付き合うまで
おなまえは?
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カラコロンと、店のドアが開く音がする。小説を読んでいる手を止めて視線を上げると、先日、保科さんと居合わせた本屋で出会ったカフカさんが立っていた。
ども、と小さく頭を下げた彼にカウンターへ来るよう声をかける。カフカさんは店奥のカウンターの席に腰をかけると、何かランチとかってありますか?と尋ねてきた。
「そんなに凝ったものは置いてないですが…。ドリアか、ナポリタンが重いですかね」
軽いのでよければ、サンドイッチもありますよ。というと、あ、じゃあドリアで。と返事が返ってくる。私はオーダーを受けると、仕込んであったソースなどを準備しつつ、カフカさんに声をかけた。
「早速お店に来てくださって嬉しいです。ありがとうございます。」
「ちょうど外に用事があって出たんですが、そういえば〇〇さんの店ってこの辺だったよなーと思って。いいお店ですね。」
「祖父から継いだ店なんです。そう言っていただけると嬉しいです」
キョロキョロと店内を見まわし、アンティークなどにも目を止めてるものの、店内のお客さんの少なさにカフカさんは驚いたのかもしれない。ぱたぱたと何度か瞼を瞬かせ、穏やかっすね。といいながら正面に向き直った。今日は平日の昼時だが、席に座るお客様も3名ほどで、小さな店内のテーブル席などに腰掛け、ゆったりと過ごされている方がほとんどだった。こんなに穏やかな日も珍しいが、お店としては土日の利用客の方が多く、平日は午後から徐々に増えるため、こんなにゆっくり本を読んでいられる時間ももうすぐ終わるだろう。小さく流れるジャズの音の合間から、カフカさんは静かで素敵なお店ですね。とこぼし、メニュー表を手に取って眺めていた。
せっかく来てくださったので、会話をしながら食事の準備を進めていく。カフカさんは保科さんと同じ第3部隊で、今年から入隊した新人さんらしい。年もギリギリで入ったそうで、周りの若い人たちに負けないように頑張っているそうだ。どうりで歳が近そうにみえたわけだ、と思いながらランチとセットのコーヒーをサーブする。カフカさんはそれを受け取りながら、そういえばと思い出したように声をあげてこちらを見た。
「この間、保科副隊長と2人でお出かけされているときにお邪魔してしまってすいませんでした」
「いえ。保科さんともたまたまお店の外でお会いしただけですから、気になさらないでください」
「そうだったんすね。いやー、てっきり2人で過ごしてたのを邪魔しちまったかと思って、気にしてたんですよ」
「ふふ。彼女ですかって誤解されて、保科さんに怒られてましたね」
「その件は不躾にすみませんでした」
「いえ。素敵な副隊長さんだから、こちらも悪い気はしませんし。でも、お付き合いはしてませんから誤解しないでくださいね」
はーい。と言葉を返し、カフカさんはニカっと笑った。
お客様の中でもたまにいるのだが、踏み込んだ質問をされても不快に感じさせない人がいる。カフカさんはそういう人らしく、こちらも聞かれた内容にすらすら答えてしまう。懐に入り込むのが上手なタイプのようだった。
ドリアを提供するとカフカさんは黙々と食べ始め、私も他の仕事をし始める。カフカさんから持ち帰り用のアイスコーヒーを頼まれているため、テイクアウトの準備も進めていると、カフカさんに声をかけられた。
「めちゃめちゃうまいっす。このドリア。今度、防衛隊員のみんなも誘ってきていいっすか?」
「もちろんです。お客様と知り合えるのは嬉しいことですから、ぜひ皆さんでいらしてください」
あ。でも、いっぱい呼ぶ時は事前に連絡してもらえると助かります。仕込む量、変えるので。そういうとカフカさんは、うすっ。と言って残りのドリアを平らげた。時間のない中、来てくれたのだろう。お会計を済ませると、テイクアウトのコーヒーを持って、また来ます!と言い残し、颯爽と帰ってしまった。先ほどの話だと、夢にまでみた職業ということだったし、午後の業務も頑張るのだろう。
嵐のようで面白いカフカさんに、また来てくれたらいいなと思いつつ、午後の業務を再開した。
午前中の仕事が長引き、遅いお昼ご飯をとった後、事務仕事を片付けようと自身のデスクに向かっている途中。自習室の前を通りかかると、いつも通りカフカが勉強をしていた。毎日、努力しとんなぁと思いつつ、通り過ぎようとした時あるものが目に入る。プラスチックに入った飲みかけのコーヒー。別にどこにでもある、テイクアウトしてきたであろうコーヒーなのだが、なんとなく勘が働いた。通り過ぎようとした足を止めてカフカがいる室内へと入っていく。
「カフカ、今日もやっとるか」
「保科副隊長!お疲れ様です!」
「立たんでええ。ちょっと気になることがあって寄っただけやから」
「気になることですか?」
そう返してきたカフカに見えるようにコーヒーカップを持ち上げる。これ、どこで買ってきたんや?と聞くと、ああ!と声をあげて
「〇〇さんの店っすね!」
と嬉しそうに返してきた。
………は?
