7.学園生活
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次の日、豊から渡されていた赤い作務衣を着たみんなで塔の外へと出る。
「みんな、乗った?」
「いや!そいつ何だよ!?」
「桃之丞ですよ」
「なんで急に大きくなったの?!」
「私の騎獣だからです」
みんなをリヤカーに乗せ、桃之丞に引いてもらいながら森へ入り、そこでこれから七日間何をするかの説明をする。
「まずは大声を出せるようになろうね」
「大声?」
「魔力を体の外に出すのと内側に巡らせるの、どっちもできるようになったら便利だよ」
声に魔力を乗せられるようになったら出来る事も増えると実践して見せる。
「咲いた咲いた チューリップの花が」
茂が手を叩きながら歌うと、足下の草がニョキニョキと背を高くしていく。
「こういうのが得意なのは至ちゃんだから、今度コツとか聞いてみたら良いよ。アンちゃんは植物と相性が良いし、これくらいならすぐに出来るようになるよ」
「本当!?」
「うん。ガークくんとジンくんもこれと相性いいかも」
身体強化ならこういう事も出来ると、気合の声を出しながら近くにあった大人の腕くらいありそうな木の枝を手刀で切って見せた。その断面を見たアランとジンが騒ぎ出す。
「俺は?!」
「ガークくんはドラゴンみたいに口から火を吐いたりとか、かっこよくない?」
「火?」
「言い方はあれだけど、本当にドラゴンと同じ原理だよ」
「え!?」
ドラゴンや魔物の中でも魔法陣を出さずに攻撃をしてくるものは皆同じだと説明をする。
ただ、魔物は魔石にいつも魔力を貯めているからノールックで攻撃が出来る。それと同じことをしようとすると、魔石を自分で造るかそれだけの魔力を素早く練らなければならなくなる。
「ガークくんはただの火じゃなくて”爆発”だからね。魔力量を上げればそれだけで威力が跳ね上がるよ」
「これから5ヵ月間しっかりと鍛錬すれば圧勝間違いありませんね」
「あたしはどんな事が出来るようになる?」
「メイナちゃんは泡だからねぇ、攻撃も出来ると思うけど援護とかの方が向いてるのかな?後方支援的な?」
それでも戦い方次第だろうが十分主戦力になると言われ、両手に力を入れて嬉しそうに叫ぶ。
「ぼ、ぼくも?」
「うん、ポーくんは水晶を作り出して、それをどう使うかだよね。ただ投げたんじゃもったいないし。手から離れた後も動かして操れたりすれば近距離だけじゃなくて遠距離攻撃もできる万能型になりそう」
「では、戦い方を学ぶ時は私が相手をしましょう」
「う、うん!」
「リックくんは典型的な錬金術師の戦い方が合ってそうだね」
「つまり、事前準備次第ってこと?」
「さすが、分かってるね。でもそう思わせておいてその辺に落ちてる物とかに得意な魔法を乗せてトリッキーな戦い方をすればこっちの手が読めなくて攪乱しやすいかも」
「・・・なるほど」
「ノアくんはせっかくだし、毒を生かして接近戦を覚えるのが良いと思うよ」
「いいですね、それなら進が詳しいと思いますよ。魔力を直接相手の体に流して一時的に動けなくさせるのも、敵でも味方でも、場合によって威力の違いで使い分けられそうです」
そうすれば血を流すことなく戦いを終わらせられると言われ、それは嬉しいとコクコク頷いていた。
「先生は妖精とか精霊と仲良くなって魔法を手伝ってもらうなんてどうですか?」
メルヘンで可愛いと言えば、可愛いはいらないだろとため息を吐く。
「お前は本当に、何者なんだ」
「学園を卒業したら全国を巡る予定の12歳児ですよ」
「・・・はぁ、今はそんな事言ってても仕方がないか」
「いいじゃん!シゲルが何者だって!で!?んで?!これから七日間でどうやってきたえんだ!?」
「まずは大声を出しながら走る事かな。そのために叫んでも怒られない森に来たんだし」
「はい、ノワゼットも森は自分のフィールドですからね。そのためにガーフィールさんにお願いしてついて来てもらいました」
茂と望の後ろで、また桃之丞が大きくなり、ノワゼットまで枯れ木の化け物のような姿へと変化していく。
