仮面の下に咲いた花
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奥は個室。
名前たちはターゲットの隣の部屋に入り込んだ。
薄暗い空間に、熱と酒の匂いが渦巻いていた。
名前は、
隣に座る雑渡に、意識を張り詰めながらも、
顔には静かな微笑みを貼りつけていた。
そのとき──
雑渡が自然な仕草で、
腰に手を回してくる。
雑渡は、
自然な仕草で腰に手を回し、
帯に沿って指先をなぞる。
帯をゆるやかに押さえ、
そこから指を這わせる。
まるで恋人の仕草。
それだけで、
名前の肌は自分でも驚くほど敏感に反応していた。
それだけでも、
心拍数が跳ねるのに。
雑渡の指先は、
腰から背中へ。
背中から、
肩甲骨をなぞるように滑っていく。
その動きに、
名前はわずかに体を硬直させたが、
すぐに抑えた。
「緊張するな。」
耳にかかる吐息。
(簡単に言って……)
心の奥で舌打ちしながら、
名前はふっと笑った。
(──やり返す。)
何もしなければ、
この男の掌で転がされるだけ。
それは──癪だった。
名前は、
自然を装いながら、
そっと自分の膝を雑渡に寄せた。
す、と足が触れ合う。
雑渡は、
僅かに動きが止まる。
すかさず名前は、
彼の手の甲に指を這わせた。
繊細な、だが明確な接触。
それを受けて、
雑渡の指先が微かに跳ねたのを、
名前は見逃さなかった。
(──効いてる。)
続ける。
名前は、
まるで囁くように顔を寄せ、
髪が触れるほどの距離まで近づいた。
耳元に吐息を落とす。
そして、
甘く、低く囁く。
「私も慣れてます。─くノ一ですから。」
雑渡の体が、
わずかに熱を持つ。
それを感じ取りながら、
名前は静かに微笑んだ。
だが、その瞬間。
雑渡は、
何事もなかったかのように、
ふっと笑うと、
名前の顎をそっと指先で持ち上げた。
(──!)
反対の指先が、
頬から顎へ、
顎から喉元へ。
なぞるように滑る。
名前は、
意地でも顔をそらさなかった。
雑渡は、
そのまま彼女の顎を支えながら、
ごくごく近づいてきた。
包帯越しの鋭い視線。
耳にかかる吐息。
「──そうか。」
低い声。
「なら、私も──」
指先が、
名前の喉の下をそっとなぞる。
「……組頭だからな。」
耳元に落とされたその言葉。
それは、仮面の下にある、
本物の力を突きつけるものだった。
名前は、
喉の奥で息を呑んだ
指先は、
まるで喉笛を押さえるかのように、
ほんの僅かに力を込めた。
(──からかってる。)
そうわかっていながら、
名前は悔しくて、なにも言えなかった。
雑渡は、
最後に指先で腰を軽く押し、
ぐいと体を引き寄せた。
「くノ一にできることくらい、
全部──知ってる。」
その声は、
耳朶を震わせるほどの低さで、
静かに、しかし絶対の自信を滲ませていた。
名前は、
喉の奥で息を詰めた。
(全部──知ってる。)
雑渡は、力を入れるわけでもなく、
名前の体を簡単に制していた。
「……この先もな。」
最後の言葉は、
囁くように。
(その先──)
何を意味しているか、
考えるまでもない。
名前は、視線を外さずにいた。
引き下がれば、負けだ。
雑渡は、
指先で名前の髪をすくい上げると、
耳の後ろをなぞった。
(──っ)
その動きに、
名前の肌が跳ねる。
「……さあ、どうする?」
低い、甘い声。
ふたりの間にあるのは、
張り詰めた緊張と、
それ以上に濃密な、熱だった。
(やられっぱなしで、終われるわけない。)
名前は、
手を伸ばし──
雑渡の胸元を掴んだ。
そして──
ぐいと、力を込めて押し倒す。
雑渡は、抵抗せずに倒れた。
名前は、馬乗りの体勢で
彼の上に覆いかぶさる。
茶屋の喧騒は、
ふたりの周囲からすっかり消えていた。
名前は、そっと顔を近づける。
唇と唇。
あと、ほんの指先の距離。
呼吸が交わる。
互いの熱が、
無意識に引き寄せ合う。
(──あと少し。)
心臓の音が、
耳の奥に響く。
雑渡は、何も言わず、
ただ視線を逸らさずに見上げている。
受け入れるように、ただ静かにそこにいた。
名前も、
抗わずにいた。
──
そのとき。
──ガタンッ。
外で、
誰かが扉を開ける音。
賑やかな笑い声が、
ざわめきと共に流れ込んできた。
名前は、
はっと目を開いた。
雑渡は、
動かなかった。
何も言わず、
何も変えず、
ただ静かに瞬きを一つ。
──
名前は、
そっと体を起こした。
雑渡も、
何事もなかったかのように、
体を起こす。
指先が離れる。
熱も、
気配も、
何もかも、
静かに途切れた。
教師と組頭の仮面をかぶり直して、
ふたりは立ち上がった。