「〇〇さんの店、ご飯、めちゃくちゃ上手くて。今度はみんなを誘って行こうかなって」
「ま、まて、カフカ。お前、なんで」
「え?」
「なんで、〇〇さんの下の名前」
「名前…?ああ。名刺もらったんで下の名前わかりますし、副隊長のお知り合いなので、親しくした方がいいかなって思いまして」
変でしたかね?そう言うカフカにどっと脱力する。僕がまだ呼べていない下の名前を軽々しく呼んでいて。こっちはきちんとステップを踏みながら慎重に近づいているというにも関わらず。
「カフカぁ…」
名前を呼ぶが早いか、首に手を回して軽く締める。落としはしない。締めるだけ。
「ぐぇっ…!?な、なんでっ、怒ってるんすかっ…!?」
理由は説明できるわけもないので、なんとなく。とだけ返す。りふじんだっ…!!!と言いながらもがくカフカだが、僕に叶うわけもなくバタバタするだけ。しょーもない嫉妬心に僕自身も困ってしまいながら、さて、僕はいつ彼女の名前を呼べばええんやろか、と考えていた。
呼び方
(大事なんは呼び方と違うってわかっとるけど)
(…し…しぬ…)
ども、と小さく頭を下げた彼にカウンターへ来るよう声をかける。カフカさんは店奥のカウンターの席に腰をかけると、何かランチとかってありますか?と尋ねてきた。
「そんなに凝ったものは置いてないですが…。ドリアか、ナポリタンが重いですかね」
軽いのでよければ、サンドイッチもありますよ。というと、あ、じゃあドリアで。と返事が返ってくる。私はオーダーを受けると、仕込んであったソースなどを準備しつつ、カフカさんに声をかけた。
「早速お店に来てくださって嬉しいです。ありがとうございます。」
「ちょうど外に用事があって出たんですが、そういえば〇〇さんの店ってこの辺だったよなーと思って。いいお店ですね。」
「祖父から継いだ店なんです。そう言っていただけると嬉しいです」
キョロキョロと店内を見まわし、アンティークなどにも目を止めてるものの、店内のお客さんの少なさにカフカさんは驚いたのかもしれない。ぱたぱたと何度か瞼を瞬かせ、穏やかっすね。といいながら正面に向き直った。今日は平日の昼時だが、席に座るお客様も3名ほどで、小さな店内のテーブル席などに腰掛け、ゆったりと過ごされている方がほとんどだった。こんなに穏やかな日も珍しいが、お店としては土日の利用客の方が多く、平日は午後から徐々に増えるため、こんなにゆっくり本を読んでいられる時間ももうすぐ終わるだろう。小さく流れるジャズの音の合間から、カフカさんは静かで素敵なお店ですね。とこぼし、メニュー表を手に取って眺めていた。
せっかく来てくださったので、会話をしながら食事の準備を進めていく。カフカさんは保科さんと同じ第3部隊で、今年から入隊した新人さんらしい。年もギリギリで入ったそうで、周りの若い人たちに負けないように頑張っているそうだ。どうりで歳が近そうにみえたわけだ、と思いながらランチとセットのコーヒーをサーブする。カフカさんはそれを受け取りながら、そういえばと思い出したように声をあげてこちらを見た。
「この間、保科副隊長と2人でお出かけされているときにお邪魔してしまってすいませんでした」
「いえ。保科さんともたまたまお店の外でお会いしただけですから、気になさらないでください」
「そうだったんすね。いやー、てっきり2人で過ごしてたのを邪魔しちまったかと思って、気にしてたんですよ」
「ふふ。彼女ですかって誤解されて、保科さんに怒られてましたね」
