守る場所
指名変更
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とある夜。
夜風が心地よく吹く帰り道。
けれど、胸の奥にはずっと引っかかっているものがあった。
(……“好きって、どんな気持ちですか?”)
くノ一教室の訓練が終わったあと、生徒の一人――ユキが、不意にそう問いかけてきた。
「先生、大人の“好き”ってどんな気持ち?」
そう言って、いたずらっぽく笑ったその顔は、どこか真剣でもあった。
トモミも「それ聞きたかった」と口をそろえ、
おシゲまでが「先生、教えてください!」と身を乗り出してきた。
咲は一瞬、言葉に詰まった。
どんな任務の心得も、武器の扱い方も、彼女たちに教えられるのに――
「好き」という感情については、どう説明すればいいのか分からなかった。
その自分自身に、思った以上に動揺している。
(あの子たちには、まっすぐ応えたいのに……)
結局、「うーん、難しいね」と笑ってごまかしてしまったことが、ずっと胸に残っていた。
答えが出ないまま、足は自然と長屋へと向かっていた。
迷ったけれど――今は、誰かに話したくて。
戸を叩くと、すぐに土井先生が姿を見せてくれた。
「夜分遅くにすみません。今、お時間よろしいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。どうぞ」
いつもと変わらぬ落ち着いた声に、少しだけほっとする。
通された部屋には、湯気の立つ湯飲みがふたつ置かれていた。
(言うなら、今……)
小さく息を吸って、覚悟を決める。
「……好きって、どういうことなんでしょうか」
土井先生はぴたりと動きを止めた。
ぱちり、とまばたき一つ。
静かにこちらを見る。
「……え?」
目が合った。
その視線に、息が詰まる。
(……どうしよう。変に思われたかも)
「あ、いえ……今日、生徒に聞かれたんです。“好きって、どんな気持ちですか?”って」
慌てて続けた言葉に、自分でも少し笑ってしまう。
視線をそらすように、湯飲みの縁を見つめながら言葉を継ぐ。
「答えられなくて……こんな相談、歳の近い土井先生にしかできなくて……」
すると土井先生は、そっと湯を口に含んだあと、優しく言った。
「……そうだったんですね」
「“好き”って、言葉にするのは難しいですよね。
何か特別な理由があるわけじゃないけど、気づいたらその人のことが気になっていたり、
つい目で追ってしまったり……そういうのが、たぶん“好き”なんじゃないでしょうか」
その声が、どこまでも静かで、優しくて――
ふと、胸の奥がざわついた。
土井先生が“誰か”のことを想って、そう話したのだとしたら――
それは、いったい誰のことなんだろう。
(……それを、知りたくなるのは、どうしてなんだろう)
胸がきゅっとしめつけられる。
「……ありがとうございます。
少しだけ、答えに近づけた気がします」
そう言いながらも、鼓動はまだ落ち着かない。
(なんで、こんなに……)
湯飲みを包んでいる手が、ほんの少しだけ熱く感じられた。
静かに一礼して、部屋を後にする。
戸を閉めたあと、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。
夜の空気はひんやりとしているはずなのに、頬だけが妙に熱い。
(……相談、だったのに)
そう思えば思うほど、胸の奥がざわついてしかたがなかった。
足を進めようとして、ふと立ち止まる。
そして――無意識に、胸元に手を添えていた。
脈打つ鼓動が、はっきりと指先に伝わってくる。
鼓動が速い。まるで、駆け足で走ったあとみたいに。
(なんで……こんなに、苦しいの)
苦しい、でも痛くはない。
むしろ、なぜだか温かい。
言葉にならないこの感覚を、どうしても見つめたくなる。
けれど今は、まだ――怖くて、名前をつけられなかった。
そのまま、静かに夜道を歩き出す。
風に髪が揺れても、熱のこもった胸の奥は、しばらく冷めることがなかった。