8.鬼灯の冷徹
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光の中に入ると、見た事もない景色が広がっていた。
「ここは、何処ですか?」
「ここがみのり屋の家だ。実際に住んでいるのはあの扉の向こうだが、あの島も湖もすべてがみのり屋の家だ」
「さっきまで、夕方でした」
「ここには夜が無くてな、最初は時間感覚が狂ってしまうかもしれないが、家の中は夜になればちゃんと暗くしているからその内慣れるだろう」
そう言って「ただいま」と大きくて立派な戸を開けると満が顔を出した。
「おかえり、丁くんも一緒だったんだね」
「おかえり、夕飯までまだ時間がある。先に風呂に入っちまえ」
「一緒に入るか。風呂の使い方も教えなければな」
「今日は丁も初日だし、みんなで入ろうか?」
「そうするか、まだ体が小さいんだ、大きくなるまでは誰かと入った方が良いな」
満の後ろからやって来た梅智賀とキリルが話に混ざり、丁が口を開く前にまとまったこの後の予定。
風呂場はこっちだよと案内されている間キョロキョロと周りを見ていると、キリルが笑った。
「家の中の探索はお風呂に入った後でしたら良いよ」
「あ、良かった。間に合った。丁くん、ちょっと背中向けてくれる?」
「?はい」
豊に背中を向けると、小さな作務衣を当ててサイズを確認していた。
「うん、大丈夫かな。採寸してちゃんと作るまではこれで我慢してね?」
お風呂に入っている間に、今着ている服もキレイに洗ってほつれを直しておいてあげると言ってキレイに畳まれた作務衣を手渡される。
蜻蛉切達もやって来て、湯と書かれた紺色の暖簾を一緒にくぐった。
「このスライム達はみんな家族だから怖がらなくて大丈夫だよ」
「触ってもいいですか?」
「構わないぞ、触った所からキレイにしてくれる」
スライムをぷにぷにと突つき、撫でれば手を取り込まれサラサラと水の渦で流されたような感触があった後に開放される。
「どうやって生きているのでしょう」
「汚れを食べているんですよ。さぁ、服を脱いだらこの籠へ入れてください。スライムたちがキレイにしてくれますから」
大人たちを見習い服を脱いで全裸になると、タオルを腰に巻き、湯殿へと入って行く。
「これは、お湯ですか?」
「そうですよ。といっても温泉ですからただ水を沸かしたお湯とは違いますね」
「湯に入る前に体を洗えよ」
「今日が初めてなら、垢擦りもするか」
男たちに世話されながらしっかりと磨かれ、風呂から出れば初めて触る柔らかいタオルに驚き、ひなたに作務衣を着せてもらう。
そして、食堂に入れば火の入れられた囲炉裏からは良い匂いがしていた。
「温まった?」
「サイズは、大丈夫かな?大きすぎて邪魔だったりはしない?」
一応袖を一つ折っておこうかと両手の袖を一つずつ折って席について待っていてねと頭を撫でる。
「こっちにおいで、一緒に食べよ!」
「急だったからあんまり手の込んだものじゃなくてごめんね」
「ツヤツヤになったねぇ」
大勢で輪を作るように座り、並べられた見た事もない豪華な食事を一生懸命口に運んでいく。
「このご飯、お結びよりも真っ白です!」
「本当はこの白米でお結びを作れたらいいんだけどね。そうするとちょっと高くなっちゃうから、あんまり出せないんだよね」
今度ハクタクさん達が来た時に味見してもらってみようかなと言われ、そんな貴重なものを食べて良いのかと見上げた。
「うちは元々白米で食べてたしね」
「混ぜご飯が美味しいのも本当だし、売り物としてって話しだから」
「おかわりもいっぱいあるから沢山食べてね」
「ですが、明日売る分が無くなってしまいませんか?」
「明日の分は別でちゃんとあるから大丈夫だよ」
「心配なら、今度畑に連れてってやろうか」
