付き合うまで
おなまえは?
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〇〇さんと初めて出会ったのは、僕が第3部隊に来たばかりの頃。討伐の際、思うように動けんくて、練習を積み重ねとったんやけど、仲間との衝突もあるし、結果は出んしでどうにもならんくて、一旦気分転換しよと思て、外に出た時やった。
立川基地の近くにある、カフェブルジェオン。老夫婦が営んでいる穏やかな店ということは知っていたので、気持ちを落ち着かせるにはいいかと思って入った。小さめな音量でジャズピアノが流れる店内は、他に客がおらず、静かだった。夕陽が差し込む窓側の席に腰を下ろして、コーヒーを注文する。持ち込んだ小説を読み始めるが、文字が読めない。上滑りするように、頭の中に入ってこず、同じ部分ばかり目を走らせている。あかん。気分転換に来たのに、これじゃ意味ないやん。はぁ、と小さくため息をつくと、そっとコーヒーを置かれた。
「ご注文のオリジナルコーヒーです」
老夫婦から出たとは思えない若い声に視線を上げると、白シャツに紺色のエプロンをした女性と目が合った。バイトだろうか。大きくて綺麗な瞳だな。なんて思ったが、じっと見すぎてしまった。不躾だったろう。
「あ、すんません。ありがとうございます」
小さく頭を下げたところで、あの、と声をかけられる。なんやろ、と思ってもう一度視線を上げようとしたところで、お皿を置かれた。皿の上に乗ってるのは、シフォンケーキと生クリーム。女性に目をやると、彼女はにこ、と笑って答えた。
「防衛隊の方ですよね?いつも守ってくださってありがとうございます。」
これ、あまり物で申し訳ないんですけど、サービスです。
そう言った彼女の穏やかな笑顔と言葉に胸が温かくなる。最近、仲間とうまくいってなかったからやろか。それとも、期待に応えなあかんと思ってたからやろか。思った結果が出てへんのに、なんや。市民からしたら、自分は防衛隊員の1人な訳で。役に立ってる、立ってない、そう言うことやなくて。僕ができることを、もっとがんばらな、あかん。
「…ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
そう言って彼女は離れていく。手元を見ると、柔なそうなシフォンケーキが目に入った。フォークを使って口に運ぶと、ほのかな甘みが広がる。彼女がいるであろうカウンターに視線を向けると、エプロンを脱ぎ、何やら店主と会話しているようだ。
そろそろいくね。こんな時間から仕事か?ほら、この間オフィスが怪獣被害で壊れたから。リモートで仕事だから、会議とかじゃなきゃいつ仕事しててもバレないのよ。
そういうと彼女はカバンを片手に店を出ようとして、ちらりとこちらに視線を向け、笑顔で会釈して去っていった。
それから何度か店に足を運び、少し会話を重ねて、名前を聞こうか、そう思った時に彼女は仕事の都合で店に顔を出さなくなってしまった。それからなんとなく店から足が遠のいていたので、彼女が店に立つようになったことはすぐには気づけなかった。気づいたきっかけは、店の前に立てかけられたボードに書かれた、本日のデザート、モンブランに惹かれて店に入ったとき。いらっしゃいませ、とあの時と変わらない声で応対する彼女が笑顔で店に立っていた。まぁ、その時の話はまた別の機会にでも。
私が保科さんと初めて出会ったのは、オフィスでだった。厳密に言うと、怪獣に襲われたオフィスで、だった。
当時はまだ会社員として働いていた私。プレゼン資料の叩き台を翌日の午前中までに用意しなければならず、1人オフィスで残業していた時のことだった。けたたましく鳴り響くサイレンの音に、タイミングが最悪だ、と思った。もー…!資料間に合わないじゃん…!!!
