付き合うまで
おなまえは?
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あれよあれよという間に約束の月曜日。約束の時間は10時だが、少し早めに着くように移動している。結局何を着ていいかわからず、いつものシンプルな格好に近しいが、フレアスカートを履いてお出かけ感をだしてみた。ロングとはいえスカートを履くなんていつぶりだろうか。少なくともお店を継いでからはなかった気がする。久しぶりのお出かけに心躍らせながら最寄駅につき、待ち合わせ場所に向かう。
約束した場所は駅の改札を出たところだが、少し早いしお水でも買いに行こうか、そう思いながら改札を抜けた時だった。
「〇〇さん」
「えっ…保科さん?」
まだ約束の20分前だ。それなのにその場に保科さんがいた。
「えらい早いですね」
「いや、保科さんだって早いじゃないですか…!」
「僕も今着いたとこ。だから一緒です」
にこ、と笑う保科さんは、白いTシャツの上に、黒のロングTシャツ、紺色のジャケット、黒の細身のパンツという出立ちで、可愛らしく両手の人差し指をピンと立てている。普段お店に来るときのような、黒シャツにパンツ姿とそんなに違いはないものの、普段見慣れないジャケットにどきりとした。
「〇〇さん?」
「あ、その、少し早く着いちゃったかなって思ってたのに保科さんもいたからびっくりしちゃって。少し早いですけど、水族館に向かいますか?」
「そやな。ほないきましょか」
保科さんと並んで歩き出す。最寄りの駅のすぐ近くにある水族館は平日だというものの、そこそこ人が入っており賑わっていた。入館時の受付でもらったパンフレットを眺めながら、ショーの時間を確認する。
「ちょうどもうすぐショーが始まりそうです。ショーに行ってもいいですか?」
「もちろん。ほな、あっちかな」
イルカショーが行われているホールに向かうと、意外と賑わっており、席が埋まっていた。空いている席を探すように視線を彷徨わせていると、前の方の席が目に止まる。ホールの入り口に、前側の席は濡れる可能性があります!と書かれていたためか、そこを避けるように人が座っていた。保科さんもそれに気付いたのだろう、あー。と声を漏らしながらこちらを見てきた。
「あちゃー。濡れるかもしれんけど、どないします?」
そう言われて私も考え込む。経験上、思ったほど濡れないことのほうが多いため、多分大丈夫だろう。ここのショーがどんな感じなのかはわからないが、思ったことをそのまま口に出してみた。
「そんなに濡れますかね?」
「ま、思ったより濡れへんことが多いし、大丈夫か」
保科さんもおんなじ考えだったらしく、ほな、せっかくやから真ん中の前側にしましょか。と席を指差しながら歩き出し、人混みを避けながら席についた。目の前にワイドに広がる水の桶の中をすいすいと、気持ちよさそうにイルカが泳いでいるのが目に入る。イルカショーなんていつぶりだろう。久しぶりに見る演目を楽しみにしていると、開始を知らせるブザーが鳴る。イルカショーは全部で20分。ボールを蹴ったり、人を運んだりとよく見るショーの内容だった。それでも、よく訓練されているなと感心してしまうし、芸が成功すると気持ちが引き込まれて拍手をしていた。
横目で保科さんを見ると、器用なやっちゃなー。と保科さんも楽しんでくれているようだった。
「では、最後にイルカ達による連続大ジャンプです!前側の席に座っている方は水飛沫にご注意ください!!!」
女性のアナウンスが響き、イルカ達が泳ぎ出す。
「ま、いうてそんな濡れへんやろ…」
保科さんが言うか早いか、バッシャーン!!!と大きな音を立ててアクリル板の近くで着水したイルカ。それによってすごい量の水が私たち…特に保科さん側に大きくかかった。会場は思った以上の水飛沫に少し響めくような、しかし、芸の成功に歓声と大きな拍手が巻き起こっている。
「………」
「ほ、ほしなさん…?」
彼の名を呼ぶけれど、反応はなく、髪から水をしたたらせている。…やん…と、何かつぶやいたかと思い、声を聞き取るために少し近づいたとき、