そこで沢山実っているのを見れば安心するだろうと進に言われ、そうかもしれないなと他の者も笑って頷く。
「うちには大きな畑があるから、食べ物には困ってないんだよ」
「みんなで収穫とか世話とかしてるからな。人手が増えて本当に助かってるよ」
「明日の朝は私達と一緒に黄泉の国に戻るとして、その後はどうしようか。お弁当持っていったら三人で夕方まで遊んでる?」
「二人と交換できる物を探しに行きます」
もしも時間があったら住処を見てくると言う。
「持って来たい荷物があったら言いなさい。手伝おう」
「ありがとうございます」
「丁くんがうちの子になってくれたら、その内他の兄弟にも会えるかもね」
それぞれがそれぞれ、話をしながらにぎやかに夕食が過ぎていき、丁が欠伸をしたのでもう寝ようかと茂が抱き上げる。
「寝る前に歯を磨こうか。虫歯になると大変だからね」
「むしばですか?」
「歯が痛くなっちゃって、美味しいものも美味しく食べられなくなっちゃうんだよ」
そう言って洗面所へ連れていき、歯ブラシで磨き方を教えて、居間へ戻ると正座で座って頭を乗せるように言う。
「歯磨きに慣れて上手に出来る様になるまでは、誰かに仕上げで磨いてもらってね」
「コクン」
口を開けているので小さく頷くだけの丁に笑い、歯の隙間もキレイに磨いて口をゆすぐ。
「今日は私たちと一緒に寝ようね。うちの空気感が嫌じゃ無くて家族になっても良いって思えたら、丁くんの部屋も用意するから安心してね」
茂と現津に挟まれて、柔らかくていい匂いのする布団に沈むように眠った。
目を覚ますと、隣には誰もいなかったが美味しそうないい匂いがしている。
目を擦ってベッドから下りると、つむぎが入ってきて微笑みながら「おはようございます」と挨拶が頭の中で聞こえてきた。
「"顔を洗ってから食堂へ行きましょう。朝食の準備は出来ていますよ"」
「はい、分かりました」
返事をすると、洗面所へ連れて行かれて温かなお湯で顔を洗うと柔らかいタオルを差し出された。
(柔らかい)
ベッドもタオルも、こんなに柔らかい物に触ったことが無いと思いながら顔を上げると、つむぎが椅子に座るように促してくる。鏡の前に座り、少し濡れていた前髪をタオルで拭かれてこれまた柔らかいブラシで髪を整えられていく。
(気持ちいい)
ツヤツヤになった髪を触りつつ、つむぎと一緒に居間へ向かう。
「おはよう、グッスリ寝てたから起こさなかったけど、淋しい思いしなかった?」
「はい、つむぎさんがいてくれたので大丈夫でした」
「良かった。もうすぐ朝ごはんだからここで待っててね」
「何か手伝う事はありますか?」
「しっかりしてるねぇ、なら配膳を手伝ってもらおうかな」
豊と望に教えられながら膳の上に一人分ずつ箸とおしぼりを置いていく。
「丁くんはお箸使った事ある?」
「ありません」
「では慣れるまではこちらの匙を使いましょう」
昨日も使った匙が、自分の膳に置かれた。
「お箸の使い方は今度教えてあげるね」
「おはよぉ〜」
「おはよう」
「榊は朝が弱いですね」
「ん〜」
圧紘に連れられてやって来た榊の頭には立派な鳥の巣ができていたが、特にそれを気にした様子も無く皆が席についていく。
「いただきます」
手を合わせ、全員で同じ物を好きな様に食べていく。
「榊さん、味噌汁熱いから気をつけてね」
「ん〜、おいひい〜」
いつもつけている義手を外し、圧紘に食べさせられている姿は昨日も見たので驚きはしない。
「もしも家で遊びたかったら烏頭くんたちと一緒に来ても良いからね」
「いいのですか?」
「もちろんいいよ。ここには子供たちも沢山いるからね。ただ、ここって簡単に来られなかったりするから、来る時は誰かに声かけてね。連れてきてあげるから」
「ありがとうございます!」
食事が終われば、昨日脱いだ自分の衣に着替える。借りた作務衣とは比較にならない肌触りなのに、豊が繕ってくれたからか着心地が全く違った。
