8.鬼灯の冷徹
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みのり屋の転生が終わり、九人全員が揃った。揃った事で、改めて今回の世界はどんな所だろうかと見てみる。
「人の世界があんまり発展してないね」
「商売って感じでもなさそうだねぇ」
「このままこの山とかに引きこもる?」
現地の様子を見て来た黒服たちから報告を受けみんなで相談していれば、進が木霊がいると連絡をしてきた。
「木霊って、白くてコクコクしてるあれ?」
『いや、なんか人の子っぽい』
みんなで進のいる場所へ向かうと、進に抱えられて戸惑いながらも青い顔でガクガクと震えている幼い男の子がいた。
「可愛いねぇ~!」
「まんま人の子供っぽくない?気配が、違うくらい?」
「ずい分怯えてるね?大丈夫だよ。怖くないからね」
「あ、あのっ、すみませんっ!あなた方のようなっ、高位の神様にっ、お会いしたことが無くてっ」
全員に囲まれて震えがさらに強くなった木霊に、笑いながら頭を撫でた。
「私たち神様じゃないよ」
「え、ですが、」
戸惑いながら進を見上げる。
「木霊って木の精霊でしょ?進に一番強く何か感じるんじゃない?」
「あー、考え方によればロギアみたいなもんか?」
そう言いながら抱えていた木霊を下ろして目線を合わせるためにしゃがむ。
「でも妖精種ってより精霊種、てか精霊?だろうし、なんか感じるだけで覚醒とかしないよな?」
「か、かくせい、?すみません、わかりません」
「ああ、気にしなくていい。わしらはまだ生まれたばかりで、この世界についてよく分からなくてな」
どこか住みやすそうな所を知らないかと聞けば、「生れたばかり?」と首を傾げた。
「説明が難しいな。木霊なら見せてもいいか?」
「見せた方が早いかもね」
「向こうでおやつでも食べながら話そうか」
「木霊って何が食べられるんだろう。やっぱり果物?」
「そうかもね!気に入った果物があったら可愛く切って上げるね!」
「ど、何処に連れて行かれるのでしょうかっ」
「怖がらなくても大丈夫だよ~、賑やかで良い所だよ~」
別世界だけどと、ボソリと呟く圧紘の言葉に、さらに震え出した木霊を抱えて一度家へと戻った。
しかし、世界樹を見た瞬間眼を見開いて走り出し、盛り上がっている根に乗って太い幹に抱き着く。
「やっぱ世界樹って異世界でも木霊にとってはなんかいいもんなのかな」
「お母さん的な?」
「あの樹がお母さんじゃない生き物っているの?」
ちょっと泣きながら擦りついている木霊は好きなようにさせておく事にして、一度家へ行っておやつを作り、軽食も一緒に弁当箱に詰めて戻ってきた。
「ピクニック気分も良いよね」
「木霊、お前もこっちに来て一緒に食わないか」
声をかければ、よちよち歩きで近づいてくる。
外見が幼いだけで中身はそんな事なかったはずなのだが、幼児退行でもしたかのようによちよち戻ってくると進の隣にぴったりとくっついて座った。
「やっぱりロギア系は進にシンパシー感じるんだねぇ~」
笑いながらおやつが始まり、至にもらった果物を一口食べて眼を見開き、ガツガツと食べ進めていく。
「こんなっ、これっ!すごく美味しいです!!」
「もしかして木の実以外も食えるか?」
進が食べていた巨大米を木霊に近づけて一口食べてみろと言えば、小さく一口食べてから美味しい美味しいとガツガツ食べていく。
小さな姿で一生懸命食べている姿をみんなで笑いながら見ていれば、あっという間に満腹になったのか腹をさすりながら「けぷ」と小さくげっぷをする。そんな木霊を可愛いと膝に乗せている至。
「ねぇねぇ、木霊ちゃん。どこかに余所者がお店を出しても大丈夫な場所ってないかな?」
「お店、ですか?」
「人間の町、村?の様子を見てもらってきたんだけど、元々そんなに人数もいないから私たちみたいなのがお店を開くと目立ちすぎちゃって」
