7.学園生活
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「さぁ!学園祭まで後10日、最後の仕上げをしようか!」
学園長のサインが入った外泊届を持ち森で捕った魔物や動物の皮を売って作ったお金で装備を整える。アランを含めた11人は、茂が選んだダンジョンへとやって来た。
「うそだろ」
ポッカリと開いているダンジョンの入り口を前に、アランが呟く。
「ここ中級ダンジョンじゃねぇか!」
「今のみんなならこのくらいないと役不足ですよ」
「もう、ガーフィールさんがノワゼットを連れて行くように言ってくれたことに感謝ですよ」
そんな会話をしながらいつもの格好で入って行く茂たちを追ってみんなも走り出す。
「ギャー!!」
「みんな大きな声が出るようになったねぇ」
「そんな事言ってる場合か!」
「とにかく走れー!!」
蟻型の魔物の群れから逃げるみんなと、抱えられている茂。
「虫はいやー!」
「お前よく森に行ってたな!?」
両手で顔を覆っている望を抱えて飛んでいるノワゼットと牡丹を見ながらガークが叫んだ。
「このまま行くと崖がありますから、そのまま飛んでください」
「はぁ?!」
「本当に道無いわよ!?」
「~~っ、全員強化マックスで飛べー!!」
「ばらけては大変ですから、アラン先生にしがみついてください」
「飛べー!!」
叫びながら崖から飛び、みんながアランにしがみつく。その飛んだ先では、向かいの岩肌の中腹に穴が開いていた。
おまけに、下は魔物の群れ。
「どうしましょう。少し足りなかったですね」
「ギャー!!」
「ガーク!ありったけのかませー!!」
アランの指示で、肩に担がれていたガークが後ろに向かって火炎放射を打ち、少しだけ前進する。
「ダメだー!まだ足りねー!」
「こんな所で死んでたまるかー!!」
メイナが魔力をふり絞ってシャボンを作り、足場を確保する。一瞬で割れたが、アランがまた飛び、中腹の穴に入る事ができた。
しかし、その先には鋭い岩がいくつも突き出ている。
「どうなってんだ中級ダンジョンー!」
「もう無理ー!!」
「キャァー!!」
メイナが眼を閉じると、アンが高い声を上げる。
何故かは分からないが、アンは高い声を出した時が一番魔力を込められるらしい。
伸びて来たツタが全員を弾くように押し出し、鋭い岩が途切れた地面に転がりながら着地できた八人は、ぐったりと倒れ込む。
「お疲れ様です。怪我をしている方はいませんか?」
「お水もありますよ」
ここまで来る間も、怪我をするたび望達が回復をしてくれていたので、今の所大事にはなっていない。
それでも一人三回以上は骨折と四肢の切断を経験していた。
「ま、マナポーション、いる人」
リックが自分で一本飲み、残りを持ってみんなに見せればノアとポーが手を挙げた。蟻の群れと戦っている時に使い切ってしまったらしい。
「ゴホッ、ガークは?っていうか生きてる?」
「い、いぎでるっ」
「回復してやってくれ、喉が焼けてる。それからマナポーション飲まねぇと」
「あと、どんだけあんだ?」
「ふふ、おめでとう」
「え?」
「初ダンジョンが中級で、なのにここまで来られるとか。もう快挙も快挙、伝説作っちゃったんじゃない?」
笑っている茂の指をさす先にあるのは、転送陣。
「もしかして、」
「ここがダンジョンの中腹、丁度半分って所だね」
それを聞いて、今まで座り込んでいたのが嘘のように全員が立ち上がって大声を上げ、喜び合う。ポーなど泣いてぐちゃぐちゃだ。
「少し休んだら学園に戻ろうか。一日ゆっくりして、ついに本番が来るからね」
「こんな訓練してんの俺らだけだろ!」
「学園の中でしか戦った事ねぇ奴らに負ける気がしねぇ!!」
「優勝はあたしたちがもらうわよー!!」
