7.学園生活
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みんなは四日もせずに音に魔力を乗せられるようになった。
それぞれのテンションも上がっていき、三日後にはまた森へ行こうと食堂へ入れば他学科の視線が集中した。
赤い作務衣という物は、とても目立つ。ただでさえ冷遇されている錬金術師科が変な事を始め、学園中で浮いていると噂される問題児たちが出入りしているとなれば、視線を向けられても仕方がないのかもしれない。
茂たちもそれは分かっていたので、食堂では昼食用のパンを包んでもらい、すぐにみんなで教室へ戻る。
それから10日間、やって来た森で走り回っているのだが、今回は子供たちからの反撃が入り始めた。
「わー!!」
ガークの声が爆発し、ジンとノアがそれをサポート。
「はぁ、はぁ、早くあたしも、攻撃できるようになりたいわっ」
「う、うん」
「僕は、まずっ、ポーションを造れるようにならなきゃっ」
リックも息を上げながらメイナに同意する。
「アン、お前も、ガークみてぇに、できんじゃねぇのか?」
「え、」
アランが初日に茂が見せたものを思い出せと言う。
「ノワゼットのもっ、それと似たような、もんだろ」
森の木々を操って襲ってくるノワゼットの事も上げて、横たえていた体を起こす。
「あれ、最高の足止めだろ」
「確かに!」
「ポー!僕たちも何ができるか考えよう!」
「うん!」
「あたし、泡って、なに?」
「メイナさんの泡を攻撃に使うなら、魔力を沢山練られるようになる必要があると思いますよ」
ノワゼットと薪を拾って来た望が言うと、焚火をしていた茂もそうだねと頷く。
「メイナさん、泡を出していただけますか?」
フーッと息を吐くと大きなシャボン玉が一つ出てきて漂う。それに触れるとすぐに割れてしまったが、もう一度と言われて出したものは触れても割れない。
「どうぞ」
そのシャボン玉をボールのようにメイナに投げ、両手で触れた本人がどうなっているんだと眼を見開いた。
「他人の魔力を上書きするのは少々技術が必要ですが、今私の魔力でこのシャボン玉を覆っています。その込める魔力量の違いで、割れにくくなっているんですよ」
地面に置いたシャボン玉は座る事もでき、そのまま上に立つことも出来た。そして、両手で持って浮かせ、回転をかけながら足で蹴る。物凄いスピードで飛んで行ったシャボン玉は木に当たって破裂したが、当たった木が衝撃で倒れていく。
「やり方としてはガークさんと同じですね。もしかしたらポーさんも出来るかもしれませんよ」
「やったー!これよこれ!!こういうのを待ってたのよ!!」
「この10日間が終わったらポーションの造り方も練習し始めるけど、外で体を動かす時は私と現津さん、望ちゃんに分かれて戦い方も覚えて行こうね」
物への魔力の通し方、魔力の練り方、空間のとらえ方。
少しずつ、今後みんなが伸ばしていく方向性が分かってきた。
あれからひと月が過ぎる頃には、今年の錬金術師科は学園にいる時間が短いと教師たちだけでなく生徒まで知る所となり、アランが学園長に呼ばれた。
その話を聞いたジンが教室に駆け込んでくる。
「ノア!どんな話してんのか聞いて来れねぇか!?」
「やってみる」
一番動きが早く、気配を消すことに長けたノアがジンたちと共に教室を出ていく。
「何か、良くない事でもあったのかな?」
「んー、どうかなぁ」
「あたしも行こうかなっ、せっかくここまで出来るようになってるのにっ、止められるなんて絶対に嫌!」
「っうん」
内気なアンがいつになく強く頷く。
最初の頃は怯えていたのに、変わっていく自分が嬉しいのだろう。
そんな二人を見て、子供の成長は早いなと微笑みパンを出して昼食の準備をする茂と、大丈夫ですよとなだめる望。
少しして、男の子たちとアランが戻ってきた。
教室で食事を摂るようになってからはアランも一緒に食べるようになっていた。
「先生!何があったんですか!?」
「ちゃんと説明するから、とりあえず落ち着け」
「失礼します」
「何かあったのか?」
いつものメンバーもやってきて、錬金術師科だけじゃないけど、まぁいいかとため息を吐く。
アランが今回呼ばれたのは、なんてことはない、学園内ではローブを着なさいと言う注意だった。
「学園長もな、お前たちの事を心配してんだよ」
今、錬金術師科が変わろうとしている事を知っているのはこの教室にいる者たちだけ。
皆で頑張り、ようやく努力が芽吹きだした今、変に目立って権力で潰されるなど教師側も見たくはないと言う。