「ああ、最近人間が増えて村同士の小競り合いも多いですからね」
人の振りをして過ごすつもりでいるのなら、確かに現世では過ごしにくいかもしれないと考えるように首を傾げる。
「あの世に行ってみますか?黄泉の国と呼んでいるのですが、人間はいないですが、亡者は多くいます。鬼や烏天狗なんかもいて、そこまで怖い所ではありませんよ」
そう言ってから現津と梅智賀、圧紘たちを見上げる。
「あなた方は、神、ではないですよね?貴方たちは、鬼、でもないような?」
「神ではありませんよ。みのり屋を守るゴーレムとガーディアンですので」
「俺らは魔族だよ。なんて言えば分かるかな?人になれる魂と神様の欠片が合わさった存在って言うか?」
「ごーれむとがぁでぃあん、聞いた事のない種族ですが、異界から来たのならそんな事も、あるんでしょうね?」
首を傾げながら現世へ戻り、木霊の案内で黄泉の国へと向かう。
「わー、すごい暑い!」
「火が吹き出す場所が多かったりしますから。あっちへ行くと気持ちがいい場所もありますよ、皆さんのお家がある場所に近いかもしれません」
一日かけて常春のような場所も見て回り、気候的にもみのり屋の家に近いという話になった。
「ここだと商売はしやすいだろうけど、家にいる時と変わらないね?」
「家に帰ればいつでも春みたいなもんだしな。ならこっちでは夏みたいな場所で過ごしてもいいんじゃないか?」
「とりあえず、こっちで商売ができるかどうか試してみようか」
屋台風の荷車を収納バッグから出して一角に設置する。
「誰かの許可が必要じゃないってありがたいね」
「時代だな」
そうしていると、見た事のない者が何かやっていると鬼たちが様子を見に来た。
「明日から開店しまーす!」
「みのり屋です!来てくださいね」
みんなで周囲に声をかけている間に、進が木霊の頭に手を置いた。
「もう家に来る方法は覚えたか?いつでも遊びに来て良いぞ」
「良いんですか!?」
「いいぞ、森のでも、あの木のでも、木の実を採って食べるのも好きにしていいからな」
黄泉の国に連れて来てくれて助かったと頭を撫でられ、嬉しそうに笑って返事をしていた。
みんなで「またね!」と手を振れば手を振り返し、現世へと戻って行くのを見送り、明日から売るお結びを握り始める。
「中の具はどうしましょうか」
「ここの人たちがどんな食べ物を食べてるのか調べなきゃね」
「黄泉の国ってお金ないんでしょ?」
物々交換がまかり通る時代なのだ。給料として食事を提供しているのだから、それこそ白米のお結びなど高級品ではないだろうか。
「麦と粟、稗と、芋を混ぜたお結びを一番安くすれば良いかな?」
「それが良いかもな」
そう話していると、三人の子供がこちらをジッと見つめてい来たので笑いかけた。
「お店は明日からだよ」
「いや、えっと」
「すみません、この馬鹿がなんの店なのか知りたいとうるさいもので」
「お前だって気にしてただろ!」
金髪の子供が黒髪ストレートの男の子に怒鳴れば、もしゃもしゃした黒髪の子が止めに入る。
「味見してみる?他の人にもうちのこと宣伝してくれたらタダにしてあげるよ」
「マジで!?やったぜ!!」
「え、えー、本当に大丈夫かよ・・・」
「みなさんは神ですよね?」
何故店なんてと言う冷静な男の子が丁。元気でヤンチャそうな金髪が烏頭、気弱で振り回されていそうな男の子が蓬というらしい。
芋と一緒に炊いたお結びを木の皿に乗せて渡す。
「何か食材を持ってきてくれたらこのお結びと交換できるよ」
食べてみて?と言われ、烏頭が皿を見ると、少し黄色味がかった塩お結びが三つ乗っていた。
「これ食えるのか?」
「はい、おしぼり。手を綺麗にしてから食べてね」
満がおしぼりを差し出し、三人が顔を見合わせてからおしぼりで手を拭き、小さな手で掴んで匂いを嗅ぎ、口へ運んだ。
