仮面の下に咲いた花
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春の朝靄が、山道を薄く覆っていた。
土井と名前は、任務のために人の少ない林道を進んでいた。
木々の間を、慎重に歩を進める名前。
そのすぐ横には土井半助の姿。
互いに言葉はなく、空気は張り詰めていた。
今回の任務は、行方不明になった村人の捜索。
だが、ここはタソガレドキ領との境界にほど近い危うい場所。
一歩間違えば、敵地。
ふと、名前が立ち止まった。
前方から、かすかな気配。
風に紛れてはいるが――確かに“人”の存在。
土井もまた、何も言わず腰へと手をやる。
そのとき。
「──これはこれは」
低く、乾いた声。
木々の陰から、滑るようにひとつの影が現れた。
包帯に覆われた顔。
黒ずくめの忍装束。
研ぎ澄まされた静寂をまとった男。
──雑渡昆奈門。
その背後に、影のように控える数名の忍びたち。タソガレドキの忍びだろう。
名前は無言で呼吸を整え、一歩、前へ出る。
土井も、自然にその隣へ並んだ。
雑渡はふたりを見据えたまま、微かに口元を緩める。
「忍術学園の先生方が、こんなところで何を?」
声は柔らかだが、どこか感情を読ませない探るような調子。
名前は一切の警戒を隠さず、低く答えた。
「……こちらの任務に、関わっていただく必要はありませんよね」
土井も静かに笑みを作る。
「お互い、領地の境界には注意しているでしょう?」
雑渡はふっと目を細めた。
「もちろん。こちらも――学園に干渉する意図はありません。この境界を越えなければ」
そう言いながら、包帯の奥の目がじっとふたりを観察してくる。
沈黙。
だが、誰も手は出さない。
その場に、ただ鋭い緊張が漂っていた。
やがて、昆奈門が肩を軽くすくめる。
目を細めたまま、言葉を続ける。
「こちらも、土井先生を失うのは惜しい。できれば、こちらに来ていただきたいものです」
土井は苦笑しながら肩をすくめた。
「……あいにく、転職は考えていません」
今度は昆奈門が名前へ視線を向ける。
「そちらの――くノ一の先生も」
名前は即座に表情を変えず、無言で見返した。
土井がくすりと笑う。
「欲張りですね」
「──実力は、評価していますから」
事も無げに告げる昆奈門の背後から、鋭い声が飛ぶ。
「組頭! 私は反対です!」
前へ一歩出てきたのは、若い忍――諸泉尊奈門。
真面目な表情を真っ赤に染め、声を張る。
「忍術学園の人間を迎え入れるなんて、ありえません!」
雑渡は視線だけを向けた。
呆れも叱責もなく、ただ静かな目。
尊奈門は怯まない。
「タソガレドキと忍術学園は敵です! 敵を入れるなんて、私は納得できません!」
名前は、じっとそのやり取りを見つめていた。
土井も、どこか楽しげに目を細めている。
雑渡は、包帯の奥で笑った気配を見せると、静かに返す。
「……尊奈門、心配しなくていい。すぐにどうこうするつもりはない」
そして、再び名前へ視線を戻す。
「──ただ、この先どうなるかは、わからないだろ。」
そのとき。
名前の目が、ふと地面に向いた。
かすれた足跡。
(……違う)
即座に腰へと手をやる。
(この気配――)
土井も、同じものを察知したのか、わずかに体の重心を変える。
昆奈門も、視線を足元に走らせる。
空気が、変わった。
朝靄の中に、ぴんと張り詰めた気が走る。
──敵の気配。
「来ますね」
土井が低く言う。
名前は頷き、素早く膝をついて地面を確認した。
「五人……いや、もっと」
「数が多いな」
昆奈門がぼそりと呟く。
「囲まれる」
名前の声も、低く沈んでいた。
土井は柔らかな笑みを浮かべながらも、その瞳は冴え渡る。
「……ここは、一時共闘ですね」
「合理的だ」
雑渡も、あっさりと応じた。
言葉少なく、だが確かな了解が三人の間に走る。
名前は立ち上がりながら、刀の柄にそっと手を添えた。
その背後で、雑渡がひと言。
「終わったら、また“転職”の話でも聞きましょうか」
名前は、わずかに口元を緩めた。
「──お断りします」
風が、草を揺らす。
その向こう。
敵の気配が、着実に近づいてきていた。
