仮面の下に咲いた花
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古びた看板と、かすれた暖簾。
中に入ると、
旅人や商人風の客が、酒を酌み交わし、賑わっていた。
だが、
その賑わいの裏に、
何とも言えぬ緊張感が漂っている。
(……忍びの匂い。)
名前は、
身を低くしながら空気を読む。
その隣。
雑渡昆奈門が、
何も言わずに自然な動きで、
名前の手を取った。
(え──)
驚く間もなく、
彼はそっと、
彼女の手を自分の袖口に隠すようにしながら、
軽く引き寄せた。
「目立たないようにだ。」
低く囁く声。
その響きに、
名前の背筋が小さく震えた。
(……こんなふうに?)
雑渡は、ごく自然に、
名前を隣に座らせると、
まるで慣れた仕草のように、
彼女の肩に手を添えた。
旅人の男と、
その連れの女。
誰も、
不審な目は向けてこない。
(──近い。)
肩越しに感じる体温。
包帯越しの鋭い眼差し。
名前は、
顔をそらすようにして周囲を見渡した。
(……見たことのある顔がいないか。)
雑渡は、
ごく自然に彼女の髪に指を絡め、
耳元に口を寄せた。
「正面左手、忍びだ。」
声は低く、
まるで恋人同士の甘い囁きにしか聞こえない。
名前は、
視線を動かさずに応えた。
「──気づいてます。」
どこからどう見ても、
親密な男と女。
雑渡は酒盃に手を伸ばしながら、
その動きに合わせて名前の腰へ手を滑らせた。
「──動きがあるまで、
こちらから仕掛けるな。」
「……わかっています。」
心臓が、
嫌なほど高鳴っていた。
こんな距離感、
任務のためとはいえ、
慣れているはずもない。
(……落ち着け。)
名前は、
必死に自分に言い聞かせた。
雑渡は、軽く笑ったような気配を見せながら、
そっと唇を動かした。
「緊張するな。
恋人役がぎこちない。」
「……そちらこそ、
余裕を見せすぎです。」
雑渡がにやりと口角を上げた。
「慣れているのでな。」
(──慣れてるって、何に。)
何もかも計算ずく。
その事実に、
名前は苛立ちすら覚えた。
だが、
今は任務が最優先。
男が、
席を立った。
茶屋の奥へと、
ゆっくり歩き出す。
雑渡は、
名前を促すように視線を送った。
(行くしかない──)
名前は、
隣に座る彼の袖をそっと引いた。
(せめて、こちらも自然に。)
雑渡は、
名前の手を取ると、
まるで昔からそうしていたかのように、
絡めるようにして立ち上がった。
(……やりづらい。)
そう思いながらも、
名前は何も言わず、
並んで茶屋の奥へと歩いた。