「その件は不躾にすみませんでした」
「いえ。素敵な副隊長さんだから、こちらも悪い気はしませんし。でも、お付き合いはしてませんから誤解しないでくださいね」
はーい。と言葉を返し、カフカさんはニカっと笑った。
お客様の中でもたまにいるのだが、踏み込んだ質問をされても不快に感じさせない人がいる。カフカさんはそういう人らしく、こちらも聞かれた内容にすらすら答えてしまう。懐に入り込むのが上手なタイプのようだった。
ドリアを提供するとカフカさんは黙々と食べ始め、私も他の仕事をし始める。カフカさんから持ち帰り用のアイスコーヒーを頼まれているため、テイクアウトの準備も進めていると、カフカさんに声をかけられた。
「めちゃめちゃうまいっす。このドリア。今度、防衛隊員のみんなも誘ってきていいっすか?」
「もちろんです。お客様と知り合えるのは嬉しいことですから、ぜひ皆さんでいらしてください」
あ。でも、いっぱい呼ぶ時は事前に連絡してもらえると助かります。仕込む量、変えるので。そういうとカフカさんは、うすっ。と言って残りのドリアを平らげた。時間のない中、来てくれたのだろう。お会計を済ませると、テイクアウトのコーヒーを持って、また来ます!と言い残し、颯爽と帰ってしまった。先ほどの話だと、夢にまでみた職業ということだったし、午後の業務も頑張るのだろう。
嵐のようで面白いカフカさんに、また来てくれたらいいなと思いつつ、午後の業務を再開した。
午前中の仕事が長引き、遅いお昼ご飯をとった後、事務仕事を片付けようと自身のデスクに向かっている途中。自習室の前を通りかかると、いつも通りカフカが勉強をしていた。毎日、努力しとんなぁと思いつつ、通り過ぎようとした時あるものが目に入る。プラスチックに入った飲みかけのコーヒー。別にどこにでもある、テイクアウトしてきたであろうコーヒーなのだが、なんとなく勘が働いた。通り過ぎようとした足を止めてカフカがいる室内へと入っていく。
「カフカ、今日もやっとるか」
「保科副隊長!お疲れ様です!」
「立たんでええ。ちょっと気になることがあって寄っただけやから」
「気になることですか?」
そう返してきたカフカに見えるようにコーヒーカップを持ち上げる。これ、どこで買ってきたんや?と聞くと、ああ!と声をあげて
「〇〇さんの店っすね!」
と嬉しそうに返してきた。
………は?
「〇〇さんの店、ご飯、めちゃくちゃ上手くて。今度はみんなを誘って行こうかなって」
「ま、まて、カフカ。お前、なんで」
「え?」
「なんで、〇〇さんの下の名前」
「名前…?ああ。名刺もらったんで下の名前わかりますし、副隊長のお知り合いなので、親しくした方がいいかなって思いまして」
変でしたかね?そう言うカフカにどっと脱力する。僕がまだ呼べていない下の名前を軽々しく呼んでいて。こっちはきちんとステップを踏みながら慎重に近づいているというにも関わらず。
「カフカぁ…」
名前を呼ぶが早いか、首に手を回して軽く締める。落としはしない。締めるだけ。
「ぐぇっ…!?な、なんでっ、怒ってるんすかっ…!?」
理由は説明できるわけもないので、なんとなく。とだけ返す。りふじんだっ…!!!と言いながらもがくカフカだが、僕に叶うわけもなくバタバタするだけ。しょーもない嫉妬心に僕自身も困ってしまいながら、さて、僕はいつ彼女の名前を呼べばええんやろか、と考えていた。
呼び方
(大事なんは呼び方と違うってわかっとるけど)
(…し…しぬ…)