7.学園生活
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それから半月は平和に過ぎていき、茂たちだけでなく他学科へ入った他の子たちとも錬金術師科の一年生は仲良くなっていく。というか、他学科なのに錬金術師科の寮に住んでいるので毎日顔を合わせて一緒に食堂へ行くので自然と距離も近くなる。
自分たちの科でもそれなりにやっているようなので、これでいいのだろう。
「俺冒険者の
「そうなの?!あたし冒険者も良いなとか思ってたのに」
「たまに錬金術師もいたりしたけど、そういう奴はみんな他にも特技がある奴ばっかだったぜ」
スラム出身ならではの情報をもらいながら、みんなでジンに文字を教えるのが日課となってきた錬金術師科一年。というか、ジン以外にも望が単語などを教えているので全員で国語の勉強をしていた。
この大陸、国、王都での常識とされる大人達の考えを知るに連れ、やはりどこかの店で下働きをするのが一番なのかとため息を吐く。
「もったいないねぇ」
「なにが?」
「錬金術だって他の職業に負けないくらい強くなれるのに」
「マジで?!」
茂の言葉を聞いたアランも、ピクリと動いて顔を上げる。
「本当だよ。私一人で森に入ったりも出来るし」
片目、片足の、いつも杖をついている茂を見て全員が目を見開く。
「私もそうですね。といっても私は虫が苦手なのであまり一人では行きたくないんですが」
「チチチ」
「ふふふ、牡丹がいつもいてくれますから、とても助かっています」
「ま、マジで!?」
「はい」
「うおー!希望が見えてきたー!!」
「わたしでも、そんな錬金術師になれる?」
「きちんと勉強と練習をすればなれますよ」
「練習って何するの?」
「自分で薬草を採りに行って、何回もポーションを作って、罠とかを使いながら動物の狩り方を考えて、解体して、料理するの」
「それ練習?」
「立派な練習ですよ」
自分は医者だが、錬金術とも近い物が沢山あるので一緒に研究したりもすると望がいえば、同じく医者志望のノアが目を輝かせた。
「みんな卒業したあとの事もしっかり考えててすごいねぇ」
まだまだ幼いけれど、しっかり自立しているなと笑って飴をあげた。
そんな話をした次の日、現津が錬金術師科に編入してきた。
「想像以上に早かったですね」
「何かと面倒な確認と手続で遅くなってしまいました」
これで常に側にいられると、嬉しそうに茂の下へ行く。
「これからよろしくね」
当たり前のように茂の隣に居座ろうとするので、頭を抑えながらアランが茂の後ろに席を作ってくれた。
現津が錬金術師科に編入して来てからというもの、魔法士科からの視線が鋭くなった様に思う。
「前からだけどな」
「半月で卒業するような奴が錬金術師科にとられたって思ってんじゃね?」
「どっちかっつーと母さんへのやっかみだ」
梅智賀の話では、現津とお近づきになりたかった女子が多かったのだという。
「茂さん以外からの好意は迷惑ですし、嫉妬までするのなら不愉快ですね」
「言い切っちゃうんだ」
「本心ですから」
「前から思ってたけど、なんでウメチカってシゲルの事母さんって呼んでんの?」
「母さんだからに決まってんだろ」
「同じ、年だよね?」
ポーの疑問は流された。
ガークが食堂を見回して口を開く。
「これだけくっついてて諦めねぇのが不思議だぜ」
ドワーフと人間のミックスながら、ドワーフらしいガッシリとした体格が既に出ている姿でため息を吐くととても貫禄がある。ガークの呟きに、背が高くて控えめな性格のポーと無口なノアが頷きあう。
「諦めるっていうより、私と現津さんが釣り合ってないとか思ってるんじゃないかな?」
「無知と言うのは罪ですね」
「なんか、アキツって残念よね」
「・・・うん」
ハキハキしているメイナと、内気なアンが苦笑した。
食事が終わり、塔が違う皆と分かれて教室へもどり、教科書を出しているとアランが入ってきて教卓の前に立つと全員を見る。
「授業の前に、物凄く言い難い話をする」
「聞きたくないです」
「聞いといた方がいいぞ。実はな、この学園には年に二回でかいイベントがある。一つ目が学園祭っつって、各学年、学科、クラスごとに競い合うそれぞれの実力お披露目会。二つ目が一年の節目、進級を祝う舞踏会だ」
二つ目は貴族同士の交流会とも言えるし、学園祭で実力を示して権力者にアピールをし、舞踏会で声をかけてもらう場だとも言える。
しかしだ、と苦々しい表情をして続けるアランに、皆は何を言われるのか何となく分かっていた。
「このどちらも錬金術師科は毎年引き立て役扱いで、今年は上級生達も全員欠席するらしい。で、だ。お前たちに参加するかどうか決めてもらいたい」
出て他学科の力自慢たちの的になる必要はないと真剣な顔で言うのを聞き、気の強いジンとメイナがなんだそれはと声を張り上げる。
しかし、他のメンバーは既に戦意を喪失し、ポーやアンは怯えていた。
