仮面の下に咲いた花
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朝。
忍術学園の敷地に、春の柔らかな光が静かに差し込む頃。
名前は少し早めに目を覚まし、まだ誰の姿もない庭へと足を運んでいた。
朝の空気は少し冷たく、けれどその冷たさが心地よかった。
肌に触れる風が、眠っていた感覚を静かに呼び起こしてくれる。
何もない、静かな時間。
昨日のことが、ふと脳裏をかすめる。
あの沈黙。あの気配。
今も胸の奥に、微かな緊張だけを残していた。
そのとき──背後から、控えめな足音が近づいてくる。
「早いですね、名前先生」
振り返ると、土井半助が眠たげな顔で歩いてきた。
名前は、自然に口元を緩める。
「土井先生も、ずいぶん早いですね」
「ええ。早起きは忍びの基本ですから」
どこか気の抜けた口調。
それが妙にやわらかくて、名前は少しだけ笑みを深くした。
土井は、そのまま隣に並ぶ。
ふたりの間に流れる空気は、いつもと変わらない。
特別な言葉がなくても、呼吸のように自然に歩調が合う。
朝靄の残る庭を、しばらく無言で歩いていた。
やがて、土井がふと声を落とす。
「……昨日、何かあったんですか?」
名前は少し足を止めた。
土井は優しく笑いながら言った。
「顔に出てますよ。名前先生、わかりやすいから」
肩をすくめて、彼女も笑う。
「……ごまかせてると思っていたんですが」
「残念でしたね」
ふたりは顔を見合わせて、小さく笑い合った。
名前は、静かに言葉を紡ぐ。
「昨日、保健室で……少し、気になる人を見かけました」
土井はそれ以上、何も聞かなかった。
無理に問うことなく、ただ淡く告げる。
「何かあったら、頼ってくださいね」
「……ええ」
それだけの言葉が、どこまでも静かに沁みていく。
再び歩き出すふたり。
多くを語らずとも、確かに互いの存在を分かち合うように、並んで朝の空気を吸っていた。
やがて土井が、ポケットから何かを取り出し、名前へそっと差し出す。
小さな包み。
「……?」
「甘いものです。朝は脳に糖分が必要ですから」
名前は驚いたように目を見開いたあと、ふっと笑みを浮かべた。
「……ありがとうございます」
言葉以上に、温かなものがそのやり取りの中に流れていた。
そしてふたりは、そのまま並んで歩き続ける。
何も言わずとも、確かにそこには――
春の光のように、やわらかなぬくもりがあった。
