仮面の下に咲いた花
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昼下がりの保健室。
カーテン越しに、柔らかな陽光が差し込んでいた。
名前は、生徒を見送り、
傷薬の補充のため保健室へ向かっていた。
扉を静かに開けると、そこには見慣れない影。
──雑渡昆奈門。
包帯に覆われた顔。
その隣には、ちょこんと伏木蔵が座っている。
伏木蔵は無邪気に昆奈門に話しかけ、笑っていた。
名前に気づくと、ぱっと顔を上げ、明るい声を響かせる。
「名前先生〜!僕たち仲良しなんです!ねぇ〜?」
雑渡はほんの一拍置いて、低く、静かに答えた。
「──ねぇー。」
……やめて。
名前は、心の奥でそう叫びながら、咄嗟に声を張った。
「伏木蔵!曲者になつかないで!こっちに来なさい!」
伏木蔵はきょとんとしながらも立ち上がり、名前のもとへ駆け寄る。
「雑渡さん、優しいのに…」
名前は、ぐっと伏木蔵の肩を引き寄せた。
「だーめ。危ないから。」
伏木蔵は名残惜しそうにしながらも、素直に頷いた。
「また遊んでくれますか?」
伏木蔵の問いに、昆奈門は窓の外を見たまま、低く応えた。
「……暇があればね。」
名前は冷静を装いながら伏木蔵に言った。
「伏木蔵、先に戻って。」
「わかりました〜。」
伏木蔵はぺこりと頭を下げ、保健室を出ていった。
──
扉が静かに閉まる。
保健室には、静寂だけが残る。
「うちの生徒に不用意に近寄らないでください。」
雑渡は、わずかに目を細めて言った。
「懐かれるとは思っていなかった。」
「伏木蔵は素直ですから。」
名前も、できるだけ平静を保ちながら返す。
(──でも、素直すぎるのも考えものだ。)
雑渡はしばらく窓の外を眺めた後、ふと名前に視線を向けた。
「…人を曲者みたいに…あぁそう言えば私、曲者だったね。」
ふざけたように言った雑渡を、名前は睨んでいた。
「そうだ…君は選んだのか?」
静かに、しかし重く。
名前は、一瞬だけ息を呑んだ。
「私は、自分で生きる場所を選んだだけです。」
声を震わせないように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
雑渡は動かずに言葉を重ねた。
「──血も、土も君のものだ。
村が合戦に巻き込まれ、唯一生きてた少女が、まさかくノ一になってまた現れるとは。」
名前は、まっすぐに雑渡を見据えた。
(……私は。)
雑渡は低い声で続けた。
「生まれた土地で生きるか。ここで生きるか。」
包帯の奥の目が、微かに光る。
「選べ。それだけだ。」
名前は、何も言わなかった。
言葉が出なかった。
ただ、小さく頷いた。
雑渡は、それを確認すると、窓辺から離れ、影のように保健室を後にした。
──
扉が静かに閉まる。
名前は、消えたその背を追わず、じっと立ち尽くしていた。
(──血も、土も。)
心の奥に、重く、冷たいものが落ちていく。
静かな保健室に、ただ春の陽光だけが降り注いでいた。