「牡丹も含めて皆魔法が使えますから、お気をつけください」
「え」
「はい、スタート」
大きな咆哮を上げた桃之丞から悲鳴を上げて逃げ出す八人。それを現津に抱えられた茂が追いかける。
「手荒になってしまいましたが、時間がありませんし、しかたがありませんね」
そうため息を吐いて、望はテントを出すと中へ入って飲み物と風呂の準備を始めた。
あれから二時間、泣きながら走った八人はもう動けないと草原の上でうずくまっていた。
アランは普段の運動不足がたたっているのか咳き込んでいる。
「みなさん、お疲れ様です」
「はい」と、望がスポーツドリンクとタオルを全員に手渡していく。そして、転んだりして出来た怪我をキレイに治していった。
泣いているポーとアンには小さくなった桃之丞とノワゼット、牡丹が寄り添ってアニマルセラピーを行っているが、触らせてはくれない。
その間に昼食の準備に入る。
「これ、薬草じゃない?」
「そうだよ、香りづけにいいんだよね。入れすぎると苦くなっちゃうけど。このくらいなら美味しいよ」
「すごいわよ!二人とも来て!もー、泣くのは明日にしなさいよ」
メイナとポーは幼馴染らしく、なんだかんだとアンの事も一緒に世話を焼いていた。
「皆さんは解体が出来ますか?今日は見て覚えてください。明日からは自分でしていただきますので」
そう言って現津がウサギを解体し、茂が調理をする。あっという間に美味しい物が出来上がり、食堂でもらってきた黒パンと共に食べていく。
「お腹いっぱいになった?」
「二時間は走ったりしてはいけませんよ。今走しってはお腹が痛くなってしまいますから」
休んだのとお腹が満たされた事で少し余裕が出てきた皆に、汚れてしまったから風呂に入ろうと玉ねぎ型のテントを示す。
「あ、でもその前に髪を切ろうか」
椅子を三つ出してそれぞれに座ってもらう。
「アンさんはどうしますか?このまま短いままにしておきましょうか」
「ううん、伸ばしたいの・・・」
「では毛先を整えるくらいにしておきますね」
学園に入るには少し足りなかった入学金を稼ぐため、髪を売ったのだと言う。
この国の女性は髪が長いのが普通らしく、短い女性は少ない。冒険者をしている者でも長くしている者もいるくらいだ。
「短いのも似合ってるけどね!」
「あ、ありがとう」
茂と望に切ってもらった者たちは平和だったのだが、現津に切ってもらったアランとジン、ガークは「怖い怖い!」とずっと叫んでいた。
「現津さん上手ですよ?」
「それでも持ち方が違うだろ!!」
「刺そうとしてんのかよ!?」
「どう持とうがきちんと切れますよ」
「うん、かっこいいよ」
「すっきりしたね」
「それでもだよ!」
全員がさっぱりした所でテントの中へ入り、その広さに驚愕していた。
「うおー!どうなってんだ?!」
「めっちゃひろーい!」
「行商人はお店建てたりしないから、このくらいは必要なんだよね」
「どういう原理なんだ!?」
「錬金術を学んでいけばそのうち分かりますよ」
そんな話をして、ドロドロになった作務衣と肌着の替えを全員に渡し、男女に分かれて風呂に入る。互いにたっぷりのお湯と石鹸でキレイになって出てきた。
「気持ちよかったねぇ」
キャッキャッと出てきた女子と、少し暗い表情でツヤツヤになって出てきた男子。
「どうしたの?」
「いや・・・、別に」
モゴモゴと口ごもりながら眼を反らす男子たち。
「男女で体の洗い方や気にかけらなければならない違いに驚いたようです」
「おいー!!」
現津を全員で止めにかかり、じゃれ合っている姿を見て仲良くなったなと笑ってから授業へ移った。
望が集めておいてくれた薬草の現物を見せながらアランと共に授業をして、二時間後には歌の練習を始める。
そうして一日を森で過ごし、リヤカーに乗り込んで学園へ戻る。行きよりもピシッとした姿になっているのだから不思議だ。
夕食は食堂でいつものメンバーとテラスで食べ、寮の部屋の前で振り返る。
「じゃぁ明日もその作務衣を着て来てね」
こうして森で走りながら泣き叫んで三日、一番最初に変化が起こったのはジンだった。
「身体強化できるてるね、おめでとう!」
