8.鬼灯の冷徹
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鬼灯はどうやら孤児としていじめられていたらしいが、みのり屋に引き取られてからはそう言われることもなくなったようだ。
「へー、教え処をやるんだ」
同じくらいの年の子を集めて算術を教えたりする、いわゆる学校である。
「なら、これからもお弁当は必要だね」
「動物は連れて行ってはいけないのでしょうか」
「多分、止められと思います」
「ならあんこを連れて行け。こいつは姿を消せる」
「ありがとうございます」
「こういう時、馬は向かんな」
鬼灯の入学に伴い、教え処がある日はあんこを、ない日は桃之丞を連れていくという事以外はさして変わらない日常が始まった。
「蓬くんと烏頭くんも一緒に行くの?なら二人の分も詰めてあげるね」
「ありがとうございます。お昼になったら三人で少し離れた所で食べます」
「どうして?」
「他の子に取られてしまうので」
こんなに立派な弁当を持ってきているのは自分くらいだと言われ、それはそうかと茂が少し考える。
「もうちょっと違う感じの方がいい?」
「いいえ、私はこのお弁当が大好きです」
「そう?なにか困った事があったら言ってね」
行ってらっしゃいと言われ、手を振り返して教え処へ向かう。
それから少しして、鬼灯が怪我をして帰ってきた。
すぐに望が走ってきて傷を見て水で洗い流しながら手当をしていると、「どうした?」と進が聞く。孤児が急に生意気になったと言ってお弁当を取られそうになったと呟いた。
「そうだったのか」
「言いかえしたら殴りかかってきたので、殴り返しました」
「鬼灯は強い子だなぁ」
笑っていれば、望がそうだが落ち着きすぎだと言い返す。
「子供はこうやって痛みとかどうとかを知っていくもんだろ?」
「こういう大切なところで適当さを出さないでください」
「まぁまぁ、鬼灯くんも言われっぱなしで折れちゃうような子じゃないし」
手当をされながら言い合う母たちを見ていると、蜻蛉切が大丈夫かと頭を撫でてきた。
「はい、もうどこも痛くありません」
「そうか、鬼灯はこれからどうしたいと思っている?」
「特に何も。私が孤児なのは本当です。ですがそれは私がどうにもできないことですから」
それだけならまだしも、みのり屋に引き取られた事をとやかく言ってくるのはただのやっかみだと言われ、想像以上にしっかりした返事が返ってきたと蜻蛉切も頷くだけにしておいた。
「まぁ、子供同士の喧嘩に親が出ていくのもどうかと思うしな」
「はぁ、分かっていますよ、私も。ただし、喧嘩であっても人の心は傷つくものです」
それはもちろん、鬼灯が傷つけられるという事でもあると言う。
「理不尽なんか今に始まった事じゃないんだろうけどな、それにしたって言われて嫌だったらやめろくらいの嫌がり方はしとけよ」
何も言い返さないのが平和になるなんて事はないんだからと進が言い、鬼灯も頷いて返事を返した。
ということで話はまとまったのだが、夕方になって泣いている男の子とその父親がやってきた。
「どういう躾をしてるんだ!」
明らかにボコられたらしい男の子を背に怒鳴る父親に満が謝っていると、茂が優しく男の子に話しかけて望に手当をしてもらっていく。
「これは少し考えないといけないかもねぇ」
「すみません」
「ああ、違うよ。鬼灯くんのことじゃなくて」
子供たちがお腹を空かせているという事実がだと言われ、首を傾げた。
「教え処の男の子って何人くらいいる?」
「男子は、20人くらいです」
「女の子は?」
「男子よりは少なかったと思います。18人くらいでしょうか」
「そっかぁ、ちょっと先生にもお願いしてみようかなぁ」
だから明日は一緒に登校しようかと言われ、次の日茂と現津と共に教え処へと向かった。