「このまま採寸させてね」
背中を向けて、何か線がたくさん入った紐を当てられる。
「それはなんですか?」
「メジャーっていう、長さを測る定規だよ。布とかを測る時はこう言う硬い物で良いんだけど、人の体とか柔らかい物を測る時は柔らかいメジャーの方がちゃんと測れるんだよね」
そう言って採寸したメモをバインダーに書き、ザッと丁のイラストも描く。
「丁くんの目の色キレイだね。黒髪で黒い服は重たく感じたりするけど、差し色みたいに締まって見えるよ」
「差し色?」
「映えるって言ったらいいのかな?とっても素敵って事だよ」
そう言って頭を撫でられた。
全員で黄泉の国へ向かい、沢山遊んでおいでと白いお結びと炊き込みご飯のお結びが包まれた大きな包を渡される。
「お腹が空いたら食べてね」
「桃之丞も一緒に行ってあげなさい。子供だけで遊ぶのは危険もありますから」
屋台の準備をしながら見送られ、遠くに見える烏頭と蓬に駆け寄っていく。
「お!丁だ!」
「どうだった?!みのり屋の家!」
二人も駆け寄ってきて、桃之丞を見るといつま現津が連れている熊だと騒ぎ出す。
みのり屋での話をしながら一度丁が住処にしている場所を見に行き、何もない事を確認してからお結びと交換できるものを探しに行った。
「へー!風呂かぁ!いいなぁ、気持ちいいんだろ?俺も入ってみたいなぁ」
「なんか今日良い匂いしてんのはそれでか?」
「良い匂い、しますか?」
すんすんと自分の袖を嗅ぎ、どことなく茂の匂いがしたような気がした。
「茂さんの匂いでしょうか。昨日一緒に寝たので」
「マジかよ!いいなぁ!」
「現津さんも一緒ですよ」
二人に挟まれて一緒に寝たと言うが、二人は「いいなー」と繰り返す。
その後も食べられるものを探しながら話していれば、桃之丞が催促するように服の裾を噛んで引っ張ってきた。振り返れば、朝に渡されたお重を何処からか出して見せてくる。
「あ、おべんとうをいただいたのでした」
「なに?」
「食べもんじゃね?!」
「お腹が空いたら食べるように言われたので、多分そうですね」
三人と一匹で囲み、蓋を開ければほんのりと甘い香りがする稲荷寿司と炊き込みご飯のお結びが敷き詰められていた。
「これ、お結びじゃねぇよな?」
「何でしょう。帰ったら聞いてみます」
「下の段に入ってるのは、全然違うな」
「ぶぶぶ」
桃之丞が水筒も出し、三人分の皿とおしぼりもセットで並べると自分の弁当の蓋を器用に手で開け、稲荷寿司を持って食べ始める。
「俺たちも食おうぜ!」
「そうですね」
「あいつ、あんなに小さいのに俺たち三人と同じだけ食うんだ・・・」
そんな蓬の呟きを聞きながら、おしぼりで手を拭いて早速稲荷寿司に手を伸ばす烏頭。
「っ、うめー!!なんだこれ!!?」
「甘いですね」
「うま!すげぇ!!こんなのも作れんだ!!」
何で出来てるのかまったく分からねぇと言いながらバクバク食べて行き、すぐに完食してしまった。
「はぁ~、めっちゃうめぇ~」
「夢中で食べちゃったな」
「みのり屋の家に行って遊んでも良いと言っていましたよ」
「マジで!?」
「その変わり、行く方法が特殊なので誰か大人と一緒でなければならないですけど」
「明日行ってもいいか聞いてみようぜ!」
水筒から冷たいお茶を飲んで少し休んでからまた食べ物を探し始める。
そうしていると大きな男が声をかけてきた。
「困ってること?」
「そうなんだよ。今みんなに困ってることはないか聞いて回ってるんだ」
「そうだなぁ、亡者が多くて好き勝手暴れてるくらいかな?」
「みのり屋の屋台でうまいもん食べられるって襲ったら返り討ちにあってたけどな」
「亡者まで追い払えるんだからすげぇよな」
その大きな男と話していると、丁の名前を聞いて改名を勧められる。
「鬼灯なんてどう?鬼火に丁でよくなぁい?」