何回も失敗して、それでも繰り返してきた成果だよ」
手を出して起き上がらせ、瓦礫の山を二人で降りていく。
「シゲルすごすぎー!」
「どういう仕組みだよそれー!!」
控え席からも待機所からもやってきたみんなにわしゃわしゃと頭をかき混ぜられているジンに笑っていると、遠くから審判をしていた教師と他の教師、神官たちがアランを呼ぶ。走って行くが、すぐに戻ってきた。
「午後も使うから責任もって直せってよ」
「そりゃそうですよね」
頷いていれば、現津が前へ出て魔法陣を展開して戻していく。
「ありがとう」
「茂さんの偉大さを知らしめるためにこのまま保存しておいてもいいと思うのですがね」
現津のセリフにみんなで引きながら、午前の種目は錬金術師科の圧勝となった事を喜び、控え席へと戻る。
そこでもみんなに「ナイスファイト!」と迎え入れられ、昼休憩となった。
昼食も錬金術師科だけこの席で取る事になっているので、みんなでモネを手伝ってテーブルのセッティングをしていく。
テーブルクロスをかけ、椅子を均等に並べて座れば目の前に弁当が置かれたので蓋を開ける。
この日は毎年嫌な事が起こると厨房長のスザンヌを始めとしたコックたちが教えてくれたので、昼食はこちらで用意させてほしいと悪戯っぽく言うと快く了承してくれた。
スザンヌとは入学当初からの仲だ。
「今日は学園祭だから、ちょっと豪華にしてみたよ」
「わー!キレイ!!」
「すごいっ」
「よく作れるよなぁ」
「満ちゃんの料理は映えるよねぇ」
「シゲルもノゾムも料理うめぇし、さっき地面割ってこれだもんなー」
「僕この肉団子好き!」
「僕は、この色がついてる、炊き込みご飯?」
賑やかに話してはいるが、所作はキッチリとしており、マナーは守っている。
また観客席がざわりと揺れたが、それはむしろみんなの鼻を高くする材料だった。
食後はモネが入れてくれたお茶で優雅にティータイムをこなし、団体戦に参加する現津、アン、メイナ、リックとガークを見送る。始まるまでみんなで話していると、進が指でテーブルを叩いて合図を送ってきた。
振り返ったそこには久しぶりに見る第二王子と、その側近二人が歩いてくる所だった。
すぐに立ち上がり、礼の姿勢を取る茂の後ろでは、最早誰も怯える事無く同じ様に素晴らしい礼を取っている子供たちと、堂々と立っているアランの姿。
「どのようなご用件でしょうか」
王子たちから声をかけてくる前に口を開くという不敬を働いたのは、さっきフィールドの中央へ向かったはずの現津だった。
望は呆れたようにため息を吐いているが、本人は聞こえないふりを貫いている。
「っ、テレポートまで使えるの?君」
「ぜってぇシゲルの所に直ぐ行けるからって理由で覚えたよな、あいつ」
「そうかも」
「コクン」
ジンたちがコソコソと話しているのを、アランが「分かるけど」と止めるくらいには余裕があるようだ。
「殿下のご参加は明日ですが、今日も楽しんでいらっしゃいますか?」
いつまで待っても口を開かないので、不敬であるがこちらから声をかけてみる。すると「何をしたんだ」と真っすぐ見ながら聞かれた。
「この半年、みんな心の底から変わる事を願い、その願いを現実にするだけの努力をしてまいりました。その驚きとお言葉は最高の誉れとなる事でしょう」
笑いかければ、苦い顔をして手を強く握り込む。
「私もっ、してきたんだっ、努力を!」
「はい、存じております」
今の王子は2年生、側近の二人もそうだ。他の取り巻きがいない所を見るに、彼らはついて来れなかったのだろう。現津のように飛び級をして、追いつこうと必死だったのだろう事はよく分かった。
「この学園、国、世界中で、数カ月前と同じ者など一人もおりません」
「そんなもの!お前たちの前では、ただのっ、慰めだろう」
泣いてしまいそうな子供に、茂は優しく笑いかける。
「殿下、私たちと殿下の違いはそこにございます」
「、?」
「柔らかい土がなければ深く、広く、根を張る事はできません。人も否定されてはその才能が伸びにくく、自分を支える為に踏ん張る事が出来ません」
みんなも何度も失敗を繰り返してきた。けれど、その時自分を責める者はいつしかいなくなっていた。
「悔しがる自分も、出来ない自分も、努力してきた自分も全部、自分自身です。ここまで大きく成長した自身を傷つけるようなことはおっしゃらないでください」
自分を自分で踏み潰すのだけはやってはいけないと笑いかけながら腰を折る。
「今の殿下方がここにいるのは、数カ月前との大きな変化です。それを否定するかどうかが、私たちとの違いでございます」
その言葉を聞き、茂が自分を馬鹿にしない事にも驚き、何かを考えるようにゆっくり頷いた。
「邪魔したな」
「いいえ、お声がけいただきありがとうございました」
王子たちがいなくなったので、もう一度現津を見送り団体戦の応援に専念する。
「絶対に12歳じゃねぇだろ」
「ちょっとおませな12歳ですよ」
「”おませ”で済むか」
吹き出して笑っているカリブーと進にもため息を吐きながら、アランがフィールドを見た。
そこには、当たり前のように圧勝していく五人がいた。