「という事で、子供たちに相撲大会をしてもらおうと思っているので、先生からも参加したい子は練習しておくようにお話して欲しいんです」
「はぁ、それですもう、とは?」
「こういう円の中で、殴ったり蹴ったりしないで、押したり引いたりしながら力と技を競う競技です」
絵に描かれている説明書を出し確かにこれなら子供たちがやっても楽しそうだと納得する。
「で、優勝した子にはその子の家の家族が3日食べられるだけのお結びが賞品です。参加してくれた子や手伝ってくれた子にも、その日はお結びと豚汁を出そうと思ってるんですよ。よかったら先生もお手伝いいただけると助かります」
子供たちの扱いは先生の方が慣れているだろうからと言われ、とりあえず鬼灯たち三人に相撲のルールは教えておくので考えてみてくれと言い、子供たちと教師分のお結び(混ぜご飯)を置いて帰っていった。
「母ちゃんに言ったら絶対参加してこいって言われた」
「俺も、父ちゃんが練習付き合うから優勝してこいってさ」
「私も桃之丞と練習をしていますよ」
優勝を狙いたいと話す三人と、配られたお結びを食べた子供たちが自分たちも出ると言う。
ほぼ全員参加だったので、自分も手伝うかと苦笑している教師、麻殻だった。
大会の日が決まり、男女関係なく参加すると言い出した子は毎日のようにみのり屋に来て店の裏で相撲の練習を始めた。
なので普通に来ていたお客たちが何をしているのかと聞いてきて、今度相撲大会をするからその練習なのだと言うと、当日は応援に来ると大人たちも楽しみにし始めた。
そして当日、教え処で今日だけの舞台を作り、参加者の子供たちに廻しをつけていく。
「この色可愛い!」
「こっちの色が好き!」
女の子もいるという事で、服の上からつける廻しはとてもカラフルだ。
「いいかー、一本勝負だからな」
進が行司をする事になり、見合って見合ってと言うと、周囲の大人たちも応援の声が大きくなっていく。
「おお!」
三回戦目で鬼灯が出たのだが、相手の子を持ち上げて土俵から投げた時には歓声というよりも驚きの声が上がっていた。鬼灯は決して体が大きな子ではないのだが、その怪力は凄まじいものがある。
「あいつ、最近どんどん強くなってるよな」
「前から強いっちゃ強かったんだけどな」
なんでだろうと話している蓬と烏頭も、本人も気づいていないがみのり屋へ遊びに来て生命霊気が少しではあるが体に満ちてきたからだったりする。
そして、本人の努力だ。
午前中で一回戦が全て終わり、お昼として子供たちと教師たちにお結びと豚汁が振る舞われた。
「今日はお結びを買っていただけたら豚汁をおまけしますよ」
「いかがですかー!」
応援に来ていた大人たちにそう声をかけていれば、どんどんとお結びが売れていく。
「うまい商売してんなぁ」
「この相撲大会もこのためと言うのが半分でしょうね」
「それでこんなに美味いもん食えるならまた参加するけどな!」
「午後も取組が残ってる子は食べ過ぎないようにねぇ!」
「お腹が痛くなってしまいますからね」
「はーい!」
「おかわりー!」
「はいどうぞ。帰りにお土産もあるから、食べすぎないようにね?」
「うん!」
以前鬼灯とケンカした男の子も、すっかり茂たちに懐いている。
休憩をしていれば、一回戦で負けた子がこの廻しを持って帰って練習するとダダをこねて泣き出し、母親にしがみついた。
「こら!こんな上等な布と交換できるものなんてウチにはないんだよ!」
「いやー!!」
「着なくなった服や布はあったりしますか?それであなただけの廻しを作ってあげるよ」
「本当!?」
「うん、この廻しは次の大会でも使うから、もし参加してくれたらその時に巻いてあげるね」
豊とそう約束をして、カラフルな廻しは無事に返された。
「また大会やるってよ!!」
「俺も練習する!」