「そうは言うけどさ、あっちは大人数だよ?こっちはたった一クラスの10人だ」
なのにあっちは一クラス50人なうえ、魔法士科は5クラス。騎士科など7クラスだ。どうやって渡り合うの?とリックが言う。
「こっちにはアキツがいるだろ!」
「アキツ一人に全部任せるつもりなら、僕は参加したくない」
なかなかしっかりしているなと思いながら、茂が手を上げた。
「その学園祭っていつなんですか?」
「5ヶ月後だ。半年毎にイベントが来る感じだな」
「ならまだ時間はありますね」
「は?」
「先生、これから学園祭までの間、特別カリキュラムでの授業を提案します」
「特別カリキュラム?」
「私は錬金術が他の学科に劣るものだとは思っていないので、この国や学園共通の常識と言うものが納得行きません」
見てきた限り、この大陸以外でも常識とされているそれに、今口を出す。
「なので、今日からこのクラスで特別カリキュラムを実行し、学園祭で優勝することで錬金術の力を見せつけたいと思います」
アランも他の生徒たちも目を見開いた。
「いや、だから、こっちは少人数で、」
「だからこその特別カリキュラムだよ。このクラス全員で戦える様にするの」
そもそも1対50ではなく、各競技で5人の代表として出てくるだけなのだから、何も問題はないと言われる。
「いや、大ありだよ」
リックの言葉が尻すぼみになって消えていく。
「私、茂、現津が出る競技は必ず勝てますよ。お約束します。10人で出なければならない競技もありますが、それも私達が一緒に出ていますから、安心して下さい」
言うほど不利ではないと望にまで言われ、乗り気である事に驚いてしまう。
「えー・・・」
「先生、棄権の知らせっていつまでなら出来るんですか?」
「別に、当日でもいいぞ。学園祭には国王陛下たちもいらっしゃるからな。悪目立ちするよりかは棄権してくれって感じだ」
「ならやるだけやってみて、ダメだったら来年頑張るっていうのもアリじゃない?」
茂の言葉に、メイナとジンが賛成し、現津も参加という点で他のメンバーも少し考え始める。
「僕はまだどっちとも言いたくない。その特別カリキュラムが本当に勝算があるなら参加する」
「お前セコイな」
「慎重なんだよ。負け戦なんかまっぴらだ。それも国王陛下の前でとか」
「ふふ、そこで参加しないって直ぐに言わない時点で、私としては勝ったも同然だけどね」
商人の口の上手さをナメちゃいけないと笑いながら、アランを見る。アランも思う所があるようで、やってみるかと前を見た。
この日から、茂の指導の下5ヶ月後の学園祭へと動き出した。
「それじゃぁ、まずはみんながどんな特徴のある魔力なのかを見て見ようね」
アランは一番後ろにある現津の席に座り、茂が教卓の前、現津と望がサポートとして隣に立っている。そして、現津一人が教室から出て行き、閉まったと思った扉がすぐに開いた。
「こちらが井戸水です」
「今の一瞬で汲んできたの!?」
「すご・・・」
汲み立ての井戸水をグラスに入れ、桶と一緒に全員の前に置く。
「みんな魔力は出せる?」
「生活魔法は使った事ある」
皆同じように答えるのを聞き、それならば問題は無いとアランの前にもグラスと桶を置いた。
「え、俺もやるのか?」
「せっかくですから」
そして、そのグラスの水に葉っぱを乗せて魔力をありったけ注ぐように言う。
「これは水見式って言って、一番簡単な力を見分ける方法だよ」
「魔道具の水晶とかじゃなくてか?」
「ああいうのも目安としては良いんですけど、人の手で造ったものですからね。どうしても細かく見たり、正確性には向いていません」
「何者なんだお前は」
「みなさん、出来ましたか?」
「これってなんか意味あんのか?」
「物凄くあるよ。見た目に変化はなくても水質は変わってるから、飲んだりしないでね」
一人ずつ見て行こうと、右端に座っているメイナのグラスを覗き込む。
「何も変わってないよ?」
「それはないね」
そう言って片目を閉じ、義眼でグラスを見ると指で水を舐めてみる。
「泡の味がする」
「泡?」
メイナは普通にグラスを持って一口飲み、すぐに桶へ吐き出した。
「変な味がするっ」
「それが泡の味だよ」
「メイナさんは石鹸などが作れるかもしれませんね」
「シャボン玉を出したりできるかもしれないよ」
その後ろにいたアンの水からは草の匂いと味がした。
「薬草を使ったり、植物を育てたりするのに向いてるかもね」
その次が茂の席なので、一つ飛ばしてアランの水を舐めてみる。
「あ、海の味。先生は生物系に向いてそうですよ。ホムンクルスとか造ったらすぐに生まれて来てくれそうです」
「ホムンクルス!?」
「ホムンクルスってなに?」
「みんなの魔力を見たら説明するね」
茂が離れても、アランは自分の手を見つめていた。
ガークの水も外見は変化がなかったが、匂いを嗅いでいた本人が首を傾げた。
「なんだ?焦げくせぇ?」
「これは火薬だね。ガークくんって火魔法使える?」
