付き合うまで
おなまえは?
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カフェブルジェオン。立川の住宅街にポツンとある喫茶店。そこは私の夢の場所であり、勤務場所であり、お客様に穏やかなひと時を過ごしてもらうための場所だ。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
涼やかなベルの音と共に来店するお客様に声をかける。常連客のお客様はまっすぐカウンターの席に腰を下ろした。
このお客様はモンブランを提供する水曜日か木曜日にだけいらっしゃるお客様。いつもモンブランとオリジナルコーヒーを注文して、1時間から長い時は3時間ほど読書をしてから帰られる。彼は日本防衛隊第3部隊の副隊長保科さん。直接お名前を聞いたわけではないが、防衛隊員は有名人だ。だからと言って、こちらからあれこれ話しかけるのも失礼なので、気づかないふりで対応する。基地から店まで、そう遠くないとはいえ、多忙に過ごしているであろう彼が休日を過ごす場所としてこの店を選んでくれていることが嬉しかった。
「すいません。モンブランとオリジナルコーヒーをお願いします」
今日もいつもと同じ注文が入り、私はお湯を沸かし始める。そういえば、と思い彼に視線を向けると、ポケットから本を取り出したところだった。
「お客様」
そう声をかけると、本から視線を上げた彼と目が合った。
「よろしければ、期間限定で出す予定のモンブランの味見をしていただけませんか?試作品ですから、お代はいただきませんので」
「え?」
「いつもモンブランを召し上がっていらっしゃるので。感想をいただきたいんです」
そう告げると、彼は少し考えるようにふむ、と声を漏らしてから、僕でよければ。と答えてくれた。
まだ暑さの残る初秋。和栗が先日手に入り、試作品を作っていたのだが、誰かから意見をもらいたかった。その時ふと、いつもモンブランを食べている彼の顔が浮かび、もしタイミングよく彼が来店することがあればお願いしようと思っていた。非番の日が水曜日や木曜日であるとは限らないため、運が良ければ、と思っていたが、彼がきてくれて良かった。いつもと同じ手順でコーヒーを淹れ、ケーキを盛り付ける。
「お待たせしました。オリジナルコーヒーと試作品の和栗のモンブランです」
そういってコーヒーとモンブランをサーブした。彼は本を読む手を止めて、いただきます。と言ってから、まずコーヒーに口をつけた。ふー…と息を吐いてから、そっとフォークを掴む。
「和栗の季節なんですね」
「そうですね。最盛期は9月下旬なので少し早いですが。たまたま知り合いの卸から初物が入ったと話があったので試しに作ってみたんです」
そう説明している間にぱくりと一口。もぐ、もぐと咀嚼して、コーヒーを口に運び、飲み込んでから息をつく。いかがですか、そう声をかけると視線を上げて応えてくれた。
「僕的にはもう少しリキュールの香りが抑えめでもええかな、と思いますが。でも、オリジナルコーヒーと一緒に食べることを考えると、これぐらいはっきり香りがあった方が後味が合わさってええと思いますね」
にこ、と細められた目が嬉しそうに笑って見えた。その表情に嬉しくなる。
「お客様にそう言っていただけて、とても嬉しいです。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると彼は、こちらこそ試食させていただいてありがとうございます、と耳に柔らかい関西弁でそう言い、そして。
「僕、保科って言うねんけど。店長さんがよければ名前で呼んでくれると嬉しい、です」
ふわっと笑った顔で頼まれたので、第3部隊の副隊長といえど年相応の可愛らしさを感じて、私も笑顔を浮かべつつ言葉を返した。
「では、私のことも店長さんではなく名前で呼んでいただけると嬉しいです。〇〇と申しますので、よろしくお願いいたします。保科さん」
そう返すと保科さんはまた嬉しそうに笑って、では、お言葉に甘えて。と言って、
「ごちそうさまです、〇〇さん」と言った。
物語の始まりには気付かない。
(よーやっと、名前呼べるようになった…)