他の子供達も自分の廻しが欲しいと親にねだし始めたので、鬼灯にも作ってあげようかと笑いかければ、表情は変わらないながらも嬉しそうに頷いていた。
「色は黒がいいです」
「鬼灯くんはシックな色が好きだねぇ」
なら見やすい所に鬼灯の刺繍をしてあげようと頭を撫でる。
食休みも終わり、午後からは二回戦。集まってくれた子供も半分に減っての戦いとなった。
三回戦まで残っていた蓬もそこで負けてしまい、悔し泣きをしている所を蓬の母が慰める。
「いけー!烏頭!!負けんなよー!!」
「うおりゃぁー!!」
四回戦まで残った烏頭も、五回戦目で負けてしまい父に惜しかったなと頭を撫でられて少し涙目だった。
そして決勝戦。鬼灯とあの喧嘩をした男の子が向かい合う。
「のこったのこった!」
「いけー!持ち上げろー!!」
「足だ!足を使えー!!」
大観衆に声をかけられる中、二人同時に土俵から落ちていき引き分けとなった。
「っ、勝てる勝負だと思っていたのですがっ」
悔しそうに泥だらけで起き上がった鬼灯と、勝てなかったと悔しがる男の子。二人を土俵の上で表彰し、みんなで拍手を贈った。
「はい、これからお結びと引き換える竹札」
「これ持ってくればいいの!?」
「そうだよ。これの半分を私達が持ってるから、こうやって合わせてちゃんと本物だねって確認してるの」
「これは良いですね!」
竹札のしくみに鬼灯も目を輝かせている。
「こうすれば、他の人に札を取られちゃっても、取られたって言ってくれたら他の人に渡したりしないで済むでしょ?」
「うん!」
「今日の分はこのまま持っていく?お母さんかお父さんが来てるなら持ってもらおうか」
「父ちゃんが来てるから呼んでくる!」
「鬼灯くんも、はい」
「私もですか?」
「鬼灯くんはうちの子だからお結びの持ち帰りとかじゃないけど、一応ね」
第一回子供相撲大会の優勝者への記念品と言って竹札を渡され、使い道のない札なのにとても心が踊った。
「はーい!みんなー!今日は参加してくれてありがとうね!」
「今からお土産配るから、参加してくれた子は並んでー!」
至と満の前に集まる子供たちには、稲荷寿司が入った包があり、豊と優で数を合わせている。
「お結びじゃないの?」
「これはねぇ、稲荷寿司だよ!」
「甘くて美味しいよ」
「甘いの!?」
蓋を開けて一口食べて互いの顔を見合わせながら小躍りしていた。
「稲荷寿司美味しいよね」
「いなりって、お稲荷様のことですか?」
「狐の神様のこと?」と首を傾げられたので、三角の方がお稲荷様の耳みたいでしょ?と笑うと「本当だ!」と笑ってくれた。
「すっごく美味しくて可愛い!!」
「だよねぇ!私俵型の方も好きなんだー!」
「みんなには、山葵の葉はまだ美味しいって思えないかもしれないけどね」
苦手だったら大人に食べてもらったらいいと言う。
「これ!何を持って行ったら交換してくれますか!?」
「これ?んー、普通の食べ物とも交換してあげられるよ。ただ、普通のお結びよりも手が混んでるから、お結びと同じ数っていう風にはならないけど」
お結び2つと稲荷寿司一つとかになるかもと言われ、驚きながらもこんなに美味しいければそれもそうかと子供なりに納得したようだ。
「今日はみんなが頑張ってくれたから、その御礼にね」
参加してくれてありがとうと言いながら稲荷寿司のお土産を渡し、子供たち全員を見送る。
優勝者の父も来たので、何人家族かと聞いて竹札を一枚もらうと一人20個の計算でお結びを渡した。
「こっちは稲荷寿司ね」
今日は優勝おめでとうと頭を撫でて手を振った。
「私達もお祝いしなくちゃね」
「鬼灯くんの優勝祝だよ!」
「何が食べたい?」
土俵や大鍋など、使ったものを全てしまってこちらに手を伸ばしてくる母八人と沢山の父兄。血の繋がりはなく、普通の家庭ではありえないけれど、鬼灯はこの家族が大好きになった。