「火球を出すくれぇなら」
「ドワーフは土と火の属性を併せ持つ方が多いですから、その特性を受け継いだんでしょうね」
「水の状態でも爆発とかするかな?やっぱりこうやって見てみないと分からないよね」
魔力だけで爆発もするのなら魔道武器などを造るのに向いているかもしれないと言われ、目が輝いていく。
次はリックの番になり、水の中に魔力を留めて置く事に優れていると分かった。ポーションでも魔道具でも、どちらにも向いていそうだと言う。
そしてジンは、味は変わっていなかったが量が増えていた。
「ジンくんは身体強化とかが得意になりそうだね。採取に行くにしろ、冒険者になるにしろ、役に立つと思うよ」
「身体強化って、マジか」
何度も死線を潜り抜けた奴だけが体得するもんだろとアランが口を開いて驚く。
「ちゃんと訓練すれば誰でも出来るようになりますよ。その伸び具合は人によりますけど」
「こればっかりは得手不得手がありますからね」
「うちにも苦手な者はいますよ」
いつも一緒にいるメンバーを思い出しながら現津が言う。それが誰か分かっているので望が苦笑した。
そして、ジンの後ろにいるノアはそんのわずかだが色が変わっていたので舐めたりはせず、義眼で見た後にスポイトで試験管へ移して確認をすると毒である事が分かった。
「ノアくんはお医者さんになりたいんだよね。ならピッタリだよ」
「どく、なのに?」
「毒も薬も同じものですよ。麻痺毒なら薄めて使う事で患者さんに痛い思いをさせずに治療をしてあげられます」
「!」
毒だと聞いて落ち込んでいたが、いっきに表情が明るくなった。
「ポーくんは、あ、すごい。物質を作り上げられる魔力だよ」
「ぶっしつ?」
「ほら、見える?」
光にかざしたグラスを見せれば、水の中に何かキラキラしたものが沈んでいるのが見える。
「これは水晶かな。ポーくんも魔道具を造ったりするのに向いてるかも。魔力から水晶が作れるんなら応用が効きそうだね」
こうして全員が水見式を終えたのだが、三人はどんな魔力なのかと聞かれたので現津が水の入ったグラスへ手をかざせば、何か金属のようなものに変化した水が桶いっぱいに溢れていく。
「なんだこれ!」
「私は強化系と特質系の二つを持っています」
黒板に書かれた図を示しながら言うと、「二つも持ってんの!?」とジンが驚く。
「私はここではちょっとできません」
「なんで?」
「私がやると、水が麻酔になってしまうんですよ」
だからここにいる全員が寝てしまうと望が笑った。
「私のは美味しいよ」
そう言って茂が残っている水全てに魔力を注いで行く。すると、水がピンク色になって甘い香りが教室中に満ちて行った。
「はい」
小さなコップにその水を分け、優勝に向けて頑張りましょうと言って飲んで見せる。
皆も恐る恐る口をつけ、「甘い!」と騒がしくなる。
この後は魔力の高め方を教え、ホムンクルスとゴーレム、タルパについて説明をしていればあっという間に午前が終わってしまった。
「明日から外に行くから、動きやすくて汚れても良い格好で来てね」
「服なんか一枚しか持ってねぇよ」
「そっか、ならみんなの分も用意しなきゃね。後で豊ちゃんに採寸してもらおうか」
「では私が全員分の昼食を持ってまいります。ここで食事をしながら採寸をしてしまいましょう」
「時間もありませんし、慌ただしいですが仕方がありませんね」
桃之丞に茂から離れない様言ってから教室を一人で出ていった現津だったが、戻ってきた時にはいつものメンバーも一緒にやって来ていた。
「みんなもこっちで食べていく?」
「その方が落ち着けそうだし」
「採寸も手伝おうと思って!」
「動きやすいっていうのなら、作務衣でいいよね。でも中に着るシャツは何パターンかないと季節が変わった時大変だし、」
豊が肩から下げている鞄からバインダーを出して八人の名前をそれぞれに書いていく。
「俺も!?」
「せっかくですから」
「訓練をしていると直ぐに汚れちゃいますからねぇ」
アランも巻き込み、交代しながら食事をして全員の採寸を終えた。
「相変わらず~、やる事がぶっ飛んでんなぁ~?」
「入学後は実力をお隠しにならないとの話しでしたし」
「ふふ、面白そうですな」
食事が終わり、皆で明日の話をしている間にアランは外出届を出しに行く。
「錬金術師科なら、色はやっぱり赤だよね」
「私の分も二着お願いできますか?色はいつも通りで構いませんので」
「うん。森に行くなら汚れとか、そう言うのもつきにくいようにしておくね」
「助かります」
「わしらも行くか?」
「授業はどうするんだ」
「そちらにも教師がいるのだろう。また今度にしておけ」
「マスターに学園での生活は少々窮屈でしょうか」
「んー、まぁ、これもこれで面白い経験だとは思ってるな」
思っているだけで合わせた生活をしようとあまりしないので毎日怒られているがと笑っている進に、お前はそれで良いのかとガークとリックが呆れていた。