心の中で悪態をつきながら、避難をするため、ノートパソコンをたたみ、カバンに入れた時だった。
ガタガタと机が揺れ出し、突如大きな揺れが襲ってきた。身の危険を感じた時にはオフィスの窓ガラスが割れていて、私は咄嗟に机の下に隠れた。棚や他の机が薙ぎ倒され、私の机の前にも椅子が飛んでくる。唸るような響く声に怪獣災害が起こっていると気づいた。叫びにならない声を飲み、息を殺す。さっきまで呑気に資料がーなんて言ってた自分を恨みたい。怪獣災害なんてよくある。よくあるけど、自分の身近で出くわすなんてことはあまりなかったから、悠長に構えていたところはあった。まだ物が崩れる音が響いているから、近くに怪獣がいるのだろう。下手に顔を出すのも怖いが、シェルターに逃げ込まないといけないので、そうも言ってはいられない。わかってはいるが、手が震えるし、体もうまく動かせない。
机の下でじっとし続け、どれくらいの時間が経ったのだろうか。震えも落ち着いたところで、顔を出す。怪獣もいないように見え、緊張の糸が緩んだ気がする。今ならいけそうだ。よかった、と心の中で独りごちて、机から顔を出した時だった。
窓から姿を見せた怪獣と、目があった。
「っ…!!きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ガシャン!と破片と窓のへりが破壊される音に、背筋が凍った。
まずい、まずいまずい!
声を出したことで、怪獣も私をはっきり認識しただろうが、声が出せたからこそ、体が動く。警鐘を鳴らす頭をなんとかフル稼働し、逃げる場所を探し、首を振った。振り返った先に出口が見えたけれど、棚が倒れているせいで逃げられそうにない。他の道を探すけど、瓦礫や机が散乱してて、逃げ道はなさそうだった。どうしよう、どうすれば…!
グオオ…オオオ…と、怪獣の声と生暖かい吐息が近づいてくる。怖い、食べられる。逃げなきゃいけないのに、逃げ道もなくて、足も動かない。どうしたら。
そのとき、ふわっと、風が吹いて、気づいたら目の前に男の人が立っていた。
「お姉さん、もう大丈夫やで」
「え…」
「要救助者1名確認、余獣撃破後、救助します」
そういうが早いか、2本の剣を腰から抜き出し、あっという間に目の前の怪獣を切っていた。私を怯えさせた物体は、あっけないほど簡単にバラバラにされている。
黒い、特徴的な服。防衛隊員だ。
「立てるか?」
手を差し出されて、手を握り返すと立たせてくれた。私より少し身長の高い彼は、切り揃えられた髪を風で揺らしながら、安心させるような柔らかな声音で話しかけてくる。
「出口が塞がってしもてるから、窓から出るんやけど、ちょっと高さがある。僕が安全に降ろすから、信じてくれへんか?」
「あ…はい…」
「ほな、いこか」
そう言うが早いか、彼は私を横抱きにした。えっ、えっ、えええええええええ。
「揺れるやろうから、首に腕回して」
完全に脳が混乱している。年の近い男性にこんなことをされたことがないというのもあるが、近くで見た彼の顔が綺麗で、余計に戸惑う。これは、救助活動だから。戸惑って時間をかけるべきじゃない。ええい!ままよ!と、彼の首に腕を回した。
「よし。ほな、口は閉じとくんやで」
舌噛んだら大変やからな。そう言いながら、彼は窓に近づいていき、なんでもないことのようにぽんと外へ飛び出した。叫びたかったが、怖くて声が出ず、反射でぎゅっと目を瞑る。臓器がふわっと浮く感じがしたと思ったら、軽い衝撃が来て、終わったで。と声が聞こえた。そっと目を開けると、オフィスビルの前の道路が見える。
「あ、ありがとう、ござ、います」
「このままシェルターまで送ってくから、抵抗あるやろうけど、腕、そのまま首に回しといてな」