「えらいかかったやん!?可能性とかいうレベルちゃうやん。これ絶対かかるやつやったろ!!!」
保科さんが、ぎゃー!とつっこんでいる姿を見て、びっくりする。いつものクールにしている彼からは想像がつかないような、テンションの高さに一瞬惚けたものの、じわじわとおかしさが込み上げてきて、思わず吹き出してしまった。
「っ…保科さんっ…あははっ…全然濡れないだろって言ってたのに…!めちゃめちゃ濡れてる…!!!」
観客の拍手が鳴り響く中笑っていると、私が笑ったことに驚いていた保科さんも吹き出して笑って、ひとしきり笑った頃にはショーは幕を閉じていた。人並みが引く中、まだ込み上げる笑いを我慢しながらカバンの中を探っていると、保科さんはため息をつきながら髪の毛先をいじっているようだった。
「あーもー、びしょびしょやん。〇〇さんは大丈夫ですか?」
「うん、私は大丈夫。それよりほら、保科さん。タオルどうぞ」
水族館内にある生き物お触りコーナーのためにと持ってきていたタオルを取り出して保科さんに渡すと、ええの?と聞いてくる。黙って頷けば、ありがとうと言って彼の切り揃えられた髪の毛がわしわしと拭かれた。私は自分のハンカチを取り出し、膝にかかった水飛沫を拭いていると、保科さんは拭く手を止めず、声だけかけてくる。
「なあ、〇〇さん。」
「はい」
「せっかくだから、そのまま敬語なしにせえへん?」
敬語なし。そう言われてハッとする。おかしくて笑ってしまった時、敬語を忘れていたが、そのまま話してしまっていた。
「へ…あっ、す、すいません!」
「いや、そうやなくて。2人でこうやって出かけてるんやし、敬語なく話せたらええなって。僕も使わんから、〇〇さんも敬語やめてほしい」
その言葉に顔を挙げると、拭く手を止めてこちらを見ている保科さんと目が合った。心臓がどく、と音を立てる。保科さんに見つめられて、そう言われると、はいとしか返事ができそうにない。
相手はお客様。でも、彼がそう言うなら、と思う自分もいて。
「…じゃあ、そうし…そうする」
「ありがとう。…ほな、次の場所行こか」
そう言って立ち上がりこちらを振り向いた彼の笑顔はとても嬉しそうだった。
おなじことば
(っしゃあ!これでフラットやろ)
(敬語を使わないだけで、すごく近くなった気がする)
約束した場所は駅の改札を出たところだが、少し早いしお水でも買いに行こうか、そう思いながら改札を抜けた時だった。
「〇〇さん」
「えっ…保科さん?」
まだ約束の20分前だ。それなのにその場に保科さんがいた。
「えらい早いですね」
「いや、保科さんだって早いじゃないですか…!」
「僕も今着いたとこ。だから一緒です」
にこ、と笑う保科さんは、白いTシャツの上に、黒のロングTシャツ、紺色のジャケット、黒の細身のパンツという出立ちで、可愛らしく両手の人差し指をピンと立てている。普段お店に来るときのような、黒シャツにパンツ姿とそんなに違いはないものの、普段見慣れないジャケットにどきりとした。
「〇〇さん?」
「あ、その、少し早く着いちゃったかなって思ってたのに保科さんもいたからびっくりしちゃって。少し早いですけど、水族館に向かいますか?」
「そやな。ほないきましょか」
保科さんと並んで歩き出す。最寄りの駅のすぐ近くにある水族館は平日だというものの、そこそこ人が入っており賑わっていた。入館時の受付でもらったパンフレットを眺めながら、ショーの時間を確認する。
「ちょうどもうすぐショーが始まりそうです。ショーに行ってもいいですか?」
「もちろん。ほな、あっちかな」
イルカショーが行われているホールに向かうと、意外と賑わっており、席が埋まっていた。空いている席を探すように視線を彷徨わせていると、前の方の席が目に止まる。ホールの入り口に、前側の席は濡れる可能性があります!と書かれていたためか、そこを避けるように人が座っていた。保科さんもそれに気付いたのだろう、あー。と声を漏らしながらこちらを見てきた。
「あちゃー。濡れるかもしれんけど、どないします?」