現津は元々フォローしかするつもりがないらしく、戦っているのは四人だけだ。
ガークを先頭に、メイナが攪乱、リックが中衛として立ち回り、アンが後衛。素晴らしい連係技を見せているが、ガークがまだコントロールしきれていない力は現津のフォローで上手くやっていた。
フォローといっても、もっぱら敵の回復というのもアレな話だが。
「学園祭が終わったらどうします?特別カリキュラムも終わりにしますか?」
「ここまで来てそりゃねぇだろ」
「そうだ!俺まだ魔導具の造り方知らねぇ!」
「コクコク!」
「僕もあんな武器造りたい」
「ふふ、じゃぁみんな戦い方が違うからどんな武器が良いか考えなきゃね」
素材集めで初級ダンジョンへ行き、そこで弱い魔物と戦いながら改良点を見つけ、造りなおしていく。
「オリジナル武器を自分で造ると強みになるよ。弱点も自分しか知らないって事になるし、細工も出来るからね」
「なるほど」
「僕は、手を守る、みたいなのが良いな」
水晶を直接握って殴ると手に当たる時があるとポーが言い、他の二人もどんなのが良いかと盛り上がる。アランは「やっぱり杖か?」と首を傾げながらしっくり来ないなと呟いた。
「先生はこういうのの方が合ってると思いますよ」
収納バッグから一冊の本を出して見せる。
「イメージとしては召喚獣?が入ってる感じです」
実際は召喚獣ではないのだがと、何ページか開いて見せた。
「これ、この陣が封印と、開放か?」
「そうです。後、この辺のは全部この子の情報ですね」
「・・・って事は、こいつは、どこにもいない?」
「はい、悪魔っているじゃないですか。あれを私が勝手にイメージして造ったものです。絵が上手な家族がいるので、イラストはその子にお願いしましたけど」
だから召喚ではないし、本物のように実態がある訳でもない。
「んー、魔法そのものを生き物とか、こういう姿にしてる、スクロールの方が近いかもしれませんね」
スクロールと違い、持ち主なら何度でも使えるようにしてあるのも特徴だと言って、アランに持ったまま名前を呼んでみる様に言う。
「グリモワール」
しかし、何も起こらない。
茂が受け取り、同じように持って名前を呼ぶ。
「”グリモワール”」
返事をするかのように光り、浮いて表紙が開いた。
「こういう風に、自分の武器には自分しか使えないように細工するのも大切だよ」
「盗まれた先であんな
「コクコク」
アランの言葉にノアが何度も頷き、ジンとポーは目を輝かせてグリモワールを見つめていた。
ジンは未知の魔導具に、ポーは装飾の美しさが気に入ったようだ。
「錬金術師は荷物が多くなるっていう弱点があるからな。これだけコンパクトにまとめられるなら、すげぇよ」
「さすが先生、実地での学びを生かしてますね」
「皆さん、応援もしてあげてください」
四人がグリモワールに釘付けになっているから後でもう一度説明してあげてくれと望に言われ、鞄にしまいながら笑って手を振った。
こうして午後も錬金術師科が全勝し、五ヶ月前に茂が教室で宣言した通り、学園が始まって以来の快挙となった。
表彰は各学年ごとに行われるので、一年の優勝トロフィーは錬金術師科に渡される。
誰が受け取るのかとなった時、全員が茂の背中を押したので現津に手を引かれながら杖をついてゆっくりと歩き出す。
壇上へ上がると、王太子であるギルバートが声をかけてきた。
「優勝の挨拶をお願い出来るかな」
「それは先生がするべきではありませんか?」
「私の我儘でね、君の言葉が聞いてみたいと思ったんだ」
見上げた先にいる国王陛下と枢機卿も異論はない様で、これは断れないなと一礼してから音声拡声器の魔法がかかったそこで前を向いて話し始める。
「今回錬金術師科の優勝が学園始まって以来だと聞き、その初めてに私たちがなれた事を心から嬉しく思います」
スピーチの出だしは普通だったが、自分を見上げている生徒たちの表情を見てニコリと笑って見せた。
「私はこの学園へ来る前、沢山の国を旅してきました。とある国でとても良い諺を知りましたので、皆様にも聞いていただきたく思います」
”井の中の蛙 大海を知らず”
「これは小さな井戸の中を世界の全てだと思っているちっぽけな蛙という、ネガティブな意味の諺です。ですが、この後に続く言葉でまったく別物となります」
”井の中の蛙 大海を知らず されど 空の深さを知る”
「私は錬金術に無限の可能性を見ています。それを一緒に証明してくれたクラスのみんなに出会え、この学園へ入学できた幸運を逃さないよう、これからも精進してまいります」
もちろんこれから他学科も優勝トロフィーを奪い返すために力を付けてくるだろうから、足下を掬われないようにと言えば、錬金術師科の生徒たちが「やってやんよー!」と声を張り上げてこたえてくれたので、笑いながら一礼してスピーチを終えた。
壇上から降りようとする茂に、王太子のギルバートが声をかける。
「君自身は、どんな姿勢で錬金術に取り組んでいるのかな」
音声が拡張されているのを分かった上で、素直に答えた。
「”ありえない”なんてありえない。それを常に考えております」
第二王子にもしているように、この国で最上級の礼を取ってステージから降りた。