花を知らぬ者
指名変更
この小説の夢小説設定1章はくノ一「緋華」で統一しています。
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「合同任務、ですか」
焔の手から受け取った書状を読みながら、緋華は低くそう言った。
珍しいことだった。
城に属さない忍びと行動を共にするなど、過去に一度あるかないか。
緋華のような立場の者が、他と連携する必要などないはずだった。
「相手の身元は?」
「フリーの忍び。所属なし。だが、腕は確かだと聞いている。
──山田利吉。名くらいは聞いたことがあるだろう?」
首を横に振ると、焔はふっと目を細めた。
「……お前も、随分と長く城に縛られていたからな。世の“変化”を知らぬ者には、そういう名前は入ってこない」
いつもより淡々とした口調だったが、どこか試すような響きがあった。
「……任務の内容は?」
「辺境の村で、残党と見られる武装者の動きがある。潜入と観察、それから制圧が必要だ。お前と山田利吉、二人の動きに委ねる」
「……了解しました」
答えはそれだけだった。
だが、胸の奥に微かなざわめきが残った。
焔の“選び方”は、いつも意味を持っていた。
それを知っているだけに、なおさら。
⸻
出発の日、緋華は峠道の入り口でその男と初めて対面した。
「山田利吉と申します。……今回の任務、ご一緒させていただきますね」
深緑の忍装束に身を包んだ男は、穏やかに頭を下げた。敬語。だがどこか肩の力が抜けている。
礼儀はあるが、張り詰めすぎていない。
「緋華。……必要な情報は、すでに」
「はい。村の名前と目的、動く時刻も把握しています。ただ、村人たちとの接触がある場合は、僕のほうで調整します。あまり顔が怖そうだと、子どもが泣いちゃうこともありますので」
何気ない冗談のような台詞だったが、
緋華はそれを聞いても笑いはしなかった。
「……無駄に私に、話しかけないで」
「了解です」
即答だった。
気を遣うふうでもなく、拒絶するふうでもなく、ただ受け入れる声音。
緋華はその返答に、わずかに目を細めた。
(変わった男)
だが、それ以上の言葉は浮かばなかった。
⸻
炭鉱跡地は、湿った木の匂いに満ちていた。
かつて労働の場だったその空間は、今や抜け忍や野盗の隠れ場所になっている。
「三人、確認できました。外に一人、内に二人」
利吉の声は落ち着いていた。
「交戦を避ける必要はない。先に動く」
緋華の判断は早かった。
二人の間に無駄な確認は不要だった。
手裏剣を放つ。
音が鳴る前に、影が動く。
草を蹴り、地を滑るように間合いを詰める。
喉を、狙う。そこを斬れば、音もなく落ちるはずだった。
けれど――
男の目が、こちらを見た。
(……子どもを守るような目だ)
なぜそんな印象を抱いたのか分からない。
一瞬、ほんの一瞬だけ――その目から視線が離れなかった。
斬撃の軌道が、半寸ずれた。
(いけない)
反射的に姿勢を切り替える。
相手の腕が振るわれるより早く、もう一太刀。
今度はためらいなく、確実に。
刃が喉を裂く感触が、手の骨に伝わった。
背後のもう一人が動く気配。
だが、緋華はすでに体勢を整えていた。
迷いは、そこまでだった。
「──っ!」
敵の刀が振り下ろされるより先に、緋華の短剣が脇腹を裂いた。
呻き声とともに、男が倒れる。
残りの一人は、すでに利吉が無音で気絶させていた。
夜の中に戻る静けさ。
あたりに、敵の気配はもうなかった。
緋華はしばらくその場から動かず、息を整えた。
「お見事です」
背後から利吉の声が届いたが、そこに皮肉や驚きはなかった。
ただ、淡々と。
緋華は返事をしなかった。
(……私は、一瞬、止まった)
だが、利吉に助けを求めたわけではない。
任務は、自分の手で終わらせた。
それでも、確かに“迷った”。
そしてそれを、誰かに知られたくなかった。