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土井先生side
授業が終わり、日が傾き始めた頃。
訓練場の片付けを終えた咲は、荷物を背負いながら、ひと息ついていた。
そのとき――
「……持ちましょうか、それ。用具倉庫に運んでおきますよ」
不意にかけられた声に振り向くと、そこには土井半助が立っていた。
手には数枚の書類。視線は、まっすぐこちらを向いている。
「大丈夫です。軽いので……」
「それでも、任せてもらえると助かります。私、頼られると少し嬉しい性分でして」
冗談とも本気ともつかない言葉に、咲は思わずくすっと笑った。
「……ずるいですね、その言い方」
「そう言われるのも、慣れてきました」
何気ない言葉のやりとりだった。
けれどその空気は、どこまでも柔らかくて、張っていた力がすっと抜けていくようだった。
そう感じた、まさにそのとき。
「咲さん!」
遠くから響いた呼び声に、咲がふいに顔を上げる。
「……あっ」
その瞬間――彼女の表情が、ふわりと変わった。
声に応えるように、自然と浮かぶ笑顔。
それは、さっきまで土井に向けていたものとは、どこか違っていた。
駆け寄ってきたのは、山田利吉だった。
「ちょうどよかった。……これ、持ってきたんです」
差し出された包みは、桜の花を模した上品な和菓子だった。
「……?」
「道中の茶屋で見つけまして。なんとなく、咲さんが好きそうだなと思って」
咲は、少し驚いたようにそれを受け取り、嬉しそうに目を細めた。
「……嬉しい。ありがとう。こういうの、好き」
「よかった。……最近、お疲れの様子だったので。無理しすぎないでくださいね」
二人のやりとりのあいだ、土井はただ黙って、その場に立ち尽くしていた。
何も言わず、何も遮らず。
ただ――目の前で交わされる“間”を、黙って見つめていた。
(……好きそうだな、か……)
自分には、あんなふうに自然に何かを選ぶことができただろうか。
咲の好きなもの。
咲が心から喜ぶ顔。
そして誰かにだけ見せる、あんなやわらかな笑顔。
(……私には、まだ……)
何一つ、届いていない。
「……では、私はこれで」
包みのひとつを手に持ち上げながら、土井は静かにそう言って背を向けた。
「土井先生、ありがとうございます」
その声に、土井は小さく頷くだけで、足早に歩き出す。
いつもより、少し速い足取りで。
(……この前のテストのお礼、言えなかったな……)
心の中でそう呟きながら、土井はひとり、倉庫へと消えていった。