そう言われて私も考え込む。経験上、思ったほど濡れないことのほうが多いため、多分大丈夫だろう。ここのショーがどんな感じなのかはわからないが、思ったことをそのまま口に出してみた。
「そんなに濡れますかね?」
「ま、思ったより濡れへんことが多いし、大丈夫か」
保科さんもおんなじ考えだったらしく、ほな、せっかくやから真ん中の前側にしましょか。と席を指差しながら歩き出し、人混みを避けながら席についた。目の前にワイドに広がる水の桶の中をすいすいと、気持ちよさそうにイルカが泳いでいるのが目に入る。イルカショーなんていつぶりだろう。久しぶりに見る演目を楽しみにしていると、開始を知らせるブザーが鳴る。イルカショーは全部で20分。ボールを蹴ったり、人を運んだりとよく見るショーの内容だった。それでも、よく訓練されているなと感心してしまうし、芸が成功すると気持ちが引き込まれて拍手をしていた。
横目で保科さんを見ると、器用なやっちゃなー。と保科さんも楽しんでくれているようだった。
「では、最後にイルカ達による連続大ジャンプです!前側の席に座っている方は水飛沫にご注意ください!!!」
女性のアナウンスが響き、イルカ達が泳ぎ出す。
「ま、いうてそんな濡れへんやろ…」
保科さんが言うか早いか、バッシャーン!!!と大きな音を立ててアクリル板の近くで着水したイルカ。それによってすごい量の水が私たち…特に保科さん側に大きくかかった。会場は思った以上の水飛沫に少し響めくような、しかし、芸の成功に歓声と大きな拍手が巻き起こっている。
「………」
「ほ、ほしなさん…?」
彼の名を呼ぶけれど、反応はなく、髪から水をしたたらせている。…やん…と、何かつぶやいたかと思い、声を聞き取るために少し近づいたとき、
「えらいかかったやん!?可能性とかいうレベルちゃうやん。これ絶対かかるやつやったろ!!!」
保科さんが、ぎゃー!とつっこんでいる姿を見て、びっくりする。いつものクールにしている彼からは想像がつかないような、テンションの高さに一瞬惚けたものの、じわじわとおかしさが込み上げてきて、思わず吹き出してしまった。
「っ…保科さんっ…あははっ…全然濡れないだろって言ってたのに…!めちゃめちゃ濡れてる…!!!」
観客の拍手が鳴り響く中笑っていると、私が笑ったことに驚いていた保科さんも吹き出して笑って、ひとしきり笑った頃にはショーは幕を閉じていた。人並みが引く中、まだ込み上げる笑いを我慢しながらカバンの中を探っていると、保科さんはため息をつきながら髪の毛先をいじっているようだった。
「あーもー、びしょびしょやん。〇〇さんは大丈夫ですか?」
「うん、私は大丈夫。それよりほら、保科さん。タオルどうぞ」
水族館内にある生き物お触りコーナーのためにと持ってきていたタオルを取り出して保科さんに渡すと、ええの?と聞いてくる。黙って頷けば、ありがとうと言って彼の切り揃えられた髪の毛がわしわしと拭かれた。私は自分のハンカチを取り出し、膝にかかった水飛沫を拭いていると、保科さんは拭く手を止めず、声だけかけてくる。
「なあ、〇〇さん。」
「はい」
「せっかくだから、そのまま敬語なしにせえへん?」
敬語なし。そう言われてハッとする。おかしくて笑ってしまった時、敬語を忘れていたが、そのまま話してしまっていた。
「へ…あっ、す、すいません!」
「いや、そうやなくて。2人でこうやって出かけてるんやし、敬語なく話せたらええなって。僕も使わんから、〇〇さんも敬語やめてほしい」
その言葉に顔を挙げると、拭く手を止めてこちらを見ている保科さんと目が合った。心臓がどく、と音を立てる。保科さんに見つめられて、そう言われると、はいとしか返事ができそうにない。
相手はお客様。でも、彼がそう言うなら、と思う自分もいて。
「…じゃあ、そうし…そうする」
「ありがとう。…ほな、次の場所行こか」
そう言って立ち上がりこちらを振り向いた彼の笑顔はとても嬉しそうだった。
おなじことば
(っしゃあ!これでフラットやろ)
(敬語を使わないだけで、すごく近くなった気がする)