(また来るかなぁ…。商品化するものとは別に、リキュールを抑えたものも、用意しておこう)
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
涼やかなベルの音と共に来店するお客様に声をかける。常連客のお客様はまっすぐカウンターの席に腰を下ろした。
このお客様はモンブランを提供する水曜日か木曜日にだけいらっしゃるお客様。いつもモンブランとオリジナルコーヒーを注文して、1時間から長い時は3時間ほど読書をしてから帰られる。彼は日本防衛隊第3部隊の副隊長保科さん。直接お名前を聞いたわけではないが、防衛隊員は有名人だ。だからと言って、こちらからあれこれ話しかけるのも失礼なので、気づかないふりで対応する。基地から店まで、そう遠くないとはいえ、多忙に過ごしているであろう彼が休日を過ごす場所としてこの店を選んでくれていることが嬉しかった。
「すいません。モンブランとオリジナルコーヒーをお願いします」
今日もいつもと同じ注文が入り、私はお湯を沸かし始める。そういえば、と思い彼に視線を向けると、ポケットから本を取り出したところだった。
「お客様」
そう声をかけると、本から視線を上げた彼と目が合った。
「よろしければ、期間限定で出す予定のモンブランの味見をしていただけませんか?試作品ですから、お代はいただきませんので」
「え?」
「いつもモンブランを召し上がっていらっしゃるので。感想をいただきたいんです」
そう告げると、彼は少し考えるようにふむ、と声を漏らしてから、僕でよければ。と答えてくれた。
まだ暑さの残る初秋。和栗が先日手に入り、試作品を作っていたのだが、誰かから意見をもらいたかった。その時ふと、いつもモンブランを食べている彼の顔が浮かび、もしタイミングよく彼が来店することがあればお願いしようと思っていた。非番の日が水曜日や木曜日であるとは限らないため、運が良ければ、と思っていたが、彼がきてくれて良かった。いつもと同じ手順でコーヒーを淹れ、ケーキを盛り付ける。
「お待たせしました。オリジナルコーヒーと試作品の和栗のモンブランです」
そういってコーヒーとモンブランをサーブした。彼は本を読む手を止めて、いただきます。と言ってから、まずコーヒーに口をつけた。ふー…と息を吐いてから、そっとフォークを掴む。
「和栗の季節なんですね」
「そうですね。最盛期は9月下旬なので少し早いですが。たまたま知り合いの卸から初物が入ったと話があったので試しに作ってみたんです」
そう説明している間にぱくりと一口。もぐ、もぐと咀嚼して、コーヒーを口に運び、飲み込んでから息をつく。いかがですか、そう声をかけると視線を上げて応えてくれた。
「僕的にはもう少しリキュールの香りが抑えめでもええかな、と思いますが。でも、オリジナルコーヒーと一緒に食べることを考えると、これぐらいはっきり香りがあった方が後味が合わさってええと思いますね」
にこ、と細められた目が嬉しそうに笑って見えた。その表情に嬉しくなる。
「お客様にそう言っていただけて、とても嬉しいです。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると彼は、こちらこそ試食させていただいてありがとうございます、と耳に柔らかい関西弁でそう言い、そして。
「僕、保科って言うねんけど。店長さんがよければ名前で呼んでくれると嬉しい、です」
ふわっと笑った顔で頼まれたので、第3部隊の副隊長といえど年相応の可愛らしさを感じて、私も笑顔を浮かべつつ言葉を返した。
「では、私のことも店長さんではなく名前で呼んでいただけると嬉しいです。〇〇と申しますので、よろしくお願いいたします。保科さん」
そう返すと保科さんはまた嬉しそうに笑って、では、お言葉に甘えて。と言って、
「ごちそうさまです、〇〇さん」と言った。
物語の始まりには気付かない。
(よーやっと、名前呼べるようになった…)
(また来るかなぁ…。商品化するものとは別に、リキュールを抑えたものも、用意しておこう)
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