付き合うまで
おなまえは?
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最近お気に入りの店がある。カフェブルジェオン。女性店主の名前を先日やっと聞き出すことに成功した。自分が名乗ったら相手も名乗るやろうと思っての行動だったが正解だった。〇〇 〇〇さん。元々名前は知っとった。常連のお客さんから名前呼ばれとるし。でも、名前を聞いてもいない自分がいきなり名前を呼んだらキモいやろ思て、聞き出すまでずっと我慢していた。
先日、店行った際、試作品だというモンブランを食べさせてもらった。いつも提供されているモンブランよりも甘さ控えめで、店のコーヒーに合わせた仕上がり。お菓子作りも上手やし、姿勢も綺麗で白シャツの似合う彼女は多分僕よりもナンボか年上なんやと思う。
デスクワークが終わって、夕方から非番の今日。小此木ちゃんから聞いたオススメの焼き菓子を片手に店に向かう。
「いらっしゃいませ…あ、保科さん」
にこ。と僕に笑いかける彼女に体の中の方が少し熱くなる。思いの外、僕は彼女にご執心なのかもしれん。
「お邪魔します」
今日はカウンターに年配の女性が座っている。常連客なんやろう。先代の店主からの知り合いでこの店に通い続けている客は何人もおる。彼女は会話を切り上げると、僕に近づいてきてくれた。
「ご無沙汰してます。いつもので、ご用意していいでしょうか?」
「お願いします。あの」
彼女の目の前に赤い色の紐でラッピングされた、フィナンシェが入った袋を差し出す。
「これ、この間のお礼です。コーヒーとよく合うんで、ぜひ」
召し上がってください。そういうと彼女は瞳を丸くして、僕の手元を見つめた。彼女が声を出す前に年配の女性が、あらまぁ、と小さく呟く。口に手を添えてふふふ、と笑う年配の女性になんだか鳩尾のところがもぞもぞする。この間のモンブランのお礼やし…。心の中で呟きながら、態度にはお首にも出さず、そのまま差し出し続ける。彼女が伸ばした手が少しだけ僕の手に触れて、眉毛をさげた笑顔を見せた。
「お気遣いさせてしまったみたいで、返ってすみません。でも、ありがとうございます」
ぺこ、と小さく頭を下げ、すぐにコーヒーをご用意しますね。と行ってしまう。困らせるつもりや、なかったんやけど。〇〇ちゃん、私そろそろお暇するわ。そんな声を聞きながら、席に着く。
…モンブランのお礼なんて、程のいい理由で、少しでも彼女と会話するきっかけになればいい。そう思わなかったと言ったら嘘になる。お客と店主の間柄なんやから、きっかけを作らにゃ話す機会もなかなかない。限られた時間の中、この店に顔を出すのも、彼女の姿を見たいからだ。別のお客の対応をしながらテキパキと準備をする彼女を、文庫本を読むフリをしながら盗み見る。今日とて彼女の姿に見惚れてしまう。あんま見過ぎても、失礼やろか。そう思って小説を読み出す。少しするとコーヒーの香りが漂ってきて、もうすぐ彼女が僕のところに持ってきてくれるんやろうなぁと、ぼんやりと考えた。
「保科さん」
カウンター越しに伺うように声をかけてきた彼女に、視線を上げると手にはコーヒーポットが握られていた。
「せっかくなので、いただいたお菓子、私の好きなコーヒーと一緒にいただきたいんですが。保科さんも、コーヒー、味見されますか?」
彼女の好きなコーヒー。おそらく店では出していないのだろう。いただきます。と答えると嬉しそうに笑って、カップにコーヒーを注いだ。
「こちらがいつものオリジナルブレンド、そしてこちらのコーヒーが私のおすすめです」
とん、とんと、カップが左右に置かれ、オススメのコーヒーの横に、買ってきたフィナンシェの1つが添えられた。おすすめ、と言われたコーヒーに手を伸ばし口をつける。口の中に広がるコーヒーの香りと味わいは、クセがなく、酸味も弱く、ただ飲みやすい。
「…クセなさすぎやん」
「あはは。そうなんです。私、酸味のあるコーヒーが苦手で、毎日でも何杯でも飲めるような味がいいなーと思ってたら、これに落ち着いちゃったんです」
喫茶店の店主なのにそれでいいのかーって感じでしょうけど。あんまりにも味気ないから、お店に置くにはちょっと。そう言って笑う彼女の笑顔が、以前僕が悩んで時に見せた笑顔を思い出させて。
