守る場所
指名変更
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くノ一教室の授業を終えた二日目の午後。
まだ慣れきらない空気に身を包みながら、咲は教員棟へ戻る途中、ふと足を止めた。
昼の喧騒が過ぎた食堂の奥から、まだわずかに立ちのぼる湯気。
生徒たちはすでに食べ終わっていて、空の膳が片づけられつつある。
厨房の向こうで湯気に霞む人影が動いていた。
「あら、咲先生。お疲れさま」
振り返ったのは、食堂のおばちゃんだった。
手ぬぐいで額を押さえながらも、口元には変わらない柔らかな笑み。
「今日も授業、大変だったでしょ?
先生の分、ちゃんと取っておいたわよ」
「……ありがとうございます」
咲が頭を下げると、おばちゃんは手を止めてこちらを見やる。
「初めての時は、誰だって戸惑うの。先生って呼ばれても、自分のことじゃないみたいでしょ?」
(……見抜かれてる)
咲は小さく笑った。
その優しさは、どこか懐かしい匂いがした。
「大丈夫よ。少しずつでいいの。焦らなくても、生徒はちゃんと見てるから」
(……“見ている”)
その言葉に、くノ一教室で感じたあの視線を思い出す。
警戒でも反発でもない、“測る目”。
彼女たちもまた、教師としての自分をじっと見ているのだ。
「どうぞ。奥の席、空いてるわ」
盆を手に食堂の隅へ歩きながら、咲はふと足を止めた。
湯気の向こうでほんのり温かい味噌汁と、握り飯が二つ。添えられた漬物が、心なしか懐かしい色をしていた。
窓際の席に腰を下ろし、ひと口。
ふっと、深く息が抜けた。
(……しみる)
言葉にはならない。けれど、確かに体がゆるむ。
そこへ、背後から足音が近づいてきた。
「ここ、空いていますか?」
柔らかな声と共に、現れたのは土井半助だった。
変わらぬ穏やかな眼差しで、湯呑みを片手にしている。
「……どうぞ」
促すと、土井は静かに腰を下ろした。
「二日目、おつかれさまです。様子はどうでした?」
咲は、一拍置いてから答えた。
「……まだ、うまくいっているとは思いません。見られている気がして」
「それは、良い兆しですよ」
即答されたその言葉に、咲は目を見張る。
「子どもって、大人がどういう人間か。すぐに見抜きます。見てくれるうちは、関心を持たれている証拠です」
「……それでも、怖いです。何を見られているのか、どこまで届くのか」
その小さな告白に、土井はやわらかく頷いた。
「届かなくても、伝わることはあります。あなたが前を向いている限り」
咲は、そっと視線を落とした。
誰かとこんなふうに話すことが、こんなに救いになるとは思わなかった。
握り飯の温かさが、心の奥まで染みていく。
(少しずつでいい。そう、少しずつ……)