蝶と現代人
夢主 名前変更
せつめい◆夢主基本スペック(田の中での夢主ってだけ)
sex:♀
age:22才~
position:社会人
character:面倒くさがり
・逆トリップ
・読み手≠主人公
・ジャンル迷子
苦手なお方はそっとお戻りください。
ゲームは幸村伝までプレイ済み。
ご了承お願いします。
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長袖と半袖のTシャツ。ズボン。包帯。下着エトセトラが入ったビニールを片手に玄関をくぐる。万が一大谷さんの言う結界とやらが作動した時を考えて、足先で確かめつつ入るもんだから、外から見たら大分奇妙に見える。夜で良かった。
「ただいま帰りました」
リビングで本を読んでいる大谷さん。隣には本が積み上がっている。まさか全部読んだのだろうか。片付けるの私じゃないだろうな。
「面白い本でもありました?」
「まあ、な。全てわれの世界では見たこともないような物ばかり故、なかなかに時間が潰せるわ」
どうやら文字は読めるようだ。昔は今よりももっと崩した字体だったはずなのだが、まあ読めるのであれば問題はない。
ビニールからTシャツを取り出しタグを切る。このまま着てもらってもいいのだが、買い物中、どうするのか聞き忘れていたことを問い掛ける。
「お風呂って入りますか?」
大谷さんの本を捲る手が止まった。
「もしその怪我で入れないんでしたら包帯だけでも変えます? 一応新しいの買って」
「なまえ」
きたんですけど、と続く言葉は遮られ名前を呼ばれる。タグ切りの手を止め、大谷さんを見れば、冷たい視線。
しまった。包帯の話は地雷だったようだ。
「なんでしょうか」
「われにも触れて欲しくない部分がある。ぬしのは正に其れよ」
「それは……はい、申し訳ありません」
お前はデリカシーがない、とよく親に言われていた。人生の中で徐々に学んでいたつもりだったが、いかんせん生かしきれていない。少しでも相手と面識があると、腹の探り合いのめんどくささ故に、ずけずけ踏み込むのは私の悪い癖だ。というか、さっきの着替えを手伝ってる時は踏み込まないように気をつけていた。努力はした。失敗は買い物に出たことでそれを忘れたことだ。
素直に謝るが、大谷さんの怒りは収まらないようで。
「ぬしとわれとの間に親しさは友人程なかろう。われもそこまで気を許したつもりもないでな。相手の懐に気安く入り、丸め込む事がぬしの目的か? その押し付けがましさがわれには不愉快極まりない」
ちくちくと肌を刺すのは空気か、言葉か。
買い物前まではケラケラ笑いあっていたのが嘘のよう。その態度の急変ぶりはそこまで、大谷さんが触れてほしくなかったという度合いを示す。
言葉通り不愉快そうに本を閉じ、大谷さんは目を閉じてしまった。
いたたまれない空気の中に取り残されてしまった私は動くに動けない。確かに触れて欲しくない所に踏み込んだことは悪く思う。しかし、そう言われると、そこまで言わなくてもいいではないかと、私だって言いたいことはある。
しゃきしゃき、とはさみを無駄に動かしながらぐるぐる考えて、口から出たのは、
「別に大谷さんと仲良くなりたいわけじゃないんですけど」
だった。
待て、これ誤解されないか。見ろ、大谷さんの顔。
「大谷さんがそこまで私に気を許してないのもなんとなくですけど分かりますし、例え大谷さんを運よく懐柔したとしても特にメリット……得? もお互い特にないと思うんですよね。それに今までみたいに普通に質問すれば反応してくれるので、私はそれでいいかなと。子供のように、みんな仲良くないと嫌と駄々をこねる年でもないですから」
言って大谷さんの返答を待つ。
「われの相手が面倒か」
「え、いやそういう訳では。大谷さん自身がというより、こういう腹の探り合いがめんどくさいんです。遠慮が無さ過ぎて一部の人間には嫌われます」
「そうよな、ぬしはまるで遠慮がない。故にこうしてわれの気持ちを弄ぶ」
「もて……人を遊び人みたいに言うのやめてください」
「ひひっ」
どうやらあのいたたまれない空気は霧散してどこかへ行ったようだ。
笑う大谷さんから剣呑な雰囲気は感じられない。
「われも腹の探り合いは面倒よ。何も考えず、友と語らいたいわ」
「……」
ポツリと、小さく諦めるように呟かれた言葉に何も言えなくなる。
大谷さんが生き抜いている時代は戦国だ。様々な智を巡らせ、いかに優位に生き残るかを常に考える世界。複雑な策略を成功させる為には他人の考えの数手先を見なければならない。そこには平和ボケした私からは考えつかないようなドロドロした探り合いがあるのだろうか。
そんな状況に大谷さんは置かれていたのだ。他人を疑わないわけがなく、友人と言える人は数少ないのだろう。
「あ、じゃあ私と友達になりますか?」
「…………いきなり何を」
「何も考えず、腹の探り合いもせず話せる、帰れるまでの一時的な友としてってことです」
「三成の代わりと。ぬしがか」
「まあ、そのみつなりさんとやらの代わりになるかは分かりませんが」
「…………」
「大谷さん?」
黙り込んで下を向いてしまった大谷さん。体が小刻みに揺れているので、心配になって声をかける。
「大丈夫で、」
「ひーっひひひ!ひっ、ひひひひひっ!!」
「……え、怖ぁ……」
返ってきた反応はまさかの大爆笑でした。