そう言いながら、彼は駆け出して近くのシェルターまで送ってくれた。もう一度感謝を述べると、無事でよかったわ。と笑顔で言って、去っていく。あっという間の出来事で何が何だかよくわからない。よくわからないけど、ものすごくかっこよかった。防衛隊員って、かっこいいんだなぁ…。
後日、祖父の店を手伝っているところに彼が来てくれたんだけど、横抱きにされたのが恥ずかしくてお礼を伝えられなかったのはまた別の話。
お互いに知ってた。
(昔の話したら引かれるやろか)
(いつかちゃんとお礼を言わなきゃ)
立川基地の近くにある、カフェブルジェオン。老夫婦が営んでいる穏やかな店ということは知っていたので、気持ちを落ち着かせるにはいいかと思って入った。小さめな音量でジャズピアノが流れる店内は、他に客がおらず、静かだった。夕陽が差し込む窓側の席に腰を下ろして、コーヒーを注文する。持ち込んだ小説を読み始めるが、文字が読めない。上滑りするように、頭の中に入ってこず、同じ部分ばかり目を走らせている。あかん。気分転換に来たのに、これじゃ意味ないやん。はぁ、と小さくため息をつくと、そっとコーヒーを置かれた。
「ご注文のオリジナルコーヒーです」
老夫婦から出たとは思えない若い声に視線を上げると、白シャツに紺色のエプロンをした女性と目が合った。バイトだろうか。大きくて綺麗な瞳だな。なんて思ったが、じっと見すぎてしまった。不躾だったろう。
「あ、すんません。ありがとうございます」
小さく頭を下げたところで、あの、と声をかけられる。なんやろ、と思ってもう一度視線を上げようとしたところで、お皿を置かれた。皿の上に乗ってるのは、シフォンケーキと生クリーム。女性に目をやると、彼女はにこ、と笑って答えた。
「防衛隊の方ですよね?いつも守ってくださってありがとうございます。」
これ、あまり物で申し訳ないんですけど、サービスです。
そう言った彼女の穏やかな笑顔と言葉に胸が温かくなる。最近、仲間とうまくいってなかったからやろか。それとも、期待に応えなあかんと思ってたからやろか。思った結果が出てへんのに、なんや。市民からしたら、自分は防衛隊員の1人な訳で。役に立ってる、立ってない、そう言うことやなくて。僕ができることを、もっとがんばらな、あかん。
「…ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
そう言って彼女は離れていく。手元を見ると、柔なそうなシフォンケーキが目に入った。フォークを使って口に運ぶと、ほのかな甘みが広がる。彼女がいるであろうカウンターに視線を向けると、エプロンを脱ぎ、何やら店主と会話しているようだ。
そろそろいくね。こんな時間から仕事か?ほら、この間オフィスが怪獣被害で壊れたから。リモートで仕事だから、会議とかじゃなきゃいつ仕事しててもバレないのよ。
そういうと彼女はカバンを片手に店を出ようとして、ちらりとこちらに視線を向け、笑顔で会釈して去っていった。
それから何度か店に足を運び、少し会話を重ねて、名前を聞こうか、そう思った時に彼女は仕事の都合で店に顔を出さなくなってしまった。それからなんとなく店から足が遠のいていたので、彼女が店に立つようになったことはすぐには気づけなかった。気づいたきっかけは、店の前に立てかけられたボードに書かれた、本日のデザート、モンブランに惹かれて店に入ったとき。いらっしゃいませ、とあの時と変わらない声で応対する彼女が笑顔で店に立っていた。まぁ、その時の話はまた別の機会にでも。
私が保科さんと初めて出会ったのは、オフィスでだった。厳密に言うと、怪獣に襲われたオフィスで、だった。
当時はまだ会社員として働いていた私。プレゼン資料の叩き台を翌日の午前中までに用意しなければならず、1人オフィスで残業していた時のことだった。けたたましく鳴り響くサイレンの音に、タイミングが最悪だ、と思った。もー…!資料間に合わないじゃん…!!!