フィナンシェを含んでからコーヒーを飲むと、バターの香りが一気に広がり、じゅわ、と僕の気持ちがうずいた。
好きになったのはいつだっけ。
(このフィナンシェすごく美味しい…どこのお店なのかな…)
(またこのコーヒー、飲みたい)
先日、店行った際、試作品だというモンブランを食べさせてもらった。いつも提供されているモンブランよりも甘さ控えめで、店のコーヒーに合わせた仕上がり。お菓子作りも上手やし、姿勢も綺麗で白シャツの似合う彼女は多分僕よりもナンボか年上なんやと思う。
デスクワークが終わって、夕方から非番の今日。小此木ちゃんから聞いたオススメの焼き菓子を片手に店に向かう。
「いらっしゃいませ…あ、保科さん」
にこ。と僕に笑いかける彼女に体の中の方が少し熱くなる。思いの外、僕は彼女にご執心なのかもしれん。
「お邪魔します」
今日はカウンターに年配の女性が座っている。常連客なんやろう。先代の店主からの知り合いでこの店に通い続けている客は何人もおる。彼女は会話を切り上げると、僕に近づいてきてくれた。
「ご無沙汰してます。いつもので、ご用意していいでしょうか?」
「お願いします。あの」
彼女の目の前に赤い色の紐でラッピングされた、フィナンシェが入った袋を差し出す。
「これ、この間のお礼です。コーヒーとよく合うんで、ぜひ」
召し上がってください。そういうと彼女は瞳を丸くして、僕の手元を見つめた。彼女が声を出す前に年配の女性が、あらまぁ、と小さく呟く。口に手を添えてふふふ、と笑う年配の女性になんだか鳩尾のところがもぞもぞする。この間のモンブランのお礼やし…。心の中で呟きながら、態度にはお首にも出さず、そのまま差し出し続ける。彼女が伸ばした手が少しだけ僕の手に触れて、眉毛をさげた笑顔を見せた。
「お気遣いさせてしまったみたいで、返ってすみません。でも、ありがとうございます」
ぺこ、と小さく頭を下げ、すぐにコーヒーをご用意しますね。と行ってしまう。困らせるつもりや、なかったんやけど。〇〇ちゃん、私そろそろお暇するわ。そんな声を聞きながら、席に着く。
…モンブランのお礼なんて、程のいい理由で、少しでも彼女と会話するきっかけになればいい。そう思わなかったと言ったら嘘になる。お客と店主の間柄なんやから、きっかけを作らにゃ話す機会もなかなかない。限られた時間の中、この店に顔を出すのも、彼女の姿を見たいからだ。別のお客の対応をしながらテキパキと準備をする彼女を、文庫本を読むフリをしながら盗み見る。今日とて彼女の姿に見惚れてしまう。あんま見過ぎても、失礼やろか。そう思って小説を読み出す。少しするとコーヒーの香りが漂ってきて、もうすぐ彼女が僕のところに持ってきてくれるんやろうなぁと、ぼんやりと考えた。
「保科さん」
カウンター越しに伺うように声をかけてきた彼女に、視線を上げると手にはコーヒーポットが握られていた。
「せっかくなので、いただいたお菓子、私の好きなコーヒーと一緒にいただきたいんですが。保科さんも、コーヒー、味見されますか?」
彼女の好きなコーヒー。おそらく店では出していないのだろう。いただきます。と答えると嬉しそうに笑って、カップにコーヒーを注いだ。
「こちらがいつものオリジナルブレンド、そしてこちらのコーヒーが私のおすすめです」
とん、とんと、カップが左右に置かれ、オススメのコーヒーの横に、買ってきたフィナンシェの1つが添えられた。おすすめ、と言われたコーヒーに手を伸ばし口をつける。口の中に広がるコーヒーの香りと味わいは、クセがなく、酸味も弱く、ただ飲みやすい。
「…クセなさすぎやん」
「あはは。そうなんです。私、酸味のあるコーヒーが苦手で、毎日でも何杯でも飲めるような味がいいなーと思ってたら、これに落ち着いちゃったんです」
喫茶店の店主なのにそれでいいのかーって感じでしょうけど。あんまりにも味気ないから、お店に置くにはちょっと。そう言って笑う彼女の笑顔が、以前僕が悩んで時に見せた笑顔を思い出させて。
フィナンシェを含んでからコーヒーを飲むと、バターの香りが一気に広がり、じゅわ、と僕の気持ちがうずいた。
好きになったのはいつだっけ。
(このフィナンシェすごく美味しい…どこのお店なのかな…)
(またこのコーヒー、飲みたい)