仮面の下に咲いた花
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茶屋のざわめきに紛れて、
名前と雑渡は、
静かに奥へと進んでいた。
鼻をつく酒の匂い。
脂と汗の混じる空気。
そして──
襖の向こうに広がる、淫靡な気配。
耳に届く、男と女の絡み合う声。
名前は、
無言で襖に手をかけた。
──
わずかに開けた隙間から、
中の様子を覗き込む。
男は女の裸の背を抱え、
下卑た笑みを浮かべている。
女は、虚ろな瞳で天井を見上げ、
何も感じていないようだった。
名前は、
静かに短刀を抜く。
──
動きは、一瞬だった。
男が気配に気づくより早く、
名前の体がするりと滑り込む。
刃が、
ためらいなく男の喉元をなぞった。
抵抗はなかった。
喉が裂ける音が、室内に広がる。
男の瞳が見開かれたまま、
何も言えず崩れ落ちた。
血が、畳に滲む。
女は一言も発さず、
ただ静かに衣を拾い集めていた。
その顔に、感情はなかった。
名前は、
血の付いた短刀を布で拭い、
ふたたび襖を閉める。
──
音もなく、茶屋を後にする。
夜の外気が肌を撫で、
火照った熱を奪っていく。
その先に立つ、ひとりの男──雑渡。
包帯に覆われた顔の奥。
その瞳だけが、じっと名前を見ていた。
「……終わったか。」
低く、静かな声。
ただそれだけなのに、
どこか背筋をなぞるような響きがある。
名前は、
言葉なく頷いた。
無駄な感情も、説明もいらない。
それが──忍びのやり方だ。
雑渡は、
ふと彼女を一瞥する。
まるで、
何かを確かめるように。
そして──
口の端を、わずかに持ち上げた。
「……さっきの続きは、また今度だな。」
囁くようなその声には、
冗談めいた軽さと、
それだけでは済まされない熱が混じっていた。
名前の胸の奥が、
不意に跳ねる。
何かを言い返そうとしたのに、
喉が音を拒んだ。
雑渡は、
それ以上何も言わず、踵を返す。
闇の中へ、静かに歩いていった。
その背は、
一度も振り返らない。
あのとき包帯の奥に見えた目だけが──
焼きついたように、消えなかった。
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