蝶と現代人
夢主 名前変更
せつめい◆夢主基本スペック(田の中での夢主ってだけ)
sex:♀
age:22才~
position:社会人
character:面倒くさがり
・逆トリップ
・読み手≠主人公
・ジャンル迷子
苦手なお方はそっとお戻りください。
ゲームは幸村伝までプレイ済み。
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「断る、と言ったら、さて、ぬしはどうする?」
明らかに先程とは雰囲気の違う大谷さんに怪訝な顔を隠すことが出来なかった。その反応をどう解釈したのか分からないが、大谷さんは笑った。
心なしか、じりじりと数珠が範囲を狭めて来ている様に思う。気のせいであってほしい。
「何、ちと思い付いたのよ。ぬしが消滅すればわれも元の世界へ帰れるのでは、とな」
「思い付きで実行しようとしないでください」
「ひひひ、確かにぬしの言う通り。しかし試してみなければ誰にも真実は分かるまい? 生憎、口に入れる物もわれの世界と対して変わらぬ故、ぬしに頼らずとも食いつなげる様であるからな」
ひひひひ!と嘲笑うように声をあげる大谷さん。やはり、彼は賢い人だったと苦い感情が込み上げる。
いくら私が一見無害に見えようと、実際どうなのかなど分からない。例えば自分が知らない世界に突然迷い込み、混乱し余裕のない頭で異世界人とやらに接触し、どれだけ相手が良い人であろうと、疑いが0にはならない。
実はコイツは黒幕で……とは一度だって考える。
人間とはそういう生き物だ。そう簡単に他人を手放しで信じられる人は少ない。いかに自分に危機が及ばないかを考えながら、不利益を避けて生きていく。
何となくではあるが、大谷さんがそういった考えに思い当たるのではないかという考えはあった。
めんどくさいから考えないようにしていたら、まさかビンゴとは。
「……大谷さん」
こうなったらイチかバチか。
若干震えているであろう声を極力抑えながら、声をかける。
「なんだ。嫌だとみっともなく喚くか? ひひ、それも愉快よな、ゆか」
「私を殺したいですか」
ぴくりと、大谷さんの右手の指が僅かに動いたのを見逃さなかった。
「、ひ。いきなり何を言い出すかと思えば……われと取引か」
「元の世界へ帰りたいですか」
「言葉にせねば分からぬか。そうよ、われは一刻も早よう戻らねばならぬ! ぬしと言葉遊びをしている暇など……っ」
「じゃあ、どうぞ」
大谷さんを遮った私の言葉に、声を荒げた大谷さんが息を呑むのを感じた。包帯の間から見える大きく見開かれた二つの目には、驚愕と混乱が伺えた。
「なるべく、苦しくないのがいいです。あと痛くないやつ」
ぎゅっと目を瞑り、いつ来るか分からない、予想も出来ない衝撃を受ける姿勢を作る。ただ、目を瞑ったのは失敗かもしれない。余計怖い。
覚悟は決めた。
さようなら、私。
しかしいつまで経ってもその時は訪れなかった。恐る恐る片目をそーっと開き、大谷さんを見ると、今まで私に、というか数珠にかざしていたはずの右手で、額を抑えていた。目まで覆われた大谷さんの表情は全く分からない。
「ぬしは……」
ぼそっと呟かれた言葉の続きを待つ。顔から手を離しながら、大谷さんは私を見据えた。
「ぬしは、死ぬことが恐ろしくはないのか」
「や、元の世界に帰りたいんじゃ」
「黙れ。われの問いに答えよ」
これまでにない眼光で睨まれてしまい、素直に返す。
「はい、いや、えっと。まあ死が怖いかって聞かれたら、正直分かりません。今の状況はそりゃ怖いとは思いますけど、私とこうして話してくれている以上、まだ死とは程遠いのかなーって」
「……いつわれの気が変わるか分からぬぞ?」
「気が変わったらその時また覚悟決めるんでいいです。あと、これは全くの勘なんですけど、大谷さん、本当に私を殺す気ないんじゃないかなって」
「!」
「思ったり……」
大谷さんの顔から一切の表情が無くなった。何かを見定める様な。違う所に意識を飛ばしている様にも見える。
「何故、其の様に都合良く思えたのかわれには検討が付かぬ」
「さっき、私が「殺したいか」って聞いた時、一瞬間があったんですけど、「帰りたいか」って聞いた時は直ぐに反応したので、まあそれでなんとなく」
「……われが、躊躇した、と?」
「実際は分かりませんけど、私はそう感じたので。あと大谷さん自身が一度も、殺すって言葉を使わなかったのが決め手と言いますか……」
「!!」
今度こそ大谷さんが絶句したのが分かった。
言葉は雄弁である。無意識下で泳いでいた思いが不意に口からこぼれ落ちたことで、場合によっては争いの原因になったりもするが、全てが全て悪い事に繋がるとは限らない。もしかしたら、と頭をフル回転させての、あの「言葉遊び」であった。
大谷さんはそれから何も言わなくなり、暫く沈黙が二人の間に流れ、なんとなく気まずい。私も、未だに数珠が周囲を浮遊しているため動くに動けない。
日が落ち、手元が暗くなり始めた頃、動いたのは大谷さんだった。
「われの負けよ」
右手を払う動作で、数珠は大谷さんの下へ戻った。尚も浮遊はしているが、それよりも大谷さんの言葉が気になる。
「やはり慣れぬ事は似合わぬわ。われには熟慮断行が一番よ」
「……と、いうことは……?」
「何度も言わせるでない。われの負けよ、負け。ぬしは些か気に食わぬが殺そうとは思うておらぬ」
その言葉を耳にするや否や、張り詰めていた気が緩み、膝からその場に崩れ落ちた。
「うあー…………生きてる……」
「ひひっ、情けない声よ。なまえ、先程までの威勢は何処へ捨ててきた」
「もうどこでもいいです。どっかその辺です」
「そうかそうか。ところで、もしあの時われが本気でぬしを殺そうとしていたらどうしておった?」
体を支えることも億劫になり、ごろんとその場に寝転ぶ私に、ソファの上から覗き込みながら面白そうに聞く大谷さん。先程までのぴりぴりした空気はなくなり、大谷さんはどこか楽しそうだ。
「どうも何も、あのまま無抵抗で死んでたんじゃないですか?」
「ひっひっひ! そうであろうな! いやいや良う分かっておるわ!」
このまま膝を叩いて笑い出しそうな大谷さんの変化っぷりに戸惑いながらも、私も自然と笑っていた。ついさっきまでピンチになりながら、何がおかしいわけでもないが、なんとなく大谷さんと心が通じあえたような、そんな気がして。
「さて、取り敢えず上手くしてやられたという事実に腹が立つでな。一つ殴らせよ」
「は? いだ! え、ちょ、あだっ! いやいやいや理不尽! しかも一つじゃないし!」
数珠はやっぱり痛かった。