「んっま!」
「なんだこれ!」
「甘いのに、塩の味がします!!」
「この漬物もどうかな?ここの人たちにとってこの味って美味しいって感じる?」
外見年齢が一番近い満が漬物を出すと、警戒心が薄まった三人はすぐに摘まんで食べた。
「コリコリする!美味い!!」
「野菜ですか?つけものという、美味しいです!」
「これ食べるとお結び?がもっと食べたくなる!!」
「あー!うめーのに!もう無くなった!!」
「なるほど、この粒が手につくからキレイにしろと言っていたんですね」
眼を輝かせている三人に、ベンチを出して座るように手招きをしてお茶を出す。
「はぁ~、これただのお湯じゃないな。なんだろう」
「お茶って言うんだよ、体にいい草を乾燥させてお湯をかけたら出来るんだ」
「体にいいんですか?」
「なんだよ、最高じゃん、この店」
「どうだった?ここの人たちでも美味しいって思ってくれそう?」
「すげぇ美味かった!これどこの食いもの?!」
「ん~、どこかなぁ」
「もしかしたら、現世ではお偉いさんしか食えないかもな」
「多分お結び自体はもうあるだろうけどねぇ~?」
山を模した神聖な食べ物だったはずだしと榊が首を傾げる。
「あっちになんかデカい生き物がいるな。あれって狩ってもいい奴か?」
「なんも見えねぇよ?」
「ちょっと遠いからなあ」
「俺が行ってくる。あんこ、満から離れるなよ」
「キュウ」
「いってらっしゃ~い」
圧紘が手を振って、物凄いスピードでいなくなる梅智賀を見送った。
「圧紘くんが来てから智賀くんが一人で出ていく事が多くなったね」
「手数で足りなくなるという事が無くなったからな」
「いや~、信頼されるって嬉しいね~」
「よかったねぇ~」
ホーキンスが小さく笑って満の手伝いをしていれば、結構直ぐに戻ってきた。手ぶらの梅智賀を見て、捕まえられなかったの?と三人の子供達が見上げてくる。
「捕まえたぞ。見るか?」
そう言って腰につけている鞄から巨大な象の様な何かを出して見せた。
「でっけー!!」
「なんだこれ?!」
「多分食えるとは思うが、どうだ?」
「食べられるね!大丈夫!」
「象かぁ、お肉硬いのかな?煮込んで柔らかくして、しぐれ煮とか?」
「普通に美味そう」
「満たちは山に入らねぇ方が良いかもな。気温が高ぇからか、単に原始だからか、何でもかんでもサイズがデカかった」
「え、あ・・・、うん。気をつける」
「、そうですか」
やっぱりいるよねと、虫が苦手なメンバーが青い顔で俯いていた。
どんな物を持ってきたらあのお結びと交換してもらえるのかと烏頭が見上げる。
「そうだねぇ、食べられる物だったら何でもいいけど、食べられない物でも交換してあげられるかも」
「例えばどの様な物でしょうか」
「黄泉の国にしかない植物とか生き物とか、鉱物、んー、石とかかな」
「石でもいいの?!」
「珍しい石だったらね。流石にそこら辺の石とは交換してあげられないけど」
「やったぜ!これから何か取りに行こうぜ!」
「あんまり危ない事はしないようにね?」
「とりあえず、明日は炊き込みご飯のお結びも味見してみて欲しいから、何も採れなかったとしてもおいで」
「本当ですか?!」
「やったぜ!!」
「私達もお休みしたい日とか、準備をする日があるから、そういう日は前もって言うね」
「お休みの日に待ちぼうけさせてしまうのは可哀想ですからね」
この屋台がある日はいつでもおいでと言われ、目を輝かせた三人が手を振りながら帰っていく。
「可愛いね!また来たらサービスしてあげよ!」
「あの子達は角がはえてたし、多分鬼の子供だよね?鬼ってどのくらいで成長するんだろ」
「魔族と同じくらいだったりして」
「なら私達が生きてる間はずっと子供かもね」
そんな話をしながら、ベンチと湯呑を片付けて象っぽい何かを解体するために一度家へ戻ることにした。