高く飛び上がるジンを見て、他のみんなも次は自分だとはり合い出す。
ジンの次はガークとノア、メイナだった。その次はリックで、運動が苦手だと言っていたポー、アン、アランの三人も六日目には出来るようになっていた。
「うん!全員声も出せるようになったし、身体強化も出来るようになって、本当に順調だね!」
明日もう一度森で走り回り、おさらいをしたら次の段階へ進もうと言う。
そして、次の日も森で走り回り全員がしっかりと身体強化のコツを掴んでいるのを確認して練習場所を教室へともどした。
「じゃぁ、今日から七日間は音楽の練習ね」
「音楽って、歌はもうやってるし、楽器?」
「そうだよ」
収納バッグから楽器を出し、どれでも好きなものを貸し出すと言う。
「魔法詠唱の応用だよ。詠唱は呪文に意味と力があるでしょ?これは自分の魔力を出して、音に乗せるの」
お手本として茂がピアノを弾き、魔力を込めた所で音が甘やかになった。
その変化にすごいすごいと全員が興奮し始める。
「まずは音を出すだけで良いから、みんなでやってみよう?」
昼休みになったら至にコツを聞いてみると良いと、現津と二人でピアノを弾き始めた。
「うちでは至、豊、満の三人がこう言った魔力の使い方が得意ですね。ですが、至は天才肌というか、説明が苦手なんです」
参考になるかは分からないが、来たら聞いてみると良いと望もフルートを吹く。
それを見て、みんなも手をつけ始めた。
昼休み、昼食を取りに行った所で至たちに会ったので一緒に錬金術師科の塔へ向かい、コツを聞いてみた。
「簡単だよ!こう手に集中したらブワッ!て体から出てくる魔力をギュッて閉じ込めるの!」
「・・・ノゾムの言った通りだな」
「そうね」
ジンとメイナがボソリと呟き、他の皆にもアドバイスを求める。
昼食を食べた後に聞いた至のお手本は茂のそれとは全く違っていて、初めて聞いた皆は叫んだり泣いたりとそれぞれ感動をどう表現したらいいのか分からないでいたようだ。
「至は踊るのが本職だけどね」
「うちは一つの事しか出来ない人多いからねぇ」
「わしは身体強化しかできないぞ」
「私も結界だけだよ」
「剣なんか使った事も無いから最近じゃクラスのお荷物扱いされてる」
そう言ってカラカラと笑う進。
「昨日顔と態度だけは一人前と言われてしまいました」
「ガーフィールさんがですか?!」
「みんな実戦での叩き上げだもんねぇ」
学園の中じゃ浮いてしまうのも無理はないと茂が眉を垂らす。
「智賀くんはそれなりに上手くやってると思うよ」
「兄さんの出がらしって言われるくれぇには上手くやってる」
「見る目が無いとは、これ程恐ろしいものなのですね」
「ごめんねぇ、王族がまさか試験の時から絡んでくるとは思わなくて」
予定では入学したら全員実力を隠す事なく過ごすはずだったのにと、茂が頬に手をあてて言う。
「王子様がいなくても最初からこうなってたんじゃないか?」
「模範生なのは蜻蛉切さんと利刃さんくらいだしね」
「ただ授業を受けているだけなんだがな」
「この国では槍と剣では重宝される差があるようだ」
「国によってここまで違うのは驚かされたな」
学園の中では”出来損ない”と呼ばれるG、Fクラスの者たちが笑っているのを聞き、不当な扱いを受けてきた錬金術師科を知っているアランが口を開く。
「よく笑ってられるな」
その他大勢から向けられる敵意。下に見てくるあの視線と態度は心をむしばんでいくだろうと、言葉が零れていく。
「まぁ、こんな小さな枠に入れられたらそんな風に言われますよ」
茂が声を出して笑う。
「外を知っている私たちからすれば、ここはとても”狭い”と感じてしまいます」
「こんなに小さな舞台で、決まったステップだけで踊れって言われたら、出来る事って限られてきちゃうもんね」
「砂漠でも生活できるわしらに、昼の草原で飢え死にしろってのは、ちょっと無理がある」
進の言葉にカリブーが笑い、モネも口を押さえて声を出していないが笑っているのが分かる。
そんな話をしていたら、鐘が鳴ったのでそれぞれの教室へ戻るために立ち上がった。
「お前ら何者だよ」
その質問に、茂がいつものように微笑んだ。
「今はただの学生ですよ」