心の中で悪態をつきながら、避難をするため、ノートパソコンをたたみ、カバンに入れた時だった。
ガタガタと机が揺れ出し、突如大きな揺れが襲ってきた。身の危険を感じた時にはオフィスの窓ガラスが割れていて、私は咄嗟に机の下に隠れた。棚や他の机が薙ぎ倒され、私の机の前にも椅子が飛んでくる。唸るような響く声に怪獣災害が起こっていると気づいた。叫びにならない声を飲み、息を殺す。さっきまで呑気に資料がーなんて言ってた自分を恨みたい。怪獣災害なんてよくある。よくあるけど、自分の身近で出くわすなんてことはあまりなかったから、悠長に構えていたところはあった。まだ物が崩れる音が響いているから、近くに怪獣がいるのだろう。下手に顔を出すのも怖いが、シェルターに逃げ込まないといけないので、そうも言ってはいられない。わかってはいるが、手が震えるし、体もうまく動かせない。
机の下でじっとし続け、どれくらいの時間が経ったのだろうか。震えも落ち着いたところで、顔を出す。怪獣もいないように見え、緊張の糸が緩んだ気がする。今ならいけそうだ。よかった、と心の中で独りごちて、机から顔を出した時だった。
窓から姿を見せた怪獣と、目があった。
「っ…!!きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ガシャン!と破片と窓のへりが破壊される音に、背筋が凍った。
まずい、まずいまずい!
声を出したことで、怪獣も私をはっきり認識しただろうが、声が出せたからこそ、体が動く。警鐘を鳴らす頭をなんとかフル稼働し、逃げる場所を探し、首を振った。振り返った先に出口が見えたけれど、棚が倒れているせいで逃げられそうにない。他の道を探すけど、瓦礫や机が散乱してて、逃げ道はなさそうだった。どうしよう、どうすれば…!
グオオ…オオオ…と、怪獣の声と生暖かい吐息が近づいてくる。怖い、食べられる。逃げなきゃいけないのに、逃げ道もなくて、足も動かない。どうしたら。
そのとき、ふわっと、風が吹いて、気づいたら目の前に男の人が立っていた。
「お姉さん、もう大丈夫やで」
「え…」
「要救助者1名確認、余獣撃破後、救助します」
そういうが早いか、2本の剣を腰から抜き出し、あっという間に目の前の怪獣を切っていた。私を怯えさせた物体は、あっけないほど簡単にバラバラにされている。
黒い、特徴的な服。防衛隊員だ。
「立てるか?」
手を差し出されて、手を握り返すと立たせてくれた。私より少し身長の高い彼は、切り揃えられた髪を風で揺らしながら、安心させるような柔らかな声音で話しかけてくる。
「出口が塞がってしもてるから、窓から出るんやけど、ちょっと高さがある。僕が安全に降ろすから、信じてくれへんか?」
「あ…はい…」
「ほな、いこか」
そう言うが早いか、彼は私を横抱きにした。えっ、えっ、えええええええええ。
「揺れるやろうから、首に腕回して」
完全に脳が混乱している。年の近い男性にこんなことをされたことがないというのもあるが、近くで見た彼の顔が綺麗で、余計に戸惑う。これは、救助活動だから。戸惑って時間をかけるべきじゃない。ええい!ままよ!と、彼の首に腕を回した。
「よし。ほな、口は閉じとくんやで」
舌噛んだら大変やからな。そう言いながら、彼は窓に近づいていき、なんでもないことのようにぽんと外へ飛び出した。叫びたかったが、怖くて声が出ず、反射でぎゅっと目を瞑る。臓器がふわっと浮く感じがしたと思ったら、軽い衝撃が来て、終わったで。と声が聞こえた。そっと目を開けると、オフィスビルの前の道路が見える。
「あ、ありがとう、ござ、います」
「このままシェルターまで送ってくから、抵抗あるやろうけど、腕、そのまま首に回しといてな」
そう言いながら、彼は駆け出して近くのシェルターまで送ってくれた。もう一度感謝を述べると、無事でよかったわ。と笑顔で言って、去っていく。あっという間の出来事で何が何だかよくわからない。よくわからないけど、ものすごくかっこよかった。防衛隊員って、かっこいいんだなぁ…。
後日、祖父の店を手伝っているところに彼が来てくれたんだけど、横抱きにされたのが恥ずかしくてお礼を伝えられなかったのはまた別の話。
お互いに知ってた。
(昔の話したら引かれるやろか)
(いつかちゃんとお礼を言わなきゃ)