付き合うまで
おなまえは?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カフェブルジェオンは毎週月曜日が定休日。そして、本日は月曜日。朝から家事をこなし、買い物のためにカーディガンを羽織って外へでた。玄関を出てすぐ、秋風がすっと吹き抜けて、体をさすりながら歩き出す。目的のスーパーまで距離があるし、歩いているうちに温まるかな、と考えていた時、ふと、ある広告が目に入った。
シリーズ最新作、入荷!
書かれた広告の作家名を見て、足を止める。この作家って、保科さんがいつも読んでる作家の…。先日、水族館に出かけた際、この作家が好きで、店でもよく読んでると話していたのを思い出す。読んだら、保科さんと話す話題の一つになるだろうか…。
そう考えるが早いか書店の中に足を向けていた。店内に入ると、本屋特有の香りがする。
堂々と広告が出てるくらいだから、おそらく目立つところに平積みや、ポップが作成されているだろう。そう思いながら店内を歩くと、目的のものはすぐに見つかった。最新作がたくさん詰まれた横に過去作や、短編作品など、同じ作家の本がたくさん並んでいる。何冊か手に取り、紹介文を読んで見ると結構面白そうである。シリーズの一作目、買ってみようかな。そう思いながら本を眺めていた時だった。
「〇〇さん?」
最近聞き馴染んだ声に振り返ると、保科さんがいた。
「あっ、こんにちは。」
「こんにちは。〇〇さん、それ、買うん?」
保科さんは私の手元に視線を落としている。彼が読んでいると知った上でこの本を手に取っている私は、いたずらがバレた時の子供のように気恥ずかしくなってしまった。なんとなく、誤魔化すように本に視線を落としながら少し早口に捲し立ててしまう。
「えっと、うん。広告が気になって、立ち寄ってみたんだけど面白そうだなぁって」
まさか、保科さんが読んでるんで、とは素直にいえない。ちら、と保科さんを盗み見ると、んー…と声を漏らしていて、それ、僕が好きな作家やねん、って言われたら面白いって言ってたから興味もあってって言おうかな、とか思った時にはたと気づく。
私、なんでこんなに保科さんのこと、意識してるんだろう。相手はお客様なんだから、保科さんが読んでるから、私も気になってって素直に言えばいいのに、なんで。
「保科副隊長?」
保科さんの名前を誰かが呼んだので弾かれたように顔を上げる。Tシャツ姿でラフな格好の短髪黒髪の男性がこちらに近づいてくるところだった。
「なんや、カフカか。こんなとこで会うなんて、奇遇やな」
「俺はノートが無くなりそうなんで、買い足しに来たんですが…」
カフカ、と呼ばれた男性がちら、と私に視線を向け、
「彼女さんですか?」
と度直球に聞いてきた。それに対して、保科さんはぺしっとデコピンをかまし、いでぇ!!!と言う声を無視して、アホか。と返す。
「女性に対していきなりそんな質問する奴があるか、阿呆。こちらは、僕の行きつけの店のミストレス」
み、みとす…?とカフカさんは返し、マスターの女性版。と保科さんから説明を受け、なるほど。と頷いていた。私は照れた顔を隠すようにカバンを探り、気持ちを切り替えながら名刺入れを取り出して、彼に名刺を差し出す。
「初めまして。カフェブルジェオンというお店をしています、〇〇です」
よかったら今度いらしてくださいね。そういうとカフカさんは、はい。今度お伺いします。と頷いて返事をし、それじゃあ俺、あっちに用があるんで。また!と、片手を上げて去っていった。ひらひらと手を振り返していると、ふと保科さんの視線に気がつく。彼の目は私の左手に握られた名刺ケースを見つめていた。そういえば、保科さんに名刺を渡したことはなかったかもしれない。
「…名刺、もっとったんか」
「普段は使わないけどね。業者の人に挨拶する時とかお客さんにお店を紹介する時に使ってるの。前職の時に普通に使ってたから、ないと不便かなと思って作っちゃったんだけど」
思ったより使わなくて。そう言いながら、改まった感じを出しつつ、保科さんに名刺を差し出した。ブルジェオンのミストレス、〇〇です。へら、と笑ってみせると保科さんは目を瞬かせ、それから少しおかしそうに吹き出してから、ありがとう。と受け取る。そうや。と声を出した保科さんは、本のコーナーをさっと見渡し、2冊の本を手に取ると、ここで待っとって。と言って、お会計をしにいった。
その姿を眺めながら待ち、戻ってきた彼にそのうちの一冊を手渡される。
「これ、シリーズものとちゃうんやけど、めっちゃおもろいから、ぜひ読んで。あと、シリーズのやつは、これが面白いと思ったら言うて。僕が今度お店に持ってくわ」
「え、ええっ。あっ、お金っ…」
「ええよええよ。僕の好きな作家の本に興味持ってくれて嬉しいねん。読書仲間になるかもしれんって思ったら、こんなん布教活動の一環やわ。それにこの間のモンブラン、めっちゃ美味しかったし、これはそのお礼ってことなら貰ってくれるか?」
こてん、と首を傾げながら、な?って言われると、心臓がちょっときゅっとなって。差し出された本にそろそろと手を伸ばしながら、じゃあ、お言葉に甘えて。と本を受け取ると、保科さんは嬉しそうに笑った。
ノートを買った帰り道、カフカは先ほどの光景を思い出していた。
保科副隊長と〇〇さん、店主とお客の関係って言ってたけど、並んで立っている姿はそういうんじゃなくて。
「本当に付き合ってねぇのかな…」
でもまた副隊長に聞いたら、今度はデコピンでは済まないだろうし。カフカは、今度、店に行ってみようともらった名刺を眺めながら思った。
君が好きなもの。
(私は保科さんが好きなのかもしれない)
(名刺、もっとはよもらっとけば、名前をすんなり知れたのに…)
シリーズ最新作、入荷!
