蝶と現代人
夢主 名前変更
せつめい◆夢主基本スペック(田の中での夢主ってだけ)
sex:♀
age:22才~
position:社会人
character:面倒くさがり
・逆トリップ
・読み手≠主人公
・ジャンル迷子
苦手なお方はそっとお戻りください。
ゲームは幸村伝までプレイ済み。
ご了承お願いします。
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微睡んでいた意識が、微かな物音を拾ったことで覚醒へと向かう。手元にある目覚まし時計は午前六時。
ぼーっと、動く秒針を見つめながら、はて今の物音は何だったのかと考える。寝起きの頭は徐々に昨日の出来事を思い出してきた。
「ん~……あ゛~、おおたにさん、だ……」
この世界とは違った戦国乱世から、何故か我が家に現れた武将、大谷吉継。
我が家のリビングのドアを破壊し、不可思議な力で大谷さん本人は家から出ることは出来ず、自力での行動に限りがある包帯男。
そんな彼が、起き出したのだろう。微かな物音は階下から聞こえる。
我が家で出来ることは限られている大谷さんが帰れるまでの間は、腹を括った以上家主として、友だちとして、精いっぱい協力しようと心に決め、昨日は床についた。
「ん゛~~~~ぅ……」
唸りながらも、ベッドと仲良くなりたがる体を起こす。休日は気の済むまで寝て過ごす寝汚い私にとって、休日の朝六時起きは拷問に近い。
しかしうだうだ考えていても無駄に時間が過ぎていくだけなので、一階へ降りて顔を洗う。
大谷さん用に、一応濡らしたタオルに水を張った洗面器と拭くためのタオルを持って、リビングへ向かう。
「はよーざいます」
「起きたか。……なまえ」
「……ん?」
「しゃきっとせぬか。見苦しい」
「……うい」
顔を洗っても目が冴えていない私に、目敏く気がつく大谷さん。母親か。
「あ、顔洗います?」
コレ、と言って洗面器一式を見せる。
ちゃぷん、と水が跳ねたのを見て、大谷さんが口を、
「、」
「使い終わったら置いといてください。濡れてるタオル……手拭い……使ってもいいですし直接洗ってもいいですしご自由に」
「…………」
……開く前に押しつけた。
僅かに臥せられた瞳。きっとその後に続く言葉は「いらぬ」「必要ない」のどっちかだ。
使うなら使えばいいし、使わないのなら置いといてもらえばいい。選択肢を与えとけば大谷さんも好きにするだろう。なにより片づけるのがめんどくさい。
リビングとキッチンを仕切るアコーディオンカーテンを途中まで閉めて、朝食作りに取りかかる。
「テレビ付けてもいいですかー?」
「好きにしやれ」
BGMが無いとどうも手が動かない癖があるので、とりあえずテレビに慣れていない大谷さんに許可を取ってから、テレビを付ける。
耳を澄ませば、カーテンの向こうから時折ジャブジャブと水の音がするので、どうやら無駄にはならなかったらしい。
私の労力を無駄にしなかった大谷さんには、おかずを一品増やしてあげよう。
「なまえ」
みそ汁を作っていれば、かかる声。
火を止めて近くまで寄り、カーテン越しに返事をする。
「どうしました?」
「包帯をな、巻いて欲しいのよ」
思わぬお願いに躊躇するが、思い切って聞いてみる。
「包帯の下、見ることになりますよね」
いいんですかと、言外に伝える。
昨日は無遠慮に触れたことで、ガンガンに怒られたもんだから、例え大谷さん本人から頼まれたとしても、どうも躊躇う。
「ほう、遠慮というものを知っておったか」
「そこまで恥知らずじゃないですし、友だちの嫌がることはしたくないですしぃ」
「……」
「……恥ずかしいこと言わせておいて無視か」
大谷さんの馬鹿にしたような雰囲気に、負けじと正直に言い返せば無言が返ってくる。実際、少し恥ずかしいんだ。
それからため息とともに、小さく「よい。入れ」と短く声がかかったので、昨日買った包帯を持ってカーテンを開ける。
そこには、初めて見る包帯をとった大谷さんの素顔。しゅっとした顔と艶のある黒髪。
しかしそれよりも目をひくのは、白と黒が反転した瞳に、顔中に転々とあるかさぶたのような傷跡。皮膚が引きつっているような箇所もあった。
「んで、どうやって巻けばいいんですか。私、他人の顔に包帯巻いたことないんですけども」
ビリビリと包装を破きながら大谷さんに問う。
昔、捻挫したときに足首に包帯をしたのが人生初だった。病院でくるくると巻かれる包帯。子供心に、かっこいいと思ってしまったのは母にはナイショにしている。
「やはり、ぬしはちと可笑しいのでなはいか」
「包帯の巻き方知らないだけで?」
「それはぬしが無知なだけよ。そうでない。われのかんばせについて、何か思う事はないか」
「ああ、そっち……」
手についたテープを丸めて剥がし、ゴミ箱に捨てる。ロール状に丸まった包帯を、今度は逆方向に巻きなおす。これは、ロール状の物に触れると、なんとなくやりたくなってしまう癖のようなもの。
そんなことをしながら、うーん、と考える。大谷さんの素顔を見ての第一印象。
「知らない人が大谷さんの声で喋ってる気分です」
「それだけではなかろう。真面目に答えよ」
「……これでも真面目なんですけどねー」
即答で否定されてしまう。
