蝶と現代人
夢主 名前変更
せつめい◆夢主基本スペック(田の中での夢主ってだけ)
sex:♀
age:22才~
position:社会人
character:面倒くさがり
・逆トリップ
・読み手≠主人公
・ジャンル迷子
苦手なお方はそっとお戻りください。
ゲームは幸村伝までプレイ済み。
ご了承お願いします。
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「……ホント、どうしちゃったんですか」
何が面白かったのか、突如、大爆笑しだした大谷さん。
心当たりはないが、恐らく私が原因なのだろうけど、何もおかしなことは言っていない。
先ほどの会話を思い返してみるが、みつなりさんとやらの代わりに友達にならないか、と提案しただけ。
話をしたいが、未だ肩を震わせ笑う大谷さんは話が出来る状態じゃない。
(酸欠で倒れるんじゃないか……?)
それからしばらくして、大谷さんの笑いが徐々に治まってきた。笑いすぎで涙目だし、ひゅーひゅーと喉から変な音が聞こえる。
小さい頃、爆笑した時、こんな症状になってた気がする。
「ひひひっごほっ、なまえ、ぬしは、ぬしが、くっ、三成の代わりとな……っ!」
「そう言いましたけど、思い出し笑いするぐらいならしゃべらなくていいですよ。聞き辛いですから。はい、お水」
呆れつつコップを渡せば、大谷さんは、自分を落ち着けるように、受け取った水を飲む。が、コップを持つ手は震えていた。
「みつなりさんの代わりに友達」宣言がツボに入ったらしい。意味が分からない。大谷さんのツボが分からない。
「ふう。いやはや、久々に腹の筋を使った」
「もうツボからは抜けましたか」
「やめよ。思い出させるでない」
暫くして復活した大谷さん。
ぺっぺっ、と私に向けて手を払う動作で誤魔化そうとしているが、やはり相当我慢しているらしい。声が震えてる。
「まあ、嫌ならいいですよ」
「まあまて。嫌とは言うておらぬ」
「あれ、違うんですか」
きっと、友達と呼べる人は少なかった大谷さん。相手から距離を詰められてもそれと同じくらい、あるいはそれ以上に距離を開けて接する性格であろうことは一日の内に何となく理解した。
だからさっきの爆笑は「友達になろう」という、子供のような私の提案に、なんて愚直で救いようがない奴なのか、といった私への思いの呆れと、友達になることへの否定かと思ったのだが、「いや、」と大谷さんは首を横に振る。
「ちと訪ねるが、此方では友人関係を築くときは、ぬしのように馬鹿正直に問うことが習わしか?」
質問の中に引っ掛かる部分はあるがスルーしよう。
「いえ、習わしという訳ではないですけど、子供とかはそうして友達になることもあるんじゃないですか?」
「なるほどな。ならばぬしが幼子と同格であるということか」
「……馬鹿にしてません?」
返事はないが、確実に馬鹿にされてる視線を寄越された。憐れみに満ちた目だ。
「三成もな、同じよ」
「え?」
「あやつもぬしと同じように、われに言うてきおったわ」
「……友人になろうと?」
「左様。三成と会う前、われは人を避けておった。人との繋がりなど無益であると捉え、何よりこの風貌であろ、気味悪がり誰も近寄らぬ」
「? 怪我じゃ……」
問い掛けて、咄嗟に口をつぐむ。触れられたくない事のはずだ。
しかし大谷さんは、諦めたように口を開く。
「慣れぬ気を使うな。気味が悪い」
「失礼な」
「これは穢れよ。決して治らぬばかりか、周りに不幸を撒き散らす、な」
「……」
「しかし、三成はそれを気にもせずわれに毎日毎日、太閤と賢人の話をしやる」
「……ん? 毎日?」
「うむ。太閤の素晴らしさ、賢人の知恵の深さ云々……初めの頃は無視していたが、流石のわれも辟易した」
みつなりさんの好きな人の話を、一方的に、延々と聞かされていた日々。そりゃ誰でもうんざりすると思う。
そして、ある日耐えに耐えかねた大谷さんは、三成さんへ言った。
『石田よ、貴様の真意が分からぬ。他人のわれに太閤らの説法を説いても意味はなかろう。安心するが良い、豊臣軍に従したからにはとくと働くがゆえ……』
『? 何を言っている刑部。お前は私の友だろう』
「……一言よ。たった一言、当然のように言い放ち、それ以外に何があるとでも言いたげな、心底意味が分からぬといった顔でわれを見る三成に、言い返す気力も失せたわ」
「へえー、じゃあその出来事から友人に?」
「まあ、茶席でのこともあるが……」
「?」
「いや、気にするな」
私から視線を外し、懐かしむように、困ったように笑い目を閉じる大谷さん。
しかし、それ以来ずっと特に諍いもなく友人でいるということは、気の合う同士だったのではないか。
「良い友人をお持ちで」
「なまえよ、それは嫌味にしか聞こえぬ」
はあ、と溜め息をつく大谷さん。
ふと、気になり聞いてみる。
「ところで何が面白かったんです?」
「はて、何の事やら」
「え、なんでとぼけるんですか」
「われにはとんと、考え付かぬなあ」
詰め寄っても教えてくれなさそうな大谷さん。
「われは疲れた」と主張したことと、時計が深夜を示していたこともあり、今日はもう休むことになった。お風呂は、また今度でいいだろう。
上手く交わされた感じがして納得のいかないまま、リビングに客用布団を敷き、大谷さんが布団に入ったところで電気を消す。二階に上がろうと、大谷さんに声をかける。
「それじゃ、おやすみなさ、」
「ぬしの言葉に、少しでも嬉しいと思ったわれがまこと奇妙で可笑しくあっただけのこと。われにもまだ人の心があったとは知らなんだ」
「は? え? ちょ、大谷さん?」
「喧しいなあなまえ。早よう去ね」
「あだっ!」
ゴツンと、大谷さんの数珠が額にぶつかった。唐突に襲った痛みに耐えながら、どういうことか聞こうとすれば、周囲にぼんやり浮いてる数珠。
「足りぬか?」
「……結構です」
チクショウと、か細く呟く私の声は、大谷さんの笑い声に消えたことだろう。