こうしてダンジョンから抜け出した11人は、桃之丞が引くリヤカー(屋根付きに改造済み)で学園へと戻り、一日中眠りこけた。
そして、新しい赤い作務衣に着替えて学園祭へ挑む。
「目立つよね、これ」
「良いじゃない!始まっちゃえばどうしたって目立つわよ!」
「私も、この色好き」
「僕も嫌いな訳じゃないんだよ」
「コクン」
「でも、なんで赤?ノゾムとアキツは違うのに」
ポーに聞かれ、赤は錬金術師にとって特別な色だからだと言う。
「錬金術にとって黒と白が持つ意味は何でしょうか」
「はい!黒は死!」
「白は再生」
「赤は?」
「賢者の石」
アランが、呟きながら作務衣を握る。
「私は錬金術師ではなく医者ですから、色は白と黒の二色で良いんです」
「錬金術師だからこそ出来る戦い方があるって、まだ知らない人たちに教えてあげよう?」
他学科の一年、観客としてやって来ている高学年の生徒たちと、その家族である貴族がいる会場に、八人の気合十分な雄たけびが響いた。
「はっ、やる気満々だな」
「たった十人で何ができるんだ?」
騎士科、魔法士科からは挟まれる形で整列すると、嘲笑をいただいたが、その声に怯える者は一人もいない。
学園長の挨拶、観覧にやって来ていた国王陛下と王太子、国教であるイアグルス教の枢機卿からの激励が終わり、一度会場内に用意されている控室へ戻っていく他学科。
しかし、錬金術師科には用意されていないので、フィールド内の端にあるテーブルと椅子のある場所へやって来た。
「あからさまな嫌がらせだねぇ、王族も来てるのに」
「2年生が嫌がって棄権してしまう理由が分かりました」
マナーの練習もしておいてよかったと、そんな話をしていればいつものメンバーがやって来て座り始める。
「つーか、なんでお前ら選手として選ばれてねぇの?」
「こういうのは参加しても楽しいけど、見てるのも楽しいだろ」
「熱が入って生徒殺したらどうすんだよ」
「クラスや学科を勝たせたいと思えるほど思い入れも無いのでしょう」
「上級生の皆さんも、応援して下さっていますよ」
応援席の一角、隅っこの方で祈りながらこちらを見ている2年生たちと教師3人を示す。
「あ、お母さんたちも来てる!」
「本当だ!」
「親父たちもいんな」
王都出身の者はその家族も来ていたようで、手を振っていた。
話をしながら待っていれば、一つ目の競技が始まるとアナウンスが入る。
立ち上がった子供たちに、アランが向き合う。
「初日にモモノスケたちが追いかけてきた時の事を思い出せ。ダンジョンで蟻に襲われた時でもいい」
「思い出したくねぇっ」
「うん」
「十分思い出せたな。ここにいる奴らがあの化け物より怖いと思うか!」
「思いません!」
「よし!ならお前たちの優勝は確実だ!」
「おー!!」
第一種目目は学科10名の代表でリレーとなっていたので、錬金術師科は早速全員出場となっていた。
「茂様、杖をお預かりいたします」
「うん、ありがとう」
茂は杖をモネに渡し、アンカーとして位置に着く。それを見た騎士科の生徒が準備運動をしているジンに声をかけた。
「さすがにあれはかわいそうだろ」
「あ?」
足が一本しかない、魔法士科ならまだしも、錬金術師科の生徒がアンカーなどありえない。勝負にならないにしても、さすがにあれはないと言われ、ジンは笑った。
「どっちが可哀想だったか、後でもう一回聞いてやるよ」
そう返して前を向く。
このリレーは、他の選手へ攻撃をしなければ何をしてもいい事になっている。
といっても、前年までは全員普通に走っていただけだが。
しかし、それも今年から変わる。
教師の一人が鐘を鳴らすと共に走り出す生徒たち。それでも動かないジンにどうしたのかと会場がざわつき出す。そんな中、体中に回り切った魔力がわずかに外へ漏れ出てきたのか、チリリと風で小石が動いた。
「行くぞお前らー!!」
