花を知らぬ者
指名変更
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任務を終えた帰路。
山を下りる途中、緋華と利吉は予定されていた中継地の村に足を踏み入れた。
「ここで一泊。補給と報告のための立ち寄りだそうです」
利吉が静かに言う。
「一軒、宿代わりになる家が手配されているそうです。──どうやら、子どもがいる家庭のようでして」
緋華は無言で頷いた。
日が傾きかけ、村の空気には夕餉の煙と山の静けさが溶け込んでいる。
剣の重さがまだ手に残る。
斬った相手の目は、頭の奥で鈍く響いていた。
それでも、気配を悟られぬよう、足取りは乱さない。
利吉もまた、何も訊ねることなく、並んで歩いていた。
⸻
戸を叩くと、ほどなくして扉が開いた。
「はい、あら……お客さんね? 話は聞いてるわ」
現れたのは三十代ほどの女性。
白い手拭を頭に巻き、袖をまくっていたが、笑顔は柔らかい。
「狭い家だけど、どうぞ。お茶くらいは出せるから」
「ありがとうございます」
利吉が深く頭を下げる。
緋華はその顔をまっすぐ見られなかった。
どこか、呼吸が浅くなった気がした。
「おかあー、だれー?」
奥から元気な声と、走る足音。
現れたのは、五歳ほどの女の子だった。
薄茶の髪。
小さな瞳。
よく笑いそうな口元。
その姿を見た瞬間、緋華の中で何かが止まった。
(……)
見たことがある。いや、違う。
この顔は知らない。
だが、知っている命だった。
『泣いていたんです。あの子、“死にたくない”って……』
牢の中で、処刑された部下が語った言葉が、鮮明に蘇る。
『あの子だけは、生きてほしいって……だから、逃がしました』
目の前の少女は、
確かに──“命を繋がれた存在”だった。
「こんにちは、今日は一日お世話になります。旅のものです」
利吉が優しく声をかける。
女の子はきょとんとしながら、緋華を見つめた。
しばらく無言のまま、じっと見上げ、そして言った。
「おねえちゃん……こわいの?」
一瞬、空気が凍ったように感じた。
緋華は目をそらさなかった。
ただ、口元だけが、ほんのわずか動いた。
(こわい……?)
自分の何が“こわい”のか。
それは、自分が一番知っていた。
けれど、何も言えなかった。
代わりに、女の子が小さく笑って言った。
「だいじょうぶだよ、うちには“あったかいごはん”があるから」
利吉が少し驚いたように息をのむ。
緋華は、言葉を返せなかった。
その笑顔に、あの部下が“残そうとした未来”が、確かに存在していた。
自分が奪った命。
部下が守った命。
その境界線の先に、今ここで生きている“証”がある。
それだけで、胸の奥が軋んだ。