守る場所
指名変更
この小説の夢小説設定1章はくノ一「緋華」で統一しています。
2章以降入力していただいたお名前になります。ご了承ください
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
土井side
朝の鐘が鳴り終わるころ、教室にはいつもとは違う空気が流れていた。
一年は組。
普段なら誰かが机の下でこそこそおにぎりをかじり、誰かが忘れ物に気づいて慌て、誰かがすでに船を漕ぎ始めている時間帯だ。
それが今日は、誰もしゃべらず、整った姿勢で教科書と筆記用具を揃えていた。
「……よし、全員、席につけ。テストを始めるぞ」
そう声をかける前から、皆、すでに着席していた。
私は答案用紙の束を手に、ひとりひとりの机を回って配っていく。
「しんべヱ、鼻をかんでから取りかかるように」
「は、はいっ!」
「乱太郎は、そんなに力まなくていい」
「は、はいっ」
「きり丸……無理して気張ると途中で眠くなるぞ」
「……大丈夫っす」
その返事に、私は思わず口元を緩めた。
教卓に戻りながら、ふと目を細める。
答案を前にした彼らの姿は、実に真剣だった。
彼らは今、誰に言われたわけでもなく、ちゃんと“やろうとしている”。
しかも、ただ良い点を取りたいというだけではない。
——あの晩、灯りのついた教室。
黒板の前に立つ背中。寄り添うように座っていた、あの子たちの顔。
黒板に書かれていた言葉をみて、胸の奥が熱くなった。教えたはずなのに、教えられていた。
私は静かに腰を下ろし、教卓から彼らの努力を見届けていた。
⸻
そして、夕方。
私は一人、赤ペンを手に答案用紙に向き合っていた。
「……こ…これは」
点数をつけながら、ふと手が止まる。
「…こ…これは、快挙だな」
いつもなら、庄坐ヱ門を除けば平均点は十点にも満たないこのクラス。
“答えが書かれている”というだけでも珍しいというのに、今回は違った。
(こういうとき、教師というのは……どう反応すればいいんだ)
答案用紙を重ねようとした瞬間、頬をひとすじ伝うものがあった。
「……あ」
答案の隅に、小さな水滴の跡がにじんでいた。
袖で拭っても、もうその滲みは消せなかった。
(本当に……やってくれたな、君たちは)
私は目を閉じ、静かに深呼吸をする。
(……ありがとう、咲さん)
は組の子どもたちが、ここまで来たということを伝えたかった。
ただ、その感謝を言葉にするには、あまりに思いが溢れすぎていて、
胸に残るその想いは、ただ静かに、深く染み込んでいくばかりだった。