「学園長はな、俺がここの学生だった時に副学長だったんだ。当時は、言いたかないが権力第一みてぇな学園長がいて、今よりずっとこの科は状況が悪かったんだよ」
それをようやくここまで立て直してきたのだという。
アランが今20歳なのだから、5年も経っていない間の話だ。
「前の学園長がいなくなったからって、俺たち教師の中には権力第一だと思ってる奴もまだいる。生徒の中にもいるだろうな。それはつまり、そういう考えの大人が近くにいるって事だ」
だから全力でこの力を見せつけても良い時までは、あまり目立たない方が良いという。
「そうだね、朝来たら教室がぐちゃぐちゃになってるとか、閉じ込められて学園祭に遅れたりとか、手ぇ出したらお前の仲間がどうなるか分かってんのかって殴られたりとか、私も見たくないしされたくないな」
「なんでそんなに具体的なんだ」
「想像しやすい嫌がらせじゃないですか」
ため息を吐きながら額を押え、「まぁ、本当にそういう事が起きるんだ」という。
「それが、錬金術師科に3、4年生がいない理由だ」
「マジか、今の学園長になったの去年かよ」
「今年入ってよかったー」
進たちがそう言うも、ジンは苦々しい表情を浮かべた。
「ここでもっ、んな我慢しなきゃいけねぇのかよ!」
「後4ヶ月くらいね」
微笑む茂に、ジンだけでなく他のみんなも顔を上げた。
「つまり、権力とか立場とかを利用しないとちょっかいかけられないって言うのがお互いに分かってれば良いんだよ」
「茂さんのおっしゃる通りですね。私は入試からずっと力の差を見せつけてまいりましたから、絡んでくる者も少なかったですよ」
「現津のは実力差あり過ぎて”化け物”扱いされてんじゃないか?」
「王子様が中心に絡んでいたからというのもありそうだけどな」
「まぁ、その王子も母さんの手の平で転がされてたけどな」
その全部を知っているので、子供たちから反論は上がらない。
「そうだ!せっかく大人しくしてるように言われたんだからマナーの授業もしようか!」
「マナー?」
「みんなはあの日、一緒にいたから分かるでしょ?」
権力が無くても、相手から一目置かれるだけのマナーと教養があれば、それだけで対等に向かい合うだけの武器になるのだ。
「これから5日間は森で、2日間はここ(教室)でマナーの練習ってすれば、学園祭までに最強になれるね」
呆気に取られている間に、テンションが上がっていく望と、笑っているみんな。
こうして、トントンと話は進んでいった。
「そうそう、みんな上手だよ」
「う、う、ぬぅっ、めっちゃがっつきてぇっ」
「それは森でだけにしてください」
望が作ってきたお菓子でお茶会が開かれ、少しずつしか食べられない絶品のお菓子にプルプルしているみんな。
「望さんが入れてくださったお茶はいつもとても美味しいです」
貴族だと言われても素直に頷ける所作で参加しているガーフィール。
「茂さんたちが開く茶会に出られるなど、どんなに権力があっても叶いませんよ」
「それは分かる」
「こんなに美味しいお菓子、食べられないとかかわいそうね」
「本当だね」
「コクン」
なんだかんだ楽しんでいるようで安心した。
こうして教室でのマナー講義と、戦闘訓練のお陰でみんなの顔つきや姿勢も変わってきている。もちろん座学もしっかりとこなして、アランまでもが逞しくなっていく。
学園祭が10日後へと迫ったある日、アランは同じ錬金術師科の教師、2年の担任をしているマートンに肩を掴まれた。
「アラン先生!まさかっ、まだ棄権を伝えていないのですか!?」
「はい、子供たちもやる気になっていますし、私もあの子たちなら例年のような事にはならないと確信しています」
「そのようなっ、何かあって子供たちがっ、これ以上傷ついてしまってはっ」
もう錬金術師科に入学してくれる子はいなくなってしまうかもしれないと弱弱しく下を向く。
「分かっています。ですが、どうなるか分からない未来の為にあの子たちの努力を無かったことにしたくありません」
すみません、どうか今回だけは見守っていてくださいと頭を下げて、歩いてきたアランに礼を言って笑いかける。曲がり角に立っていた茂と現津を見て、居たのかと視線を下げた。
「ありがとうございます」
すっかりツヤツヤになった髪を混ぜるように頭をかいて、照れ隠しをするように眼をそむける。
「もう、5ヶ月前と同じ質問して、勝つ自信がねぇとか言う奴はいねぇだろ」
「私もそう思います」
現津にエスコートされている茂の隣を歩き、三人で教室へ入った。