書かれた広告の作家名を見て、足を止める。この作家って、保科さんがいつも読んでる作家の…。先日、水族館に出かけた際、この作家が好きで、店でもよく読んでると話していたのを思い出す。読んだら、保科さんと話す話題の一つになるだろうか…。
そう考えるが早いか書店の中に足を向けていた。店内に入ると、本屋特有の香りがする。
堂々と広告が出てるくらいだから、おそらく目立つところに平積みや、ポップが作成されているだろう。そう思いながら店内を歩くと、目的のものはすぐに見つかった。最新作がたくさん詰まれた横に過去作や、短編作品など、同じ作家の本がたくさん並んでいる。何冊か手に取り、紹介文を読んで見ると結構面白そうである。シリーズの一作目、買ってみようかな。そう思いながら本を眺めていた時だった。
「〇〇さん?」
最近聞き馴染んだ声に振り返ると、保科さんがいた。
「あっ、こんにちは。」
「こんにちは。〇〇さん、それ、買うん?」
保科さんは私の手元に視線を落としている。彼が読んでいると知った上でこの本を手に取っている私は、いたずらがバレた時の子供のように気恥ずかしくなってしまった。なんとなく、誤魔化すように本に視線を落としながら少し早口に捲し立ててしまう。
「えっと、うん。広告が気になって、立ち寄ってみたんだけど面白そうだなぁって」
まさか、保科さんが読んでるんで、とは素直にいえない。ちら、と保科さんを盗み見ると、んー…と声を漏らしていて、それ、僕が好きな作家やねん、って言われたら面白いって言ってたから興味もあってって言おうかな、とか思った時にはたと気づく。
私、なんでこんなに保科さんのこと、意識してるんだろう。相手はお客様なんだから、保科さんが読んでるから、私も気になってって素直に言えばいいのに、なんで。
「保科副隊長?」
保科さんの名前を誰かが呼んだので弾かれたように顔を上げる。Tシャツ姿でラフな格好の短髪黒髪の男性がこちらに近づいてくるところだった。
「なんや、カフカか。こんなとこで会うなんて、奇遇やな」
「俺はノートが無くなりそうなんで、買い足しに来たんですが…」
カフカ、と呼ばれた男性がちら、と私に視線を向け、
「彼女さんですか?」
と度直球に聞いてきた。それに対して、保科さんはぺしっとデコピンをかまし、いでぇ!!!と言う声を無視して、アホか。と返す。
「女性に対していきなりそんな質問する奴があるか、阿呆。こちらは、僕の行きつけの店のミストレス」
み、みとす…?とカフカさんは返し、マスターの女性版。と保科さんから説明を受け、なるほど。と頷いていた。私は照れた顔を隠すようにカバンを探り、気持ちを切り替えながら名刺入れを取り出して、彼に名刺を差し出す。
「初めまして。カフェブルジェオンというお店をしています、〇〇です」
よかったら今度いらしてくださいね。そういうとカフカさんは、はい。今度お伺いします。と頷いて返事をし、それじゃあ俺、あっちに用があるんで。また!と、片手を上げて去っていった。ひらひらと手を振り返していると、ふと保科さんの視線に気がつく。彼の目は私の左手に握られた名刺ケースを見つめていた。そういえば、保科さんに名刺を渡したことはなかったかもしれない。
「…名刺、もっとったんか」
「普段は使わないけどね。業者の人に挨拶する時とかお客さんにお店を紹介する時に使ってるの。前職の時に普通に使ってたから、ないと不便かなと思って作っちゃったんだけど」
思ったより使わなくて。そう言いながら、改まった感じを出しつつ、保科さんに名刺を差し出した。ブルジェオンのミストレス、〇〇です。へら、と笑ってみせると保科さんは目を瞬かせ、それから少しおかしそうに吹き出してから、ありがとう。と受け取る。そうや。と声を出した保科さんは、本のコーナーをさっと見渡し、2冊の本を手に取ると、ここで待っとって。と言って、お会計をしにいった。
その姿を眺めながら待ち、戻ってきた彼にそのうちの一冊を手渡される。
「これ、シリーズものとちゃうんやけど、めっちゃおもろいから、ぜひ読んで。あと、シリーズのやつは、これが面白いと思ったら言うて。僕が今度お店に持ってくわ」
「え、ええっ。あっ、お金っ…」
「ええよええよ。僕の好きな作家の本に興味持ってくれて嬉しいねん。読書仲間になるかもしれんって思ったら、こんなん布教活動の一環やわ。それにこの間のモンブラン、めっちゃ美味しかったし、これはそのお礼ってことなら貰ってくれるか?」
こてん、と首を傾げながら、な?って言われると、心臓がちょっときゅっとなって。差し出された本にそろそろと手を伸ばしながら、じゃあ、お言葉に甘えて。と本を受け取ると、保科さんは嬉しそうに笑った。
ノートを買った帰り道、カフカは先ほどの光景を思い出していた。
保科副隊長と〇〇さん、店主とお客の関係って言ってたけど、並んで立っている姿はそういうんじゃなくて。
「本当に付き合ってねぇのかな…」
でもまた副隊長に聞いたら、今度はデコピンでは済まないだろうし。カフカは、今度、店に行ってみようともらった名刺を眺めながら思った。
君が好きなもの。
(私は保科さんが好きなのかもしれない)
(名刺、もっとはよもらっとけば、名前をすんなり知れたのに…)