叫ぶのと同時にクラウチングスタートの姿勢になり、破裂したかのようなスピードで走り出し、あっという間にトップを走っていた騎士科の生徒を抜いた。
待っていたガークに手を伸ばしてタッチする。
そして、転げるように横にそれた。
「行ったれガーク!!」
「任せろ!スゥッ、あああぁー!!」
叫ぶのに合わせてドラゴンのように火炎を吐くと、その勢いで本人が後ろへと飛んで行き、待っていたメイナへタッチする。
メイナもスピードを落とす事なく望にタッチをした。すると、望はジンよりもすさまじいスピードで駆けて行き、アンにタッチする。
アン、ポー、ノア、現津も身体強化を使って走り抜けていき、トップを独占したまま茂の番になる。
他学科の中で、勝機はまだあると、あまり気分のいいとは言えない空気が流れた。
しかし、それも一瞬の事だ。
茂は一本足で、姿がぶれて見える程のスピードを出したままたった一人でゴールした。
「錬金術師科一年、本気で優勝を狙っております。どうぞ、全力で挑んでいらしてください」
息も切らせていない、走れるとも思えないその姿で、音が一切消えたフィールドに良く通る声でそう言うと、優雅に一礼して見せた。
「わー!!」
茂に抱き着くみんな。アランはすでに泣いていて、モネがハンカチを差し出していた。
「お前らー!本当に強くなったなー!!」
「まだ優勝していませんよ、先生」
みんなで肩を抱き合いながら騎士科、魔法士科の生徒たちが走り終わるのを見届けてから控え席へと戻る。
「へ、陛下っ」
観覧席でフィールドを見下ろしていた王族の後ろ、並んで控えていた宮廷錬金術師団長のクミーレルが困惑気味に口を開く。
「そなたから見て、あの錬金術師科はどうだ」
「どうっ、あれは最早、騎士科では?」
「その意見には私も同意いたします。身体強化の境地へ辿り着くのに、私も苦労いたしました。あの逸材は騎士として育てたいものです」
「身体強化という点では騎士が向いているのかもしれませんが、あの魔力の練り方、速度は素晴らしいですよ。魔法士としてもとても優秀です」
騎士団長のミッシェル、魔法士団長のヘレンもあの一年生10人はすごいとのセリフに、ギルバートが笑いだす。
「アディが変わったのは、きっとあの子達の影響なんでしょうね」
「すさまじいな。聞きしに勝るとは、まさにこの事だ」
「ええ。最後の子、あの子が走る姿には感動さえ覚えました」
「あの者が何者か、ご存じなのですか?」
「ああ、予測ではあるが、間違いないだろうな」
「アディとの婚姻をお考えですか?」
「いや、あの者にはすでに夫がいると報告が上がっている。無暗に不況を買うのは得策ではないだろう」
そんな話をしていると、一対一の個人戦が始まった。午前中はリレーと個人戦、午後は五対五の団体戦。これが各学年ごとに一日ずつ行われる。これが学園祭だ。
「あの一足の子供が、錬金術師科が変わった現況であると?」
「そうだな、それ以外ありえんだろうな」
「この学園祭が終わった後、彼女らをどうなさるおつもりですか」
ギルバートの質問に答える前に、オルギウスはクミーレルに顔を向けて口を開いた。
「クミーレル、そなたにはこれからも宮廷錬金術師団を率いてもらうつもりでいるが、よいな?」
「は、は!それはっ、はい!」
我に返ってやっと返事をしたクミーレルに一つ頷き、前を向いたままギルバートの問いに答える。
「私自ら王城へ誘う」
「断られますよ」
「それが狙いだ」
眼だけで観客席を見て、視線を前へ戻す。
「囲うよりも、友好を深めた方が未来は明るい」
「貴族派閥が騒がしくなります」
「好きなだけ騒がせておけ。あれらとの友好関係は、そんな雑音さえかき消すだけの威力がある」
「私が学生だった時に、彼女たちが入学してきてくれていたら、もっと、何か変わっていたでしょうか」
「さぁ、それは神のみぞ知るというものだ」
王族という立場の親子は、それだけ話をして口を閉じた。