鋭い大谷さんは、やはり簡単に誤魔化されてはくれない。
果たして言っていいものなのだろうか。
「何を思った。ぬしたちとは違うこの風貌をどう思う」
「……聞いてきたのは大谷さんなんだから、怒らないで下さいよ」
「構わぬ」
「……正直、」
一呼吸置いて、言葉を探す。
大谷さんは、こちらをじっと見据えて逸らさない。
「めっちゃ……気になりますよ」
「ほう」
「原因は何だろうとか、隠すために包帯してたのかなとか、そりゃもうゲスい好奇心だらけです」
自分と違う、いや、一般人とは明らかに異なるその容貌に、一瞬のうちに浮かんでしまった好奇心。
気にならない、なんて嘘は、大谷さんには絶対通じないとなんとなくだけど、分かる。
「でも、気にはなりますけど、聞こうとするほど馬鹿じゃないですし、私の好奇心を満たすためだけに知る必要もないなと。もしかしたら明日にでも、帰れるかもしれないんだし」
「ほう、左様か? 一生戻れぬやもしれぬぞ」
「そうなったらその時に考えます。とりあえずそんな悲観的なこと言ってないで戻れる手がかりを見つけましょうよ」
「ひ。それもそうよな」
友だちになったと言っても、それは大谷さんがこの世界にいる間の一時的なもの。いつか帰るであろう大谷さんの事情を、私が全て把握している必要はない。生活に困らない範囲でお互い知っておくべきことはあるかもしれないが、必要になったら教え合えばいいのではないかなんて考えたり。
というか、大谷さんは戻れないかもしれないなんて言っていたけど、私としてはどうにかして帰ってもらわないと困る。戻れるまでの生活は保障するが、一生共に暮らすとなるとそれこそ色んな覚悟が必要になる。それは是が非でも避けたい。大人一人養えるほど、家計は潤ってない。
いい加減、新しい包帯を巻くべく教えてもらおうと、改めて大谷さんの顔を見る。
「……うん」
「何を一人で納得しておる」
「いや、やっぱりまだ、他人と話してるみたいで落ち着かないです」
「……」
昨日はずっと包帯顔の大谷さんと話していたわけで。初めての出会いから、おやすみなさいまで私が見ていた大谷さんは、ずーっと包帯顔だったわけで。
二日目にして素顔を見ても、なんというか、
「新鮮な気持ちです」
「…………さよか」
これまでで、一番大きなため息を吐きながら、大谷さんは肩を落とす。多分、いろいろ諦めたのだと思う。
それから、おぼつかない手つきで包帯を取り替える。やれ緩いだ、みつなりより下手くそよ、だと散々罵られながらも、なんとか巻き終わり、見慣れた大谷さんになる。くっそ。おかず減らすぞ。
新しい包帯の感触を珍しそうに確かめながら、大谷さんは口を開く。
「なまえよ」
「なんですか」
「もし、この穢れが……不幸がぬしに降りかかると言ったら、ぬしはどうする?」
穢れ。
大谷さんは自分の怪我の事をそう呼んだ。そういえば昨日も「決して治らない、不幸を撒き散らす」と言っていた。
なぜそう呼ぶか知らないが、病気のことを“ハッピー”と呼ぶ医者が登場するマンガもあるので、あまり気にしないことにした。大谷さんのポリシーか何かだろう。考えても分からないし。
「あー……つまりなんですか。その怪我、人に感染する恐れがあるってことであってます?」
「左様。しかし、これは怪我ではなく業病」
「ご、ごうびょう?」
「ほんにぬしは無知すぎる。病気よ、病気。しかしぬしは、われに何度も触れていた故、手遅れかもしれぬがな」
ここで新しい情報が入る。私が怪我だと思っていたのは病気で、それは業病と呼ばれており、なんと人へ感染するらしい。
はて、業病とは。あとで調べておくとして、もしも私も感染してしまったら。
「もし私にも移ってたら、病院行って薬貰いますよ」
何を当たり前のことを言うのか。
大谷さんの世界の生活水準が、こっちの世界の戦国時代と同じか似ているのかは知らないが、あいにく未来である現代では医療は発達している。難病となればお手上げだが、恐らく直せない病気ではないと思う。いや、勘ですけど。
「ああ、そしたら大谷さんの分も貰ってきますよ。同じ病気なら効かないこともないでしょうし」
実際、業病にはどんな治療が効くのか知らないけど、同じ病気に罹ったのであればついでに大谷さんも治せて一石二鳥である。
「まあそういう訳で、病気だろうと感染しようとなんだろうと、大谷さんの面倒は見るのでいい加減悪あがきは諦めてください」
「何が言いたい」
「今朝から、私を遠ざけたそうなことばかり言ってますけど、無駄ってことです」
何を持ってして、大谷さんが私を遠ざけようとしたのかは分からないが、どうやら間違ってはいなかった。
素顔の印象を聞いたり、わざと後から感染するかもしれないことを告げたり。
どれも他人からされたら、快くは思わないことばかり。最悪、人は離れていく。
だが私には関係ない。大谷吉継という人間は、こういう性格なのだということは昨日の濃い一日の内に重々承知している。
「んもー。私が友だちになって嬉しいからって、そんなにはしゃがないでくださいよー」
「はよ薬師に見てもらえ」
「え、そんな即効で移るもんなんですか?」
「頭の方よ」
「どういう意味だ」
軽口をたたき合いながら、大谷さんがテレビの前まで移動するのを手伝ったあと、中断していたみそ汁作りを再開する。