「わしはちょっと山を見てくるかな。何か山菜が採れるかもしれんし」
「俺も手伝います?って言ってもコピーですけど」
「来てくれるんなら助かるな。どれだけ取れるかわからん」
圧紘のコピーが進と山に山菜を取りに行くのを見送ってから家へ戻った。
「美味しい!」
「あの象みたいなのからいい出汁でてるよ!」
「筍?の食感も良いね!これなら売れるよ!」
全員で味見をし、次の日に屋台を引いて広場へ向かうと既に昨日の三人と木霊がいた。
「木霊ちゃんも来てくれたんだ」
「はい、こちらの三人と山で会いまして」
食べ物を持ってくればお結びと交換してもらえると教えてくれたと、籠に入ったキノコや木の芽を見せてきた。
「俺たちもとって来たぜ!」
「木霊さんが食べられると教えて下さったので、掘ってきました」
「これって食えるんだな」
「沢山取ってきてくれたんだねぇ!じゃぁこっちで見せてもらおうかな」
屋台の横で籠から筍やキノコを鑑定していく。
「このキノコに毒はありませんから、人間でも食べられますよ」
「そういった知識は助かります」
「いい香り、これならお味噌汁に入れても良いかも。木の芽もあるし、天ぷらの方がいいかな?」
現津が重さと個数を数え、お結び何個分かを伝える。
そして数が多かった場合は今日中に食べられる分だけを渡すねと豊が笑いかけた。
「今日持っていけなかった分はここに書いておきますから、食べたくなったら取りに来てください」
「何個くらいなら食べられるかな?」
「一人十個かぁ、父ちゃんとか直ぐに食っちまいそうだし、全部持ってくよ」
「俺も、母ちゃんに言ったら食ってみたいって言ってたし」
「私は五個だけ持って行きます。後は預かっておいてください」
「私はぁ、どうしよう。二個だけ食べて、サクヤ姫と岩姫にも持っていって、ああ、でもそうなると他の神にもあげなきゃいけなくなるしっ」
頭を抱えてしまった木霊は置いておき、芋と炊いた麦飯お結びを包んであげる。
そして、木の皿に味見用のお結びを人数分乗せて差し出した。
「味見用だからちょっと小さいけど、お漬物もあるから食べたら感想もらっても良い?」
「木霊ちゃんも味見しながら考えたら?」
ベンチを出して四人を座らせ、お茶と漬物を一緒に出せばその美味しさを知っているので直ぐにおしぼりで手を拭いて口に運ぶ。
「美味い!」
「昨日のと全然違う!?」
「はわぁ〜!竹の若木がこんなに美味しいなんて!」
「この柔らかい肉が昨日のヤツですか?!」
「漬物も昨日と違うやつだ!」
「明日もまた来ようぜ!」
「可愛いねぇ」
「美味しいもの食べたら幸せで笑顔になるよね」
「お茶の御代わりなら出来ますからね」
みんなでワイワイと準備をしていれば、昨日からこちらを気にしていた鬼たちがお試しの一口お結びをもらって目を輝かせていた。
中には力技で奪い取ろうとする者もいたので、と言うかそういう者がほとんどだったので、その場合は黒服の皆が取り押さえていた。
その力量差に更に目を輝かせている者もいたが、こういう時代はやはり強いイコールかっこいいになりやすいのだろう。
時間的に昼がすぎ、交代で休憩しても客足は無くならない。なので今日は閉店だと区切りをつけてようやく一息つくことができた。
「ふ〜!初日でこれは上出来だね!」
「まさかこんなに来てくれるなんてね!」
「冷たい水に喜んでくれてたし、これなら明日も混みそうだね」
屋台の片付けをしている白服メンバーを手伝いながら、黒服たちも今日一日を通して感じたことを共有する。
「人間種より話が通じていいな」
「力が強い者が偉いという認識があるようですからな」
「問題は高位の神が来た時か」
「目に余るようなら殺しましょう」
「それは最後の手段にしない?」
すぐ殺そうとする現津と梅智賀に苦笑し、戻って夕食にしようと全員で屋台を引いて家へと帰る。