蝶と現代人
夢主 名前変更
せつめい◆夢主基本スペック(田の中での夢主ってだけ)
sex:♀
age:22才~
position:社会人
character:面倒くさがり
・逆トリップ
・読み手≠主人公
・ジャンル迷子
苦手なお方はそっとお戻りください。
ゲームは幸村伝までプレイ済み。
ご了承お願いします。
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「大谷さんこれ、これどうですか」
掃除機を片付けに行くついでに二階の自室からとってきたキャスター付きの椅子。これならそれなりに自由は効くはず。
流石に成人男性を抱えることは出来ないので、立ち上がる大谷さんに肩を貸して椅子に座ってもらう。声をかけて腕をとったら静かにしかめ面されたけど。確かめたいことがあるんだから協力してほしい。傷つく。
「深く座れてます?」
「恐らくな」
「じゃ押しますよ。落ちないでくださいねー」
「待ちやれ。何処へ行く気だ」
ゴロゴロと廊下を移動し、私たちの目の前には玄関が。
「……そうかそうか、ひひ、われを殺す気か」
「いや、なんでそうなるんですか」
「われはアレに拒まれる。アノ結界はわれとは相性が悪い。このままぬしがコレ事押し出せば穢れたわれは御陀仏よ」
「……そんなことしませんし、結界なんかないですし、相性悪いとか分かるんですか、穢れたってなんですか、あーいいですもーめんどくさいです。あと私は“ぬし”って名前じゃないです」
玄関に着くなり、大谷さんの警戒態勢がマックスになったのが分かる。椅子を転がしている少しの間も、私が大谷さんの、背後という戦国時代を生きていた者にとって最も嫌う位置に居た事も、この殺す云々の話の要因の一つだろうか。
「大谷さんね。私誰かを殺せる度胸とか勇気とかないですよ。それに、」
「それに?」
「それに、何よりもめんどくさいです。それが一番の理由です」
「面倒、なぁ」
「ええ、めんどくさくて、ずぼらなので」
「……左様か」
呆れた様に笑う大谷さん。
他人の死を、背負えるほどの覚悟なんて私は持ち合わせていない。弱虫なのだ。単純に。あと普通に犯罪である。法は犯したくはない。
「して、何故われを此処に連れてきた」
「いえね、結界って言っても、私が帰ってきた時は普通に入れたので、私と一緒ならもしかして大谷さんも出られるんじゃないかなーと」
「……なまえ」
「お、名前。……あー睨まないでくださいよ。はいはいなんですか」
「ぬし、ちと安直過ぎやせぬか」
「純粋と言ってください」
言外に含まれた嫌みには気づかない方向にする。まずは自分一人だけ玄関に降りて、そーっとドアノブに触れる。当たり前だが異常は見られず難なく外に出ることが出来た。
「ほら、大丈夫ですよ」
ドアは開けたまま大谷さんに再度肩を貸し、玄関まで降りてもらう。
ドアや輿を壊す程の勢いで吹き飛ばされた経験からか、自分から近付くつもりはないようで、二人でその場に立ち尽くす形に。確かにまた吹き飛ばされたら怖い。
「いいですか? 行きますよ」
「……いや、待て」
ゴンッ
「いだっ!」
「ひ、遅かったか」
私が先に通るべく、外へ踏み出せば、大谷さんの静止の声を聞きながら勢い良く何かにぶつかった。
なんら疑いなく、そのまま外へ出られるものと思っての一歩だったために勢いが強かったらしく、足先とおでこに強烈な痛みが遅れてやってくる。
声も出せぬまま、ずるずるとしゃがみこみ、壁を支えに立っていた大谷さんの足にしがみつき痛みを耐える。
「なまえよ、大事ないか」
「~~~っ超!痛い、です。例えるなら階段を登るときに足を踏み外してすねをぶつけた感覚と似てる……!」
ぐおお…!と唸っていればポンポンと肩をたたかれた。労ってくれているのだろうか。
それならもっと大袈裟に引き止めて欲しかった。
「でも、吹き飛ばされなかったのは幸いでしたね……」
「ぬしが近付くと結界が弱まりおった」
そう言って大谷さんはぬぅっと手を伸ばし指先を近づける。
途端、バチッと高い音と火花が弾け、なにやら焦げ臭いにおいと煙があがった。
弱まったって大谷さんは言ったが、なんだかパワーアップしたように見えるのは気のせいだろうか。
「われと共に出ようとすればぬしも阻まれるということよ。ぬしの場合は単純に出られなくなるようだが」
「あ、ホントだ」
恐る恐る指を伸ばすとコツンと固い何かに触れる。先程のように火花は出ず、透明なガラスが目の前に出現したかのようだ。
「……となると結局大谷さんは我が家から出られないってことですよね」
よっこいせ、と大谷さんを椅子へ戻し、ドアを閉める。大谷さんが近くにいなければ、普通に出入り出来るようだ。私まで家から出られなくなったら笑えない。
「仮にわれが外へ出られたとして、ぬしはその後どうするつもりであった?」
「どう、って…………」
「なまえ」
「……そのままさよならでした」
「ほう……見知らぬ世界で動けぬわれを見離すか。ぬしは非情、まこと非情よなぁ」
「いや、だって大谷さん不審者ですし」
リビングへ戻りソファに腰掛けた私はため息をつく。これで大谷さんを追い出すことが物理的に出来なくなった。
無理やり玄関へ押し出す、という手も無きにしも非ずなのだが、もしもそれで大谷さんが、弾けでもしたら夢見が悪すぎる。スプラッタは避けたい。
こうなると、打開策は一つしかないのだろう。あとは、私が覚悟を決めるだけ。
焼け焦げた指先の包帯を見ながら大谷さんは小さくため息をついたようだった。
もう、こうなったら、仕方がない。
「大谷さん、元の世界に戻れるまでここに居ていいですよ」
「あい、わかった」
「……いや、あの、大谷さん?」
「どうした」
「なんでそんなにすんなり受け入れてるのかな、と……」
普通もっと驚くものじゃないのか。
自分で言うのもなんだが、追い出そうとしていた相手がいきなり手のひら変えて、住居を提供してくるなんて、怪しいとしか言いようがない。
「見知らぬ世界で動けぬわれが、生きて元の世界に戻るには、ぬしの施しを受けるしかあるまい?」
「それはごもっともなんですけど……いや、なんでもないです。なんかもう、」
「“めんどくさい”か」
「…………ご名答」
くっ、悔しい……! なんだか負けた気分だ。
大谷さんはニヤァとあの笑顔を向け、
「これからよろしく頼むぞ。なまえ」
存外、優しさを含んだ声色でそう告げる。
最高にめんどくさい同居人が出来た。